二章・朱糸(3)

文字数 3,908文字

 二日後の早朝──地下都市・秋田から南へ向かって伸びる長大な都市間連絡通路。その入口の前に大勢の人間が集まり、言葉を交わし始める。
「アサヒ様、完全に快復なされたようですね。おめでとうございます」
 杖を使わず歩く様子を見て、優しく微笑みかける小畑(おばた) 小鳥(ことり)。アサヒは内心姉のように慕っている彼女に対し、笑い返した。
「ありがとうございます。ほんと、あの人のおかげで、すっかり良くなりました」
 あの人とは月華(げっか)のことである。彼女は先日の会談の翌日、早々に大阪へとんぼ返りしてしまったのだが、その直前にアサヒのところまで来たかと思うと、剣照の罠にかかり魔素を暴発させかけた一件以降、不自由になっていた左脚を診ると言い出した。
 半信半疑ではあったが、マトモに動けなくては大阪まで行けないし、現地の人々の助けにもなれない。助力を求めて来た彼女が嘘をつく理由も無いと思い、頼んでみた。
 すると、あっさり動かせるようになったのだ。

『魔素も霊力も同じ。体内で循環しているの。貴方の中のそれが乱れていただけ』

 曰く、どちらの流れも精神状態の影響を受けやすいという。あの時、アサヒは暴発寸前の魔素を抑え込もうと強く抗い、その意志を保ったまま気絶してしまった。そのため自分自身を縛りつけようとする暗示が残留した。そういうことだったそうな。彼女は催眠術のようなものでそれを取り除いてくれた。
 ついでに訓示も与えられた。

『普通の人間なら自己暗示の“残滓”程度で、ここまで大きな影響は出ない。けれど貴方は全身が魔素の塊。記憶や思念に反応するこの物質は霊力と同様、心にかき乱され、心に縛られてしまう。
 ゆめゆめ忘れないで英雄さん。暴発を防いだのは偉かったけれど、そもそもスタンガン程度でそうなりかけてしまったのは貴方の心の弱さが原因。もっと他人に興味を持つことから始めるといいわ。より多くの人々と交わり、学べば、心の中にけっして揺らがぬ芯を通すことができる。そうなれば同じ轍は踏まない』

 そんな彼女の言葉を、そのまま小畑に伝えると、彼女も小さく頷いた。
「たしかにアサヒ様は、もっと心を鍛えるべきだと思います」
「心……ですか」
「はい、御身は間違いなく最強でしょう。なにせ人を象った“竜”ですから。再生能力に変形能力、加えて無限の魔素吸収能力を持ちながら、同時に体内の“竜の心臓”を用いた無尽の魔素放出能力まで有しておられる。単純な殴り合いであなたに勝てる者はいません。事実、あの巨竜シルバーホーンすら、その力の前に屈した」

 しかし、と言葉を続ける。

「最強の肉体を操るあなたは、ごく普通の十七歳の少年。知識、覚悟、経験、全てが不足しています。だから剣照様に隙を突かれ窮地に陥った」

 ただし、と再度繰り返す。

「それは我々も同じ。むしろ、あの方の計略を知りながら不用意にアサヒ様と接触させてしまったのは私や陛下のミス。そもそも、どれだけ鍛えようと人の心は惑い、揺れるもの。完璧な存在になどなれません」
「え?」
「もちろん成長はできます。でも完全にはなりえない。誰もが不完全で、だからこそ手を取り合える。私は、そちらの事実をこそ忘れないでいただきたい」
 一人ではありませんよ。そう言って、彼女はまたニッコリと笑う。
 仲間がいて、助け合えることを忘れるな。正体が王室護衛隊の隊長だという彼女らしい訓示。
「……そうですね」
 アサヒは星海班の面々を順に見つめ、頷き返す。自分の仲間とは誰か? そう考えたら、やはり真っ先に思い浮かんだのは彼等だった。
「福島の時も、教会でも、一人で勝てたわけじゃない」
「そうです」
「ありがとうございます。でも、月華さんの言うことももっともだと思うんで、向こうで経験を積んで少しくらいは成長してきますね」
「それがよろしいかと。とはいえ、一つだけ御忠告申し上げます」
「忠告?」
「利害が一致している限り、あの方を信用することは構いません。けれど、絶対に信頼はしないでください」
「えっと……」

 信用と信頼?
 違いがよくわからない。

「心を許してはいけないということです。私が知る限り、天王寺 月華という人物は最も警戒すべき存在ですから」
「はあ……」
 本当にそんな危険人物なのだろうか? 見た目は小さな女の子だし、中身は意外と温厚に見えた。女王と交渉していた時は、たしかに怖かったが。
 とはいえ、小畑が根拠の無いことを言うはずも無い。
「わかりました、気を付けます」
「はい、無事のお帰りをお待ちしております」

