七章・幻日(1)

文字数 4,478文字

 翌日から早速、対“蒼黒(そうこく)”戦に向けての準備が開始された。北日本の面々はまず旧時代の教室そのままに留められた部屋へ集められ、月華(げっか)から講義を受けることに。

「端的に言うなら、敵は“海”よ」

 黒板に“蒼黒=海”と書き込む彼女。どうやっているのかチョークだけが空中に浮かび上がり、動いていた。当人は居並ぶ生徒達を見据えたまま、黒板を見てもいないのに。
「あの」
 護衛隊士が手を挙げる。この講義の最初で「質問があれば受け付ける。ただし必ず挙手すること」と注意した月華は軽く頷き、促す。
「どうぞ」
「ありがとうございます。つまり、敵は変異種や水棲生物型の“竜”ではないという意味でしょうか?」
「半分正解」
 手に持ったポインターの先で彼を指す月華。それから、すいっとその先端を自分の方に引き戻し「半分は不正解」と微笑みながら付け加えた。
「変異種や竜とも戦うことになる。強力な竜が出るかどうかは運次第だけれど、いずれにせよ彼等は蒼黒の尖兵に過ぎない」
「尖兵……?」
「先触れ、ですか……竜までもが」
「そこ、質問の前に挙手」
「すいません」

 別の隊士を窘め、それから改めて彼の質問にも答えた。

「北でも一部の方々は知る事実。なので、王太女殿下ならすでにご存知かもしれないわね。蒼黒とは複数の要因が重なって生まれた怪異。一つは当然、魔素」
 ただし、蒼黒そのものは記憶災害ではない。
「広義でならそうだと言えるかもしれないけれど、あれの実態は妄念。近海の海水と結合した魔素に、数多の死者の念が一体化して膨れ上がった、いわば特大の怨霊よ」
「怨霊……?」
 眉をひそめる一同。魔素の研究が進んだ北日本では、幽霊とは魔素の中の記憶が一時的に再現された小規模記憶災害だと考えられ、その説が一般化しつつある。
 月華もそれは知っている。彼女は全く否定しない。実際、魔素によって再現された虚像(ニセモノ)を霊と誤認したケースは多々存在する。
 しかし浅い。たかだかその程度で“霊魂”の謎を解き明かしたと思ってもらっては困る。物質文明にどっぷり浸かった者達の悪い癖だ。科学的に有力な仮説が唱えられると、ロクな検証もしないうちに答えを決めつけてしまう。他の可能性を探ろうともしない。
「貴方達の中には霊魂の実在を信じていない人も多いでしょうけれど、時間が惜しいから議論に発展させるのは勘弁してちょうだい。今から私が話すことを信じるか否かの判断も個々に委ねましょう。というわけで、とりあえずは大人しく聞いて」

 朱璃(あかり)達が無言で頷いたのを確かめ、説明を続ける。

「さっきも言ったように、蒼黒は死者の念が魔素と結びついたことで生まれた怪異。あの崩界の日、大阪は巨大な津波に襲われたの。彗星の衝突を免れ、もう安心だと思い込んでいた府民は地下都市から出てしまい、大勢が犠牲になった」

 ──反面、地下都市が受けたダメージは少なかった。大半の人間が地上に上がった結果、記憶災害の発生率は逆に低下したからだ。
 数万人が生き残り、さらに周辺地域の生存者達も集まって来て、一時的に地下都市大阪の人口は現在の倍の二〇万人以上にまで膨れ上がった。
「当時の暮らしの悲惨さは……まあ、語るまでもないでしょう。北も南も似たようなものだったはずだしね」
 それでも人々は逞しく、魔素に汚染された環境に順応し、少しずつ生き延びる術を身に着けていった。
 すると当然、数年後には長い地下生活に辟易し、地上への帰還を望む声も上がるようになった。
 東京壊滅後、生き残った西日本の地下都市が共同で結成した新日本政府は、彼等に地上を開拓する権利を与えて送り出した。実際のところは余計な諍いを起こす連中を追い出し、口減らしをしようという目論みだったのだが、そんなことは開拓団の面々も理解していた。彼等は、それでもなお故郷の復興に一縷の望みを賭けた。

