序章・紅景

文字数 4,378文字

 それは朱璃(あかり)にとって、生まれて初めて地上へ出られた日だった。
 四〇年ぶりに実施されることになった東京遠征。新宿を中心に半径五〇kmもの広大なエリアを取り巻く巨大な魔素(まそ)の雲。内部の現状を知るべく、彼女の父が率いる調査隊は出発した。母やマーカスと共に福島まで同行した彼女は旧エレベーターシャフトの出口で彼等の背中を見送った。

 数日後、退屈していた彼女はマーカスを脅し、地上まで連れて行かせた。母の目を盗み、軍の検問も欺いて地下都市を脱出したのだ。方法はいたって単純。大きなバッグに隠れて運んでもらっただけ。
 七歳だからこそできたことではある。だが、そもそも作戦の肝は人選で、協力者選びを間違わなければそれでいい。馬鹿ほど物事を複雑にしたがる。あらゆる状況、全ての生物の意識には盲点があり、そこさえ突けば騙くらかすのは簡単なのだ。

 初めて見る地上の風景は、少女の好奇心を大いに刺激した。生命力に溢れた森。地下で光ファイバー経由の貧弱な日差しか浴びて来なかった植物達とは、雰囲気からして大きく異なる。
 昆虫の数も遥かに多い。図鑑でしか見たことの無かった様々な生物。頭上に覆い被さる梢の合間から覗く空は晴れ渡っていて、雲一つ無い気持ち良い天気。昔の人ならこんな日には、きっとピクニックをしただろう。自分達もいつかは記憶災害に怯えず、自由に地上を散策できるようになる。
「見てなさい、アタシがそうしてやるから」
 胸を張って宣言した。
「ったく、かなわねえな、朱璃大先生にゃよ」
 落ち込んでいたマーカスもやっと顔を上げる。彼は本来なら調査隊の一員として東京へ行くはずだった。だが直前に辞退してしまった。本人は情けなくも臆病風に吹かれたからだと言っている。そんな自分を恥じ、仲間が出発して以来、延々と塞ぎ込んでいた。
「ったく、気にしないの。母さんが言ってたわ、しかたないことだって」
 マーカスはベテランだ。死亡率の高い特異災害調査官の仕事を一五年続けてきた。生存能力の高さは優秀さの証。慎重であることも、調査官にとって恥じる素養ではない。
 むしろ彼が無謀なのだと、父の背中を見送る時、母はそう言っていた。
 朱璃も同感である。今はまだ、そうすべき時ではないはずなのだ。
 けれど、世論がこのまま静観し続けることを許してくれなかった。とうの昔に耐用年数を超過してしまった地下都市は年々限界へ近付きつつある。当然、地上への回帰を求める声は高まる一方。
 女王である祖母は母や朱璃と同じく時期尚早だと思っている。だが、同時に民の意見を無視し続けることもできない立場にあった。

『つまり我々は、竜を倒す術を見つけなければなりません』

 地上へ再進出するにあたり、最大の障害となるものは、やはり竜。体内に抱えた高密度魔素結晶から無尽蔵に魔素の供給を受け、尋常ならざる攻撃能力、防御能力、再生能力を発揮する理不尽な怪物達。
 あれらを倒すのに現行兵器──銃や刀剣、せいぜいが投石器──程度ではどうにもならない。どれだけダメージを与えても瞬く間に回復されてしまう。もちろん体内の魔素結晶、すなわち“竜の心臓”を破壊することができれば打倒は可能だ。旧時代の記録に自衛隊が総力を挙げ、その方法で三体の竜を撃破したというものがある。
 しかしそれは、たった三体を倒すためにありとあらゆる手段を用い、ようやく相打ちに持ち込めた。そんな話でしかない。旧時代より遥かに劣る現在の戦力で同じことは不可能だし、あまりに非効率的。
 罠を仕掛けるのも手だ。むしろ、歩兵に頼るよりそちらの方が現実的。けれど敵の種類は多彩で、その全てに対応させることは難しい。空から、地中から、海から、ありとあらゆる環境から襲って来る種々様々な怪物共に柔軟に対応するとなると、やはり人間の手と知恵が必要になる。
 理想は罠と人、どちらかが確実に敵の足を止め、もう一方が“心臓”を破壊する。そういう手法の確立。それも出来る限り被害を出さず迅速に敵を仕留める必要がある。例えば確実に竜を倒せる方法を見つけたとして、それが人命と引き換えにするような作戦ならば論外なのだ。
 ──人道的見地からの意見ではない。人的資源がもったいないという意味である。敵は頻繁に襲って来る。なのに鍛え上げた兵士にぽんぽん死なれていたら、すぐに人材不足に陥ってしまう。

