十三章・信雷(2)

文字数 4,782文字

友之(ともゆき)、カートリッジを交換しろ! 小波(こなみ)のところにも持って行ってやれ!」
 そう叫んで二本の筒を投げるマーカス。DA一〇二の動力源である人工高密度魔素結晶を収めた物だ。
『ありがとうございます!』
 受け取って、素早く背面腰部に取りつけられたそれを交換する。まだ戦闘開始から一五分程度だというのに、古い方のカートリッジは中の“心臓”が消えかけていた。実戦では予想以上に消耗が激しい。
 小波もすでに限界のはず。離れた位置で戦っている彼女に届けようと、魔素を噴出して跳躍する友之。すると一瞬前まで彼がいた場所を、獰猛な変異種の振り下ろした鋭い爪が切り裂く。その先端は術士の一人に致命傷を負わせた。
「あぐっ!?
『あ、クソッ!』
 残って、あれを倒してから移動すべきだった。深手を負った術士は、それでも歯を食い縛りながら目の前の敵を凍結させ、長刀の柄で打ち砕く。
 今さら後悔しても遅い。友之は激戦が続く戦場で、怪物達と仲間達の攻防の間隙を潜り抜けながら小波の姿を探す。
『いた!』
 やがて斬花(きりか)と共に戦う彼女を見つけた時、彼の意識は一瞬、ここが戦場だという事実を忘れてしまった。
 その油断が命取りになった。
 突然、建物を砕いて飛び出して来た鮫型の竜に食いつかれる。
『うぐっ!?
 瞬時に装甲がひしゃげ、合金製の外骨格も折れた。水圧シリンダーの中の赤黒い液体が血飛沫の如く周囲に飛び散る。
「友之!?
 彼の窮地に気付いた小波は助けに走ろうとする。
 しかし、そこでちょうど“残量”が尽きた。
『あっ!?
 カートリッジ内の魔素を使い果たしたことで、彼女の身に着けているアシストスーツは逆に拘束具と化してしまった。
「小波さん!」
 彼女に襲い掛かろうとした変異種を斬り伏せる斬花。だが、好機と見て取った敵は一斉に二人へ群がる。剣一本では間に合わないと悟った少女は苦し紛れに障壁を展開し自分と小波を守った。その障壁にもすぐに亀裂が入り始める。

「オオッ!」

 どこからか調達した太刀で友之を咥えた竜に斬りつけるカトリーヌ。彼女の全身全霊の一撃は巨体を真っ二つにした。噛力が緩み、その瞬間に魔素を噴出して無理矢理口をこじ開け脱出する友之。
 九死に一生を脱した彼は、しかし選択を迫られた。
「ぐッ!?
「カトリーヌさん!」
 イソギンチャクのような不気味な生物の触手が彼女を殴り、地面に叩きつけた。さらに上下に分かたれた鮫型の竜も頭部の方から再生を始めている。

 先に彼女を助けるか、それとも小波達か?
 どちらも絶望的な状況。
 迷った彼を、彼女は叱咤する。

「行け!」
「!」
「どちらもなんて欲張るな! お前にとって、一番大切な方を選べ!」
 カトリーヌがそう叫んだ時、友之はもう走り出していた。
 涙を堪え、小波達の方へと。
(あの時──)
 屋上で、気持ちを打ち明けていれば良かった。
 そしたらカトリーヌを先に助けようと思えたかもしれない。
 けれど彼は、言われた通り、自分の気持ちを優先した。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
 MW五〇四を連射して変異種達を蹴散らす。こちらに向かって来た敵を殴り、蹴飛ばし、噛みつかれても怯まずに突進して、手に持っていたカートリッジを投げつけた。
「これは!?
 受け取った斬花が戸惑う。
「交換してやってくれ! それで動ける!」
「あっ」
 以前、国会議員達が訪問した時の門司の説明を思い出す彼女。障壁を維持したまま小波のDA一〇二に取りつけられた同じ筒を外し、新しい方に取り替える。
「ありがとう!」
 動けるようになった小波は障壁から飛び出し、残りの敵を蹴散らした。友之と合流して斬花も交え、復活した鮫型の竜に戦いを挑む。

