世界観・用語解説

文字数 4,585文字

 というわけで、第二部で追加公開された設定について解説いたしましょう。なお前回の世界観・用語解説にてご説明した部分については、今回は割愛させていただきます。
 また、当然ながらこちらにも第二部のネタバレが多分に含まれますので併せてご了承ください。


・北日本王国
 前回の解説でも多少ご説明いたしましたが、東北六県を一つの国として再編した国家です。一時は失われたと思われていた皇室の代わりに心の拠り所となる存在を求めた人々が自分達を救ってくれた英雄・伊東 旭様を王として祭り上げ、その結果として建国されました。当初は宮城県仙台市の地下にあった地下都市が王都だったのですが、建国から七〇年ほど経った頃、三代目の王が統治していた時代に巨大地震が起きて半分が崩落してきた土砂に埋まり、遷都を余儀なくされました。
 その後、最も保全状態が良かった秋田に王都を移し、福島は南日本の侵攻や関東に潜む怪物シルバーホーンの襲来に備えた防衛拠点に改装。仙台は補給のための中継地点としてのみ使われるようになり、秋田、山形、盛岡、弘前の四都市が人々の主な生活拠点となりました。前回も書いたように、西暦二三〇〇年現在の総人口は一八万人。魔素の研究が進み記憶災害に対する予防策や対策が進歩した今でもまだ死亡率は高く、爆発的な増加は起こっていません。
 また、毎日の食事は配給制となっており、王ですら贅沢はできません。この食糧事情もまた人口が急激に増えない一因となっています。


・地下都市
 最も浅い天井部分でも地上から七〇〇mの深さになるよう設計された超巨大シェルターです。各都道府県の人口によって内部の容積や地下都市の数そのものに差異が付けられており、東京では秋田のそれより大型の地下都市が全部で四つ建設されました。秋田のものは直径が五kmほどの円筒形の空間になっており、限られたスペースを有効活用するため住宅や商業施設の大半はピラーと呼ばれる天井を支える巨大な柱の内部に設けられていました。伊東 旭様もそんな集合住宅の一室に家族四人で二年間暮らしていたのですが、お母様が心臓の病を患っていたこともあり、移動の楽な低層階に割り当てられたそうです。
 地熱・地下水脈を利用した発電システム。地上から光ファイバーと鏡を使って太陽光を取り入れる採光システム。仮に電力が停止してもある程度なら空気の入れ替えが可能な自然循環システム等、当時の最先端技術を結集したインフラが施されていましたが、電力が使えなくなった今は半分以上が稼働を停止しています。
 ただ、上記にもあるように停電時を想定した生命維持システムが存在していたおかげで今も人々はこの地下都市で暮らせています。長い時間をかけて少しずつ改良も施して来たため、ごく普通に生活する分には問題ありません。不必要な建物を取り壊して農地の面積を広げており、食糧の生産もなんとか国民を飢えさせない程度には行えています。
 とはいえそれも長くはないでしょう。全ての地下都市はすでに設計時に想定されていた耐用年数から一〇〇年もの歳月を超過しており、刻一刻と限界が近付いているというのが実情です。また、緩やかではありますが人口も増え続けてはいるので、やがて地下での食料生産速度ではどうやっても追いつかない時代がやって来るでしょう。それは遠い未来ではないと目されています。


・職業選択の不自由
 伊東 旭様の時代もそうだったのですが、現在の北日本王国に職業選択の自由はありません。基礎教育は小学校の六年間で終わらせてしまい、その間に各自の適正を診断して、中学校では最も適した職業の技能と知識を学ぶ学科へと振り分けられる。それが今の王国の教育の仕組みです。進路は生まれ持った才能によってのみ決められるもので、これを否定する権利は誰にも与えられていません。
 ただ、例外的に突出したなんらかの才能が認められた場合には高校への進学や、その才能を活かすための専門的な指導を受けることが許されます。王族の一員である開明様はこの制度によって高校に進んだ一人ですね。高校に進学した人間の大半は国会議員を目指すと言われています。もっとも非常に狭き門ですので、それとは別にまずは研究職や議員秘書といった職業に就く場合が多いようですが。
 専門的な指導というのは、たとえば歌舞伎・能楽など未来のために残しておくべき芸術を継ぐための修行ということです。ほとんどは芸能にまつわるものなのですが、稀に武術の継承者として選ばれることもあります。現女王陛下や甥の剣照様はこれに該当し、少年期の終わりを剣術の修行に費やしました。
 また本業に関しては誰にも選ぶ権利が与えられていませんが、副業はその限りではなく、多くの国民が国から与えられた義務としての職業の他に別の仕事もしています。食糧が配給制のため、これは生計を立てるためではなく純粋に気晴らしのためです。国民の中には一生を地下で過ごすことになる方も多く、そんな人々のストレスを軽減するための政策の一環としてある程度の商業活動が認められているのです。
 特に人気があるのは小説・漫画等の創作を行う職業。テレビもラジオもインターネットもありませんから、皆さん娯楽に飢えているのです。これらに使う紙やインクなどの消耗品を作る職人も重宝されています。音楽家、劇役者、講談師、それにアクセサリーなどの小物の販売も盛況です。


