二章・朱糸(1)

文字数 3,851文字

 カトリーヌが自分の正体を打ち明けてから、さらに数日後。

「お願いします!」

 一転、アサヒは勇気を出してある場所へ乗り込み、頭を下げた。特異災害対策局の局長執務室である。
「……何だ?」
 いつも通りデスクワークをこなしていた神木(かみき) 緋意子(ひいこ)は、突然入って来た少年の不躾な行動に眉をひそめる。部下達は入室を止めようとしたが、相手が相手だけに強気の対応はできなかったようだ。今は申し訳なさそうに彼の背後で佇んでいる。
 さもありなん。この少年は今や名実共に王族の一員。しかも未来の女王の夫。そもそも彼が本気を出せば、力づくで進行を阻むことは不可能に近い。
「申し訳ありません局長」
「アサヒ様、急な訪問は困ります。どうか一旦、お外へ──」
「かまわん。お前達、下がりなさい」
 彼女が言うと、部下達は意外そうに驚く。監視役として少年についてきた護衛隊士もだ。たしか大谷といったか。
「よろしいのですか?」
「ちょうど休憩に入ろうと思っていた。アポイントを取らなかったことは褒められないが、まがりなりにも身内。この程度の非礼は許容しよう」
「すいません、いきなり来ちゃって……」
 彼女の冷静な対応を受け、自らも気が落ち着いたアサヒは、恥ずかしそうに頭を下げた。気が逸っていただけなのだと、緋意子も気持ちを汲み取ってやる。
 用件も察しがついた。至極私的な相談だろう。
「少しの間、二人だけにしてくれ」
「わかりました」
 再度退室を促され、部下達と護衛隊士は部屋を出て行く。神木は目を通していた書類を机に置き、改めて眼前の少年を見上げた。

 背が高い。細身だが、それは無駄の無い肉付きをしているから。戦士としては理想的な体型。少しばかり意志薄弱なところはあるようだが、ここぞという場面でなら胆力を発揮することも知っている。顔立ちも悪くない。
 しかし“彼”には似ていない。朱璃(あかり)が惹かれるとすれば、父親のような男だと予想していたのに、そうでもなかったらしい。

(まあ、部分的になら共通点もある)
 彼女の夫、朱璃の父、星海(ほしみ) 良司(りょうじ)は妻子を全身全霊で愛していた。それでいて自分自身のことには無頓着な男だった。何度も危険だから断るべきだと訴えたのに、結局は東京へ行って、そして──
 いや、今はそんなことはいい。脳裏によぎった追憶を振り払い、問いかける。
「朱璃のことか?」
「はい」
 それはそうだろう。自分と彼の接点は少ない。これまで積極的に関わっても来なかった。なのに頼み事をして来るなら、それは彼女のこと以外では考えにくい。
 彼が“誰”に対して物申すつもりなのかで、こちらの対応は変わる。ひとまずは相手の話を聞き、それを確かめてみようと決めた。
「言ってみなさい」
「はい……えっと」
 促したものの、少年はなかなか話を切り出さない。冷静になったことで逆に気後れしてしまったようだ。
 まったく、地下都市を瞬時に滅ぼせるほどの力を持っていながら、平凡な人間一人何が恐ろしいというのか?
 さらにもう一度促そうとすると、そのタイミングでようやく切り出す。
「お義母(かあ)さん」
「……」
 今度は神木がたじろいだ。まさか、そんな呼び方をされるとは思っていなかったから。
「お願いします! 明後日、朱璃を見送りに来てやってください!」
 そう言って深々と頭を下げる彼。なるほど、やはり“局長”でなく“朱璃の母親”への用件だったか。
 そういうことなら見当違いも甚だしい。
「言われるまでもなく見送りには行く。用がそれだけなら、もう帰りなさい」
「でも、朱璃は“お母さん”に来て欲しいと思います」
「……血縁上、私は母親だ」
「そういうことじゃなくて」

 わかっている。彼が何を言いたいのかは理解できる。
 しかし無理だ。自分にはできない。

「私はもう、彼女と親子の縁を切った。上司と部下ではあっても、家族ではない」
「どうしてなんですか?」
 そう問いたくなる気持ちもわかる。初代王・伊東(いとう) (あさひ)の母親は女手一つで彼を育て上げ、最期の瞬間まで息子を庇って絶命した。その逸話は王国の始まりを彩る美談として、今も語り継がれている。

 親は子を愛するもの。
 彼の認識ではそうなっている。
 それが正しいという確信がある。
 逆に言えば、お前の態度は間違いだと責め立てられているわけだ。
 神木はしばし考え込み、やがて返答する。

「私は、あの子が怖い」
「え……?」
「昔、夫が死んだ日のことだ。東京の街が消し飛ばされ、その輝きは遠く離れた福島からでも見えた。
 私と朱璃はそこにいた。あの子は赤く燃える空をじっと見つめていたよ。私はまだ夫が死んだという実感すら持てず、ただ困惑するだけだったのに、あの子はすぐに復讐を決意していた。
 そんな娘が怖くなった。同じ“人間”だと思えなくなって、あれ以来、一度も正面から目を見て話すことができない。だから親子の縁を切ったんだ、私のような臆病者が近くにいては、あの子の邪魔になると思った」

