二章・逢引(2)

文字数 4,529文字

 大谷(おおたに) 大河(たいが)は疑っている。この少年は本当に王族なのだろうかと。突然現れ南日本からの亡命者として受け入れられた存在。しかし、会話の端々にその情報を偽りだと思わせる齟齬があった。
 無論、忠誠を誓った女王が彼を王族の一員として扱えと仰せられたのだから命令には従う。けれど、もしも彼が北日本に仇なす存在だったとしたなら?
 自分には、それを見極める義務がある。
「じゃあ、その……すいません」
「お気になさらず」
 少年は遠慮がちに左腕で自分を抱き寄せた。反対の右腕では王太女を抱える。どうやら本気で人間二人を抱えたまま跳ぶつもりのようだ。
(可能なの?)
 この少年の持つ特異な力については明らかにされている。伝説的な英雄だった初代王と同じ能力。もし本当なら畏怖と敬意の対象になるが、この目で見るまでは信じられない。
(以前の実験の時は、ちょうど非番で居合わせられなかったものね)
 彼女もずっとアサヒに付いているわけではない。彼が例の装置を吹き飛ばした実験の日には、ちょうど同僚と交代して休んでいた。それ以外にも実験に同席する機会はあったものの、今のところこの少年を王族の一員だと確信できるような場面には立ち会えていない。たしかに常識外れの力を持ってはいるようなのだが、南日本の術士達はこちらの魔法とは体系が異なる不可思議な術を操るという。それを用いた高度な欺瞞だという可能性も拭い切れない。
 もっとも、それなりに長く見て来たため、すでに疑いは晴れつつある。おそらくこの子は本当に良い子なのだろう。だが、だからこそ確信が欲しい。彼を信じてやるために。
(それにしても、まだ一七歳らしいのに大きい子)
 女にしてはかなり上背のある自分より、さらに頭一つ分ほど背が高い。顔立ちも整っているし、これで気弱な性格でなかったら申し分無し。もちろん彼は王太女殿下の許嫁なのだが、自分や小畑にはもう一つ別の使命がある。それを遂行するにあたり彼という人間を深く知ることは重要だ。
 さて、それでここからどうする? 動向を窺っていた大谷の周囲で次の瞬間、予想外のことが起こった。

