十章・特別(1)

文字数 4,292文字

「──そう、殿下は無事に“開門”できたのね。他にも三人、素養の持ち主がいたというのは喜ばしいわ。人数を考えると驚きの割合よ」
 夕食の席で微笑む月華(げっか)。場所は食堂。数十並んだ椅子のうち、三〇程度が埋まっている。北日本から来た客人達と、成人した術士達だけが食事中。
 彼女の言葉を聞き、眉をひそめる門司(もんじ)
「かいもん……と、言いますと?」
「強い霊力を持っていても、体外へ放出できるようにならなければ意味が無いの。だから、まずは自分の中にある“門”を開く必要がある。まあ、疑似魔法も感覚的には霊術と似たようなものだし、貴女達はコツを掴むのが早いと思っていたわ」
 実際、素養のある四人は簡単にその技術を習得した。霊術に親しんでいる南の子供達といえど、普通は数日かかる訓練なのに。
「重畳重畳。これで、新しい住処も確保できそうね」
 上機嫌に語りつつ、焼き魚の身をほぐして口へ運ぶ。
 しかし、ふと対面のアサヒの様子を見咎めた。
「あら、箸が進んでいないようだけれど、ひょっとして魚はお嫌い?」
「え? いえ」
 魚は嫌いじゃない。
 ただ──
「その、立派な食事に驚いて……」
「そう?」
 食卓に並べられた食事は、粗食を常とする北日本の食糧事情から考えると驚くほど豪勢だった。焼き魚に煮物に味噌汁。漬物もあり、なんと白米まで出されている。向こうでは王族でも月に一度しか食べられない代物。なのに昨日もこうだった。二日連続で白いご飯が出て来るなんて、南は思ったより豊かなのか?
 首を傾げたアサヒの前で、今度は味噌汁の椀を持ち上げ、ずずっと啜る月華。満足いく味だったのか、うんと頷きつつ答える。
「我が家では普通の食事よ。術士は命を賭けて戦うのだもの、このくらいの扱いはされてしかるべき」
「なるほど……」
 アサヒもようやく納得して、よく味の染みた煮物を口へ運ぶ。守られる側としても危険な仕事に従事する術士達に対し「質素な食事で我慢してくれ」とは言いにくいだろう。
 すると、少し離れた席の烈花(れっか)が思い出すように天井を見上げ、ぼやいた。
「北に潜入してる間は、メシが辛かったなあ」
 その北日本の面々の前だというのに、臆面無く口に出す。
 隣の斬花(きりか)も同意した。
「私達は民間人としての潜入だったので仕方ありませんが、あれでは死地に立つ兵士の皆様が可哀想です」
「言ってくれるわね」
 唇を尖らせる朱璃(あかり)。北日本だって一応、兵にはある程度の優遇措置を行っている。特に海軍に対しては。
 とはいえ、なんといっても向こうは人数が多い。それだけ責任も分散されるが、伴って恩恵も小さくなってしまうのは当然の話。いくら母国の環境がこちらより恵まれていると言っても、振り分けられるリソースには限りがある。
「ところで子供達は、まだ食べないんですか?」
 さっきまで外で訓練していた候補生達がいない。その事実を不思議がる小波(こなみ)
 すると術士達の顔が一様に暗くなった。月華だけは別だが。
 彼女は平然と答える。
「あの子達は、あと二時間ほどしたら食べるわ」
「二時間?」
「ずいぶん遅くないですか? あれだけ動き回ったら、お腹も減ってるでしょう」
「いいのよ、せっかく食べたものを吐いてしまうよりはマシでしょ」
「え?」
 どういうことか訝る北の面々を見渡し、彼女は再び微笑む。
 優しく、けれど怜悧な眼差しで。
「そうね、どうしようか迷っていたけれど、霊術の秘密を開示すると約した以上、やはり皆さんにも見てもらいましょう。術士になるための道は甘くないのだと」



 小波達は後悔した。知らなければ良かったと。

「あ……う、うう……」
「たす、けて……いたい……いた、い……」

 ここだけ、霊術による光ではなく壁の松明が照明となっている部屋。いくつも並ぶ寝台の上に術士候補生の子供達が一人ずつ横たわり、苦痛に喘いでいた。目を見開き、口から涎を垂らして許しを乞う子供もいる。幼い子ほど辛そうに見えた。
 けれど子供達を監視する年長の術士も、小波達を案内してやって来た月華も絶対に手を差し伸べて助けようとはしない。
 なぜなら、これは彼女達の所業だから。

