八章・欺瞞(1)

文字数 6,140文字

「アサヒ! マーカス! 今は手を出さないで!」
 朱璃もまたスカートの中から隠し持っていた短機関銃型のMW三一六を二挺取り出し、両手で構える。そのまま躊躇せず足を止めた人斬り燕に向かって発砲。無数の弾丸が敵の障壁に当たり、その耐久力を削る。期せずして敵はその場で釘付けになっていた。霊術で展開した障壁にもヒビが入り始めている。なら、このまま押し切るまで。
 だが人斬り燕は素早く何かを投げ放った。敵の障壁を貫通して飛来したそれは紙を切り抜いて作った人型。一枚は朱璃の目の前に舞い込む。
「朱璃!」
 咄嗟にマーカスが彼女の前に魔素障壁(シールド)を展開した。同時に紙人形がバラバラになり、いくつもの紙片と化してから捻じれ、空中でこよりを形成する。その形を見た朱璃は銃口を床に向けた。
「防御!」
 剣照の言葉に反応してやはり障壁を発生させる調査官と兵士達。だがそんな彼等の足下にこよりは尖った先端を下に向けて落下する。そして床石の隙間に突き刺さった。
「うっ!?
「これ、は──」
 一瞬、動きを止められてしまう彼等。影縫いだ。
 けれど朱璃は一瞬早く疑似魔法で水を生み出し、床に叩き付けていた。それは周囲に広がり紙のこよりを濡らして変形させる。途端に術の効果が消えて全員が体の自由を取り戻す。
 だが人斬り燕にとってもその一瞬で十分だった。意識が自分から逸れた隙をついて再び姿を消してしまう。
「奴はどこだ!?
「閣下、あそこの窓が割れています!」
「外へ逃げたな、追え!」
 剣照が兵士達に追跡を命じる。
 しかし──
「いいえ! まだです!」
 女王がそれを止めた。
「まだ中にいます、迂闊に動いてはなりません!」
 そう言った彼女に小畑が近付いて行く。
「陛下、これを」
「ありがとう」
 受け取ったのはサーベルだ。いったいどこにあったのか、美しい装飾の施された一本の細身の剣。
 小畑はさらに女王のドレスのスカート状のパーツを外した。すると下からスキンスーツが姿を現す。
「ゲホッゲホッ!! お、おばあさん、もしかして戦う気?」
 自分の周囲に集まってしまった煙をようやく散らしたアサヒは、隣の朱璃に問いかけた。すると彼女はニヤリと笑って頷く。
「陛下のことなら心配しなくてもいいわ。うちの国は実力至上主義だからね。王様は代々武闘派なの」
「そういうことです。私の心配はしなくてよろしい。アサヒ殿、あなたはそこの未熟な孫を守ってください」
「は、はい」
「言ってくれるわ」
 銃を構え、アサヒと背中合わせになる朱璃。
「さあ、式を邪魔してくれたアンニャロウを退治するわよ。これがアタシら夫婦の初共同作業ってやつだわ」
「普通はケーキ入刀じゃなかったっけ!?
「普通が良ければ普通の嫁を探して。アタシがそんなもんで満足するわけないでしょ」
「それもそうか」
「おい、オレの前で朱璃とイチャつくんじゃねえ! 先にテメエを殺したくなる!」
 マーカスが強引に二人の間に割り込んで来た。そのパワーはいつもより強い。彼が装着しているもののせいだ。朱璃が開発した一種のアシストスーツで装着者は人間離れした膂力と機動力を得られる。試作品のため装甲の取り付けはまだだが、フレーム自体が強靭なので防具としてもそれなりに有用。
 そして、これはまだ公に出来ない情報だが──動力源は人為的に生成された高密度魔素結晶体。つまり人工の“竜の心臓”である。アサヒが力を使う際の魔素の流れ方を調べていたのは、この動力源の制御を万全なものとするためだったのだ。
「マーカス、それ、まだいけそう?」
「ああ、快調だ」
「なら、良かったわ!」
 朱璃は突然銃口を振り上げる。
 その指が引き金を引くより速く天井の片隅にある暗がりに潜んでいた人斬り燕が肉薄し、朱璃の心臓を左手の手刀で貫こうとした。指先には鋭く尖った金属の爪。
 そして、そんな人斬り燕よりさらに速く動いたアサヒの腕が代わりに爪を受け止め攻撃を防ぐ。肉に深く食い込んだそれは簡単には外れそうにない。アサヒが全力で締め付けているからだ。
 人斬り燕は動じなかった。今度はそう来ることを予想していたのだろう。すかさず右足でアサヒの腹を蹴り、彼が体勢を崩した隙を狙ってマーカスの足下にナイフを放つ。
「グッ!?
 一瞬遅れて反応し、殴り掛かろうとしていた彼の動きもまた止まった。今度は金属製のナイフ。さっきと同じ手では解除できない。
 朱璃は護衛の二人がやられるのと同時、左手の短機関銃で人斬り燕の胴を狙う。金属の爪から指を抜き、異様な反応速度で回避する人斬り燕ことカトリーヌ。

