四章・旅路(2)

文字数 4,088文字

 帰路という言葉があるが、旧時代と違って今の日本にはそもそも“道”など存在しない。もちろん都市内なら別。しかし、そこから一歩でも外へ出たら道無き野や山がどこまでも広がっている。かつての人里も、それらを繋ぐ道路も、二五〇年という長い月日によって朽ち果て、わずかに残った残骸も森に飲み込まれた。陥没して地の底に沈んだり、水底で水棲生物の住み処になった場所も多い。
 道が無い。だからといって、いつ記憶災害が発生するかもしれない状況でのんきに道路整備など行えるはずもなく、様々な地形を踏破できる馬は現代において最も有用な移動手段となっている。
 さて、アサヒが小波と共に乗っている馬はかなり大きい。実を言うとこの馬達も変異種だからである。魔素によって大型化した上、速力を活かして危険な肉食獣から逃げるため持久力を大幅に向上させた種だ。
 体型からして元はサラブレッドだったのだろうが、今の彼等は先祖のように脆い脚ではないし、重い荷と人間を背負って長距離を移動することもできる。その特性に目を付けた人間達によって捕獲され、自動車やバイクに代わる良きパートナーとして復権を果たした。もっとも当馬(とうにん)達がそれを喜んでいるのかは知らないが。
 他にも有益な家畜として飼われている変異種は少なくない。魔素は多くの場合、災害をもたらす。だが必ずしも害になるとは限らない。そういうことだ。

 まあ、それはそれとしてアサヒは困っていた。

「あの、ちゃんと乗ってくれない? さっきから君がフラフラしてるせいで、この子が落ち着かないみたいなんだけど」
 興奮気味の馬を宥め、アサヒを叱る小波。
 彼は申し訳なさそうに頭を下げた。
「す、すいません」
 しかし、そう言われても彼は彼で目の前の女性の体に触れないよう気を遣いつつ必死にバランスを保っているのだ。乗馬なんて初体験だから落ちないようにするだけで大変なのに、どうしてこんな気苦労までせねばならないのか。これならいっそ歩かせてくれた方が楽な気さえする。
(この服にも慣れない……)
 門司(もんじ)という変わった苗字の女医さんの話だと、自分が元々着ていた服はちょっと目を離した隙にどこかへ消えてしまったらしい。それで今は体格的に一番近いマーカスさんの予備を借りている。
 ──のだが、どうしてこんなにピッチリしたスーツなんだろう? 一応胸や下半身など要所要所は厚めに作られている。しかし、それでも旧来の洋服に慣れた身としては羞恥心が刺激されて仕方ない。女性陣が視界に入ると目のやり場にも困る。せめてこう、上から布でも巻いてくれないものだろうか。
(着心地は悪くないけど……)
 内側はスポンジのような感触で、通気性が高そうには見えないのに不思議と蒸れない。昨夜は寒かったが、日中の気温なら問題無く過ごせる程度には保温性も高かった。
 それに初めての乗馬は楽しくもあった。視点がいつもよりずっと高い。遠くまで景色が見渡せて、前から後ろへ風景が流れて行く。まあ、どこもかしこも森ばかりなのだが。
(あ、トラックかなあれ?)
 木々の合間には時折、旧時代の残骸が顔を覗かせることもあった。建物、車、横倒しになった送電塔。それらを見る度に哀愁と、真逆の興奮が同時に湧き上がってくる。
 昔、母と一緒に観た考古学者が主人公の映画を思い出した。遺跡好きのあの主人公も今の自分と同じように、相反する気持ちを抱えながら遠い時代の遺物を眺めていたのだろうか?
 やがて森が途切れ、草原が目の前に広がった。緑色の草の海と空の青のコントラストに一瞬で心を奪われる。映像でなら同じような景色を見たことはあった。でも実際に目の当たりにしたのは初めて。

 瞬間、やっと理解した。

「俺……旅をしてる」
「そうね?」
 何を当たり前のことをと眉をひそめる小波。途端、ボーッとしていたアサヒの体が傾き、そのまま落馬しそうになった。
「危ない!」
「うわっ、わわわっ」
 慌てて腕を振り回し、目の前に差し出されたものを掴む。それを支えにどうにか体勢を立て直す彼。
「気を付けろ」
「は、はい」
 それはウォールの長銃だった。物騒な物を掴んでしまったことに驚き、慌てて手を離す。ともすれば失礼に映る態度だったが、寡黙な大男は気にせず顔を前に向けた。
 同時に目の前で小波が嘆息する。何かを諦めたように。
「危ないから、腰に手を回して」
「え……でも」
「いいから」
「はい」
 迫力に負け、言われた通りにするアサヒ。その瞬間にまた驚いた。予想よりずっと固い感触が伝わって来る。
(この人、腹筋バキバキだな……よく見ると腕もガッチリしてる)
「なんか失礼なこと考えてない?」
「いえ」
 実際には考えていたが、怖いから否定する。
 でも──
(さっきまでより、ずっと乗りやすくなった)
 人間でない自分を気遣ってくれた。それが嬉しかった。おかげで周りの景色を安心して楽しめる。人生で初めての旅の最中だと気付いた少年は、馬上から目を輝かせて様変わりした日本の風景を眺め続けた。
 やがて遠い昔に友人達と交わした会話を思い出し、少しだけ泣いた。


