現代編【アサヒ】1

文字数 4,145文字

 銀色の海で生まれた。
 母の胎内にいるような温かさ。
 けれど、すぐにそこから抜け出さなくてはと思った。
 誰かが早く逃げろと叫んでいる。
 必死に手足を動かし、もがいて、泳いで──気が付くと一本の腕を掴んでいた。細くて柔らかい、けれど不思議と力強い右腕。
 引っ張り出されて水面を抜ける。肺の中に溜まっていたものを吐き出し、代わりに空気を吸い込む。なんだか、とても久しぶりのような気がした。銀色の水より苦いし、嫌な臭いもする。それでも目一杯に吸い込み、吐き出し、また吸う。

「大丈夫、大丈夫よ。落ち着いて、少しずつ呼吸を整えて。ほら」

 誰かが頭を抱き寄せ、自分の胸に耳を当てさせた。
 心音と呼吸の音が聴こえる。
 そのリズムに合わせて彼の呼吸も次第に変化を始めた。
 やがて平静を通り越し、安らかな──

「姉さん、その人、寝ちゃってない?」
「あら?」
「おいおいおい、赤ちゃんじゃねえんだぞ。本当にコイツで合ってんのかよ?」
「その、はず……ただ、どう見ても、若い」
「十代後半くらいだよね……全盛期の自分を再現した、にしても若すぎない?」
「いえ、彼で合ってるわ。それにこの姿にも理由があるの」
「理由?」

 彼女は少年の頭を優しく撫で、もう一度そっと抱き締めた。
 この子には近い将来、大きな苦難が待っているだろう。
 あの海から引き上げた自分達を恨むかもしれない。
 でも、だとしても、お願いだ。
 立ち向かって欲しい。
 人々のために。

「この子は本当に、たった今、生まれたばかりなのよ。私達の勝手な都合でこの過酷な世界に生を受けてしまった。人間でもない、竜でもない、かつての英雄ですらなくなった新しい命。ごめんね……そうしなければ“彼女”には勝てない。彼と私が決断した。だからせめて、あなたが戦う覚悟を決めるその時までは私達が守る。嬉しくはないかもしれないけれど……ようこそ私達の世界へ。私達の希望、英雄の力を受け継いだ君」

 眠りの中、鈴の音を聴き、桜の香りを感じる。
 風は冷たく、拳をぎゅっと握り、体を丸めて寒さに耐えた。
 嫌な予感がする。でも、ここにいられることが嬉しくもある。
 愛おしい。頭を撫でる掌の感触が懐かしい。
 それは、彼が彼としてこの世界に生を受けた直後の、始まりの記憶だった。



 数日後、地下都市・福島の兵舎。その一角に与えられた部屋。二四時間監視付きの“独房”でアサヒはガリガリと自分の頭を掻く。目付きが鋭く、長身で体格も良い。そのため一見すると柄が悪そうなのだが、実際のところ温厚な性格の少年だ。ただ、今は苛立ちからただでさえ悪い人相がさらに剣呑になってしまっている。
「ああもう、どうやって解くんだっけな、これ」
 目の前にあるのは机。そして数学の問題がいくつも書かれた一枚の紙と鉛筆。
 この部屋に閉じ込められてから三日目。暇だ暇だとぼやいていたら、あの“悪魔っ子”に宿題を出された。どの程度の教養があるか確かめたいから解いてみろ、だそうだ。
「うまく思い出せないぃぃぃ」
 中学レベルの問題だと言われたので、中卒の自分でも解けるはず。けれど、知識にぼんやり霞がかかっている。そのせいでなかなか手が届かず、引っ張り出すこともできない。
 これは半分他人の記憶のようなものだからか? それとも単に俺の頭が悪いだけ? ここ北日本王国の初代王・伊東 旭を再現した模倣体たる彼は、ついに頭を抱えて自問する。ひょっとしてオリジナルの自分は馬鹿だったのでは?
「あ、そうだ。そういえば昔の俺も数学は苦手だった」
 そんなことだけあっさり思い出せた。問題の解き方は相変わらず浮かんで来ないのに。
「くそっ、こんなんじゃ、また朱璃(あかり)に馬鹿にされる……」
 とりあえずわからない問題は飛ばして次にとりかかることにした。次の問題には短時間でどうにか解答を書き込む。多分合っている。
 朱璃とは、彼を筑波山で見つけて保護してくれた少女の名である。なので一応は恩人ではあるのだが、常に小馬鹿にするような笑みを浮かべ見下してくるし、初対面でいきなり拷問された。その後も監禁されるわ銃で撃たれるわとロクな目に遭っていない。そのため苦手な子だ。
「顔は可愛いのにな……」
 自分より二歳下なのだが、小柄で、もっと幼くも見えた。海外の血が混じっていて赤毛に青い瞳。目鼻立ちがクッキリしており、旧時代の東京に住んでいたオリジナルの自分の記憶を総ざらいしても、そうそう並ぶ者が見つからないほど容姿が整っている。あれで性格も良ければモテモテだろうに、もったいない。
 加えて、オリジナルの自分の血を引いている子孫だからなのか、どこか母にも似ている。おかげで叱られる時などは必ず母の顔が脳裏に浮かんでくるのだ。それも苦手な理由の一つ。
「子孫なら先祖の俺に優しくしてくれりゃいいのに……」
 言ってから寒気がした。優しい朱璃を想像すると、それはそれで気色が悪い。絶対に裏で何か企んでいるはずだと勘繰ってしまう。
「……勉強しよ」
 さぼっているところを見つかったら、またあれこれ言われてしまう。現実逃避の思索を止め、再び机に齧りつく彼。
 だが、またすぐに頭を抱えて唸り出す。わからない問題が多すぎる。
「どうして俺に全部の記憶をくれなかったんだよお……大人ならこんなの解けたはずだろ。俺の馬鹿野郎……!」