 彼等がそんな会話を交わす一方、すぐ隣では朱璃が親族と語らっている。

「道中も油断は禁物ですよ、朱璃」
「わかってる」
 心配そうに見つめる祖母に対し、ひらひら手を振る彼女。女王自らがこんな所まで来るのは珍しい。それだけ本気で無事を願ってくれているのだろうと思った。
 悪い気はしない。結局は後継者としか見られていないのだとしても。
開明(かいめい)
 自分が帰って来られなくなった場合、代わりを務めるのは彼。朱璃は一歳上のハトコへ顔を向ける。
「アタシらがいない間、こっちのことは任せるわよ」
「ただの学生に難しい仕事を振らないでくれ」
 朱璃と良く似た顔立ちの少年は、肩をすくめて苦笑を浮かべる。
 彼女はその肩にポンと手を置き、目を細めた。
「ただの学生はね、親の企てたクーデターを自分の手で叩き潰したりはしないの。無駄な謙遜は嫌味なだけ。いいから言われた通り働きなさい」
「わかったよ次期女王陛下。まったく、僕はこんな体なのに、人遣いが荒いな」
 わざとらしく肘から先の無くなった右腕を持ち上げる。失明した左目も相変わらず眼帯で覆われていた。見る度にデザインが変わっているようだが、いったい幾つ作ったのやら。気障な奴め。
「目も腕も一つずつあれば足りる」
「スパルタだなあ」

 再び苦笑する開明。すると、その時だった。
 ついに緋意子が口を開く。

「朱璃、出発前に話しておきたいことがある」
「……うん」
 思わず目を逸らす朱璃。いつもならこんなことはしない。でも、アサヒが余計なことをしてしまったせいで、今日は気まずく思えた。
 その空気が周囲にも伝わり、全員が会話を止め、二人に注目する。彼女達母子の関係は周知の事実。何が起こるのかと固唾を飲んで見守る彼等の前で、緋意子は衝撃的な告白を行う。

「……人斬り燕に、お前の殺害を依頼したのは、私だ」

「はあっ!?
 驚いたのは朱璃でなく、開明や他の面々だった。その事実を知っていたマーカスと女王、そして他ならぬ人斬り燕本人だけが別の意味で動揺する。
「緋意子、何を──」
「待ってくれ母さん。お叱りは後で聞くし、裁きも受ける。今はまず、朱璃と話をさせて欲しい。この事実を隠したままでは、私は前に進めない。いや……あの頃に戻れない」
 緋意子の声は震えていた。脚にも力が入らない。だから彼女は片膝をつき、顔を上げた。いつのまにか、しゃがみ込むと頭の位置が逆転するほど大きくなっていた我が子を見上げ、なおも真実を語る。
「あの日から、彼が死んだ日から、ずっとお前のことが怖かった。悲しむより先に復讐へ走ったお前が異質に見えて、怖くて、娘を怖がる自分のことは嫌いになった」
「……」
 朱璃は口を挟まず、その告白を聞き続ける。
「それでも、せめて、お前の邪魔だけはしないようにと自分に言い聞かせてきた。しかし、それも都合の良い嘘を重ねただけだ。多分私は、本当はお前の存在を消したかったのだと思う。あるいは利用していたのかもしれない。私にはシルバーホーンを倒せない。けれど、お前になら可能性があるからと」
「緋意子おばさん、なんてことを言うんだ!?
「待ちなさい」
 激昂し、詰め寄ろうとした開明の腕を(ほむら)が掴む。
「今は黙って聞きましょう」
「でも、陛下……!」
「……お前にも悪いことをした、開明。お前はいつも朱璃のために怒ってくれていたのに、一度も耳を傾けなかった」

 開明も親を殺された人間だ。だから同じ境遇の朱璃に同情している。
 何度も繰り返し諫められた。それでも自分は変われなかった。
 でも、ここまでにしよう。ここから変わっていこう。
 緋意子は再び朱璃を見上げる。焦点が定まらない。決意したはずなのに、まだ目を見て話せない。
 それでも顔は背けなかった。

「正直に言って、お前をまた昔のように愛せる自信は無い。でも、せめて心配することを許してくれ。お前は彼が遺してくれた忘れ形見だ。私が人生で一番愛し、今も愛し続けている人の血を継いだ子だ。こんなことを言ったって信じてもらえないとは思う。虫の良い話だ。それでも言いたい」

 普通の母親のようにはなれない。
 だとしても──

「彼がいなくなった今、お前は、私にとって最も大切な存在だ。今まですまなかった朱璃。やっぱり、お前がいなくなるのは辛い」
 彼女は、自分に無数の冷たい視線が刺さるのを感じた。これまで何年も子供を放置してきた親の身勝手な物言いに、誰も彼もが呆れている。
 挙句、娘の殺害まで依頼した犯罪者。こんな最低の女が母親などと名乗っていいはずが無い。自分自身そう思う。
 とうとう、耐え切れなくなって俯く。でも、脳裏に直談判に来たアサヒの姿が蘇った。
 彼は勇気を出したじゃないか。そして自分は、彼のオリジナルの子孫。
 だからまた顔を上げ、まっすぐ朱璃を見つめた。せめて返答を聞くその瞬間まで、目を逸らしてはいけないのだと思って。
 ところが次の瞬間、視界が大きく跳ね上がる。
「ごっ!?

 ──顎に膝蹴りが入った。のけぞり、倒れそうになった彼女の胸倉を掴んで引き起こす朱璃。そして思いっ切り罵る。

「寝言ぬかしてんじゃないわよ!」
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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