現代編【星海 朱璃】

文字数 4,449文字

 星海(ほしみ) 朱璃(あかり)は天才である。
 では、どんな難問も瞬く間に解き明かしてしまえるのか?
 NOだ。
 なら、直感的だけで正解へ辿り着いてしまえるのか?
 NO。彼女はそういう類の天才ではない。

 朱璃は、努力を努力だと考えていない。目的があり、方法があり、実行可能ならやる。ただそれだけを繰り返すタイプ。言ってしまえば、愚直さこそが彼女の天賦。
 たしかに頭はいいが、大きく突出しているわけではない。彼女がすぐに正解を導き出すように見えるのは、それ以前に膨大な情報を集積し、脳内できちんと整理を行い、いつでも引き出せるようにしてあるから。そういうことでしかない。

 また、頭脳だけが人の価値でないことも認めている。
 むしろ、そんな頭でっかちばかりでは危機感を抱く。世の中には様々な人間がいて、だからこそ上手く回っている。天才と呼ばれる自分も結局は歯車の一つに過ぎず、だからこそ必要だと思えば自身の命さえ賭けられる。
 幸い過去のとある出来事が原因で恐怖心を失っており、命がけの行動に出る際にも躊躇せずに済む。
 さて、そんな彼女が久しぶりに頭を抱えたくなる難問にぶち当たった。これまでの人生で知識も経験も収集して来なかった類の問題なので、どうしたらいいものかさっぱりわからない。

「結婚かあ」

 特異災害対策局本部の私室。机の前に腰かけてひとりごちる。先日拾った人型記憶災害。アレを王都へ連れ込む見返りとして、結婚しなければならなくなった。相手はその人型記憶災害である。孫を化け物の嫁にしようというのだから、祖母も流石の人でなし。
 婚約者の名はアサヒ。彼のオリジナル、すなわちこの国の初代王が伊東(いとう) (あさひ)という名前だったため、模倣体も自然とそう呼ぶことになった。
 結婚自体は、別に構わない。相手は先祖みたいなものだが、いつも通り、必要なことだからやるだけ。
 しかし、アレが素直にこの婚姻を受け入れるだろうか?
「失敗だったわね……」
 思い返し、悔しがる。拾った直後、とんでもないお宝を見つけて興奮した自分は、ついついアサヒを拷問してしまったのだ。その後もあれこれやって泣かせたし、まず間違い無く嫌われている。
 連れ帰る条件がアレとの結婚だとわかっていたなら、最初からなるたけ優しく接してやったのに。
「まあ、やっちゃったもんは仕方ないわ」
 この切り替えの速さも彼女の持ち味。過去はどうしたって変えられない。なら、今からでも失点を取り返して気に入られる方法を模索した方が良い。
 もしアレが結婚を拒否して力づくで逃走を図ってみろ。誰にも止めようが無い。
 しかし、それ以上に問題なのは──

「恋愛知識を得ようにも、アタシの周りにゃロクな大人がいないのよね」

 母には親子の縁を切られており、もう何年も仕事以外で会話してない。現在の保護者とも言える立場のマーカスは、なんというか色々こじらせてしまった大人の代表格みたいな男だ。恋愛経験は豊富らしいが、そのどれも失敗に終わっている。噂では若い頃の祖母にまでアタックし玉砕したそうな。
 門司(もんじ)先生もあの歳で独身だから、タメになるアドバイスは期待できない。ウォールはお見合い結婚のバツイチ。小波(こなみ)は幼い頃から一途に想って来た相手がいるくせに未だ告白できないヘタレ中のヘタレ友之(ともゆき)はアホ。
 他にも何人か思い浮かべてみるも、結局、一番無難そうな相手だけが選択肢として残った。

