星海 開明(1)

文字数 5,267文字

 南日本が憎い。父の告白を聞いて以来、開明(かいめい)の中のその感情は着実に育ち続けていた。あの人を言葉巧みに誑かし、霊術というおもちゃを与え狂気の道へ走らせた。そのせいで母までも死に追いやった敵を根絶やしにしたい。
 しかし彼は、三年間も父への叛意を隠し通した男。もちろん、そんな感情を表に出すはずもない。一度だけ仇を前に本音を漏らしてしまったことはあったが、すぐに蓋をした。
 理解している。今は北と南が手を取り合うべき時期なのだと。東京に巣食う“ドロシー”という災厄。あれを打倒して生き延びるためには両国の協力が不可欠だ。
 だが、この戦いが終わったなら、その時には必ず──

(報いを受けさせてやる)

 密かに誓った彼の前で、目の前に立つハトコの朱璃(あかり)が問いかけた。
「で、調子はどう?」
「ああ、いいよ」
 内心を見透かされたわけではない。これは彼女につけてもらった、この右手の話。
「動く動く。これなら箸も使えそうだ」
 言葉通り、開明の意思に反応して肘の曲げ伸ばし、手首の回転、五指の開閉を行う義手。朱璃が先日完成させた魔素動力式パワーアシストスーツDA一〇二の技術を流用したもので、装着者の意思に反応して膨張・収縮を行う液体が水圧式シリンダーを動かし、各関節を動作させる仕組みになっている。DAシリーズと同じく人工の高密度魔素結晶体を動力源としているが、それを収めた筒は腕の中に骨の代わりとして収納されてあった。戦闘に用いると一本での連続稼働時間は二〇分前後だそうだが、日常生活に使用するだけなら一ヶ月は保つらしい。エネルギー切れを起こした場合も自分で義手を外し、中からカートリッジを抜いて新しい物と入れ替えれば再び動く。
「軍事技術というやつは、やはり他の分野でも活かされるものなんだね」
「昔からそうでしょ」
 戦争は兵器を進化させ、その過程で生み出された技術は他の分野へ転用される。よくある話だ。もちろんその逆も。結局、どんな技術だって何に使うか、誰が用いるかが重要で、悪しき技術なんてものはこの世に存在しない。
「霊術も組み込んだって?」
「まあね」
 朱璃はつい先日、南日本へ渡って霊術を学んで来た。こちらで主流の疑似魔法学で天才と呼ばれる彼女は、霊術においても飛びぬけた才能の持ち主だったらしい。あらゆる知識を貪欲に吸収し、今も急速に術士として成長を続けている。
 それが少し心配だ。
「父さんのようには、ならないでくれよ」
「当然」
 自分はあんな風にならない。朱璃には確固たる自信があるようだ。
 その根拠はと問いかけようとしたところへ、別の人物が顔を出す。
「開明、来てるって?」
「やあ、アサヒ」
 義手の点検を受けていた朱璃の研究室へ、彼女の夫・アサヒが戻って来た。シャワーでも浴びて来たのか、髪がまだ湿っている。
「相変わらず大きいね君は。久しぶり。最近忙しく動き回ってるって聞いたけど?」
「うん、ほら、南日本からの護送には参加させてもらえないし、かといって何もしないでジッとしてるのは苦手だから、朱璃の研究の邪魔になりそうな時は海軍の仕事や建物の補修作業なんかを手伝ってるんだ」
 彼、というか彼のオリジナル・伊東(いとう) (あさひ)は地下都市建設に携わった作業員の一人だ。機械が使えないので昔とは色々勝手が違うはずだが、それでも地下都市の建築物に対する造詣は深い。おまけに重機以上の活躍が可能だし、工事現場の者達からすると心強い助っ人である。
 実際、気さくに手伝いに来て文句一つ言わず働く彼は市井でも着実に評価を高めている。たまに漁を手伝ってもらう海軍も大喜び。海中の生物には“ドロシー”も干渉できず、それゆえ変異種や竜も本能的に彼を恐れ漁業艦へ近寄って来ない。アサヒが手伝うようになって以来、人的被害は皆無だと言う。彼がいない時でもそうなのだから、おそらくこのあたりの変異種はここが彼のナワバリだと覚えてしまったのだろう。おかげで食用魚は例年より繁殖しており、豊漁続きでもある。
「けっこうけっこう。この国では、働かざるもの食うべからずだからね」
「そういうアンタはどうなのよ?」
 アサヒが開明の隣に腰かけたタイミングで朱璃が問う。
「ん?」
「こうして右腕も付けてやったんだし、そろそろ本格的に働いたら? 聞いた話じゃアンタ、アタシ達が南へ行ってる間もぐ~たら学生してたそうじゃない」
「酷いな、学生は勉学に励むのが本分じゃないか」
「どうせもう学校で教わることなんて無いくせに」
「え、そうなの?」
「そんなことはないって」
 驚くアサヒに苦笑を返す。たしかに半分は朱璃の言う通りで、知識としてならもはや教師に教わることなど何も無い。けれど学校という場では集団の中における人間関係の機微や上手な立ち回り方を学べるではないか。
 ──というような言い訳を述べたところ、あっさりと論破された。
「そんなもん、学校より働いていた方がよっぽど実用的なスキルを身に着けられるでしょうよ。学生なんてのは結局、何もかも遊びなの。普通の子ならその遊びに全力で熱中していてもいいけど、大阪へ発つ前にも言ったじゃない。アンタは普通じゃないんだから、アタシ達がいない間は頼むわよって」
「たしかに言われたけど、あれは何かがあったらのことだと思ってね……」