 我が子を恐れるようになり、同時に自らを憎んだ。母親らしく振る舞えなくなったこと。大切な娘を大切だと思えなくなってしまったこと。そして自分では到底成し遂げられない復讐も、朱璃になら可能かもしれないと考え、彼女の復讐心をそのままに放置したこと。
 それら全ての行いに、自分自身で嫌悪感を抱く。

「どうして……」
 アサヒは呆然とこちらを見つめている。理解できないだろうなと神木は自嘲気味に苦笑した。彼には我が子を恐れる母親の気持ちも、彼女の中の憎しみも、そして、何故こんな話をしたのかもわかるはずがない。
 神木自身でさえ、どうして本音を話すつもりになったのか釈然としない。
(いや……)
 よく考えたら、夫が死んだあの日から、こんなに真っ直ぐぶつかって来てくれた相手はマーカスと彼しかいなかった。
 だがマーカスはマーカスで、やはり他人には言うことのできない負い目があり、それが壁になってしまっている。
 だから本当に何の障害も無く向き合えた相手はアサヒが初めてだ。おかげで、こちらも気負わず打ち明けられたのかもしれない。

 対するアサヒも、神木の表情に変化が表れたことに気付く。
 けれど、あえてそれは指摘せず、もう一度頼んだ。

「お願いします。どうか、朱璃のお母さんとして見送りに来てあげてください」
「……君は、どうしてそこまであの子のために懸命になれる?」
 実を言うと、以前からずっと疑問だった。結婚式の最中、人斬り燕が現れ、彼は我が身を盾にしてまで朱璃を守り抜いた。記憶が確かなら、最初に会った頃は結婚を渋っていたはずなのに。
 剣照(けんしょう)に撃たれ朱璃が死にかけた時も、自らが瀕死の状態なのに構わず、何度も彼女の名を呼び続けた。その姿が今も鮮明に脳裏に焼き付いている。どう見ても本気で朱璃を喪うことを恐れていた。

 ──あの瞬間、誰の目から見ても明らかになった。この少年は朱璃を愛している。心底大切に想ってくれていると。かつて自分の夫がそうだったように。

 本当に不思議で仕方ない。二人の出会いについては報告を受けている。福島までの道中の話も、福島滞在中の扱われ方も、秋田へ来て以降の両者の距離感の変遷も。
 彼は朱璃に実験動物呼ばわりされ、実際に非人道的な扱いも受けてきた。だったら憎み、嫌ってしまうのが当たり前ではないか? 結婚式の直前まで、やはり嫌がっていたという報告もある。
「ひょっとして、君はマゾヒストか?」
「ち、違います」
「そうか」
 あまり考えたくない可能性だったので、否定されたことで安心する。
 だが、そうなるとやはり朱璃に対する愛情は不可解でならない。
 次の瞬間、少年はここへ来てから初めて目を逸らした。頬を掻き、照れた様子で「言わなきゃ駄目ですか?」と訊ねてくる。
 神木は頷いた。実際のところ彼にそれを明かす義務は無い。けれど聞いておきたい。
 アサヒはしばし躊躇っていたが、それでも、自分自身の心の内を確認するように訥々と語り出した。
「目を覚ましてから、俺もどうしてなのかわからなくて、考えてみたんですけど……」

 言い訳するように前置いて、自分なりの結論を述べる。

「──というわけで、あの時から俺は、ちょっとずつ朱璃のことが好きになっていったんだと思います」
「なるほど」
 聞いてみれば、なんということのない、本当にごく普通の理由だった。
 でも、だからこそ納得できる。いや、共感できたと言うべきか。自分と夫の恋もそんな何気ない日常の一つが始まりだったから。
(私が、難しく考えすぎていただけだな)
 人は小さなキッカケさえあれば、それだけで他人を愛せるようになる。結局、そういうことだった。
 なのに、どうして複雑化してしまったのだろう? その理由を考えた時、彼女はやっと思い出す。

 それは自分が“親”だから、だと。

「……考えておくよ」
 まだ踏ん切りはつかない。一応、そう答えて視線を落とす。
「わかりました。よろしくお願いします」
 アサヒも意外と簡単に引き下がった。神木は、さっきとは別の意味で苦笑する。流石は自分達の祖先。愚直なようでいて機を読むことには長けている。ここで不必要にしつこく食い下がられていたら、こちらの気も変わってしまっていたかもしれない。
 考えておくなどと言ったが、おかげで神木の意志は固まりつつあった。
 だから自分達の関係がどうなるかは、もう、あの子次第。
(……いや)
 子供に委ねてばかりでは情けない。こちらが親なのだから。
 緋意子はアサヒを退室させた後、再び書類と向き合い、自省しながら職務へ戻った。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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