「いる?」

 早速その人物の部屋を訪れる朱璃。時刻は一九時過ぎ。今日は残業もさせなかったし、この時間ならすでに帰ってるはず。
 ちなみに、ここはピラーと呼ばれる柱状集合住宅の一室である。建造された当初より人口が減ってどこも部屋は有り余っているので、大抵の人間は低層階に住みたがる。なのにこの部屋の住民はわざわざ最上階に陣取り、同じフロアの部屋全てを我が物顔で占拠していた。私物の銃火器コレクションを保管してあるのだ。

「なんや? めずらしな~、朱璃ちゃんから来はるなんて」

 怪しい関西弁と共に顔を出したのは、金髪碧眼巨乳の美女カトリーヌ。こちらが一人なのはわかっていただろうに、改めてそれを確認した後、来客を部屋に招き入れ、扉を閉めたところでやっと素に戻る。
「何か用か?」
 態度も口調もガラリと変わった。このぶっきらぼうで男っぽい口調がカトリーヌの本性なのである。
 自分の母親も同じタイプなので、朱璃は特に気にしない。部屋の中にも勝手知ったる我が家のように踏み込んでいく。
「アンタ、恋愛経験は?」
「いきなりだな。まあ、それなりにあるが……」
「どういう相手? 成功した?」
「なんだこれは尋問か? 意図を話せ意図を」
 言われて、自分にアサヒを惚れさせるため、手練手管が知りたいと明かす朱璃。するとカトリーヌは盛大なため息をつく。
「お前、あれだけ酷い目に遭わせといて、今さら好かれようってのか……」
「あれだけやったから、アンタの知識とテクニックが必要だって言ってんのよ」
 カトリーヌの本名は天王寺(てんのうじ) 梅花(ばいか)。南日本の術師で長年北日本王国に潜入している工作員(スパイ)。怪しまれないよう他人を信用させるスキルも仕込まれたそうだ。実際、自分とマーカスが見抜くまで誰一人この女の正体に気付けなかった。
「やれやれ、まさかお前と恋バナをする日が来るとはな」
 リビングのカーペットにどかっと腰を下ろす彼女。引換札で交換してきた配給のホットドッグとピクルスを前に、コップに注いだ透明な液体をグビリと飲み込む。その匂いに顔をしかめる朱璃。
「アンタまた密造酒なんて飲んで」
「別にいいだろ、この一杯だけだ。私のささやかな楽しみに口を出すな。こっちの食事は侘びしいんだよ」
「そんなもん飲んでパーにならないかを心配してんの。まあいいわ、脳細胞が死滅する前に教えてちょうだい。アイツをアタシに惚れさせるとして、どんな方法がある?」
「う~ん……」
 難問だ。困り果てるカトリーヌ。普通なら、もう取り返しようのない失点である。
 が──
(余計なことをしてしまったな……)
 先日、彼女はアサヒを連れてある場所へ行った。それ以来、徐々に彼の朱璃を見る目が変わりつつある。
 つまり、取り返しようのない失点をカバーして取り返せるレベルに復帰させてしまったのである。こんな相談を持ちかけられた今となっては、とんだナイスアシストだ。
(正直もう何もしなくても勝手に惚れてくれそうだが……)
 もう一口、市民がこっそり食品廃棄物から作って売っている密造酒を喉へ流し込み、考え込む。
 適当なアドバイスでは朱璃は納得すまい。この娘は探究心の鬼だ。だからつまり、要望通り真摯に相談に乗ってやることが自分にとってもベストだと言える。怒らせたら何をするかわからない。
 とはいえ、勝手に勘違いしているようだが、自分とて恋愛経験豊富なわけではないのだ。
(術師隊は女社会な上、戸籍上は全員家族だからな……なまじ梅花の名を継いでしまったせいで、私は一般市民との接触の機会も少なかったし)
 何度か義妹や義弟達から告白されたことはあるものの、流石にあれは恋愛経験にカウントできない。全部断ったし。
「そう……だな……」
 言葉を濁し、頭をフル回転させて朱璃を納得させられそうな回答を探す。やはり歳上としてのプライドがある。この年齢で経験値がゼロに等しいことは知られたくない。
 すると天啓が閃いた。そうだ、あれを参考にしたらいい。
「まずは約束することだ」
「約束?」
「そう、たとえば毎日どこそこで会いましょうと決める。お前らなら、研究のため研究室に何時に出頭しろとか言えばいい」
「なるほど、そうやって自然に接触の機会を増やすわけね?」
「そうだ。あと、絶対に相手より早く待ち合わせ場所に行け」
「なんで? 待たせた方が、こっちが格上だって示せるじゃない」
「その帝王思考は一旦捨てろ。男なんてのは甲斐甲斐しく尽くしてくれる女が好きだ。お前にそこまでしてやれとは言わないし、いきなりそんなに態度を変えられたらアサヒも困惑するだろう。だから、こういう些細な部分で得点を稼いでいけ」
「ふむふむ……」
 きちんとメモを取る朱璃。若干罪悪感を覚えたが、酒の勢いもあり、カトリーヌはさらにペラペラと語る。
「それから普段着ないような服も着るといいぞ。髪型も変えたりな。男はギャップにも弱い。頼られるのも好きだから、何か適当な仕事をさせて褒めてやると、それだけで墜ちたりもする」
「へえ~」
「それから、アサヒは母性に弱そうだ。なるべく、おおらかな気持ちで接してやれ」
「それは保証できないけど、まあ、わかった」
 パタンとメモ帳を閉じる朱璃。それからニヤリとほくそ笑む。
「アンタがアタシと同じ恋愛初心者だってことは、よくわかった」
「んぶっ!?
 咀嚼中のホットドッグと流し込もうと口に含んだ酒を一緒に吹き出すカトリーヌ。げほげほと咳き込みながら「なんで……」と問う。
「アンタね、今の全部小波の持ってる少女漫画からの受け売りじゃない」
「読んだのか!?
「そういう文献から得られる知識は真っ先に当たってみたの。だから今度は実体験に基づく証言が欲しかったんだけど、まあそういうことなら仕方ないわ。無駄足にはならなかったし」
 続く言葉は、聞かずとも予測できた。
「これでまた、アンタの」
「弱味を握れた、か。このクソガキめ」
「ヒヒヒ、その歳になるまで恋の一つもしなかった自分を恨むことね。じゃあ、アタシはこのへんで。ゆっくり晩酌を楽しんで」