 嘘である。朱璃が言いたかったことは理解しているし、期待通りの働きもしたつもりだ。
 仮にあの時、月華の持ちかけた提案が罠だった場合、アサヒという大きな戦力が不在の北日本は守りが手薄になる。父・剣照(けんしょう)は霊術を学ぶ対価として王国を売り渡すつもりだった。敵が強引な統合を諦めていなければ、こちらを油断させ、改めて寝首を掻こうとする可能性は十分に考えられる。月華(げっか)自身にそんな意図が無かったとしても、別の誰かが画策しているかもしれない。向こうも一枚岩ではないはずだから。
 そういった推察を踏まえ、開明は軍や対策局と協力し防備を固めた。父も流石に霊術に関する資料を簡単にわかるような場所に隠してはいなかったが、人斬り燕とアサヒの戦闘から判明した断片的な情報を繋ぎ合わせて分析を行い、対術士の戦術を構築。もちろん元からそういった研究は行われていたが、アサヒが引きずり出してくれた“トップクラスの術士の手の内”と開明が発案したいくつかのアイディアにより、さらなるバージョンアップが実現した。想定では五人以上の兵士が組めば術士一人と渡り合えるはず。
 さらに彼は父の動向を探るため使っていた諜報網を東北各県の地下都市に広げ、南日本が工作活動を行う気配が無いかを探らせた。幸いにもそのような動きは無かったものの、副次的な効果として何名かの工作員を特定することには成功している。南北の協力が決まった今も彼女達は名乗り出る気配が無い。つまり南日本はまだ、腹に一物を抱えたままだ。
 まあ、どちらの作戦も主導していたのは大叔母やそのアドバイザーとなった緋意子、そして各組織のお偉方。自分は多少手伝ったに過ぎない。それでも一介の学生の働きとしては破格ではないか。これ以上、何を求める?

「まったく、今日だって僕は大おば様や君の代理で宮城まで行くのに」
「宮城……って、仙台? 開明が?」
 またしても驚くアサヒ。彼のリアクションは素直で実によろしい。
「天皇陛下にご挨拶さ。地下都市を二つも譲ったんだぜ、本当なら向こうからこっちに挨拶に来るのが筋だ。大おば様もそう思ってるから、これまで待ってたんだろう。なのに、いつまで経っても来る気配が無い。そこで王族の中で一番暇な僕に白羽の矢が立った。国王ではないけれど、仮にも王族だ。そんな僕が出向くことで向こうの面子を立ててやるんだよ。そしたらあっちだって、少しは新参者の王様に礼儀を尽くしてやろうって気になるかもしれないだろ」
「な、なるほど?」
 早口の説明を完全には理解出来なかったのか、若干の疑問形で頷くアサヒ。それから、なんだか楽しそうに笑う。
「なんだい?」
「いや、開明も何かを説明する時に生き生きしてるなって。流石は親戚だよ、朱璃に似てる」
「おいおい、だとしたら君が元凶だろ。ご先祖様なんだから」
「まあそうなんだけど、そういうところは俺の血じゃないと思うな。母さんも頭の良い方じゃなかったし」
「ま、アンタを見てると、たしかにそんな気がするわ。うちの一族は二代王の頃から頭脳派に転向したって話だし、多分ドロシー・オズボーンからの遺伝でしょ。この髪と瞳も彼女から受け継いだ形質だし」
 ポニーテールを掴んで先っぽを振る朱璃。開明も前髪をつまんで視界に入るまで引っ張り下ろす。
「不思議だよね。かなり代を重ねているのに、僕らの一族はいつまで経っても髪が赤い」
「カトリーヌみたいに先祖返りで異人種の形質が顕れた例や、マーカスの家みたいに男児は必ず黒人になるってケースもある。これも魔素が関係しているのかもしれないわ」
「マーカスさんって、そうなんだ」
「もう亡くなったけど、お姉さんはアジア系だったそうよ」
「へえ」
「ま、とりあえず」
 開明の義手を調整しつつこまめにメモを取っていた朱璃は、クリップボードを机の上に置いて自分にそっくりなハトコを見つめた。
月灯(つきひ)に会うなら、よろしく言っといてちょうだい。こっちから会いに行く暇は無いんで、用があるならそっちから来なさいってね」
「つきひ?」
「知らないの? 開明が会いに行く天皇陛下の名前だよ」
 アサヒに教えられ、開明は二重の意味で虚を衝かれた。何故か今まで、天皇に人としての名前があるなどと考えたことも無かった。さらに目の前の二人がやけに親し気にその名を呼ぶことにも驚かされた。南日本で謁見したとは聞いていたが。
「優しくしてあげてね。ちょっと、気の弱い子だったから」
「馬鹿。あれは油断してると喉笛に喰らいついて来るタイプよ」
 何故かそれぞれ、全く異なる評価を下す。得体の知れない不気味さを感じる開明。
 はたして天皇・月灯とは、どのような人物なのか──