 アサヒの脳には、オリジナル、つまり“伊東 旭”の記憶が一七年分しか詰まっていない。
 彼は先日、東京に長年巣食っている巨大な竜・シルバーホーンの体内からサルベージされた。オリジナルが二〇〇年前に取り込まれて以来、ずっとあの中にいたのだ。ただしサルベージされた彼は伊東 旭本人ではなく、その一七歳時の肉体を再現した生物型記憶災害、すなわち“竜”になっていた。
 サルベージしたのは朱璃達ではなく、南日本から来た“術士”と名乗る女性達。彼女達から聞いた話と、オリジナルが断片的に与えてくれた情報によると、自分が一七歳時の姿なのも、その時点までの記憶しか持っていないことにも意味があるらしい。ただ、その意味とはどんなものかは彼女達の口からもオリジナルの自分からも教えてもらえなかった。

 知ってはいけない。

 記憶を探ろうとすると、決まってそんな意識が浮かんで来る。多分オリジナルの自分がかけた暗示のようなものだろう。興味すら持つなと言いたいらしい。
 オリジナルの自分が失踪したのは四七歳の時。シルバーホーンに挑んで取り込まれたのもその直後のことだそうだ。つまり自分には本来、さらに三〇年分の知識と経験があるはず。それさえ継承できていれば、きっとこんなことにはならなかったのに──アサヒは床に正座しながらオリジナルの自分を恨む。
「アンタ、馬鹿?」
「……」
 どこかで聞いたようなセリフだと思ったが言わないでおいた。多分目の前の少女に通じる冗談ではない。
「どうしてこんな問題も解けないのよ? 中学校は卒業したんでしょ?」
 バシバシと例のテスト用紙を叩く彼女。アサヒが座っていても頭の高さがそれほど上になっていない小柄なこの子こそ、初対面でいきなり拷問を実行した“悪魔っ子”こと星海 朱璃だ。北日本王国の王太女でオリジナルの伊東 旭の子孫。なおかつ史上最年少で特異災害調査官になり、数人の大人を率いて“星海班”のリーダーを務める才媛。研究者・開発者としても有能で、兵士や調査官が使う魔法増幅機能付きの銃は彼女によって生み出されたものだそうだ。
 そんな天才中の天才少女からしたら当然、中学レベルの問題すら解けない馬鹿は虫けら同然だろう。
「こちとらアンタの子孫なのよ? 子孫に恥かかせる気?」
「そ、そんなつもりは……」
「じゃあしっかり勉強しときなさい。次もこんな点取ったらぶっ殺すわよ」
「はい……」
 陳腐な脅し文句だが、彼女の場合、本気で実行するかもしれない。そう思わせるだけの“実績”があった。
 結局、何一つ言い返すこともできず新たな宿題を出され、ため息をつく。今度また悪い点を取ったら、いったいどんな目に遭わされることか。朱璃が去った後の室内で再び机の前に座る。しかし手は動かない。まずはやる気を出さなくては。
 せめて教科書があれば復習できるのに。朱璃は数枚の問題用紙しか置いて行かなかった。誰か教えてくれないかな。部屋の前には見張りの兵士達がいる。頼んだら先生になってくれるだろうか? そんなことを考えながらドアを見つめていると、いきなりそれがノックされた。
『ハロー、アサヒくん。朱璃ちゃんの残り香で悶々としとるとこ悪いんやけど、入ってもええか?』

 何言ってるんだ、あの人は。

「いいですよ。あと、変なこと言わないでください」
『ホンマ? ホンマに変なことしてへんか? お姉さん嫌やで、昔の少年マンガみたいなラッキースケベ展開』
「宿題してるだけですよっ」
「ほな入ろ」
 あっさりドアを開けて入室して来る金髪美女。朱璃が率いる“星海班”のメンバーで特異災害調査官のカトリーヌだ。何をしに来たんだろう?
 彼女はアサヒの目の前まで近付いて来ると、無遠慮に答案を覗き込んだ。
「なんや、まだ名前しか書いてへんやないの?」
「こ、これからやるんです」
 そう強がって鉛筆を持ち上げる彼。だが、今回は一問目から躓いてしまう。
 しばし数式を睨んで唸っていると、カトリーヌが肩を叩いた。
「なん──うにゅっ」
 古典的ないたずらで頬に指が突き刺さる。
 若干、イラっとした。
 だが抗議するより早く相手が口を開く。
「そんなこっちゃろうと思ったんで、助けに来てやったんやないの。お姉さんが家庭教師したるわ」
「え? ほんほに?」
「ホンマホンマ。こないだの一件の事後処理も済んで、暇になってもうてな。うちとしても適当な暇潰しが欲しかってん。そこへ朱璃ちゃんから頼まれたんで引き受けたってわけや」
「朱璃が?」
「せや。今のまんまのド低能じゃ王都へ連れて行くのは恥ずかしい。せめて犬猫レベルまでは鍛え上げておかないと、って言うてたで」
「……」
 言いそうだ。というか言ったんだろう。朱璃だもの。
ひゃあ、おえあいしまふ(じゃあ、お願いします)
「ん? なんて?」
「|おえあいしまふ。へいうは、うい、おへへうあはい《お願いします。ていうか、指、どけてください》」
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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