 そして散った。

「私が知る限り最初に“蒼黒”が襲来したのは崩界の日から七年後。地震等の前兆は全く無く、突如海面が盛り上がり陸地へ押し寄せ、地上に新たな生活拠点を築こうとしていた人々を飲み込んだ。
 私は昔から霊の類と縁があってね、報告を受けて対処のため地上へ上がった時、すぐにあれが無数の霊魂の集合体で巨大な悪霊と化していることに気が付いた」
 そこで月華は結界を張り、地下都市への侵入を阻むことにした。地下と地上を繋ぐ四基のエレベーターシャフト、その入口さえ塞いでしまえば敵は入って来られない。以降数度の襲来を経て蒼黒の活動に一定の周期があることも判明した。なら危険な時期に誰も海へ近付けさせず守りを固めておけば、それで済む。そんな風に高を括ってしまった。

 ──ところが、ここで敵は予想外の行動に出る。本能か、あるいは取り込まれた者達の知性が働いた結果かわからないが、標的を変え、他の地下都市を襲い始めた。より多くの死者を飲み込み、さらに強大な怨霊と化してしまった。

「知っての通り、私は強い。貴方達の誇る初代王・伊東(いとう) (あさひ)より上だと自負している」
 そんな彼女でも遠く離れた地下都市を大阪と同時に守ることはできなかった。もちろん努力はしたが結局、他の地下都市は蒼黒によってことごとく滅ぼされた。今も残っているのは大阪と京都の二ヵ所だけ。
「貴方達、ここへは日本海側を回って来たからまだ知らないでしょう? こっちの地方は地上もね、北以上に大きく変化してしまっているのよ。たとえば和歌山は、もはや欠片も存在しない」
「え?」
「奈良の半分と三重の三分の一も同じ。大阪を攻撃するのに邪魔だったから、蒼黒が陸地ごと飲み込んで削り取ってしまったわ」

 ──チョークが、かつての日本地図の一部を黒板に描く。大阪・京都の南に張り出していた陸地。その一部が、やはり宙に浮かぶ黒板消しによって消去された。北の一同は顔を青ざめさせる。

「あの部分を……削ったってのか、波が……」
「地下都市を破壊された上、土地ごと海中に引きずり込まれて……」
「そんな無茶な。シルバーホーンだって、そこまではできないでしょう」
【できなくはない】
 軽んじられたことに抗議する彼。しかし容易い話でないことも事実だ。だからアサヒの脳内でだけ言い返すに留める。
 月華は、まるで彼の思念を聞き取ったかのように一瞥して、説明を再開する。
「昨日言ったように、現在この地下都市が露出した状態なのも、度重なる襲撃により少しずつ頭上の岩盤を浸食された結果よ。そして、あまりに強大になった奴の力は、今や私の結界まで打ち砕こうとしている」

 ──二五〇年の時をかけ、蒼黒の力は完全に彼女を上回った。これまでにも様々な手段で結界の強化を試みてきたが、もはや試行錯誤でどうにかなるレベルではない。
 南日本の実質的な最後の砦。その大阪が瀬戸際に立たされている。

