五章・奸計(2)

文字数 4,433文字

「お、追いつかれる!」
「このっ!」
 振り返ったアサヒが再度障壁を展開する。しかし、僅かな時間稼ぎにしかならなかった。波は自在に形を変え、彼の障壁をも飲み込んで追撃を再開する。
「班長! もう一度足を止めて、彼の障壁に守ってもらってやり過ごしましょう!」
「ダメ! アタシならそこに駄目押しを仕掛ける!」
 小波の提案を却下する朱璃。たしかにアサヒの魔素障壁やカトリーヌ達術士の使う霊力障壁なら、あの暴威にも耐えられるかもしれない。その中に隠れて一〇分間待てば魔素で再現された津波は維持限界を迎え消失する。
 でも敵は落雷無しであの記憶災害を発生させた。なら、こちらが足を止め守りを固めた途端、同じことをして津波をさらに別の記憶災害に変化させてしまうかもしれない。その場合、対処が間に合わない可能性が高い。
「向こうの術中に嵌っちゃダメ。こっちも相手の裏をかくのよ!」

 宇宙を旅して様々な環境を見て来たドロシーの記憶。そして“竜の心臓”から流れ込む異世界の記憶。この両者が、本来地球上ではありえない災いまで魔素に再現させてしまう。過去には強酸の嵐が再現され、多くの兵士の命を一瞬で奪ったこともあった。

「環境型記憶災害の利用とは、考えたわね!」
 やはり敵は賢い。自然現象が再現される環境型記憶災害は、時に生物型より御しにくいものだ。生物型なら挑発するなり囮を使うなりして動きをコントロールできるのに、自然現象にはそれが通じない。ひたすら効率的に範囲を拡げ、無作為に命を奪っていく。

 ──とはいえ、まだ甘い。

「知恵比べならアタシの勝ちよ」
 意思を持たず自然の法則に従って動くからこそ、生物型より御しやすい場合だってある。結局は考え方次第。
 彼女が味方を移動させたのは、もちろん津波に巻き込まれないためであるが、さっきの場所ではできないことをするためでもあった。濁流に追いつかれまいと人を乗せ全力失踪する馬達は、やがて林を抜け、海岸沿いの低地を走り始める。昔はきっと道路があったのだろうが今は何も無い。絶えず潮風に晒されているせいで背の低い草がまばらに自生するだけの寂しい風景。
 だが左手には崖があり、余計な障害物が無く地形を見極めやすい。朱璃は素早く獲物を構え、スコープ無しで狙いを付けた。
(今だ!)
 後方に流れ行く景色の中、絶好の条件を見出した彼女は素早くトリガーを引く。銃身に光る紋様、銃口の先に魔方陣が現れ、発射された一二.七mm弾を本来ありえない速度にまで加速させた。
「わっ!?
「あれが──」
「姉様の仰っていた“魔弾”か!」
 初めて見る南の少女達は驚愕した。白熱して融け、プラズマ化した弾丸は岩に接触するなりそれを気化させ、爆発を引き起こす。その衝撃によって崖が崩落した。朱璃は広範にダメージが伝播するポイントを見極め、渾身の一撃を叩き込んだのだ。
 大量の土砂が降り注ぎ、津波を寸断して塞き止める。
「やった!」
「流石は班長!!
「まだよ!」
 喜ぶ部下達を尻目に、大量の魔素を一気に持っていかれ疲弊した状態で叫ぶ。
 その言葉通り、わずかな時間だけ止められたものの、津波は再び即席の防波堤を越えて追いかけて来た。
(でも、これで十分!)
 朱璃は夫に向かって叫ぶ。
「アサヒ! 今ので要領はわかったでしょ!」
「ッ! そうか!」
 まだ以心伝心というほどの仲ではないが、それでも言いたいことは十分に伝わって来た。アサヒは一人だけ馬の背から跳躍し、空中に形成した障壁を蹴って天高く駆け上がる。
 空中で立ち止まって見下ろすと、いい感じに張り出した崖があった。狙いを定め、朱璃達がその下を通過したタイミングで魔素を上方に噴射し、急降下をかける。
(加減して──)
 思いっ切りやったら、この辺り一帯を更地にしてしまう。朱璃達も巻き込まれることは確実。なので体内の魔素を目一杯絞り込んで右足の爪先に集めた。

「でやっ!!