 だから祖母は、東京の再調査を行うと決めた。

 竜を倒すには、奴らのことをもっとよく知る必要がある。敵を知り己を知ればという話。百戦危うからずなどと贅沢を言うつもりは無い。八割に無傷で勝ち、残りの二割でも被害を減らしたい。父はそう言っていた。そのために東京へ行くのだと。
 伝承によると、あの地には“消えない記憶災害(ドラゴン)”がいる。どんな理由でそうなったのか、誰にも解明できてはいない。そもそも現代では、実在するかさえ疑われている。
 しかし、もしそんな怪物(とくれい)が本当にいるなら、地上への再進出を望む人類にとって最大の脅威になるだろうし、同時に格好の研究材料だとも言える。

『例の“巨竜”が本当にいたら、生態を調べることで他の“竜”を倒すヒントを得られるかもしれない。仮に失敗したとしても、実在さえ確認できれば東京に近付いてはならないという先祖の教えが正しかったことは証明できる。だろ?』

 ──父は笑い、母は断るべきだと言った。結局、彼は引き受けた。父もやはり地上への回帰を望んでいたから。極めて難しい話なのは承知の上で、それでも彼は、困難な事業を我が子の代に押し付けたくなかったのだと思う。

(無事に帰って来てよね……)

 この時の朱璃には、まだ“恐怖”を感じることができた。父を“失いたくない”という気持ちがあったから。
 対象が大切であればあるほど、喪失しかねない状況に陥った時、比例して恐怖心も増大する。ただし、人によって物事の優先順位は変わり、何に対し恐れを抱くのかは、やはりそれぞれで異なる。
 祖母は王国の内部分裂を恐れ、父は未来に難題を残すことを恐れた。母は父を失うことを恐れていて、マーカスの場合、自身の生命が何より大切だった。それだけの話。

「生存欲求は誰しも持ってるものでしょ。本能を恥じる必要なんか無い。それが無ければ進化や繁栄なんてありえないもの。アンタは正常な精神の持ち主で当然の選択をしたってだけ。さっきアタシに脅されて従ったみたいにね」
「……ったく、本当に七歳児かよオメエは」

 朱璃なりの励ましの言を受け取り、久しぶりに笑うマーカス。
 彼女も、父の友人が笑顔を取り戻したことで破顔する。
 けれど、そのマーカスの笑みが突如強張った。

「何?」

 振り返った朱璃も、驚いて大きく目を見開く。
 遥か彼方、南の空を真っ直ぐ駆け上がっていく赤い光があった。その光はかなりの高度で突然静止したかと思うと、さらに大きく膨れ上がり、強烈な輝きを放つ。
 不吉な赤光は二人の脳裏に存在しないはずの記憶を蘇らせた。
 天井の無い空の下、無数の高層建築が立ち並ぶ、かつての東京。その街を破壊しながら暴虐の限りを尽くす巨大なドラゴン。

 遺伝子に刻まれた“崩界の日”の恐怖。
 それを象徴する光景。

 だから直感的にわかった、あれがそうなのだと。一度は初代王に倒されたはず、なのに復活して東京に巣食った生物型記憶災害第一号。唯一、一〇分間の維持限界を超えてなお存在し続ける最悪の怪物。

