終章・双竜(2)

文字数 4,291文字

 やがて、それが前方に現れた。
【お、大きい……】
 さっきの街とは比べ物にならない大都市。初めて見る街だが、やはりアサヒは既視感を覚える。
【似てる……秋田に……】
【うむ……】
 中心に建てられた白い尖塔を始めとして、全体的なデザインや建物の配置が地下都市の方の秋田と良く似ているのだ。

 だとしたら、この街を築いた人々とは──

【あっ】
 再び警鐘が鳴り響く。宙に浮かぶ彼の姿を見つけた街の人間達が騒ぎ出す。
【今度は逃げるなよ】
【わ、わかってる】
 若干引け腰ではあったが、街の方へ近付いて行くアサヒ。降下前に人間の姿に戻らないと攻撃されるかもしれない。そう考えていると、ライオが警告を発した。
【待て、街の手前に降りろ】
【え?】
【不可視化されているが、かなり強力な霊力障壁が都市全体を覆っている。触れたら我等でもただでは済まんぞ】



 人の姿に戻り、地面に足を下ろしたアサヒは、おっかなびっくり進んで行った。兵士達が都市全体を囲む高い防壁の上から彼を見つめ、固唾を飲んで押し黙っている。
 どうして何も言って来ないんだろう? 日本語が通じるか知りたいのに。
 そして、もう少しで入口の大きな門まで辿り着くというタイミングで、重厚な鉄扉が内から開かれた。
 地響きを立て、予想外のものがそこから姿を現す。

「なっ、なっ、なっ……!?

 それらは門へ続く道の左右に規則正しく整列した。巨人。全長五mはありそうな甲冑を身に着けた騎士達が居並び、彼を見下ろしている。

 やっぱりここは異世界なのか?
 落胆した彼に、唯一、道を塞ぐように正面に立った巨人が問いかける。

『問う! 貴方は何者か!』

 日本語だ。一転、パッと顔を輝かせ、アサヒはしどろもどろで説明する。

「あっ、あ、あの……俺! アサ、アサヒって言います! 俺のこと、知ってる人います、せん、か? もしかして、ここ、えっと、秋田ですか!?

 その返答を聞き、騎士達はざわついた。
 明らかに驚いている。

『やはり……!』
『ついに、ついにご帰還なされた!!
『アサヒ様だ!』
「え? へ? えっ……」
 彼自身も驚き、そして疑念が確信に変わる。この巨人達は自分を知っている。だったら、やっぱり、ここは──

「……秋田だ」
「そうです、よくぞ、よくぞお戻りになられました」

 正面の巨人の腹部から蒸気が出たかと思うと、甲冑の一部が下向きに開き、中から女性が顔を出した。
 あれ? と首を傾げる彼。どことなく見覚えがある。
 彼女は問われる前に名乗った。

「私は竜機兵(りゅうきへい)団長の駿河(するが)と申します。どうか一緒においでください。皆、あなたの帰還を一日千秋の想いで、お待ち申し上げておりました!」

 そして彼女は、左右に居並ぶ騎士達へ命ずる。
「全員、ハッチを開け! 竜王(りゅうおう)猊下に最敬礼!」
 同じように腹部のコックピットを覆っていたシールドが開かれる。中に座っていたパイロット達が立ち上がり、アサヒに向かって敬礼した。視線は上向きに。けっして目の前の彼を見下してはいけないとでも言うように。
 中には涙を堪え、そのためにいっそう上を向いている者達もいた。
「りゅう……おう……?」
 なんのことだ? たしかに自分は初代王の模倣体だけれど、そんな称号を貰った記憶は無い。
【とにかくついていってみろ。そこで答えはわかるだろう】



 巨人から降りた駿河に先導され、街の中を歩いて行くと、誰も彼もが建物から外に出て彼を見つめて来た。
「竜王様……」
「アサヒ様が、とうとうお戻りに……」
「よかった、これで……」

 やはり、多くの人達が自分を“竜王”と呼ぶ。
 無数の視線に晒され、びくびくおどおどしながら歩き続けた彼は、やがて大きな広場で立ち止まるよう促された。
「こちらで、少しお待ちください」
「え? あの……」

 何も無い。本当に何も無い広場だ。噴水だとか銅像だとかベンチだとか、そういう物が何一つ設置されていない。恐ろしく広いのに、あるのは石畳だけ。それも普通の石畳ではなく、自然の岩というか、とにかくすごく硬そうな岩石を頑張って均した感じ。

「ここは、あなたとの再会のために用意された広場です」
「ここが?」
 歓迎の式典か何かを催してくれるのだろうか? それにしては殺風景だが。
「あの……」
 急に、駿河は探るような目を向けて来た。
「私の顔に見覚えはありませんか? よく、似ていると言われるのですが」
「似ている?」
 いや、たしかにさっきから、そんな気がしている。誰かに似ているのだ。でもなかなか思い出せない。
「これではどうでしょう?」
 ヘルメットを外す駿河。その下からボリュームのあるクセッ毛が現れた。
「あっ!?
 やっと思い出すアサヒ。そうだ、この童顔。少し猫を思わせる目付き。そしてクセッ毛。彼女にそっくりじゃないか。
「お、大谷さん!?
「子孫です。そうですか、やはり、そんなに似ているのですね」
 嬉しそうにヘルメットを被り直す彼女。
 逆に、アサヒは愕然とする。

