二章・進軍(3)
文字数 2,710文字
しかし──
「新装備を実戦で試したい。あれは私達に任せなさい」
そう言って自ら先陣を切る月華。天高く浮かび上がり、さらに上空から降りて来た竜の群れを霊力障壁で弾き返す。とてつもなく巨大な障壁は、そのまま討伐軍全体をすっぽり包み込んだ。
「お、おおおおおおおおおおっ!?」
「なんて巨大な障壁だ……」
「これが南の英雄、
感嘆の声を上げる北日本の兵士達。
直後、さらに複数の影が空に向かって駆け上がる。
「術士隊、行くぞ!」
「無理すんなよ斬花、まだ空にゃ慣れてねえだろ!」
「余計なお世話!」
守りを月華に任せ、敵を撃墜すべく飛翔したカトリーヌ達術士隊。その中には飛翔術を使えないはずの斬花の姿まであった。他の姉妹とは異なり、空中に出現させた複数の障壁を蹴って上昇していく。
「ハッ!」
やがて結界のギリギリ手前から遠隔斬撃を繰り出す彼女。まともに受けた竜が鱗の下の神経や血管を断たれ、悲鳴を上げながら墜落した。彼女の足下にあるのは魔素障壁。手足と背面には鋼の甲冑。
「いける! これを使えば、私にも空中戦ができます!」
霊力の弱さゆえ空を飛べず歯痒い思いをすることもあった彼女は、北日本の疑似魔法学により、そのコンプレックスを克服した。
DA二〇八。手足と腰にだけ装着する軽量型ドラゴン・アーマー。全身甲冑型のようなパワーアシスト機能こそ備わっていないが、腰に取り付けた人工の“竜の心臓”から魔素を供給されているため、このように空中に足場となる障壁を展開して空中戦を行える。
それだけでなく、霊力障壁と魔素障壁を同時展開することによって霊力の弱い術士でも高い防御能力を獲得でき、手甲から圧縮した魔素を発射すれば遠距離攻撃も可能。威力は低いが、牽制としてなら十分に使える。
「そっちへ追い込むわ、烈花!」
「あいよ!」
連続で魔素弾を射出し小型の飛竜を狙い通りの方向へ追い立てる斬花。先回りして術を発動させていた烈花は全身を炎で包み、体当たりを仕掛ける。
「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「ぎゅぎっ!?」
彼女も手足にDA二〇八を装着していた。脚部から魔素を放出し瞬間的に加速。予想外のスピードに対応しきれなかった敵は衝撃と爆炎によって白目を剥く。
次の瞬間、受けたダメージを回復させようと体内の高密度魔素結晶体が魔素を放出した。その輝きで“心臓”の位置を特定する斬花。
「フッ!」
再びの遠隔斬撃が固い鱗や強靭な肉を無視して直接“心臓”を切り裂く。先程墜落した方の竜も回復し、復讐に燃えながら上昇してきたが、返す刀でトドメを刺した。
高密度魔素結晶を破壊された二体の竜は、元の魔素に戻って拡散する。
他の姉妹達の活躍により、空での戦いはすでに終わりが近付いていた。烈火が飛翔術で近付いて来て嬉しそうに笑う。
「使えるじゃん、コイツ」
「そうね、本当にありがたいわ」
地上を見下ろし、恩人の姿を見つけ頭を下げる斬花。北日本の疑似魔法学、それを発展させたあの王太女は、自分達術士まで強くしてくれた。
「さあ、行くわよ烈花! 敵はまだ残ってる!」
「おう!」
少女達は残り僅かな獲物を狙い、競うように空を走った。
一方、地上でも竜や変異種が討伐軍を襲っていた。
「次から次に湧き出して来る!」
馬上からの射撃で牽制するマーカス。同じく背中合わせで攻撃しながら朱璃が叫ぶ。
「ここも大陸プレートの境界線上だから! 地下に溜まった魔素と電力を使って記憶災害を発生させ、変異種達と一緒に操っている!」
これだけの数の竜が同時に自然発生するはずはない。間違いなくドロシーの仕業。以前新潟で仕掛けて来た時のように龍脈を通じて干渉して来ている。
だが、
「今のアタシ達ならやれる! このまま応戦しつつ移動継続! 暗くなる前に海まで移動するのよ!」
「了解!」
様々な敵と戦いつつ進軍を続ける一行。敵の大半は月華の結界を素通りすべく地中から這い上がって来た。兵士達は連携してそれを迎え撃ち、次々に撃破する。竜でさえも。
それもそのはず、何人かは新型の“魔法の杖”MW二一〇を装備して“魔弾”を放っていた。朱璃のそれと同等の貫通力を持つ閃光が怪物共の肉を貫き、容赦無く蹴散らす。
さらに強化改良された全身甲冑型パワーアシストスーツDA一〇七を装着した兵士達も、ある程度大型の敵に対しては重機関銃型MW五〇四でなく新開発された小型砲MW六〇一に持ち替え、白い閃光を放つ。
MW二一〇は、ある程度霊力を有する兵士専用の武器だ。朱璃が霊術を学んで導入した新しい弾体加速機構の力により、体内の魔素の消費を従来の七分の一程度まで抑えて魔弾を放つことができる。
一方、MW六〇一は従来の疑似魔法学のみが用いられた旧式弾体加速機構を用いている。ただしDAシリーズの装着者であれば人工高密度魔素結晶体から魔素の供給を受けられるため、身体にかかる負担という意味ではノーリスクでの魔弾発射が可能だ。
とはいえ、取り回しを重視して小型砲という形にしたことから有効射程は短く、さらに膨大な量の魔素を消費する関係で人工魔素結晶の寿命も大幅に削ってしまう。威力はあるものの連発するのは難しい、ここぞという場面での切り札だと言えるだろう。
だが、これで北日本の兵士も“竜”を倒せるようになった。
「凄い……なんて威力だ!」
「殿下、とうとうやりましたね!」
「フン、まだまだよ」
こうして実戦で使用すると改善すべき欠点が次から次に浮かび上がって来る。もちろん、それをどうにかするのは帰ってからの話。
今は、ここへ至るまでに用意できた手札で挑むしかない。
「結晶を消耗したDA装着者は早目に交換しなさい! 以前より軽量化できたと言っても、まだその鎧はアシスト無しじゃ足枷になる! 他は彼等のバックアップ!」
「班長、五時方向に新たな敵影!」
「友之、小波、アンタ達で対処しなさい!」
「了解!」
命令された二人は血が滾るのを感じた。この新装備の威力に興奮しているのも、かつてないほど大勢の仲間と肩を並べて戦っていることもそれぞれ理由の一つだが、最大の要因は敵の姿。
「あいつ……あれだよ、友之! あの時のあいつだ!!」
「ああ、やっちまおう……俺達で仇を取ろうぜ!」
彼等が見つめる先には無数の突起を常に伸縮させ続ける水晶のような物体。かつて福島の手前で星海班を襲い、