その後

文字数 5,422文字

 いらっしゃいませ、こちらへいらしたということは、本編を全て読破されたのでしょうか? そうでなくとも、読み方は人それぞれ。私は歓迎いたします。ようこそ「人竜千季」最後の一幕へ。
 蛇足と取られなければ嬉しいのですが、秋谷さんが本編のラストにおいて「長々と説明を入れたくない」と考えたことから語られること無く終わってしまった、アサヒ様と朱璃様の“戦友”のその後、そして歴史について、私の口から少しばかり語らせていただきたく思います。


・日本
 対ドロシー戦から一四年後、朱璃様は三〇歳になるのとほぼ同時に戴冠し、女王の座に就きました。
 ただし、彼女は北日本王国の最後の女王ともなったのです。
 それからさらに二八年後、五八歳の時、北と南の両国間で統合を望む声が高まったことから、日本国の天皇・月灯様と長年協議した末に出した結論を発表。北の王家の血と天皇家、双方の血を引く開明様と月灯様の間の長子・太陽殿下を初代とし、両国を統合した新国家・日本皇国の樹立を宣言。すぐに月灯様と共に長年受け継いできた権威を太陽殿下へと移譲しました。

・開明様と月灯様
 朱璃様達が東京から戻った時、すでに二人は結婚を決めていました。ただ、月灯様の年齢がまだ幼かったこともあり、籍を入れたのは二年後のことです。
 幸いにも月華様が三人の御子を産んだ時のようなことは起こらず、長子・太陽殿下をはじめ七人の御子様は全員すくすくと成長。二人は霊術に傾倒し、朱璃様を師として偉大な術士になったようです。また別の御子様は、やはり朱璃様に学んで疑似魔法学の権威になりました。
 お二人は晩年まで、ずっと仲睦まじく幸せに暮らしました。ただ、朱璃様に対する申し訳なさは常に感じておられたのだとか。

・緋意子様
 刑期を勤め上げた後、しばらくはすることが決まらず暇を持て余していましたが、やがて朱璃様に新しい伴侶を見つけてあげなければと考えるようになり、お見合い相手を探すことに積極的に。
 ただ、結果的には激怒されてしまい、再び親子の縁を切られてしまいそうになったため、朱璃様の再婚に関しては諦めました。代わりに縁談を取り持つことに喜びを見出すようになり、役所の結婚支援課で働くように。いつか人竜日記で書くつもりの設定だったのですが、先に明かしておきましょう。北日本王国では八割がお見合い結婚です。
 それなのに親子二代で恋愛結婚したあたり、星海家は意外とロマンチストなのかもしれません。

・マーカス様
 特にそんなつもりは無かったのですが、二人とも朱璃様の親として振る舞うものですから、気が付けば緋意子様と熟年夫婦のような関係に。ですが、良司様に悪いので最後まで籍は入れませんでした。
 朱璃様を置き去りにしたアサヒ様に対しては生涯怒りを燃やし続けたものの、同時に、強く帰還を願い続けた一人でもありました。七〇歳になるまで現場に居続け、真司郎様の最年長記録を更新しています。

・友之様と小波様
 お二人とも実はドロシー戦で重傷を負っており、後遺症により特異災害調査官は引退せざるをえなくなりました。
 ただ、友之様はかねてより著作の人気が高く“芸術家”の一人として認められたことで副業の小説家が本業に。小波様は、そんな彼を支える専業主婦としてしばらく働いていました。しかし、その友之様からの薦めで数年後に対策局へ復帰。後進の指導に当たる教官の職を得ました。努力家の彼女は教えるのが上手く、数多くの優秀な調査官を送り出したそうです。
 友之様がアサヒ様と朱璃様をモデルにして書いた“ほぼ”ノンフィクション小説「人と竜」はベストセラーになり、後に小学校の教科書にも一部が掲載されたとか。

・門司様
 妹さん達に巌倉様の死を伝えました。最後まで仲間を守って散ったと語ると、妹さんは「あの人らしい」と苦笑したそうです。
 その後も対策局の専従医師として活動。三年後、別の班に転属になった直後、記憶災害に巻き込まれて死亡しましたが、死の寸前まで他の仲間を助けるために全力を尽くし、四人中三人が命を取り留めました。
 生き残った中の一人は新人の専従医師で、彼女から教わったことを、松葉タバコを吸う度に思い出していたと言います。