「だから“螺旋の人”アサヒ、貴方の力が必要」
「……」
 アサヒも、流石に「俺の?」なんて間抜けな質問は返さなかった。秋田の会談の席でも言われたことである。自分の力が必要になると言うなら、いくらでも貸そう。南日本にはサルベージしてもらった恩があるし、そんなことを抜きにしても、窮地に立たされている人々を見捨てられない。
 しかし当然の疑問は脳裏をよぎる。手を挙げ、そちらを訊ねた。
「あの、具体的には何をすればいいんですか?」
 ここに来るまで、シルバーホーンのような怪物の類と戦うのだと思っていたのに、実際には海そのものが相手と来た。そんなものどうやって倒したらいいかわからない。かつての東京や福島での戦いのように、全力を出せば街一つ消し飛ぶような攻撃も放てる。でも、海なんてものは規模が桁違いだ。
 彼の言葉に月華は「何も海をぶっ飛ばせとは言ってないわ」と苦笑して、黒板に一本の横線を引いた。
 続けて、垂直に縦線を引き、交差させる。
「貴方には深海へ潜って、海底にあるものを破壊して来て欲しい」
「もの?」
「まだ、それが何なのかはわからない。でも、おおまかな位置は掴めている。沖合へ六〇kmほど南下した海域。かつては和歌山の伊那郡があった場所。そこに蒼黒の核となっている何か、数多の霊を取り込み、彼等の怨念と魔素を利用して海を操っている元凶が存在するはず」
「はずって、曖昧な物言いね」
 朱璃の指摘に今度は肩をすくめてみせた。
「もうしわけないけれど、私達でもそこまで特定するのが精一杯。ただ、少なくともそのあたりに元凶がいるという情報だけは信じていいわ。桜花(おうか)が調べたことだもの」
「桜花さん?」
 予想外の名前が出て、思わず腰を浮かせるアサヒ。天王寺(てんのうじ) 桜花。かつて彼をシルバーホーンの体内から救い、守り、導いてくれた女性だ。
 隣に座る朱璃は、その名を聞いた瞬間、彼の中の疑念が晴れたことに気付いた。今なおアサヒにとって“桜花”が特別な存在だからだろう。名前が出ただけで月華の曖昧な話を信じさせるほどに。
「作戦はこうよ。貴方は単独で沖へ向かい、その間、残った私達は全力で大阪を防衛する。シンプルだけれど、これが一番効果的じゃない?」
「なるほど」
 海へ潜るだけなら月華やカトリーヌにもできるはずだ。彼女達には霊力障壁と飛翔術がある。
 でも今までは戦力が足りず、都市の防衛を優先せねばならなかった。だから伊東 旭の助力を欲していたのだと、納得するアサヒ。自分ならさらに再生能力があるので、単独で敵の懐に飛び込んでも生還率は高い。実際にこれがベストな案に思える。
 彼が頷いたのを確かめ、月華は朱璃にも訊ねた。
「どう思われます? 殿下」
「……同意する」
 やはり頷く朱璃。こちらは月華の説明を鵜呑みにしたわけではない。だが、仮に彼女の説明が全て事実だとした場合、たしかに最も合理的な作戦である。

 アサヒの力は強すぎる。それゆえ全力を出せば周囲の味方も巻き込むだろう。なら彼という駒は他から離して配置すべき。残る全戦力をもって籠城戦を行い、時間を稼ぎ、その間に元凶を叩かせるという作戦は実際理に適っている。

「でも、独自の調査はさせてもらうわ。アンタの話の裏を取りたいから各種資料の閲覧と市民への聴取を許可して。それから地上の現状も確かめておきたい」
「もちろん全面的に協力します。話を聞きたい人間がいたら誰でも指名して。地上へ出るなら護衛もお貸しするわ」
「不要。自前の戦力で対処できる」
「そう? まあ、好きにしてちょうだい」
 強情な子を眺めるように、余裕の笑みを湛える月華。北日本の人間を自由に行動させることに対し、全く危機感を抱いていない。鼻につく態度である。
 とはいえ好都合なのもまた事実。言質は取れた。
「なら、好きにさせてもらう」
「ええ、でも気を付けてね殿下。貴女に死んでもらっては困るの。こちらは福島と仙台が欲しい。そのために貴女達に霊術を教え、無事北日本へ帰っていただく。最低でも御身にだけは無事でいてもらわなければ」
「当然。アタシだって霊術を学ぶために来たのだもの、無駄足にはしたくない」
「そう、わかっているなら結構です」
 月華が了承し、朱璃が納得したことで講義は終了。解散となった。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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