「……それでいい」

 カトリーヌは満足気に笑った。烈花(れっか)も風花と力を合わせ、風の結界に炎を纏わせ母様を守っている。他の皆も、まだ闘志は失っていない。多くの姉妹が命を落としたが、救護所に運び込まれた者は門司が助けてくれるだろう。北日本から来た仲間達も頼もしい。朱璃というリーダーがおらずとも、その代わりを務めた自分がいなくなってもまだ大谷がいる。彼女が彼等を導いてくれる。
 だから静かに瞼を閉じた。もう、指一本動かす力も残っていない。
(頑張れよ……)
 思い浮かべたのは、赤い髪の少女と、その伴侶の姿。
 そして──

 両手を広げて「頑張ったね」と言ってくれる、実の姉の笑顔だった。



「な、なんだ、これ……」
 ようやく決着がついた。そう思った直後、異変は始まった。
 力を合わせ爆発から身を守ったアサヒ達は、再び水が押し寄せてくる前に素早く上空へ逃れたのだ。
 すると、そんな彼と朱璃の視線の先で海が激しく渦巻き始める。そこからは、先程までよりもさらに禍々しい気配が噴き上がって来るのを感じた。
【奴ら、新しい“核”を決めようとしているぞ】
「なっ!?
 ライオの言葉に愕然とするアサヒ。一つ“核”を破壊しても、また別の魂が中枢になり、あの怪異を維持してしまうというのか?
 なら、いったいあと何回、同じことを繰り返したらいい? 数千、数万、下手をしたら、その何倍も──

 蒼黒は海そのもの。
 月華のその言葉に、改めて恐怖を感じるアサヒ。
 だが朱璃は違った。彼女は一人、冷静に対抗策を考えていた。
 そして、その頭脳が思いもしなかった解答を導き出す。

「シルバーホーン」
「なんだ?」
 アサヒの口を借りて応じるライオ。瞳が金色に変化した彼を、夫の半身と認識した少女は穏やかな表情のまま問いかける。
「アンタ、角から放出する電流の強弱を調整できるんでしょ?」
 福島でのアサヒとの戦い。そして秋田の地下洞窟での戦い。その二つの話を聞いて朱璃は知っていた。シルバーホーンという呼び名の由来になった放電能力を備える銀色の鼻角。そこから放出する雷の電圧を、彼が自在に変化させられるという事実を。
「何をする気だ?」
「あの海に突っ込んで放出するのよ、アンタの雷を。アタシ達、人間の神経を流れる電気信号の代わりに」

 馬鹿な、そんなことをして何になる?
 訝った彼に少女は答えた。

「あの海には膨大な量の魔素が溶け込んでいて、たくさんの人間の意識も保存されている。福島で偽のアンタの中に閉じ込められていた人達がアサヒを助けてくれたように、あれの中にも味方は残っているはずだわ。彼等に呼びかけるのよ」
「……面白い」

 何が面白いかと言えば、この少女の変化がだ。
 以前なら絶対、そんな不確実な作戦は提案しなかっただろう。
 他人の善意に自分達の運命をゆだねるような真似は。
 それを、受け入れたいと思う自分もいた。
 その変化もまた、愉悦である。

「わかった、行くぞ」
「うん、行こう」
【三人で】
 アサヒも頷いた。朱璃の手の中で、月華から借りたホウキが“四人だ”とでも主張するように輝きを放つ。
 まるで、それを脅威に感じたかのように海面の一部が盛り上がり、巨大な人の頭を作り出した。

『お、おお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!

 続けて無数の腕が生み出され迫って来る。だがもう一歩も引くものか。
 ライオに体を返してもらったアサヒは、左手で朱璃を抱く。触れたところから伝わって来る温もりが彼の中の恐怖を打ち払った。

「帰りたいよな」

 あの警官も、自分もそうだった。
 あなた達もそうなんだろう。
 だったら戦う必要なんて無い。
 大きく息を吸い込み、呼びかける。

「来い!」

 次の瞬間、二人を無数の“腕”が掴んだ。目一杯握り締め、潰して自分達の一部として取り込もうとする。
 だが、その手の中で小さな輝きが生じた。
 アサヒの額から角が生えている。その角の先端から出力を押さえた雷が放たれる。
 人間の脳内に流れる電気信号と同じ、儚い電圧の、弱々しい輝き。
 それは魔素を介し、その中に保存されてしまった死者達の魂へ語りかけた。帰る場所を見つけられず、彷徨い続けた魂達に。

