九章・開眼(2)

文字数 4,048文字

 ──森だ。巨大な木々がそびえ立つ森。その中心に都市があった。人間が作った街ではなくドラゴンによって築かれた高度な文明の産物。
 巨竜達が人間のように暮らしている。建物を築き、道具を作り、友人と語らい、家族と共に平和を享受する。
 そんな都市の中央にそびえ立つ、岩山を削って造り出した御座に彼はいた。

【よく来たな、アサヒ】

 シルバーホーン。彼は王として半身を迎える。突如見知らぬ風景の中に現れたアサヒは困惑の色を浮かべ、問いかけた。
「な、なんだよここ?」
【我が国だ。我が支配し、統率し、守っていた故郷。貴様らの世界とは別の界球器(かいきゅうき)に実在していた楽園。その記憶である】
「かいきゅうき……?」
【全く別の宇宙と解釈すればよい。誕生の瞬間から貴様らの宇宙とは異なる歴史を歩んでいた。部分的には物理法則にも違いがある。似ていても非なる時空】

 よくわからない。しかし、ともかくシルバー・ホーンが自分達の知る世界とは全く別の世界から来たという事実だけは、なんとか飲み込むことができた。

「それで、どうして“竜の心臓”を通って俺達の世界に?」
【今見ている、この世界が滅ぼされたからだ】
「滅ぼされた?」
 剣呑な話に眉をひそめた瞬間、アサヒの目の前に六つの“影”が現れた。人の形をしている文字通りの影。真っ黒で立体感が無い。なのに立った姿でそこにいる。
「なっ……何、こいつら?」
【それが我が国、我が星、我らのいた宇宙を滅ぼした存在。────だ】
「え? ちょっと待って、最後が聞き取れなかった」
【人間には、この呼び名は知覚できんか。そうだな……日本語にすると“崩壊の呪い”になる】
「崩壊の呪い……」
 語感からして、生きた人間ではなさそうな気がする。
 そんなアサヒの想像を肯定するドラゴンの王。
【奴らは“始まりの神”の影だ。神々の後悔の念が“魔素”により実体を得たもの。我や貴様と同じよ】
「記憶災害ってこと?」
【そう、史上最大のな。奴らは貴様と同じように……いや、正しくは貴様が奴らの影響を受けてそうなったのだが、ともかく維持限界を超越し“消えない記憶災害”となった。
 そして数多の世界を滅ぼし眷属を増やし続けた。やがて我の故郷にも現れ、殺戮を行い、我等の魂を取り込んで呪いの一部に変えた】

 次の瞬間、爆発が生じる。

「あれは……!」
 自分が東京を半壊させた時と同じ魔素の光の膨張。それが竜の王国の全てを飲み込んで消し去っていく。
 止める間も無く何もかもが光の中に飲み込まれ、その輝きの中に様々な像が浮かんでは消えた。走馬灯のように。
 どれもこれも、破壊と殺戮の暴力的な光景。
【これは、我が奴らの眷属となってからの数多の戦いの記憶だ】
「なっ、なんで……」

 無数の世界が滅ぼされていく。六体の黒い影と、それに率いられた記憶災害の巨獣達によって。

「神様の影が、なんでこんなことを?」
【言っただろう、奴らは後悔だと。神々は、自分達の創り出した全てを滅ぼしたかったのだろうよ。その理由までは知らんが】

 シルバーホーンも命じられるまま戦い続けた。影とはいえど、崩壊の呪いは自分達より遥かに上位の存在。その命令に抗う術を彼も他の獣達も持っていなかった。

【しかし世界の数は無限に近い。ならばその全てを消し去ろうとする奴らの戦いも、我の闘争も等しく永久に続く。そう思っていた】
「思っていた?」
【ある日、唐突に終わったのだ。あの戦いはな】

 何が起きたのか、彼にも正確なことはわからない。こことは別の世界でいつものようにそれを滅ぼすための戦いに加えられた。
 その最中、彼は人間の“魔女”に敗れ、記憶はそこで途切れている。
 思い出したことにより敗北の記憶が投影された。長い黒髪の魔女が拳銃を二挺こちらに向けて構えている。それが、あの世界で見た最後の光景。

「誰?」
【我を倒した女だ。記憶災害の天敵。記憶そのものを凍らせる魔女。後にも先にも、正真正銘“ただの人間”に敗れたのは、あの一度きりだった】
 語るシルバーホーンの声に怒りは感じられない。むしろ偉大な存在に対する崇敬の念が感じられた。
 ともかく、その敗北後、彼ら“記憶災害の獣”は全て解き放たれた。
【あの女が成したことかは知らん。だが、どうやら“崩壊の呪い”は消えたらしい。奴らの支配下にあった我らは魔素の海の中を漂う単なる“記憶”に戻り、高密度魔素結晶体を通じ、時折どこかの世界で再現されては維持限界までの一〇分間を気ままに過ごす。そういう存在になった】

 それは、いつ覚める時が訪れるのかわからない長い夢のようだったという。
 ただ、彼はその夢を楽しんでいた。上位存在の支配から解放され自由になれただけでも十分に救われていたのだ。
 なのに──

【……アサヒよ】
 再び景色が変わる。あの日あの場所の光景へと。自分達が初めて出会った、東京は新宿の地下都市。炎で満たされた地獄絵図の世界に。
 巨竜は少年を見下ろし、問いかける。
【何故、我を許した?】
 その理由が知りたかった。だから、あえてこの場を選択した。ここで自分がしたことは憎まれて当然の所業。なのに目の前の少年は落ち着いた表情で対峙している。先程まで瞳に満ちていた憎悪は、もはや跡形も無い。
 いや、瞳の奥底には、まだ赤く燃える炎が見て取れた。しかし、それを抑え込んでいる。怒りを御することができたようだ。それはどうして?

