三章・悪魔(1)

文字数 3,949文字

 千切れた腕。
 燃える街。
 夜空を覆った霧。
 雷光を纏う銀色の角。
 何かが爆発して大地を消し飛ばした。
 とてつもなく恐ろしい力が──

「……う……っ?」
 目を覚ました伊東(いとう) (あさひ)は、それまで見ていた夢の内容をすぐに忘れてしまった。とても嫌な夢だった気はするのだが、覚えているのはその印象だけで、他には何一つ思い出せない。
 そもそも、ここはどこだ?
(うちじゃない……よな)
 見知らぬ部屋だった。黴臭く不潔な感じで壁には無数の亀裂が走っている。そのためか明らかに後付けの鉄骨で補強されていて、剥き出しのそれがかえって不安を誘った。地下都市の集合住宅ではない。母と祖父母と自分、四人で二年間を過ごしたあの部屋とは別のどこか。
(何で、こんなところに?)
 倦怠感と微かな頭痛に顔をしかめつつ直前までの記憶を探る。
 そう、建設現場にいたはず。いつものように中学時代の級友達や大人達、そして後から作業に加わった後輩達と力を合わせ、全都民の移住が終わってもまだ完成していなかった商業複合施設の工事を進めていて……。

 ──そこから先の記憶が、無い。

「あれから、何を……え?」
 起き上がろうとしてようやく気付く。拘束されている。手足をベルトで縛りつけられて動かすことができない。腹のあたりにも強い締め付けを感じる。
「な、なんだこれ? なんだこれっ!?
 暴れてみるも、拘束具はびくともしなかった。
 直後、そんな彼に声がかかる。
「落ち着きなさいよ、英雄さん。みっともない」
「は? え?」
 顔だけを動かして声の発せられた方向を見ると、奥の暗がりから少女が一人、ゆっくりと歩み出て来た。自分より何歳か年下に見える赤毛の子。日本人らしくない顔立ち。でも、今しがた聞こえた言葉はたしかに日本語だった。
「ふーん……目を開けると、ますます似てるわ」
 青い目でこちらの顔を覗き込み、妙なことを言う。俺が誰に似てるって? でも、眉をひそめた彼自身、何故か目の前の顔に見覚えがあるような不思議な既視感を覚えた。
(この子、誰だっけ……?)
 考えてみたものの、やはり思い出せない。どこかで見た気はするのに。
「君……誰だい? どこの子?」
 彼がそう問いかけると、少女はムッと唇を尖らせる。
「子供扱いはやめてちょうだい。これでも現役の特異災害調査官なのよ」
「とく……え? 何?」
 何かのゴッコ遊びだろうか? いや、それにしては彼女の着ている黒いスーツも含めて、やけに手が込んでいる。この部屋の雰囲気も含め、ただの子供の遊びには見えない。
「ふうん、その反応……ブラフかしら? それとも本気? ねえ、自分の名前言える?」
 どことなく人を小馬鹿にするような視線を向けられ、旭は旭で苛立ちを覚えた。
「なんで君にそんなことを答えなきゃいけないんだ。それより、これをほどいてくれ」
「あらら、人を子供扱いした割に状況も正確に把握できてないのね。ほどくわけがないでしょ? どうして縛りつけたと思ってるの、こうするためじゃない」
「な──ぎゃっ!?
 彼の剥き出しになっている胸に少女の左手が置かれた瞬間、凄まじい痛みが全身を駆け巡った。体内で無数の針が生まれたような激痛。
「な、なん……っ、なに……」
 涙目で余韻に震える彼の顔を、一旦手を離した少女が冷笑を浮かべつつ見下ろす。
「体内の魔素を操作しただけよ。珍しくもないでしょ? ちょっと訓練すればこの程度のこと、誰にでも出来る。
 けど痛いわよね? 知ってるわ。私達特異災害調査官も必ずそれに耐える訓練を受けるもの。だからこの術が、とっても有効な尋問の手段だってことも知っているのよ」
「いぎっ!? あぁああっ!!
 またしても激痛が走った。これはもう絶対に子供の遊びじゃない。この子は本当に自分を尋問しようとしている。
 いや、これは拷問だ。
「ま、待って……やめ……な、何を……」
「何を訊きたいのか、ね? OK、早速素直になってくれたじゃない」
 上機嫌な顔でそう言うと、彼女は“いつでもやれるぞ”と言わんばかりに旭の胸に手を置いたまま問いかけて来た。
「もう一度訊くわ。名前は?」
「い……伊東 旭」
「東京都出身?」
「は……い」
「新宿の地下で建設作業に従事していた?」
「そう、です」
 なんなんだ? どうしてそんなことを質問する? 少女は一答を得るごとに満足そうに頷いているが、意図がわからず旭としては困惑の度が深まるばかりだった。そこへさらに奇妙な質問が投げかけられる。
「ドロシーという名前に聞き覚えは?」
「は?」
 ピクリ、と少女の指先が動いた。それを感じ取ったことで慌てて回答する。
「す、彗星っ! あの彗星の名前だよね!!
「……ドロシー・オズボーンは知らない?」
「ひ、人の名前……? 知らない。でもたしか、あの彗星を発見した人の娘さんの名前もドロシーだって聞いたけど……」
「……ふむ」
 こちらの答えに納得したのかしてないのか、少女は顎に手を当てて何事か思案する。
 やがて次の質問を投げかけた。
「母親の名前は?」
「伊東……(あきら)……」