 子孫? 本人ではない?
 それは、つまり──

「……何年、経ったんですか?」
「お答えできません」
「どうして!?
「禁じられています」
「誰にですか!」
「すぐに、わかります」
 彼女は視線を持ち上げた。都市の中心に立つ高い尖塔、その頂点を見つめる。
 すると、ちょうど何かが飛び出して来るところだった。
「全ては、あの方からお聞きください。私には、猊下の楽しみを奪うことなどできませんから」
「あれ、は……」
 見上げる先で、塔から飛び出した影は大きく翼を広げた。見覚えある形のそれを悠然と羽ばたかせ、一旦高く上昇して滑空に移り、頭上を旋回する。
「ああ……お喜びです」
「……」

 赤いドラゴン。
 ライオより、少しスマートな。
 アサヒには何故か、それが誰だかわかった。

 舞い降りて来る。姿を変え、小さくなって、飛翔術で落下速度を落としながら、静かにアサヒの目の前に降り立つ。駿河が再び敬礼した。最大級の忠誠を示す。
 彼女はアサヒの顔を見て、呆れ顔でなじる。

「ずいぶんとまあ、遅いお帰りだったわね」
「……何年、経った?」
「また二五〇年よ。アンタ、本当はもしかして、この周期で発生する昆虫か何かなんじゃないの? 季節が千回も変わってんのよ。どんだけ待たせるんだって思ったわ」
「……そんな……」

 アサヒはその場で膝をついた。というか、立っていられなくなって崩れ落ちた。
 罪悪感で胸がいっぱいになる。あの時の選択が、あまりにも残酷な結末を生んだのだと改めて後悔する。

「ごめん……」
 そう言って俯く彼の姿に、見守る人々はざわついた。悲しんだ。
 それでは、あまりに酷い話だと。だって彼女は──
 けれど、顔を上げられない彼の頭を、優しく持ち上げる両手。
「冗談よ。婆さんから聞いたわ、アンタはアンタで大変だったんでしょ。ここへ戻ろうと必死に頑張ってたそうじゃない」
「朱璃……」

 そう、目の前にいるのは朱璃だ。
 何故か、あの頃と同じ姿の。

「どうして……?」
「あのね、二五〇年経ってんのよ? 本当なら、しわくちゃの婆さんを通り越して跡形も無く風化してるわ。だから変わっておいたの。アンタと同じ“竜”に」
「でも、どうやって……」
 記憶災害なら維持限界がある。よくわからない力でそれを突破した自分以外は一〇分で消滅してしまうはずだ。
「忘れた? アンタの他にも、維持限界を突破してくれる依代があるでしょ」
「あっ」

 そうか、母だ。
 あの時、伊東 旭によってプログラミングされ、元の世界へ帰還したはずの母の抜け殻。たしかにあれなら──気付いたアサヒの目の前で、朱璃のスキンスーツの下の胸が燐光を放つ。我が子の帰還を喜ぶように。

「この杖が戻って来た時、思ったの。アンタは必ず約束を守る。アンタの母さんが帰って来れたんだから、アンタともいつか、また会える。だから待つことができた。そのために自分を“竜”にもできた」

 約束通り、彼は帰ろうとしていた。
 諦めず、前に進み続けた。
 そんな夫を、どうしてなじれようか。

「おかえりアサヒ。もう、二度と私を置いてかないで」
「うん……約束する」

 いや、約束するまでもない。自分だって、そうしたいんだ。再会した少女の胸に抱かれ、泣きながら誓うアサヒ。絶対に手離さない。やっと掴んだ、この温もりを捨てはしない。
 ここが二五〇年後の世界であることも、かつての仲間達ともう会えないことも今だけはどうでもいい。
 彼女にまた会えた。それが全て。

「おめでとうございます、竜后様!」
「お二人に祝福を!」
「ああ、竜機兵全機、祝砲を!」

 駿河が通信機らしきものに向かって命じると、街のあちこちから花火が上がった。普通の火薬ではありえない演出を可能とする疑似魔法の花火。美しい色とりどりの光が二人の頭上を鮮やかに彩る。

「立って、ほら」

 朱璃に急かされ、立ち上がるアサヒ。
 頭の位置が逆転した。互いに最愛の伴侶の顔がよく見える。
 彼女は、この瞬間を待ち望んでいた。二五〇年間、ずっと、ずっと。

「これからは、ずっと一緒よ、ダーリン」
「んぐっ!?

 飛びついてキスをする。初めてのあの時のように驚く夫。街中から歓声が上がり人々は祝福した。彼女の長い長い恋物語の、その幸福な結末と、これからの二人のやはり末永く続くであろう幸多き未来を。
 そうあってほしい。彼と彼女は、それだけの苦難を乗り越えて来たのだから。

【まさか、この我が……人の(つがい)の再会に、喜ぶ日が来るとはな】

 ライオもまた、最も近い場所で二人の幸福を願う。
 これからもずっと、見守ることを誓って。


 この日、日本皇国に竜王アサヒが帰還した。
 彼の妻、竜后朱璃の長年の忍耐と努力が、ようやく報われた瞬間だった。
 現国皇・美月(みつき)は彼等が永遠に共にあることを願い、その日から七日間、盛大な祝賀祭を開いた。以後、毎年同じ日から同じ祭が始まるようになった。
 三月二六日。人々はこの日を“双竜の日”と呼ぶ。離れ離れになった人や運命の相手に出会える、そんな縁起の良い日だとされている。

 少年と少女は、数百年の間、人々を見守り続けた。再び人類が世界に広がっていくのを手助けして、さらなる繁栄に導き、やがて──もう自分達の庇護が必要無いと判断すると、別れを告げて二人だけで旅立った。
 彼等がどこへ行ったかはわからない。けれど誰もが確信している。魔素という心の影響を強く受ける物質で形作られた二人は、記憶を保存し続ける物質によって再現されたあの番は、これからもきっと互いを愛し続けるのだろうと。比翼の鳥が、連理の枝を連ねるように。

 宇宙が終わる、その時まで。
 あるいは、さらに永く。




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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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