星海(ほしみ) 開明と申します」
「……はじめまして」
 仙台の、新たな皇居となった屋敷。身体検査やら禊やら、様々な手順を経てようやく目通りを許された開明が目の当たりにした少女は、なるほどアサヒの言う通り気の弱そうな娘だった。こちらの顔の傷や隻眼であることに対し、若干怯えを抱いているようにも見える。自分で言うのもなんだが、とても男には思えない顔立ちと華奢な体型なのに。
 なんて儚い姿だと、そう思った。一六の自分と同じ年頃に見えるが、実際にはまだ一二歳らしい。南の連中は、こんな幼子を天皇だなどと呼んで崇めているのか。内心侮蔑の感情を抱く。
 しかし、不思議だ。そんな彼女の姿をじっくりと観察できる。何故ならここには御簾が無い。
 どういう意図だ? 天皇は易々と外部の人間に姿を晒さない、そう聞いていたのに。アサヒ達だって最初は御簾越しの対面だったと聞いた。
 なるべく疑念も感情も面に出さず、慎重に相手の出方を伺う。とりあえず「申し訳ありません、本来なら祖母か王太女が来るべきところなのですが、二人とも冬が明けた後の戦いの準備に奔走しておりまして、代理として僕がご挨拶に」と釈明してみせると、さらに予想外の事態が起こった。

 天皇が、敵国の王子に頭を下げた。

「お気になさらず、お話は伺っております。お忙しいところ、ここまでご足労いただき、こちらこそ感謝いたさねば」
 深々と、まるで目上の人間を相手にするかのごとく、躊躇無くだ。
 驚愕している開明の前で少女はさらに変化を示す。
 力強く、何かを決意して唇を真一文字に引き結んだ。まっすぐこちらを見据え、そして首を傾げる。
「あの、何か?」
「あ、いえ」
 こほんと咳払いして、そして無意識に──問いかけてしまった。
「ここには御簾が無いのですね」
 言ってしまってから自分に詰問する。どうしてだ? 今ここで、どうしてそんな率直な問いを投げかけた? これではまるで考えなしの馬鹿みたいじゃないか。
 そんな馬鹿みたいな質問に、やはり少女は不思議そうに頷く。
「ええ」

 それがなんだというのだろう?
 そう問いたげな顔。

(ああ、そうか……そうなのか)
 合点がいった。彼女はそういう人なのだ。きっと、人と話す時には相手の目を見て話したいのだ。御簾など邪魔なだけだと考えていたから、取り払ったことになんの疑問も抱かないのだ。
 アサヒが良い子だと評し、朱璃が油断するなと言ったのも頷ける。こういう邪念の無い人間は、いとも容易く人の心へ斬り込んで来る。お互いの間に壁があっても、それに全く気付けないから。
 彼女はまだ幼いのだ。だからこそ、自分や朱璃のようなひねくれ者には恐ろしい。
 恐ろしいのに、気が付けば開明は微笑んでいた。
 自己分析はすでに済んでいる。
 どうやら自分は──
「陛下、今から散歩に出かけませんか?」
「散歩?」
「ええ、秋田まで。いかがですか」
 とんでもないことを口走り、そして実行しようとしていることを自覚しつつ、それでも開明は、そんな自分を止められなかった。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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