三章・休息(2)

文字数 3,947文字

 王太女とその夫の姿を見るなり、兵士達は素早く敬礼する。
「殿下、アサヒ様!」
「いかがなさいました?」
「ちょっと外に出たいんだけど、いいかしら?」
 朱璃の問いかけに、生真面目そうな兵士は素直に応じた。
「もちろんです! しかし規則なので、理由を伺わせてください」
「ここの庭園を彼に見せたいのよ。明日の朝でもいいかと思ったけれど、今回は目的地が遠いから、なるべく早く出発する予定なの。それにアタシも、夜にあの場所を見たことは無くてね、一度は見ておきたいじゃない?」
「おお……」
 つらつらと、ただし不自然に聞こえないようしっかり抑揚をつけ、間を取りながら語る朱璃の後ろで、アサヒはしきりに感心する。
 途端、踵で足を踏まれた。
「!」
 痛くはない。前回ここで戦った時以来、痛覚が無くなってしまった。しかし朱璃が言いたいことは伝わって来たので、口を閉ざし表情を作る。こちらはなんともぎこちないスマイル。
 その甲斐あってか、単に朱璃の口が上手かったおかげか、兵士達は納得してくれた。
「なるほど、そういうことなら問題ございません。ですが──」
「わかってる。警備の手を煩わせたくないし、敷地からは出ないことを約束するわ」
「煩うことなどありません。一言仰っていただければ良いだけです。福島におられる限り、お二人がどちらへ出向こうと我々がお守りします」
「ありがとう。まあ、今回は本当に庭が見たいだけだから、通してくれる?」
「はい、どうぞ、お通りください」
 もう一人の歩哨と目配せして扉を押し開ける兵士。彼等が開いてくれたそこから三人は屋外へと出て行く。
 外とは言っても、もちろん地下空間だ。頭上に星空があるわけではない。ただ、それに近い景色は広がっていた。
「へえ、今夜は月が明るいのかもね」
「ほんとだ、うっすら光ってる」

 地下都市の天井に無数の淡い光が灯っていた。光ファイバーを通して地上の光が届いているからだ。秋田の地下都市と違って、ここ福島には駐留している数千の兵士達しか存在しない。その分、夜間の照明は少なく、逆にあれら星もどきが目立つ。

『おお、本当に星みたいです』
「ん? 今、誰か……」
 扉を開けてくれた兵士が、中に戻ろうとして動きを止めた。朱璃はひらひら手を動かし、虫を払うような仕種をしてみせる。
「虫が飛んでる。そこ、早く閉めた方がいいわよ」
「おっと、そうですか。では、ごゆっくり」
 信じてくれたらしい。彼は言われた通り扉を閉めた。しかし、外にもまだ数人の歩哨が立っている。
 腕を振り、小声で囁く朱璃。
「まだ声を出すんじゃない。庭園なら死角があるから、そこまで待ちなさい」
『はい……』
 姿の見えない何者かは、ひっぱたかれた頭を両手で押さえ、頷いた。