「毎日、毒を飲むんだ」

 カトリーヌが説明する。自分の口から語った方が、多少は北日本の面々の怒りも和らぐかもしれないと、そう思ったからだ。案の定、何人かは義憤に燃えている。マーカスなど今にも殴りかかって来そうな顔。
「テメエら……いったい、何をしてんだ……?」
「訓練の一環さ。激しい感情の起伏と強い生存欲求はな、時に霊力を強化するんだ。量も出力も回復力も増大する。必ずではないが、確率はまあ、それなりに高い」
「どれくらい?」
 朱璃に問われ、彼女は苦笑した。脳裏には死んだ実姉の笑顔が浮かぶ。彼女の死を思い出しても悲しむだけで済むくらいには、自分も外道を働いて来た。
「三人に一人といったところだ」
「そして、変化が起きようが起こるまいが、どちらにせよ毒を飲み続けた子供のうち半分は死ぬ」
 補足する月華。娘はおそらく、あえてこの事実を秘めようとしたのだろう。でも自分は全て明かすと言った。もちろん守る必要の無い口約束ではあるが、これは伝えておいた方が将来的な利は大きい。そう判断した。
「ただでさえ数の少ない素質ある子供達を、こうして苦しめて半分に減らす。非効率だと思うかしら、殿下?」
「……いいえ」
 朱璃には理解出来てしまった。非道だろうがなんだろうが、ようは限界まで鍛え抜いた一騎当千の力の持ち主達でなければ、今まで生き延びて来られなかった。そういう話なのだと。蒼黒に大地を引き裂かれ剥き出しになった時点で、大阪は常に地上にあるのと同等の危険に晒されている。まだ地下都市内の安全が保たれている北日本とは比較にならない窮状。
 他の者達も、そこは理解していた。だからどれだけ頭が煮え滾ろうと、助けを求められようと、黙って子供達を見ている以外に何もできない。
「でも、だからって、こんなこと……」
 まだ旧時代の価値観が抜け切らないアサヒだけは動いてしまった。助けを求めて宙に手を伸ばしている少年の、その手を握ってやる。非道な訓練を止められないまでも、せめて励ましてやれればと思った。
 が──
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?
「なっ!?
 少年が絶叫して泡を吹いたため、慌てて手を離す。タイミング的に明らかに自分の行動が引き金。
「……」
 彼を咎めることはせず、慣れた様子で監視役の術士達の一人が動き、少年に対し処置を施し始める。よく見ると、その手には手袋が嵌められていた。
 彼女達の処置のおかげか、少年は少しずつ落ち着きを取り戻していく。しかし、やがて再び顔を歪め、苦しそうに喘ぎ始めた。
「ああ……ううっ、ああ……」
「ご、ごめん……」
「来なさい」
 月華に袖を引かれ、廊下まで連れ出されるアサヒ。
 肩を落とす彼に、彼女は教えた。
「素手で触れては駄目。今のあの子達には、焼き鏝を当てられるようなもの」
「す、すいません……」
 あの子にも本当に申し訳ないことをしてしまった。きちんと確認を取ってから動くべきだったのだ。やってしまってから、そんな当たり前のことに気付く。
「う……」
「だ、大丈夫ですか?」
 手で口を押さえる大谷。彼女は霊術に対する高い素養の持ち主だと、数刻前に判明したばかり。だから当然、想像してしまったのだろう。自分も同じ処置を受けるのかと。
 同僚に背中をさすられ、なんとか堪える彼女を見やり、月華は朱璃へ問いかける。
「この毒の製法も、必要ならば教えましょう」
「もちろん。契約に従って全てを開示してもらう」
 臆さず同意する朱璃。彼女は大谷以上に大きな才を宿しているが、そこからさらに強くなれると言えば、自身に毒を使うことさえ厭わないだろう。
 とはいえ、本当に使って死んでしまわれては困る。念のため釘を刺しておいた。
「教えましょう。けれど殿下、貴女が使っても無意味よ?」
 言われた朱璃は、軽く舌打ちする。
「時間切れ?」
「そういうこと。いかなる方法でも霊力の強化が望めるのは、第二次性徴が始まるまで」
 やっぱりか。成人した術士達が同じ処置を受けていない時点で、おおかた予想はついていた。大谷も自分が毒を飲まされることは無いのだと知り、安堵する。だが苦しむ子供達を見て、今度は自己嫌悪に陥った。
「……あの、俺……」
 何かできることはないかと、アサヒはそう問おうとする。でも、何も無いとすぐに気が付いてしまった。自分にできるようなことがあったら、月華達がとっくの昔にしてやっているはずなのだ。

 彼女達だって、好きでこんなことをするわけがない。
 そのくらいは、自分にだって理解できる。

「さて、ここからはご自由に。まだ子供達を眺めていたいなら、それもいい。この屋敷の敷地内でなら自由に行動なさって結構よ。もちろんそれぞれに監視は付けさせていただくけれど」
「なら、あたしはここに残るよ」
 門司が手を挙げた。医師として、せめて子供達の訓練が終わるまで待機したいと言う。
「許可が貰えるなら、後で全員の診察もしたいんだが」
「構いませんよ。いつもは私の仕事ですけれど」
 簡単に頷く月華。門司は逆に眉をひそめる。
「あんた、医者もできるのかい?」
「私にできないことは、おそらく皆さんの想像以上に少ないわ。そこの棚にカルテもありますので、参考にして」
「あいよ」
 素直に壁際の棚へ近付く門司。そんな彼女をしばし見つめた後、朱璃はマーカスの背中を叩き、同胞達を見回して告げた。
「明日も忙しくなる。アタシ達は、先に休むわよ」
「……朱璃」
「何もできないわ。少なくとも、今はね」

 けれど、蒼黒を倒したなら?
 自分達が霊術を北へ持ち帰り、女王が契約を果たしたなら?

「あの子達を哀れむくらいなら、全力で任務に励みなさい。福島と仙台を譲れば、少しはゆとりができるでしょうよ」
「……だな」
 深く息を吐き出し、肩の力を抜くマーカス。
 直後、彼もまたアサヒの背中を叩いた。
「頼むぞ」
「はい!」
 二人の会話を聞いていた彼も、やはり決然とした眼差しで前を見据えた。



 ああ、やっぱりだ。
 やっぱり、あの人達は自分なんかとは違う。
 彼女には、ここにいる誰も彼もが輝いて見えた。
 逆に自分自身は、どんどんくすんでいく。元々薄かった輝きがさらに弱まる。
 どうしてなんだろう?
 どうして自分みたいな凡人がここにいるんだろう?
 それもやはり単なる偶然だろうと、あっさり結論が出せてしまった。
 哀しいが、現実なんてそんなものだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み