(無駄だ)

 彼女は南日本で育てられた精兵。幼少期から投薬で反応速度を上げ、さらには心を削る過酷な荒行を繰り返すことにより常人のそれを凌駕する五感まで身に着けた。目で相手の筋肉の動きを見極め、耳で銃の動作音を聴き取り、肌に感じる殺気で射線を予測することが可能。この近距離だろうと一対一なら当たらない。
「殿下!」
 この位置関係で撃てば朱璃達にも当たる。そう判断した兵士と調査官達が間合いを詰めようとするが、鈍足の彼等が接近して来る頃には全て終わっている。
 朱璃はもう一方の銃でマーカスの足下のナイフを破壊していた。そうくることもやはり予測済み。
「ヤロウ!」
 動けるようになった途端、攻撃を繰り出すマーカス。しかしスピードを重視したために中断されたモーションの続きをそのまま行っただけだ。当然、攻撃の軌道は見え見えだし体重も乗っていない。あっさり回避して朱璃の背後へ回り、右手の爪を首筋に当てる。

 完全に捉えた。
 後はこの細い首を斬り裂くだけ。

 だが光が走る。自分を包む青白い輝きとは別の銀色の軌跡。
(なんだと!?
 アサヒの拳が迫って来た。朱璃の首を切り裂くより速く、人の限界を超えたはずの反応速度をも上回る速さで。
(くっ!?
 どうにか躱す。ところがアサヒはさらに彼女の前へと回り込み、朱璃を背後に庇いつつ攻撃を繰り出す。
(これ、は──)
 動きそのものは素人。おかげで続く一撃もどうにか避けた。同時に振り返りかけていたマーカスの脇腹に蹴りを叩き込み、邪魔な彼を遠ざける。
「グホッ!?
「このっ!」
 さらに肉薄してくるアサヒ。たまらずカトリーヌは空中に逃げたが、全く引き離せない。前回と同じく緩急をつけ、急激な切り返しで反射を欺こうとしているのにぴったり喰らいついてくる。
 フェイントには引っかかっている。だが、リカバーが異常に速い。おまけにこの狭所でしっかりと障害物を避けながらこちらの動きについて来る。
(私以上の速さで動く人間を、初めて見た!)

 否、そうだった。
 目の前にいるのは人間ではない。
 人を超越した“渦巻く者(ボルテックス)”の、その能力を再現した記憶災害(ドラゴン)