 旧議員宿舎の裏手には色とりどりの花の咲く庭があった。滅多に無い話なのだが、福島に王族や議員といった要職にある人物が訪れた場合、ここは彼等のための宿として使われている。そのため、この庭の手入れも欠かされることはない。
 頭上に浮かべた疑似魔法の照明と、複数の窓から漏れ出る光で照らされた庭園の中心部、池に寄り添う東屋に入ったところで朱璃がようやく許可を出す。
「もういいわよ」
「ふう、やっぱりこの術は苦手ッス」
 突然その場に現れる風花。霊術で光を曲げ、姿を隠していたのだ。まだ未熟な彼女の術を補助する道具だそうで、手にはここまで被って来た白い布を握っている。
「旧時代でいう光学迷彩ってやつね? そんな術まであるんじゃ簡単に潜伏されてしまうわけだわ」
『そう簡単な話でもない。戸籍だって用意する必要があるからな』
 やはり、さっきの風花と同じように何も無い場所から響く声。カトリーヌだ。このまま姿を見せないつもりかと訝るアサヒ達の前で、妹に対し問いかける。
『風花、テストだ。私がどこにいるか当ててみろ』
「そこですっ!」
 迷わず声の聴こえた方向を指す少女。
 ところが、後ろから回って来た手が彼女の口を塞ぐ。
「むぐッ!?
「声が大きい。秘密裏に連れ出してもらった意味が無くなるだろ。それと不正解だ。声や物音がしたからといって、本当に相手がそこにいるとは限らないぞ。もっと正確に気配を探れるようになれ」
「ふぁ、ふぁいっ」
 驚きで目を見開く風花。カトリーヌは彼女の背後に立っていた。声が響いたのとは逆の位置に。
 アサヒもビックリした顔で彼女を見つめる。
「どうやって……」
「お前には以前にも見せたぞ、アサヒ。五感を欺くこの技、前回の一戦でな」
「あっ」
 そういえば、自分に向かって跳んでくるように見えた彼女が、実際には逆方向の朱璃を狙って移動していたことがあった。あの時と同じ仕掛けらしい。
「この程度で騙されていては先が思いやられる。蒼黒は私より遥かに性質が悪い。大阪に着いたら鍛え直してやるから覚悟しておけ」
「望むところよ」
 朱璃が不敵な笑みを浮かべると、一転、カトリーヌは肩をすくめる。
「いや、お前には必要無いだろう。気付いていたじゃないか、お前と大谷殿は」
「えっ?」
「そうなんですか?」
 風花とアサヒに見つめられ、朱璃は胸を張り、大谷は頷いた。
「ちょっと考えりゃわかるでしょ。コイツがフェイントを仕掛けないわけないじゃない」
「私は、霊術で光を曲げられるなら音の発生源も操作できるのではと思いまして、彼女の死角にいる可能性が高いと考えました」
「ほえ~」
「流石だ……」
 それぞれの回答を聞いて感心する風花とアサヒ。
 するとカトリーヌはおもむろに妹を抱き上げる。
「うひゃっ」
「あまりここに長居するわけにもいくまい。さっさと用事を済ませるぞ」
 そして再び霊術で姿を消した両者は、そのまま空中へ舞い上がった。カトリーヌが風花を抱えたまま飛翔したのだ。
 上空に遠ざかっていく気配だけを追いかけ、顔を持ち上げるアサヒ。
「いいの?」
 あの二人は南日本から送り込まれたスパイ。なのに北の地下都市をじっくり見させたら問題にならないか?
 ベンチに腰かけた朱璃は、お茶の入った水筒と茶菓子を取り出しつつ手招く。
「アイツとは何度も一緒にこの街に来てるし、今さらよ。どうせ調べられる限りのことは調べて報告済み。そもそも、もうすぐ南にくれてやるんだし」
「そっか……」
 北と南の間で交わされた契約が正しく履行されれば、この場所とさらに北にある仙台の地下都市は南日本へ譲渡される。たしかに、見学くらいは問題無いだろう。
「地下都市の構造はどこも大差ありませんので、自然、警備体制も似通ります。ことさら秘密にする必要はございません」
「なるほど」
 朱璃の隣に座りつつ、大谷の言葉にも頷く。ちなみに彼女は立ったままだ。王族の傍にいる限り、王室護衛隊の隊士はけっして油断しない。もちろんお茶を差し出されても固辞するので、朱璃も彼女の分は注がなかった。
 例外として、王族が命令した場合に限り、護衛隊士は従ってくれる。以前にもそういうことがあった。しかしこの生真面目な女性に休息を無理強いしては、かえって気が休まらないかもしれない。なのでアサヒも余計な口は出さずにおく。彼にも多少は、王族の一員としての自覚が芽生え始めていた。
「ほら」
「ありがと」
 自分の分のお茶を受け取り、一口啜る。この乾燥シイタケから出汁をとったシイタケ茶の味にもすっかり慣れた。味わうたび、少しずつこの時代に順応しつつあることを感じられて、その事実にもホッとする。
「これ、こないだのお菓子」
「うん」
 続けて受け取ったのは、例の秘密裏に製造販売されている甘味。包み紙から取り出して口に入れてみると、ぷるぷるした食感が面白かった。思ったより味が濃い。しかし雑味も多く感じた。そして焼き菓子のように香ばしい。
「どうよ?」
「おいしい。昔のお菓子に比べて、なんかこう、色んな味がするんだけど、俺はこれ好きだな」
「へえ、後でもっと詳しい違いを聞かせなさいよね」
「うん」
 そんなことにまで興味を持つのが朱璃らしいなと思いつつ、お茶をまた口に含む。味が濃く香りも強い分、昔の洗練されたお菓子よりこのお茶には合っている気がした。

 やがて風を切る音と共に、見えない気配が戻って来る。
 カトリーヌと風花が再び東屋の中に姿を現した。

「満足できたか?」
 問いかける姉に、妹は満面の笑みを返す。
「はい。けっこうボロッちいけど、まだしばらく住めますね。今の京都や大阪に比べれば、ずっとマシだと思います」
 もうすぐ移住するかもしれない街。だから先によく見ておきたい。彼女にそう頼まれたから、カトリーヌは朱璃達に協力を頼み、外へ連れ出してやったのだ。協力者と言えども、南の人間を自由に出歩かせるほど陸軍は甘くない。
「そうか……」
 妹の笑顔を見た彼女は、自身も満足しつつ、つい先日、六年ぶりに帰郷した大阪の現状を思い返す。

 秋田へ潜入していた期間は六年。
 まさか、たった六年であそこまで──

「カトリーヌさんと風花ちゃんも、お茶飲みます? お菓子もまだあるよね?」
「あるわよ」
 ベンチに腰かけたまま空いている場所を示すアサヒ。隣の朱璃は隠し持っていた菓子を風花の方へ差し出す。
「食べる?」
「わっ、いただきます!」
 素直に受け取り、包み紙から出して口に放り込む風花。
「わっ、ぷるぷる。初めての食感」
 のんきなものだ。しかし、それでいい。
(あれを……“蒼黒(そうこく)”を祓うには、きっと図太い神経が必要だからな)
 微笑み、カトリーヌもまた腰かけた。自分が立ったままでは、朱璃達の護衛をしている大谷の気が休まるまい。彼女も貴重な戦力。こんなところで疲弊させては先々支障が出てしまう。
「私の分の茶と菓子は無いのか?」
「今あげるから、そうがっつかないでよ」
 朱璃はそう言って、カトリーヌの分も湯飲みに注いだ。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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