・大谷様
 大谷様はドロシーとの戦いの後も護衛隊士として働き続けました。その後、上官の弟君と結婚して小畑家の一員に。実は小畑家は四騎士の一人の子孫で代々の護衛隊長を排出することを使命にしています。彼女は“騎士”に選ばれた時点で花嫁の第一候補にもなっていたのです。
 幸い、婚約者はとても良い方だったので結婚後の生活にも大きな不満はありませんでした。出産後は息子を鍛えることに熱心に。
 なお、この家は次代に隊長の座を引き継ぐ際、家名まで変えます。数代先、時代の流れで隊長を世襲制ではなくそうと決まった時の隊長の姓は駿河。後にアサヒ様を出迎えた彼女の、おじいさまに当たる人物でした。

・小畑様
 大谷様が嫁いできた後も、次の隊長となる彼女の息子が育つまでの間、隊長兼女王付きのメイドを勤め上げ、隊長の座を退いた後は生涯メイドとして働き続けたと言います。朱璃様の心をお傍で支え続けた一人でした。
 結婚はなさいませんでしたが、実はドロシー戦で亡くなられた隊士達の子のため、長く援助を続けておられたそうです。

・焔様
 退位して朱璃様の戴冠を見届けてから三七年後、老衰で眠るように息を引き取りました。
 その際、彼女が年老いた朱璃様に「お前に彼を諦めさせられなかったことが唯一の心残り。まだまだ待ち続けるつもりなら、私のように老いさらばえて死ぬ前に、より厳しい道を歩む覚悟を決め、この先の長い戦いへ臨みなさい」と言い残し、それが“竜”になる決意のキッカケとなったそうです。

・風花様
 人類の地上再進出にあたり、かつての月華様のように結界で都市を守るお役目の“鏡巫女”が誕生しました。都市中心部に設置された結界発生装置に一日三時間篭もって霊力を充填する仕事です。かなり強い霊力の持ち主しかなれず、初代は彼女と朱璃様が務められました。
 そのため大勢の人に愛され、成長してからは尊敬されるようになりましたが、本人は余暇で動物のお世話をするのが一番楽しかったそうです。アサヒ様が帰還直後の寄り道で見つけた小都市は実は福島。あの街を守る鏡巫女は、風花様の子孫にあたる人物です。

・烈花様
 ドロシー戦で右目を失い、月華様から術士をやめてもいいと言われた彼女は、別の夢を追いかけ始めました。許可を貰って北日本へ渡り、特異災害対策局に入局したのです。
 術士として鍛え上げられていただけあり、片目のハンデをものともせず採用試験に合格した彼女は、初めて配属された班で命の恩人の娘とバディを組むという運命的な出会いを果たします。
 後、彼女達はコンビでの竜討伐数歴代一位の記録を打ち立て、未だそれは誰にも破られていません。

・斬花様
 ライバルの烈花様が北へ渡ってしまった後も術士隊に残り、都市防衛に尽力。彼女の開発した刃状障壁の術は対竜戦闘における効果の高さから使い手が増加。後の日本皇国では上級術士として認められるための必須技能になりました。
 刃状障壁を開発した功績は後にさらに高く評価され、北日本と南日本の両方から勲章を授与。さらに月華様が“とある目的”のため留守にすることが多くなり、術士隊の束ね役を別の人物に譲った時、彼女はその補佐として選ばれました。
 彼女が桜花様から引き継いだ名刀・夢桜はアサヒ様が帰還された時代、最も偉大な術士一〇人の一人に選ばれた彼女の遺品として、皇都の博物館に展示されています。

・カトリーヌ様
 生涯現役。生涯最強。四二歳の時に術士隊の長の座を押し付けられ、養母への恨み節を吐き続けながら三人の子の子育てをしました。結婚は三三の時、彼女を一途に想い続けた“弟”からの圧に負けた形。この結婚を機に、霊力のある子供を強制的に養子にするシステムも廃止にしています。
 八〇を過ぎてもかくしゃくとしており、彼女に鍛え上げられた弟子達も誰一人勝てなかったそうです。三年後、竜との戦いの最中に亡くなりましたが、死因を調べたら老衰でした。
 朱璃様とは最後まで友人。アサヒ様が帰って来たら一発ぶん殴ってやると言い続け、その望みは彼女の子孫にあたる女性が叶えてくれました。アサヒ様曰く「あの子、本当に人間!?」だそうです。