 朱璃の魔弾同様、爆発が起こる。圧縮された魔素が超高速の蹴りと共に叩きつけられた瞬間、弾けたのだ。
 その爆発で崖崩れが起きた。さっきよりも大量の土砂が津波の上へ降り注ぎ、ちょっとした山を形成する。高さは数十メートル。
 今度は波も乗り越えられなかった。即席の巨大防波堤に沿って進路を変えられ、海へと流れ込んで行く。
「よし!」
 再び空中へ駆け上がって成功を確信するアサヒ。
 しかし次の瞬間、朱璃達の向かった先を見て笑顔を凍りつかせる。
「なっ!?

 ──敵の仕掛けた罠は“津波”だけではなかった。むしろあれは、このポイントへ彼等を誘い込むためのもの。

「まずい、挟まれました!」
「殿下をお守りしろ!」
「へえ……」
 護衛隊士と班員達に守られつつ、朱璃はすっと目を細める。馬が怯え声高くいなないた。彼女達の前後には海から出現した二体の怪物。魔素に適応して巨大化したヤドカリ共の姿。おそらく記憶災害ではなく、元々ここに生息している変異種。この場所はこいつらのテリトリーなのだろう。
 裏をかいたつもりが、逆に欺かれた。崖を崩し津波を塞き止めるため、本来の予定とは異なるルートを選択してしまった。敵の狙いはそれだったのだ。
「やってくれるじゃない、あの蛇」
 朱璃自身、再び銃を構え迎撃態勢に移行する。それを待っていたかのように、怪物達は一行に襲い掛かった。



「朱璃!」
 当然、救援に駆け付けようとするアサヒ。敵は当然、それも見越していた。
 瞬間、眼下で閃光が輝く。地面から雷が放たれたように。
 光はそのまま空へ駆け上がって来た。
「ッ!?
 驚いたアサヒの胴体を、鋭い何かが貫く。
「うぶっ」
 大量の血が口から吹き出し、元の魔素に戻って銀色の霧と化す。自らも記憶災害(ドラゴン)だから助かったものの、生身ならこの一撃で死んでいただろう。
 突如出現したのは白く輝く“竜”だった。流線型のフォルムを持ち、生物というよりは機械的なデザイン。

「く──うぅ──ッッッ!?

 速い。速すぎる。あまりのスピードでアサヒの周囲の空気が圧縮され熱を持った。徐々に彼の皮膚が気化し始める。このままでは朱璃が放った“魔弾”のようにプラズマ化してしまうだろう。
 だが、アサヒは別のことに納得していた。
(なるほど!)
 地下都市で朱璃と大谷を抱えて跳躍した時、怒られた理由を今さらながらに実感できた。度を超えたスピードは、それそのものが凶器と化す。

 でも、

「俺は──人間、じゃ──」
 皮膚どころか肉も骨も融け始め、それでも少しずつ速度に順応していくアサヒ。自分を串刺しにした敵、その甲殻の隙間に指を差し込み、ギリギリと力を込める。
「ない!」
!?
 バンッという爆音と共に弾き飛ばされた。危険を感じた敵が急制動をかけ、強引に彼を振り解いたのである。
 敵はそのまま空中で羽ばたきホバリングを始めた。虫だ。カブトムシに似た甲虫。半透明な白い甲殻で全身が覆われている。目だけがエメラルドのような緑。全長は角の先までを含め三m程。今まで見て来た“竜”の中では最小。だが鋭く尖ったあの“槍”の威力とスピードの脅威は今しがた味わったばかり。
 こちらへ来てくれて良かった。こんな虫が朱璃達の方に向かっていたら一瞬で全滅していた可能性もある。それほどの怪物。障壁を足場に、やはり空中で静止しながらゆっくり呼吸を整えるアサヒ。皮膚が再生し、腹の大穴も瞬く間に塞がっていく。
 脳裏に過去の会話が蘇った。