(なるほど、流石だアサヒ! だがな!!
 カトリーヌは再び着地した。その瞬間、一気に身を沈めたかと思うと長椅子の下の僅かな隙間に滑り込む。
「なっ!?
 驚くアサヒを置き去りに、今度は参列者達の間を流れるような動きですり抜けて走った。流石にまだここまで繊細な動きはできまい。
「フッ!」
 唯一その動きを見極めることができた女王の鋭い突き。こちらもなかなかの腕前だ。全盛期ならやられていたかもしれない。けれどカトリーヌはその一撃を避けてさらに疾走し、再び朱璃に狙いを定める。
「朱璃ッ!」
 迂回して先回りするアサヒ。やはりとてつもないスピードである。速さの勝負ではもう勝てそうにない。
 だが、勝敗を決するのは速度だけではない。今からそれを見せてやる。
 次の瞬間、チャペルの中で風が吹き荒れた。物が飛び、埃が吹き付ける。その中で人々は両者の姿を見失った。いや、辛うじて人斬り燕は見えている。しかしそれすら一瞬前の残像でしかない。あまりにも速すぎて人間の動体視力では追いつけない。
 数秒後、どんな激しい攻防があったのか、ガンという音が鳴り響いた直後に両者が姿を現す。人斬り燕は空中に浮かび、壁際に追い詰められていた。その衣装はあちこち千切れ飛び、烏帽子も無くなっている。事前に染めておいた長い髪は乱れに乱れてしまっていた。まだ大きな怪我こそしていないものの劣勢であることは一目で見て取れる。
 アサヒは反対側の壁際で、やはり息を切らしていた。彼の服もボロボロになっているものの当人のダメージは全く無い。あれだけ何度も切り裂いてやったのに。
(まったく、屈辱的だ)
 カトリーヌは内心で呻く。自分の力にはそれなりの誇りを抱いていたのだが、それでもやはりまだ“竜”には届かないらしい。アサヒは単に何度か彼女に接触しただけ。攻撃でなく掠めただけなのだ。それでこのダメージ。相手に殺意があったらと思うとゾッとする。その場合、自分はいくつもの肉片と化していただろう。
 それでも、やはり──
 姿を現した彼女に向かって一斉に銃口を向ける兵士達。残った力を振り絞り、その中心に向かってナイフを投げ放つ。
「あっ!?
 狙いに気付いたアサヒは反射的に凶刃を追った。
 次の瞬間、彼の姿は女王の前にあった。女王はサーベルでナイフを叩き落とそうとしていたものの、間に合わず顔に突き刺さりそうだったそれを寸前で掴み取り、止めている。
 そんな彼を女王は叱責した。
「アサヒ殿、こっちではない!」
「あ──」
 そうだった、朱璃を優先的に守れと言われていた。でも頭上の人斬り燕はさらにこちらを狙って急降下して来る。彼にはそんな風に見えた。肌に突き刺さりそうな凄まじい殺意を感じる。
 なのに、その人斬り燕の姿が目の前でフッと消えた。
(え?)
(まだ甘いな、少年)
 これは彼女のとっておきだ。強烈な殺気を相手に叩き付け錯覚を引き起こす。実際には彼女はその時、再び朱璃に接近していた。最短最速で正面から攻撃を仕掛ける。
 アサヒの顔がこちらへ向いた。表情が絶望で歪んでいく。その全てが強化された感覚のせいでこの高速機動の最中でも知覚できる。

(──すまん)

 一言謝ってから腕を振り抜く。確かな手応え。今度こそ肉を切り裂き、自らの手で友人を殺めた。そう確信する。
 けれど違った。驚愕で仮面の下の目を見開く。彼女の指先の爪が切り裂いたのは朱璃の首ではなくアサヒの背中だった。
 次の瞬間、またしても突風が発生して彼女もその風圧に煽られる。
「なっ!?
 攻撃を終えるその瞬間まで、一瞬たりともアサヒからは目を離していなかった。なのにどうして?

 答えは単純だ。助けたい、その一心がアサヒの速度をさらに上げた。あの特訓の時のように超音速の移動を可能にさせた。
 たったそれだけの話。でも、彼女以外の全ての人間は衝撃波から守られている。アサヒの展開した障壁によって。魔素は時に、そんな奇跡すら可能にしてしまう。

 呆気に取られた彼女の視界に黒い拳が飛び込む。
「フンッ!!
「!」
 仮面を砕かれ吹き飛ぶカトリーヌ。
 マーカスに殴られた彼女は壁にぶち当たり、そのままそれを突き破って向こう側へ転落した。
 背中を切り裂かれたアサヒは、銀色の煙を上げながら腕の中の少女に訊ねる。
「朱璃、大丈夫か!?
「……うん」
 彼女は赤い顔で頷いた。時間にして一分程度の短くも激しい攻防。けれど実際彼女には傷一つ付いていない。
 アサヒは長く長く吐息を漏らし、
「よかった……本当に、よかった……無事で良かった」
 何度も繰り返し呟きながら、もう一度、強く花嫁を抱きしめた。