 ──せや、帰らな。
 ──見て、お父ちゃん! うちが見えた!
 ──なんで今まで、わからなかったんだろうな。こんなに近くにあったのに。

 死者達の中には目指していたどこかを見つけ、歩き出す者達がいた。朱璃が同じことをしているからだ。思い返す、父と母がいた日々の記憶を。マーカスと共に過ごした日々を。アサヒと出会ってからの毎日を。
 彼女が故郷に思いを馳せ、その思念をアサヒが受け取り、シルバーホーンが電流に変換して放出する。朱璃の望郷の念を受け取った魔素は、死者達の記憶の中にある、それぞれの最も愛おしい場所の記憶を蘇らせる。

 ──なんだか長いこと、迷っとったな。
 ──はよ帰ろう、子供らが待っとる。
 ──オカン! 帰ったで!

 手の平の中で生じた光は、腕を伝って頭の方へ移動していった。それは帰るべき場所を見つけた魂達の歩み。救いを得た彼等の姿に他の魂も追従する。
 腕も頭も崩れ去った。非業の死を遂げた死者達の怨念が霧散したようだ。
 やがて海水の中から、次々に青い光の球が生じた。ウミホタルのようなその淡い輝きは次々に数を増し、周囲の海も明るく照らし出す。

【……どうやら、成功したようだな】
「うん」
 ライオの言葉に頷くアサヒ。視線を持ち上げ、夜空に向ける。
 無数の光は海面を飛び出し、その星空へ吸い込まれて行った。よく死んだ人の魂は星になるなんて言うが、ひょっとしたら同じような光景を見たことのある誰かが最初に言った喩えだったのかもしれない。

【ありがとう】
「!」
 聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、あの警官が立っていた。傍らに、女性が一人と、男の子と女の子、二人の子供が寄り添っている。
【やっと、会えました】
 そう言って頭を下げた彼と、彼の家族も、また光の球になって天へ昇った。

 すると朱璃が、何故か強くアサヒの腕を掴む。

「朱璃?」
「行かないでよ。アンタまで、成仏する必要なんか無いからね」
「……行かないよ」
 こんなに可愛い人を置いて行ったりするものか。安心させたかったアサヒは、これまで秘密にしていた話を打ち明ける。
「福島にいた時、カトリーヌさんに連れられて、夜中まで働いている君を見た」
「……で?」
「次の日、それでも君は俺より早く起きていたよね。いつだってそうだった。絶対に先に起きて待ってるんだ。だからさ」
「だから……?」
「だから、好きになった。君が俺に酷いことをするのも、無茶をするのも、みんな朱璃が一生懸命なだけだってわかったから。頑張る君の姿に、少しずつ惹かれていったんだ」

 本当に些細なきっかけだ。
 でも、人が人を好きになる理由なんて、そんなものだと思う。

「君が大好きだ。君を守りたい。君に守って欲しい。だから朱璃、今度こそ本当に誓うよ。俺は絶対、君を置いて行ったりしない」

 天へ昇って行く無数の光に囲まれつつ、アサヒは誓う。いつかの、中断された結婚式の続きをここで始めようと思った。
 朱璃はしばし呆然としていたが、やがて目に涙を浮かべて頷く。

「だったら、信じる」

 ──かつて父に置き去りされた。母に捨てられ、拾ってくれたマーカスも心を開いてはくれなかった。
 今、本当に理解出来た。それは自分が心を閉ざしていたからなのだと。
 誰にも本心を見せず、隠していた。誰一人大切な人などいないと強がり、再び失う恐怖から目を背けた。
 そんな日々が、たった今、終わりを迎えた。

 少年の方から口付ける。
 朱璃もそれを素直に受け入れる。

 見守っているのは死者達の魂と、一匹の竜と、一本のホウキだけ。なのに二人の耳には万雷の拍手と祝福の声が聴こえる。
 ありがとう。今まで出会った全てのものに感謝しつつ、朱璃はアサヒの首に腕を回して、より近く彼の体を抱き寄せた。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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