 何故だろう? その名前を口にした途端、胸がきつく締め付けられた。
 切ないというより、ただ苦しい。母の名を口に出すことが、してはいけないことだったような不可解な感触。
 そして少女は、何故か父親の名前は尋ねなかった。訊かれたところで旭自身も知らないのだが。

「やっぱりね、やっとアンタの正体がわかった」
「正体……?」
 自分はさっきから本当のことしか答えていない。伊東 旭。東京都出身。新宿の地下で地下都市の建設作業に携わっていた。母の名は陽。これ以外に真実など存在しない。
 けれど少女は立ち上がり、憐れむように彼を見下ろす。見ようによっては、それは嘲笑ともとれる表情。
 その顔のまま、彼女は彼女の見つけた真実を告げた。


「アンタは伊東 旭じゃない」


「……は?」
 この子は何を言っているんだ? 意味がわからない。本当に、どうしてもわからない。
 どうして自分は──その言葉を否定できない? なんで頭の片隅で“その通り”だなんて思ってしまっているんだ?
「うぐっ!?
 痛みとは別の不快感が襲って来た。少女の意志で再び、体内にある何かが操られる。
「ドクターの触診でも見つけ出せなかったということは、よほど完璧に“再現”してあるのね……でも、アンタが“伊東 旭”でないとわかった以上、多少手荒にしても構わないでしょう?」
「ぐっ……ああっ!? や、やめ……!!
 体内を蛇が這い回るような感触。その蛇が何かを探している。
 探して、執拗に嗅ぎ回って、やがて見つけた。
「あった」
 ニマーッと嬉しそうに笑う少女。暗闇の中、浮かび上がったその顔は今の旭には悪魔にしか見えなかった。
 悪魔の見えない腕が旭の心臓を掴み、その中に浸潤してくる。
「あ、が……ぐ、うあ……」
 圧迫されて鼓動が弱る。呼吸が上手くできない。背中が仰け反り、口からは泡を吹いた。それでも少女は絶対に手を離そうとしない。唇を寄せて耳元で囁く。
「やっぱりね」
「班長!」
 突然、部屋の扉が開いて白衣を着た中年女性が入って来た。彼女の手で強引に旭から引き離される少女。途端に表情を変えて不機嫌を表す。
「ちょっと、何するのよドクター」
「ドクターだからだよ。まさか殺す気かい?」
「殺す? ハハッ、何言ってんの。それは人間じゃないわ、ただの“記憶”よ」
「がはっ!! っは、ごほっ!!
 少女は咳き込む旭を見つめ、もう一度真実を伝えた。
「アンタは“伊東 旭”を真似ているだけの魔素の塊。つまり“生物型記憶災害”よ」
「な……に……?」
「ああ、そっか、その様子から察するに再現されたのは“崩界”前の記憶なのね。じゃあ知らなくても無理は無い。OKOK、一から説明してあげる。きっと長い付き合いになるでしょうしね」
 少女は笑いながら医師らしき女性を振り解き、もう一度“旭”に詰め寄った。
 ただし、もう手は出さないと両手を上げてアピールしながら。
「大丈夫、丁重に扱ってあげる。ごめんね。本当に何を考えてたのかしら、大切なサンプルなのに。一〇分以上経過しても消えない記憶災害なんて“アイツ”以外では初めて見たわ。絶対に、どんなことをしたって解明してやるから、その原理。ふふ、あは、あはははははははははははっ!!
「落ち着きなって、班長」
 興奮冷めやらぬ少女を再び羽交い絞めにして引き離すドクター。そんな二人を怯えた目で見つめる旭。

 そして、その時だった。
 窓の外から轟音が響く。

「なに?」
 建物全体が小さく揺れ、にわかに部屋の外が騒がしくなった。動物の鳴き声や人の声が聴こえて来る。
「何か起きたみたいだね」
 少女から手を離し窓辺まで移動したドクターは、木戸を少しだけ開けて外の様子を窺った。
「変異種の群れだ。防壁に体当たりしてる」
「あらら。ドクターはここで“それ”を見張っといて。アタシ達で対処する」
「あいよ」
 冷静さを取り戻した少女を素直に見送る女性。少女が出て行った後、まだ混乱している旭の方へと振り返り、白衣のポケットに手を入れながら近付いて来た。
「悪いね。お前さんの正体がわかった以上、一人で見張りなんておっかなくってしょうがない。どうか恨まないでおくれよ」
 そう言って彼女は、素早く彼の首に針を刺した。注射針を。中の薬が血管に注入されるなり、驚く暇も無く意識が混濁し始める。
「なん、で……」
 せめて説明が欲しい。だが、すぐに彼は再び眠りの海へと沈んでしまった。
「班長を止めるために用意しておいた麻酔だったんだが、やっぱり、この坊やにも効くんだね。本当に人体を完璧に再現しているわけだ。くわばらくわばら」
 白衣の女はそう言いながら椅子に座ると、新しい巻きタバコに火をつけた。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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