 ──さて、あれからまたしばらく経った。今日に至るまで彼女なりに色々試してみたものの、どれもさっぱり手応えが無い。
 なので、やむなくカトリーヌの、というより少女漫画のアドバイスに従ってみることにした。
「本当にこんな派手な服で喜ぶんでしょうね?」
「そのギャップの大きさがええんやって。これなら間違い無くイチコロや」
「お似合いですよ班長」
 市街の店で買った、いかにも少女らしいデザインの服。こんなもの王国の式典や祭事以外では着たことが無い。
「ま、信じてあげる。いいかげん、あのバカにもその気になってもらわないとだし」
 珍しく不安そうな顔を見せた彼女の背後で、部下の二人は囁き合う。

(班長のいじめに耐えて三ヶ月も王都に残ってくれてるんだし、もう十分好かれてるんじゃないですかね?)
(しっ、黙っとき。その方がおもろいやん)

 明日、アサヒを外出へ誘うことにした。名目は違うのだが、実質は初のデート。
 きっと大谷もついてくるだろうが、仕事なのだから仕方ない。
(仕方ない?)
 気付いた朱璃は、買うことにした服を持ち上げたまま、フッと笑う。
 どうやら自分は、あのバカと二人だけで出かけたかったらしい。向こうから惚れさせるつもりだったのに、これではむしろ──

「ま、それもいいわ」

 事実は事実。天才少女は素直にそれを認め、この服を見せた時の彼の反応を予測し、賭けをしようと言い出した二人の提案へ乗っかった。
 ちなみにその賭けは、小波が勝った。

「まったく、あの唐変木」
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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