 周囲の魔素が吸い寄せられ、渦を形成したのだ。

「なっ!?
 初めて冷静さを失い、驚愕する彼女。
 これはまさに伝説の──
「行きます」
 顔を持ち上げると、いつもはおどおどしている少年が決然とした眼差しで上を見据えていた。彼女と王太女を抱く腕に力が入る。とても力強い感触。
 思わず身を固くした瞬間、王太女が話しかけてきた。
「手を出しなさい」
「え?」
「いいから、この手を掴んで」
 戸惑いつつも言われるまま手を差し出す。それを朱璃が掴んだ瞬間、大谷の体内で何かが蠢いた。
(魔素を使った水分操作!?
 不快感に呻く間も無く、吸い寄せられた魔素の一部が少年の肉体へ取り込まれ爆発的な力を彼に与えた。
 直後、床を蹴って跳躍する彼。本当に爆発したかのような轟音。蜘蛛の巣だらけの吹き抜けに躊躇無く飛び込み、回転する魔素の渦で邪魔なそれらを吹き飛ばしつつ着地。間髪入れずもう一度、今度は垂直方向へ跳ぶ。
 再びの爆音。そして強烈な衝撃。
「ッ!?
 凄まじいGが大谷を襲った。視界がブレ、上昇。一瞬の出来事だったはずなのに酷く長く感じる。そしてようやく止まりかけたところで三度目の跳躍。
(空中で!?
 意識が持っていかれそうだ。遠ざかる視界の彼方に光が映る。多分、魔素障壁(シールド)。あれを蹴って跳んだのだろう。軍でも高低差のある地形を踏破する手段の一つとして障壁を足場に用いた移動法を教わる。でもなんだこの跳躍力は? 完全に人の域から逸脱している。
 そして四度目の跳躍。ただし今度は横向きに短い距離を軽く跳んだだけだった。最上階のフェンスを越え、廊下に着地するアサヒ。そこでようやく解放された大谷はたまらず膝をつく。胸の奥に熱いものが込み上げてきた。
「うぷっ……」
 強烈な眩暈と嘔吐感。かき回された胃がムカついている。
「あ、あれ? 大丈夫ですか?」
 心配そうにこちらの顔を覗き込む少年。本人は平然としていた。信じられない。あれだけの負荷で全く堪えていないとでも?
「だ、大丈夫です」
 王室護衛隊隊士としての意地だ。大谷は気力を振り絞って立ち上がり、強がってみせる。それから自分と同じように青い顔色で蹲っている王太女を見つめ頭を下げた。
「殿下、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「こんなことで死なれちゃ……寝覚めが悪いからね……」
 さっき彼女が手を握ってくれたのは、体内の水分を魔素によって操り高加速で受ける負荷を軽減するためだったのだ。本で読んだことがある。旧時代のロケットやスペースシャトルで宇宙へ行こうとする時、乗員は進行方向である上に向かって正対するよう仰向けに固定されていたと。人体は上下より前後左右からの圧に対して強いことが理由だ。
 逆に頭頂から足先にかけて垂直にかかるGは血液が押し下げられ、脳に届かなくなって容易に失神してしまう。場合によってはそのまま永眠もありうるという。
 しばし後、吐き気の治まった王太女が立ち上がりながらアサヒを叱る。
「アンタね、人を抱えてる時は、もうちょっとゆっくり上がりなさい。いい? そもそも人間の体ってのは──」
「そういうことは先に行ってくれよ!?
 高加速時の危険について説明された少年は、今さらながらに慌て始めた。
 なるほど、これは監視対象になるわけだ。強大で非常識な力を持っていながら自身の危険性を正しく認識できていない。
(彼が本当に初代王の血を引く人間なのかは、まだわからないけれど)
 少なくとも、人類が敵に回していい相手ではない。
 それだけは明確に理解出来た。