 問いかけられ、アサヒはさっきまで繰り返されていたループの記憶を思い出す。本当に何度繰り返したかわからない。この場所に戻される度、眼前の巨竜に対する怒りと憎しみが蓄積していった。こんなことをさせる月華に対する感情も黒く染まっていった。神々の後悔が実体化したという、あの影達のように。
 でも、あまりに憎み過ぎて自分を保てなくなりそうになった瞬間、不意に冷静さを取り戻すことができた。

「感情ってさ……多分、限界があるんだ。どんな感情でも、それ以上は膨れ上がることのできない天井がある。俺は、そこまで行っちゃったんだよ。お前のことが憎くて頭の中がそればっかりになって、おかげで逆に気が付けた。お前も、本当に憎くて憎くてしょうがなかったんだよな」
【……ああ】

 そう、いつも彼の金色の瞳は人間達を見下していた。
 憎しみの篭もった眼差しで。

【この世界で再現された我は、ドロシーによって再び自由を奪われた。貴様と貴様の母の持つ特殊な因子を取り込めと、そのための傀儡にされてしまった。その事実に気が付いた瞬間、我の中でまだ燻っていた憎悪に火が点いた】

 ──かつて“崩壊の呪い”に操られていた頃の感情が蘇った。怒りを滾らせ、たまたま目の前にいた者達に叩きつけた。つまるところ、ここで行われた虐殺は単なる八つ当たりだったのだ。
 冷静になることができたのは、オリジナルの伊東 旭に消し飛ばされた後だ。完全消滅することは叶わなかったが、再生中、僅かな時間ながらもドロシーの支配が解けて自由を取り戻せた。
 そして何が起きたかを理解した。ドロシーがどこから来た何者で、何を目的として自分達を操っているのか。その目的が達成された時、この星の生命がどうなるかを悟り、抵抗を決意した。

「あいつがずっと東京にいたのは、お前が止めていてくれたからだったんだな」
【奴にとって都合が良かったからでもある。あの地は複数の龍脈が交差している。時こそかかるが、何をせずとも確実に魔素を集積できる。貴様のオリジナルと戦い再び拡散するリスクを取るより、その方が安全だと説得した】

 結果、北日本は伊東 旭を擁しながらもドロシーの攻撃を受けずに済んだ。

「だからだよ、お前は恩人だ。仇だけど、お前のおかげで今がある。それに気付けたから許すことにしたんだ」
【そうか……】
 シルバーホーンも同じだった。あの崩界の日から数十年後、母親を取り戻すため東京へ舞い戻った伊東 旭。彼を体内に取り込み、今のこの状況と同じようにドロシーを介さず直接対話する機会を得た。それによって少しずつ憎悪が薄れ、それを媒介にした精神支配も解けていった。
 伊東 旭は彼にとって怒りと憎しみをぶつけ合った強敵で、同時に、本当の自分を思い出すキッカケをくれた恩人なのだ。

 そしてアサヒは、そんな彼と伊東 旭が共同で生み出した決戦兵器。

【……これで良いのだな?】
 突然、アサヒとは別の方向に顔を向ける彼。訝る少年の目の前で何度か頷き、再び振り返る。
【お前は“鍵”を見つけた。そろそろ戻るが良い、伴侶も帰る頃合いだ】
「朱璃? そういえば、現実ではあれからどのくらい経ったんだ!?
 焦るアサヒに、まだ、たったの数時間だと教えてやる。
【夜になったばかりだ】
「なんだ、そんなもんだったのか」
 流石は夢だ。都合が良い。
 でも、結局これはどういう試練だったのだろう? アサヒには今もそこのところがよくわからない。
【現実であの女に聞くがいい。奴も、お前の帰りを待っている】
「そうだな。じゃあ、また向こうで」
【ああ】
 気さくな友人と別れるように手を振るアサヒ。
 その姿を見て、巨竜は一つ思い出す。
【待て】
「え?」
【人間が我につけた呼び名は、長ったらしくて好かぬ。我の本来の名は──だ。以後そう呼べ】
「いや待て、そう呼べって言われても……」
【むっ……】
 戸惑う様子から理由を察した彼は、やはり渋い表情で舌打ちする。
【我の名も人間には知覚できぬ音か。日本語に直すなら“雷の王”なのだが】
「それ、シルバーホーンより言いにくい」
【だろうな。さて、どうしたものか……】
 二人揃って腕を組み、首を傾げて考え込んで、やがてアサヒが提案する。
「いかずち……かみなり……らい……あっ、そうだ!」
【ん?】
「雷王……らいおう……ライオなんてどうだ?」
【ふむ】
 ライオ、ライオ、ライオ……なるほど覚えやすい。響きも悪くない。満足げに頷く赤い巨竜。
【ならば我のことは、その名で呼べ】
「ああ、改めてよろしく、ライオ!」

 次の瞬間、アサヒはようやく長い夢から抜け出せた。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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