幕間・衝撃

文字数 3,929文字

 後日、特異災害対策局本部の会議室に星海(ほしみ)班メンバーが全員招集された。アサヒと王室護衛隊代表の大谷(おおたに) 大河(たいが)。さらには見知らぬ少女の姿まである。
「み、南日本に行く!?
「班長とアサヒだけでなく、オレらもですか!?
 全員が集まったことを確認し、朱璃(あかり)が次の任務の内容と目的地について説明したところ、小波(こなみ)が驚いて立ち上がり、友之(ともゆき)は驚きすぎて椅子ごと後ろへひっくり返った。二人揃ってリアクションのオーバーなコンビだ。
 朱璃はジト目で両者を見つめる。
「何? アタシの護衛じゃ不満?」
「い、いえ……」
「元々そのための班ですし、滅相も無いッス」
 椅子を起こして座り直す二人。スカウトされた後で知ったのだが、この班はそも女王の意向で朱璃を守るべく結成されたものらしい。だから局内でも指折りの精鋭ばかりが集められた。他の班に比べて女性の数が多いのも班長の彼女に配慮してのことだという。
 いきなり南日本へ行くと言われて驚いたが、よく考えれば班長が朱璃な上、今はアサヒまでいる。天才少女(マッド)記憶災害(ドラゴン)。この夫婦が揃っているなら、普通でないのが普通のこと。立て続けに大事件を経験した彼等は、そんな悲しい結論に達する。

「班長とアサヒだもんな……」
「班長とアサヒだしね……」

「コラ、アタシらを疫病神みたいに言うな。厄介事を呼ぶのはコイツだけよ」
「何も言い返せない……」
 しょげるアサヒ。彼は魔素によって変異した生物や生物型記憶災害を引き寄せてしまう体質である。
「いや、班長だって自分から危険に首突っ込むじゃないスか」
「当たり前でしょ。それが調査官の仕事だってえの」
「だとしても限度ってものが……」
「ねえ、嫌ならいつでも辞めていいのよ? 他の職への推薦状も書いて欲しい?」
「すいません、文句言わずに働きますので、それだけは」
「転職は勘弁ッス」
(へえ……)
 三人のやりとりを聞き、驚くアサヒ。北日本では才能によって職が決められる。友之と小波もそれで調査官をしているのだと思っていた。でも今の会話を聞く限り、それぞれにこの仕事を続けたい動機があるらしい。加えて、辞めた場合にも多少の選択肢なら残っているようだ。
(まあ、才能があったって、どうしてもやりたくない仕事はあるだろうしな。そんな人のための受け皿もちゃんと用意されてるんだ)
 国も色々考えてるんだなと感心した。

 ──ちなみに、他の選択肢というやつは大抵の人間が嫌がる類の仕事だ。彼はまだそのことを知らない。

 直後、これまで黙って耳を傾けていた門司(もんじ) 三幸(みゆき)が手を挙げた。
「班長、話が進まないし新米いじりはそこまでにしとくれ。とりあえず南日本が困ってて助けに行くってのはわかった。元は同じ日本人なわけだし心情的にも異論は無い。坊やが行くってんだから、班長が行くのもわかる。でもさ──」
 ジッと謎の少女を見つめる彼女。さっきからその見覚えの無い顔が気になっているのに、未だ紹介が無いとはどういうことだ?

 少女は朱璃と同程度の年齢で、長めの黒髪を分けて束ね、左右に一房ずつ垂らしている。瞳が大きく色が明るい。いかにも人懐っこそうな顔立ちなのだが、今は何人もの大人を前に一歩も退かんぞと気負っているようにも見えた。年頃の少女にしては珍しく、服も標準的なスキンスーツのみ。
 そういう、ちょっと変わったところを除けば外見上は普通の子供。とはいえ、この場にいるからにはただもののはずがない。

「自分のことが気になるんですね?」
 門司の質問を受け一歩前に出る少女。フンスと鼻息を吹き、朱璃の方へ顔を向け律義に「いいですか?」と問いかける。
 彼女が頷き返すと、またフンフンと鼻息荒く名乗りを上げた。
「遅ればせながら自己紹介を! 自分は日本国(みなみ)から工作員として送り込まれ、一年間盛岡で潜入活動を行って参りました風花(ふうか)と申します! 元の任を離れ、皆さんの道中の護衛をするよう言われています! なので、どうかよろしくお願いいたします!」