「ほら、こっから見なさい」
 そう言って振り返った朱璃の背後にはガラスの失われた大窓があった。そして、その先に彼女達が育った街の全景が広がっている。この部分から風が吹き込み、蜘蛛達を内部へ侵入させてしまったのだろう。
 他の部分の、まだ残っている窓ガラスは長年放置されて曇っていた。風が抜ける場所へ近付き、言われた通り地下都市全体を見渡すアサヒ。相変わらずガンガンと硬い音が街中で鳴り響いている。しかしその喧騒を忘れるほどの光景が目の前にあった。
「これが……秋田」
 自分の故郷ではないのだが、それでもやはり熱いものが込み上げてくる。地上から七〇〇m下の地中に広がる円筒形の空間。反対側の壁までは数kmの距離がある。新宿の地下都市に比べれば少し小さいが、それでも十分すぎる広さだ。地上から天井までは一〇〇mほど。かつての自分達がこんな巨大な建造物を造った事実を未だに信じられない。
 朱璃のさっきの言葉通り、北の外周部は耕作に使われているようだ。広大な水田や畑が見える。電力が使えなくなったことで旧時代にあった“最小限のスペースで最大限の生産効率”を誇る農業プラントは停止してしまった。代わりに余計な建物をどかし、土を耕し、種を撒き、少しずつ時間をかけてあそこまで田畑を拡張していったのだろう。やはり人間は逞しい。
 一部では牧草を繁殖させ動物を放し飼いにしている。周囲を取り巻く壁や頭上の天井が無ければ、とても地下だとは思えない牧歌的な風景。
 逆に中心部には多くの建物が密集していた。天井を支える柱を除けば、以前行った王城、つまり元・県庁が一番大きい。
「ここからなら全体を同時に見渡せるでしょ。アンタを人の多い場所まで連れて行くのは流石に問題だからね。今はとりあえずこれで我慢しなさい」
 なるほど、それでここへ案内してくれたのか。納得しつつ改めて街並みを見渡す。
 天井は部分的に暗くなっている場所もあるが、おおむね全体的に明るい。光ファイバーと鏡を使った採光システムが機能している証。二五〇年経過してもまだごく一部の不良で済んでいるのは、人々がこまめにメンテナンスしてやっているおかげだろう。
「はは……すごいな……」
 顔を綻ばせ、街を眺め続けるアサヒ。
 だが、やがてある事実に気が付き、一転して表情を曇らせた。
「この音……」
 今も方々から鳴り響いている硬い槌の音。その正体がようやくわかった。
「補修工事か。向こうでも、あっちでも、すぐそこでもやってる。そうか、やっぱり時間が経ってるから……」
「そういうことよ、よく気付いたわね」
 生徒を褒める教師の口調で頷く朱璃。そりゃ気付くさとアサヒは小声で返す。大谷には聞かれたくない。
 彼は元々、ここと同型の地下都市を建設した作業員の一人だ。だから、あちこちで補修工事が行われている様子を見てピンと来た。この街はもう限界に近いのだと。
 環境によってある程度変化するため一概には言えないが、コンクリートの寿命は五〇年から一〇〇年程だと言われている。この都市にはその寿命をさらに大幅に伸ばしてくれる補修用ナノマシンが散布されているはずだが、それだって永久に効果が続くわけではない。実際、地上を旅した時、同様の施工がなされたはずの建物も大半はすでに消え去っていた。風雨に晒されている分、地下の建造物より劣化が早かったのだろう。
 オリジナルの伊東 旭が中学校の授業で受けた説明によると、日本の地下都市は最大で一五〇年の耐用年数を想定した設計だったらしい。今は、そこからさらに一〇〇年も超過している。
「はっきり言って、この街に残された時間はそれほど長くないわ。これまでずっとだましだましで保たせては来たけれど、一〇年後か二〇年後、あるいはもっと早い時期に限界を迎えてしまう。だからアタシの研究が必要なのよ」
「朱璃の……」
 以前、彼女のいない場所で見せられた設計図のことを思い出す。あれらの開発が今どこまで進んでいるのか知らないが、なるほど、ここに住めなくなるのだとしたら当然必要になるはず。彼女が研究しているのは“竜を打倒する武器”なのだから。
「地上へ行くんだね」
「そうよ、それしか道はないもの」
 安全な地下を捨てて地上へ戻る。そのための方法を見つけ出す。きっと、それは朱璃にしか叶えられない願い。だから彼女が王太女に選ばれたのだと、ようやくアサヒは本当の意味で理解できた。
「そっか……なら頑張らないとね。俺もできる限り協力するからさ」
「何言ってんの、当たり前でしょ? それがアンタとアタシ達の契約じゃない」
「そうだった。でも、できれば福島の時みたいなことはやめてくれよ」
「は? 何の話?」
 首を傾げる朱璃。覚えていないのか、すっとぼけているのか。アサヒはあえてあの苦い思い出を振り返る。
「持久力のテストとか言って、俺を延々走らせ続けたじゃないか。丸一日走り通しなんて二度とやりたくないよ」
「ああ。でもアンタ、結局疲れなかったじゃない」
「精神的にキツイんだよ」
 この体になって以来、アサヒは肉体的に疲労することがない。どうやら“竜の心臓”や周囲の大気から魔素の供給を受け続ける限り、スタミナが底無しになるようだ。
 とはいえ、
「疲れないってのも良いことばかりじゃないよ。あの時も、いつまで経っても雑念が消えないっていうか、長時間走ってると普通はボンヤリしてくるだろ? それが無いからとにかく気分が滅入って……ん?」
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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