 シルバーホーン。

 赤い光はさらに膨れ上がり第二の太陽と化した。地上からその巨体を追いかけるように吸い寄せられた膨大な量の魔素が二重螺旋を描く。
 青かった空全体が赤く染まった。
 そして──光が二つに分裂し、一方が地上へ放たれる。
 朱璃は無意識に、その光の方へ走り出そうとしていた。だが、マーカスは彼女を抱えて逆方向に逃げた。

「ダメ! マーカス、父さんが!?
「わかってる!!
 彼はそれ以上何も言わず、必死の形相で走り続け、福島の入口に辿り着く。厚い鉄扉を叩いて中の兵士達へ告げた。
「退避! 今すぐ退避しろ! オレ達も中に入る、開けてくれ!」
 朱璃の姿を見て慌てて開けてくれた彼等と共に旧エレベーターシャフトを取り巻く予備脱出抗(トンネル)を駆け下りていく。その背後には不気味な地響きが迫りつつあった。

 やがて、凄まじい衝撃が大地を揺るがす。

「うわああああああっ!」
「なっ、なんだ!?
「地震か!?
 倒れないよう壁に手をつき、あるいはしゃがみこんで耐える兵士達。一人は耐え切れず坂を転がり落ちた。それを見たマーカスは朱璃を庇いつつうずくまる。
 彼の腕の中で、彼女だけは違和に気付いた。これは地震なんかじゃない。あの光が東京に落ちて爆発し、衝撃波がこの地まで到達したのだ。もちろん旧時代の最強兵器・核爆弾を使ったとて、ここまでの破壊力は生み出せないだろう。

 つまり、あの怪物は核以上の火力を有している。

 しばらくして揺れが収まった後、朱璃はマーカス達を伴い、再び地上に出た。本来なら一旦報告に戻るべきで、上の状況を確認しに行くにしても、幼い彼女を伴っていいような状況ではない。
 けれど絶対に行くという彼女の気迫に、その場の全員が圧倒された。
 地上へ通じる扉は歪んでしまい開けるのが困難になっていた。なかなか開かないそれにマーカス達が四苦八苦しているうち、地下にいた者達も上がって来る。その中に母の姿もあった。
「朱璃、無事だったか!」

 緋意子(ひいこ)は喜び、娘を抱きしめようとする。
 けれど、寸前で躊躇い、足を止めた。

「朱、璃……?」
「開いたぞ!」
 歪んだ鉄扉が取り外され、道が開く。朱璃は真っ先に走り出し、地上を目指した。呆気に取られた大人達が動きを止めている間に、再び南の空が見える場所まで辿り着く。
「どうしたんだ朱璃! 危ないから母さんと一緒に──」
「……ッ!!

 奥歯が軋む。目が充血する。髪が逆立つ。
 追いかけてきた母が彼女の顔を覗き込み、息を呑んだ。まだ幼い娘は憎悪に満ちた眼で彼方の光を見つめている。
 空はまだ赤く燃えていた。周囲の木々は通過した衝撃波によって薙ぎ倒されている。
 きっと誰も生きてはいない。この状況で父が生存しているわけがない。そう確信できてしまうほど彼女は賢く育ってしまった。
 だから頭の中では、これからどうするかを、すでに決めていたのだ。

「殺してやる……絶対に、アタシが殺してやる……!」

 この世界で最も大切なものを奪われた。
 なら、こっちも奪ってやる。
 お前の大切なものを奪い取り、踏み躙り、破壊する。

「シルバー……ホーン!」

 なんの偶然か、父から貰った髪紐が切れた。真っ赤な空の下、正面から吹いて来た風が長い髪を炎のようにたなびかせる。
 怒りと憎しみに滾る我が子を、緋意子は困惑しながら見つめていた。
 その瞳の奥には、微かな恐怖が揺れていた。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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