 その声は、想像以上の爆音で会議室中に反響した。
 朱璃ですら耳に手を当てて顔をしかめる。

「防音施工の部屋で良かったわ……」
 盗聴を警戒してのチョイスだったが、まさかここまで声が大きいとは。こんなにスパイに向いてない人材がどうして? ひょっとすると南では術士隊も人材不足に陥っているのかもしれない。
 音響兵器に近い大声でダメージを受けた門司達は、しばし悶えた後に改めて驚く。
「南の……工作員(スパイ)……?」
「何故、こんなところに……」
「先程申し上げた通り、皆さんの護衛のためです! 姉様共々、全身全霊で努めます!」
「姉様?」
 友之が眉をひそめると、そこから二列前の席に座っていたカトリーヌが急に立ち上がり、歩き出した。そして部屋の前方で立ち止まり、風花と名乗った少女の隣に並ぶ。
 何故か風花は、そんな彼女を憧れの眼差しで見上げた。
「はあああ~……姉様がこんな近くに!」
「さて」
 振り返った彼女は、いつものたおやかな笑みではなく、凛とした表情と怜悧な眼差しを仲間達に向け、口を開く。
天王寺(てんのうじ) 梅花(ばいか)。それが私の本当の名だ。六年前、この子より先に工作員として北へ渡り、潜伏を続けていた。三年前、朱璃とマーカスに正体を見抜かれてしまい、それ以来対策局の一員として働いている。局長や女王はこの事実を知っているが、他に知る人間は少ない。だから口外はしないでくれ。少なくとも南へ出立するまでは」
「……はい?」
 目を点にする友之。小波も呆気に取られ門司は眉を跳ね上げた。朱璃とマーカス、風花とアサヒ、そして実は大谷も。正体を知っていた五人以外のメンバーの中で、いつも通りなのはウォールだけ。
「なんだ、反応が淡白だな。もしかして知っていたのか巌倉(いわくら)?」
「……そんな気がしたから、以前、局長に訊ねた」
「なるほど」
 そういえばと納得する梅花。思い返せばある時期から、ウォールは自分に絡んで来なくなった気がする。彼の場合、元々無口だから顕著な変化があったわけではないが。
「こちらの立場に配慮してくれていたなら、礼を言う」
「気にするな」
「そうだな」
 互いに仕事でやっていたことだ。この口数の少ない男は、どうやらそう言いたいらしい。同意して頷き返す。
 そこへ、やっと動揺から立ち直った小波が質問を投げかける。
「え、えっと……カトリーヌって名前は?」
「偽名だ。知ってるだろう」
「あ、そっか。元々偽名だって言ってた……」
 納得する小波。その点に限り、梅花は嘘を言っていなかったわけだ。
「はい」
 門司が再び手を挙げる。朱璃は「いちいち挙手しなくてもいい」とツッコんだ。
「その言葉遣い、それが素のあんたかい?」
「ああ。普段のあれは周囲の信頼を得るため向こうで叩き込まれた。ようは一種の処世術だな。上手く演じていただろう?」
「たしかに、関西人が関西弁で喋るなんて、怪しすぎて逆に怪しまれないだろうね」
「そうです! 梅花姉様は凄いんです! あ、ところで自分は関西人なのに関西弁が下手すぎるって言われて、徹底的に標準語を仕込まれました! この言葉遣いどうでしょうか北日本の皆さん。怪しくありませんかっ!!
 またしても大声を上げる風花。すぐ横にいたカトリーヌは大ダメージを受けた。彼女は左耳を押さえつつ注意する。
「風花、言葉遣い以前に、もう少し声量を落とせ」
「あ、すいません姉様! 憧れの姉様に会えて興奮しました!」
 本当に少しだけボリュームが落ちた。この調子でよく潜伏していられたものだ。
 小波が急にハッとする。
「そういえば、盛岡の牧場にやたら声の大きい子がいるって従兄が……」
「多分それ自分ですね! 牛さんのお世話、楽しかったです! このまま盛岡に骨を埋めたいって思ったくらい!」
「そうなんだ……」
 それでいいのか工作員? 一同は、だんだんとこの幼いスパイの行く末が心配になってきた。もしかすると、これも彼女なりの心理テクニックなのかもしれない。
(あ、でもスパイが潜入先の生活に馴染んで元の自分に戻りたくなくなるって展開は映画でよく見たかも)
 映画好きの母と色々な作品を鑑賞した記憶のあるアサヒは、そんな、割とどうでもいいお約束を思い出す。
 一方、カトリーヌこと天王寺 梅花は、苦笑しつつ妹分の頭に手を置いた。
「まあ、そんなわけでな、これまで騙していたことは悪かったが、大阪まで護衛と道案内を務めることで償わせてくれ。ここにいる風花も手伝う。ついでに、後からもう二人合流する予定だ」
「二人?」
烈花(れっか)姉様と斬花(きりか)姉様です。山形と青森に潜伏していました!」
「おいおい、いったい何人こっちにいるんだい?」
「流石に教えられん。それにお互い様だ」
 門司のぼやきには皮肉で返す。
 北も南も考えることは同じ。どちらもスパイを送り込んで情報収集させている。昔からそうだった。
「まあ、少なくとも私達四人は、二度とこちらへ戻って来られないさ。なにせ顔が割れてしまったからな」
「そうなんですか……」
 彼女がスパイだとわかった後でも、残念そうに顔を曇らせる小波。その視線は隣の友之へ向けられ、心配そうに幼馴染を見つめた。
 彼はいまだに固まっている。心臓が止まったのではないだろうか?
 朱璃は気にせず梅花を睨む。
「そんなもん、工作員としてでなく別の立場で来たらいいのよ。どうせこの先、北と南は連携を組むことになるもの」
「ああ、そうだな」
 彼女の言う通り、堂々と戻って来られる可能性もある。ただ、それも故郷が目前の脅威から救われたらの話。カトリーヌはアサヒを見つめた。

 自然、他の面々の視線も一点に集まる。

「……ううっ」
 気の小さい英雄は、重圧を感じて両手で腹を押さえた。
 記憶災害になっても、胃はキュウッと締まるらしい。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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