 突然響いた銃声に、その後の激闘の気配。いったい中で何が起きているのかと不安な顔で成り行きを見守っていた国民に対し、結婚式の最中にあの“人斬り燕”が現れ、そして倒されたという報が告げられた。長年自分達を苦しめてきた悪夢がついに潰えたと知った人々は歓喜し、チャペルは再び大きな歓声で包み込まれる。
 そんな大騒ぎの中、座って一息ついていたアサヒに女王が近付き、感謝の意を述べる。
「アサヒ殿、ありがとう。よくぞ我が国の未来を守ってくれました」
「いや、そんな」
 一国の王に頭を下げられ恐縮するアサヒ。むしろ、さっきは彼女の忠告に背いたせいで危うく朱璃を死なせてしまうところだった。申し訳なくてマトモに顔を見られない。
「すいません、その、ちゃんと言われてたのに」
「いえ、守っていただかなければ私も死んでいました。結果論とはいえ朱璃も無事だったことですし、そう落ち込む必要はありません。顔をお上げください、新たな英雄よ」
「英雄……?」
「身を呈して朱璃を庇い、人斬り燕の討伐に大きな貢献を果たしたことはすでに外にいる民にも伝わっています。これであなたは大手を振って外を歩ける存在になりました」
「え? いや、待って下さい。それって……」
 何かが引っかかる。まさか今回の一件は、そのために?
 立ち上がったアサヒの前に、しかし別の人物が割り込んで来る。
「見事だった少年。流石だな」
「あ、えと、どうも」
 剣照だ。さっきまで神木と共に現場検証の指揮を執っていたはずだが、一人離れてここへ来たらしい。
「よくぞ朱璃を守り抜いてくれた。礼を言おう。それと、これからは家族だな」
「あ、そうですね」
 そうか、朱璃と結婚するということは、この人や開明とも親族になるのだ。朱璃のことばかりに悩んでいて、そんな考えは全く頭に浮かんで来なかった。
 初対面の時の印象が嘘のように、にこやかな笑顔で右手を差し出す剣照。アサヒは全くの無警戒でその手を握り返す。

 途端──電流が走った。

「あ、ぐ、あああああああああああああああああああああああっ!?
 右腕が泡立つ。全身の血管が沸騰して血液中の魔素が──否、血液に擬態していたそれそのものが暴れ出す。
「えっ!?
「どうしたアサヒ!」
 小波と友之が異変に気付き、走り出そうとした。だが、そんな彼等に周囲の兵士達が銃口を突き付ける。
「大人しくしていてもらおう」
「な、なんだアンタら。いきなりどういうことだよ!?
「いきなりではない。我々は、この日をずっと待っていた」
「そういうことだ」
 苦しむアサヒを見下ろしながらほくそ笑む剣照。その右の袖から何かが落ちる。
 女王は即座にそれが何かを理解した。
「……スタンガンか」
 高圧電流は魔素に汚染されたこの世界においては容易に人を殺せる猛毒だ。それどころか記憶災害を引き起こし、周囲の人間すら巻き込みかねない禁忌の力。ましてや全身が魔素のアサヒに対して用いるなど狂気の沙汰ですらある。
「ううッ、ぐ、ギィ……!!
 のたうち回る少年の体内では今、膨大な量の魔素が何かを“再現”しようとして暴れている。それがまだ起こっていないのは、きっと彼が必死で抑えてくれているからだ。周りの人間を巻き込まないために。
 剣照は、この少年の優しさに付け込んで最大の脅威である彼を瞬時に無力化した。
 卑劣なやり口だ。顔をしかめた女王の方へ振り返る彼女の甥。
 その瞳に、今までずっと隠して来た野心の炎が灯る。
「そういうことですよ、叔母上。これでようやく私の悲願が達成される」
「閣下、捕らえました」
「よくやった」
 部下達を労いながら振り返った彼の視線の先には、人斬り燕の遺体を検分するため壁の向こうへ行っていた朱璃とマーカスの拘束された姿があった。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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