「今日はここで休憩」
 変異種や記憶災害に遭遇せず、ここまでの旅は順調。とはいえ、筑波からとりあえずの目的地である福島までは、およそ二〇〇キロの道のり。馬の脚でも半日で辿り着ける距離ではない。そのため一行は途中の白河市で一泊することにした。月明かりに頼るしかない今の世界で夜間の移動は危険すぎる。
 ここでもやはり筑波と同じように、現存していたコンクリートの建物を補強し簡易宿泊施設に作り変えてあった。といっても朱璃達がやったわけではなく、昔の調査官や兵士が時間をかけて少しずつ各地に増やしていった拠点の一つだ。そんな先人達の努力のおかげでくつろげるわけだから、十分に感謝しなければならない。
「今回も泊まらせてもらいます」
 神社を参拝する時のように、入口の前で手を合わせて拝む朱璃達。そういう習慣がまだ残っていることにアサヒは驚かされた。

 それから、しばらくして──

「よっと」
 薪ストーブの前で座り込んでいた中杉 真司郎は、立ち上がり、ストーブの上に置いて温めた缶詰を手に取る。そして、その中身を金属製のカップに半分注ぐと部屋の隅にいるアサヒの元へ近付いた。
 彼は組織内でも最年長の調査官で白髪が目立つ老人だ。年齢は六二歳。今の日本でここまで長生きした上、現役で調査官を続けられている人間は他にいない。そのため老齢ながら班員達からは一目置かれている。
「飲むかい?」
「え……」
 驚いて顔を上げるアサヒ。彼は昨日と同じように手足を拘束され、さらに壁を補強している鉄骨の一つにロープで繋がれていた。すぐ傍には見張りの友之も立っている。
「ジロさん、それは」
「班長の許可はもらったよ」
 そう言って彼がチラリと視線を向けると、今もストーブの近くに陣取ったままの赤毛の少女が小さく頷いた。それを見て友之も納得する。
「それなら、まあ」
 班長がいる手前、口には出せない。けれど彼としてもアサヒに対し、こういう扱いをすることは心苦しかった。魔素によって再現されただけの虚像だとしても“伊東 旭”は子供の頃から憧れてきた英雄なのだ。相手が人の形で人の言葉を喋っている時点でどうしたって情は移るものだし。
「というわけだ、遠慮せず、さあ」
「でも、俺は……」
 アサヒは見るもの全てに目を輝かせていた道中の様子とは逆に、今度は陰鬱な面持ちで俯いてしまう。
 自分は本物の人間ではないから。そう言いたいのだろう。嘆きたくなる気持ちはわかる。こんな仕打ちをする自分達が疑われることも至極当然の話。
「だが、魔素は忠実に“人間”の君を再現しているはずだ。人間なら誰だって腹は空くさ。私達も大して食糧は残っていないからこれ一杯が限界だが、飲まず食わずで倒れられても困る。だから私達を助けると思って、飲んでくれ」
「……」
 おずおずとカップを受け取るアサヒ。そして中のスープを一口啜り、驚く。
「うまい……」
「そうかあ? 俺はそれ、薄味すぎると思うけどな」
 異論を唱える友之。真司郎は同じ物を飲みながら苦笑を浮かべ、やんわりたしなめる。
「贅沢を言っちゃいかんな。食品開発局だって苦心の末に作ってくれたんだから。私らが旅先でも美味いものをなんて我儘を言ったばかりにね。いや、あの時は本当に余計な世話をかけてしまった」
「へえ~……って、もしかしてジロさんの知り合いが作ったんスか?」
「ああ」
「マジスか、すいません。あ、その人にはさっきの言わないでくださいね」
「告げ口などせんよ」
 微笑む真司郎。その友人もだいぶ前に亡くなった、という事実は言わないでおく。目の前の少年がせっかく食事を楽しんでいるのだ。なら、そのまま楽しませてあげた方が今は亡き友の魂も喜ぶだろう。

 代わりに、彼の食事が終わるタイミングを見計らって訊ねてみた。

「アサヒ君、今の世界はどうだった?」
「……どう、って」
「旧時代を知る人間の意見を聞きたい、それだけだよ。単なる好奇心さ、そちらも深くは考えずに答えて欲しい」
 座って目線を合わせ、にこやかにそう要望すると、アサヒはしばし考え込み、やがて口を開く。
「綺麗だな……と、思いました。俺、東京以外は見たことが無かったんで」
「そうだろうね」
 彼が生まれ育った時代は人類の長い歴史の中でも指折りの苦境だった。今も相当なものだが、彗星衝突後の世界で生き延びるため地下都市の建設という一大事業に注力していた旧時代末期の人々に、旅行なんて楽しむ暇は無かっただろう。
 その点、ひょっとしたら自分達の方が恵まれているのではないかと考えることさえある。彼等の時代の人間に比べたら、まだしも自由だろうから。
「過酷な世界ではあるが、悪いことばかりではない。是非、楽しんでくれ」
「はい……」
 頷きつつ、自分の手足を縛る拘束具へと目線を落とすアサヒ。こんな扱いを受けていて楽しめも何も無いものだと、その目が如実に物語っている。
 真司郎は再度苦笑した。
「それに関してはすまないね。私達もまだ、君を信用し切れていない」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み