・水無瀬様(2021/10/28加筆)
 この方の後日談を忘れておりました、申し訳ございません。
 完結編にて初登場となった海軍の偉い人こと水無瀬艦長。あの後、心身共に傷付き疲弊していた朱璃様達生存者を乗せ、無事に秋田まで連れ帰りました。その最中に大型の変異種や竜に遭遇していますが、魔弾ならぬ魔砲によって見事に撃破しています。
 その後、竜すら撃破できる火力を手に入れたことで海軍の行動範囲は多少広がりました。けれど深海にはさらに想像を絶する怪物が潜んでおり、大陸への渡航を試みた遠征艦隊は手痛い教訓を与えられて逃げ帰ることに。アサヒ様が帰還なさったあの時代でも外洋には出られていません。
 艦長自身は幸いにも生き残り、生還後に負傷が原因で引退。その後、成長した息子さんが後任に。
 また、東京遠征後、魔砲を撃つため海軍艦には三名以上の霊力保有者が乗艦することが義務付けられたのですが、艦長の息子さんはあの東京決戦時に乗艦していた術士の少女の一人と結婚なさいました。

・竜機兵(2021/10/28加筆)
 もう一つ加筆を。終章で登場したあの巨人達はDAシリーズが発展した結果、生み出された兵器です。というか、竜の大半は人間より遥かに大きいので、朱璃様は最初から最終的に巨大兵器にすることを目標としていました。その方が大型の敵に対抗しやすく、なおかつ搭乗者の安全性も高まるからです。
 ちなみに作中では人型しか登場しませんでしたが、実はもっと様々な形態があり、用途によって使い分けられています。そもそも人竜千季のストーリーが生まれる以前、先に後日談となる未来の物語が考えられており、そちらはいわゆる“ロボット物”だったのです。巨大ロボットのパイロット達が力を合わせ、魔素によって再現される様々な記憶災害に立ち向かうというコンセプトで、秋谷さんが想定していたのはファンタジー版「ダイ・ガード」でした。
 そのため戦闘用の竜機一つを取っても人型だけでなく、人体の構造を模した機体では不可能な動きを可能とする球体に無数の脚を取り付けたような多脚戦車タイプや四足歩行型、鳥型、昆虫型、水中戦特化型など様々あります。これら戦闘のため作られた人が搭乗するタイプの兵器をまとめて竜機兵と呼びます。戦闘用でないものは竜機と、兵を抜いて呼ぶのです。
 そう、戦闘に限らず災害現場での救助用竜機、工事現場で使われる重作業用竜機なども存在しており、アサヒ様が帰還なされた時代では一般的に広く使用されています。また、小回りが利き、大型機械では対応し辛い細かい作業の行えるパワーアシストスーツも引き続き活用され続けております。
 はい? ええ、はい……わかりました。ええと、秋谷さんから補足が。駿河様達の乗っている竜機兵が人の形をしているのは、DAシリーズと同じように疑似魔法を使えるからだそうです。作中で何度か説明されたように、疑似魔法はイメージをより鮮明に思い描くことで効果を増します。巨大な機体を動かすエネルギーも魔素の操作というシンプルな疑似魔法によって行われているため、人体を模した機体の方が力強く、かつ素早く動きやすい。そして疑似魔法を使った攻撃や防御も強力になるという利点があります。
 ただ、逆に言えば動物の体の動きを具体的かつ鮮明にイメージできるような特異な才能があれば、人の形をしていない機体で、より高い戦闘力を発揮することも可能だとのことです。
 アサヒ様のお迎えの時に駿河様と一緒に出て来たのは、竜王・竜后の身辺警護と儀礼的な仕事を任されている儀仗隊で、そのため全員が人型に乗っているという設定もあるそうです。



・そして
 アサヒ様と朱璃様は再会後、仲睦まじく暮らしました。二人に与えられた竜王・竜后の称号は宗教的な意味合いが強い敬称で、国を治める国皇とは全く別。助言や助力を求められれば手を貸し、それ以外の時は基本的にイチャイチャして過ごしたようです。お二人とも一緒にいられればそれで満たされるので、特にやりたいことは無く、毎日お散歩をしたり一緒にお昼寝をしたり、観劇をしたりと長年連れ添った老夫婦そのもの。
 とはいえ全く働かなかったわけではなく、しばらくして日本全体の再開拓が一段落した頃、海外にも入植しようという話が持ち上がり、彼等の護衛として同行。それからしばらくは世界中を回って溌剌と開拓の手伝いを続けました。驚くことに、日本以外でも生存者は少数ながら存在したそうです。
 さらにその後のお二人については、ご想像にお任せしましょう。


 以上となります。もし、他にもその後について知りたいというリクエストがございましたらコメントでお伝えください。
 五四万字の、とても長い物語にお付き合いいただき、ありがとうございました。またいつか、どこか別の世界でお会いしましょう。
 案内役は次も私、サポートAIメイドのレインが務めさせていただきます。それでは、ごきげんよう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み