『さて、再確認しておくけど、これで自分の強みは理解できたわね?』
『うん。人間の限界に囚われないこと、だろ?』
『それを認識できれば問題無いわ。人斬り燕がいくら強いっても、結局のところアイツも人間なの。人としての限界は超えられない。いや、見た感じ部分的には超えてたかもしれないわね。多分ドーピングでもしてるんでしょ。
 対するアンタは最初から人間じゃない。人体を再現してはいても、その肉体は魔素の塊。いわばアタシ達が使う疑似魔法そのもの。考え方次第でいくらでも新しい力を引き出せる。だから人としての常識なんて捨てちゃいなさい』

 ──秋田で対“人斬り燕”のための特訓を終えた時、朱璃に言われた。常識を捨てろと。人間の枠から外れた自分に、それは足枷になるからと。

『最強の肉体を操るあなたは、ごく普通の十七歳の少年。覚悟、知識、経験、全てが不足しています。だから剣照様に隙を突かれ窮地に陥った』
『それは我々も同じ。むしろ、あの方の計略を知りながら不用意にアサヒ様と接触させてしまったのは私や陛下のミス。そもそも、どれだけ鍛えようと人の心は惑い、揺れるもの。完璧な存在になどなれません』
『もちろん成長はできます。でも完全にはなりえない。誰もが不完全で、だからこそ手を取り合える。私は、そちらの事実をこそ忘れないでいただきたい』

 ──秋田から出発する前、王室護衛隊の隊長・小畑(おばた)から言われた言葉。こんな自分でも、不完全で人外な存在でも他者と手を取り合うことはできる。そうすることで、もっと強大な敵にも立ち向かえる。
 超スピードに翻弄されていた十数秒で、朱璃達からかなり引き離されてしまったようだ。けれど彼方から音が聴こえて来る。銃声、爆発、金属音。
 彼女達は戦っている。まだ生きて抵抗している。なら自分はここで、この最大の脅威を片付けてから戻るべき。

【手伝いが必要か?】
「……ああ」

 頭の中で響いた声に素直に応じる。まだ抵抗感はあるけれど、自分達もまた協力すべきだとすでに認識している。

【ならば、行くぞ】
「おう!」
『!』

 本能で危険を察したのだろう、再び全身を白く輝かせた甲虫が翼と足を畳み、超高速で周囲を飛び回った。あまりに速すぎて姿を見失う。なのに音すらしない。なんらかの力で空気抵抗を無くしているのか?
 次の瞬間、彼の死角になる位置から角の先端を向けて突っ込む虫。狙いは頭。記憶災害ならそこを砕かれたところで死ぬことは無い。しかし当然、再生するまでは思考できなくなる。
 しかし、澄んだ音を立てて砕け散ったのは彼の角の方だった。
 無数の破片が光を浴びて煌めく中、衝撃を感じた方向へ素早く振り返るアサヒ。全身が赤い鱗で覆われている。この鱗と彼の意識に関係無く展開された障壁が盾となった。
 素早く伸ばした右手は、反動で弾き飛ばされた相手の脚を掴む。
「今だ!」
 腕は瞬時に膨れ上がり異形を形成した。赤い巨竜シルバーホーンの顎となってその牙で甲虫をがっちりと捕まえる。
 間髪入れず火球を吐き出す竜の顎。爆圧が甲殻を弾き飛ばし、肉を切り裂いて銀に輝く“竜の心臓”を露出させた。

【やれ】

 アサヒの腕を元に戻す巨竜。彼の口では結晶体が小さすぎて上手く噛み砕けない。
 すかさず障壁を蹴り、左脚を振り上げるアサヒ。空中に光跡を描き、敵の最高速に匹敵する速さで一撃を放つ。肉体を再生中の敵には避けようが無い。
 出現からおよそ一分。高密度魔素結晶を砕かれ、虫型の“竜”は人竜の共闘により撃破された。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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