・通貨
 本編ではアサヒ様が自由に出歩けない身なので結局使われなかった設定なのですが、北日本王国での商取引には旧時代の硬貨が用いられています。二五〇年も経っているため流石に紙幣はほとんど現存しておらず、かといって新たに作るのも難しいことから自然とコインが利用されるようになりました。
 商品の価値は製作者の気分次第なので相場は有って無いようなものなのですが、たとえばかつては月給三ヶ月分が定番だと言われていた婚約指輪。人気の職人さんが手掛けたリングを購入するのに必要な額は一五〇〇円だそうです。つまり現代では五〇〇円玉三枚分となります。
 ちなみに先ほど小説や漫画は大人気だと申し上げましたが、紙の本はやはりそれなりに製造コストがかかるため、新刊は市場に流通しません。三〇冊ほど刷ったらそれを各地下都市の図書館に配布する決まりです。作家にはこの時、一定額の報酬が支払われます。
 とはいえ図書館のスペースも無限ではありませんから、古い本から順次市場に放出され古書として出回るようになります。もちろんこの価値は非常に高く、中には五〇〇〇円以上の値段で取引されている本もあるのだとか。貴金属の指輪よりも高いのです。
 実は、朱璃様の率いる星海班には人気作家がいらっしゃいます。大人から子供まで楽しめる痛快な内容の冒険小説を執筆されており、彼が調査官だと知っている方々は任務で命を落としてしまわないことを切に願っているそうです。


・衣類
 第一部では基本のスキンスーツ以外ほとんど登場しませんでしたが、あれは地上での活動における動きやすさを優先したもので、形にも色にもある程度の融通が利きます。アサヒ様はスキンスーツの快適さに慣れてしまったため結局余計なものは付け足さないようにしたようですが、部分的に布地を厚くするなどして見た目の恥ずかしさは緩和されました。
 また、布同士が擦れ合って静電気を発生させる危険を鑑み、フレームを仕込んで傘のような構造にするなどの工夫は必要になりますが、スカートもちゃんと存在しています。アサヒ様の侍女を務めている小畑 小鳥様もそのようにして作られたメイド服を着用しておられますね。私のものとはだいぶ異なるデザインですが、あれもなかなかに可愛らしいので今度マスターに作っていただけるよう頼んでみましょう。
 ウエディングドレスのような細かい造形が必要なものも作ることは可能です。ただ、やはりコストも手間も旧時代のドレス以上に必要なようで、一般市民の場合は貸衣装屋からサイズの合ったものを借りるのが定番のようです。流石に王族は毎回新しく作っておられるそうですが。


・MWシリーズ
 朱璃様が開発された“疑似魔法の効果を増幅する”銃器の総称です。MWとはマジック・ワンド、つまり魔法の杖の略ですね。
 前回の解説でも少しばかり触れましたが、炎、水、冷却、鉱物への干渉といったいくつかの種類の魔法にターゲットを絞り、それらの効果を増幅することが可能な触媒を銃器の中に仕込んであります。どの触媒の効果が高くなるかなどは地道な調査・収集活動と実験の繰り返しによって突き止めたそうです。天才的な頭脳があっても一足飛びに答えを求めようとするばかりでなく、必要とあらば一歩一歩踏みしめて前へ進んでいくことができるというのも、朱璃様の才能なのかもしれません。
 なお、型番は“MW〇〇〇”という形式で示されます。三桁の数字の一番左は銃器の種類を示しており、一ならば狙撃銃型。二なら突撃銃型。三なら短機関銃型。四なら軽機関銃型。五なら重機関銃型となっております。
 残り二桁の数字は試作品まで含めて何番目に開発されたものかを示す数字ですね。特異災害調査官の皆様が主に使用するMW二〇五は初めて王国に制式採用されたもので、二〇一から二〇四までは試作品です。この突撃銃は旧時代の傑作と呼ばれたロシア製AK四七がベースとなっており、過酷な環境下でも簡単なメンテナンスさえ施せば使い続けられる信頼性が選択の決め手になったのだとか。
 また、朱璃様が用いられる対物ライフルを改造した銃はMW一〇三改。魔素吸収能力が高く、回復の早い朱璃様でなければ使いこなせない特別仕様となっております。狙撃銃型には他にも命中精度が高く万人に使いやすいMW一〇七があり、特異災害対策局と軍の両方で採用されています。
 短機関銃型は屋内での対人戦を想定して王室護衛隊が使用しており、軽機関銃型や重機関銃型は変異種・記憶災害相手に都市防衛を行うのが主な任務である陸軍が使っています。重機関銃型は海軍でも軍艦の銃座に設置する機銃に使用。ただし海の変異種は陸のそれとは比べ物にならないほど大きいものが大半なため、ほとんど牽制にしか用いられず、ダメージを与えるのはより大口径の弾を発射する主砲や機雷の役目となっております。


・反体制派
 現女王陛下による統治は上手くいっているようですが、それでも完全というわけではありません。国民の中には現体制に不満を持つ方々も少なくはないようです。過去には王族の暗殺を企てた方々もいらしたとか。
 今のところ彼等の暗殺計画が成功したことはありません。ただし過去に一名だけ、彼等の計画によるものかどうか判断のつかない事件で犠牲になってしまった王族ならばおられます。
 秋谷さんによると、彼女の死は第二部の物語にも深く関わっているそうです。


 ひとまず、第二部の深刻なネタバレにならない程度の情報をまとめるとこんなところでしょうか。もし本編を呼んだ後に「ここがわかりにくかった」等といった場合があった時にはコメントでお知らせください。順次追記する形で対応させていただきます。
 それでは、私もそろそろ第二部本編へ進みたいと思います。また次回、第三部編の登場人物紹介と世界観・用語解説にてお会いいたしましょう。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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