一章・崩界(2)

文字数 3,740文字

 夜──長い長い順番待ちの末、ようやく乗ったエレベーターの中で待つことさらに数分。
地上に戻った少年達を、一足先に仕事を終えていた母親達が出迎える。あるいは同じ現場で働く父親や兄弟と並んで帰る者達の姿もあった。
 旭は迎えに来た人々の中に母・(あきら)の顔を見つけて駆け寄って行く。
「母さん」
「初仕事、ご苦労」
 息子の顔を見てニカッと笑う母。鋭い目付きに短い黒髪。色褪せた水色のシャツに膝のところが擦り切れたジーンズというラフな出で立ち。とても一五の息子がいるようには見えない若々しい容姿だが、実際まだ三二歳である。高校生だった頃に妊娠して中退。旭の父親だった同級生は出産直前に交通事故死。以来、実家にも頼らず女手一つで息子を育ててきた。
「一人で帰れたよ」
 旭の方は、そんな母を心配そうに見つめる。長年の苦労が祟ってしまい、彼女は二年前に一度倒れ、心臓疾患だと診断された。幸い順調に快復してきてはいるのだが、まだ無理をしていい体ではない。
「大丈夫だって。最近ずっと調子良いしさ。家事だってばあちゃんが昼に来て全部やっちゃうから、ぶっちゃけ暇なんだよ」
「ならいいけど……」
 母が迎えに来てくれたことは嬉しい。でも、やはり心配になる。複雑な表情を浮かべていると、その背中に声がかかった。
「じゃあな旭、また明日」
「あ、おう、またな」
 振り返って手を振っている友人に、同じように振り返す。
「あれ三島君?」
「うん」
「良かったじゃん、同じ現場か」
「中学ん時のクラスごと配置されるから。その方がすぐ連携が取れるって理由で」
「あ、なる」
 そんな会話をしながら他の親子と同じように帰路を歩き出す二人。ひんやりした夜風に、ほんの少しだけ花の香りが混じっていた。地下だと季節を感じにくいが、そういえばもうそろそろ桜の咲く季節だ。
「あー、気持ちいいねえ」
「うん」
「でも、これもあと一ヶ月とちょいで終わりか。だだっ広いから地下にも風は吹くのかもしれないけど、空調くさい風なんだろうな」
「まあ、しかたないよ」
 地下都市での生活に早いうちから順応すべく、少し前から東京都民は下への移住を開始している。すでにあちらに生活の拠点がある人々は、エレベーターには乗らず直接新居へ帰宅したはずだ。
「あの二人も馴染めるといいんだけど」
「だね……」
 学生時代に妊娠して以来、母は祖父母と疎遠になっていた。だが最初の入院以降、その関係も変化している。今では頻繁に顔を合わせており日中は祖母が母の面倒を見てくれていた。
 そんな祖父母とは来月から同居する予定。地下への移住を機に一緒に暮らそうと母から提案して、それを了承してもらった。旭としても二人のことは嫌いではないし、ちゃんと家族として付き合っていきたい。
 自分達が地下へ移るのは来月。そうなったらもう地上へ出られる機会は当面無い。予測通り彗星が衝突した場合、最低でも数年は地底人だ。そのまま地下で寿命を迎えてしまう人だっているだろう。祖父母はまだ若いから大丈夫だと思うが。
 母も……いや、縁起の悪いことは考えるものじゃない。

 ──今も観測と軌道計算は繰り返されている。けれども依然として彗星は地球との衝突軌道に乗ったまま。自分達の努力が徒労に終わる幸運は未だ訪れていない。

「早く終って欲しいよ」
「……」
 大人は良く似たようなことを言う。二年前にようやく顔を合わせた祖父母も、中学時代の担任も同じことを言っていた。
 旭はこうなる前の時代をあまり知らない。でも母や祖父母や先生がそう望むのであれば、なるべくその通りになって欲しいと願う。
 それに──
「今日、帰り際に監督さんから言われたんだ」
「ん?」
「俺、昔だったらオリンピックに出られたかもって」
「あー」
 たしかにねと、母は頷く。
「アンタ、アタシに似て体力バカだし、脚も速いもんね。そうか、スポーツやってりゃメダル獲れるかもしんないわ」
「そのオリンピックってのは、年齢制限とかあるの?」
「んにゃ? たしか無いよ」
 そう言うと、母は両手首と肘を幽霊の物真似でもするように折り曲げて体を上下に揺らした。
「馬術だったかな? なんか凄い年齢のおじいちゃんが出場してるのを子供の頃にテレビで見た」
「じゃあ、俺も出るよ」
 昔より大気汚染が改善された上、照明は少なくなったから、東京でもある程度なら星が見える。
 そんなまばらな星空を見上げて誓った。
「あそこから大きな星が落ちてきて、皆で地下に隠れて、地下でじいちゃんやばあちゃんと一緒に暮らして……それが終わったらきっと、俺はオリンピックに出るよ」
 そしてメダルが貰えたなら、母に手渡そう。全部母のおかげだから。
 一際大きく輝く星を、そのメダルに見立てて掴んでみる。
 母はと言えば、息子の突然の決意表明をニヤニヤしながら聞いていた。
「いいね。アンタはまだ若いもん。十年後だって現役世代だろうし、頑張りな」
「うん、頑張る」
 今からその時が楽しみだ。本当にメダルを渡せたら、母はいったいどんな表情になるのだろう?
 本人に自覚は無かったが、この時が生まれて初めて明確に、彼の人生の目標が定まった瞬間だった。



 ──二年後、二〇五〇年七月十日一九時四七分。
 伊東 旭の手の中には、千切れた母の右腕があった。
 悲鳴が上がる。聞き覚えのある無数の声。
 級友が、恩師が、彼の祖父母が炎に包まれて叫んでいる。短い絶叫の果てに黒焦げの炭と化して横たわる。

 なんだ?

 状況が理解できない。何かが起きた。何かが起きてこうなった。けれど何が起きたのか、どうしても把握できない。

 母さんは?

 腕しか残っていない。腕だけ、しか──

 咆哮が轟いた。自分の声か、それ以外の何かなのかも判別できない。肺が破けてしまいそうなほど大声で叫んでいることだけはわかる。
 彼自身も炎に包まれた。けれど燃えることは無かった。
 みんな焼け死んでしまったのに、何故自分だけ?
 わからない、わからない、わからない。

 でも、殺してやる。

 歯が軋む。顎が砕けそうなほど強く噛み締める。脳内が赤い殺意で一色に塗り潰されていく。ちょうど目の前にいる巨大な怪物のように。

 ──気が付けば彼は空中にいた。地底にいたはずなのに、いつの間にか銀色の空を落下していた。東京の街並みを一望出来るほどの高度。再会は何年も先になると思っていた地上の風景。それが今や地獄と化している。

 東京が燃えていた。都市全体が炎に包まれている。その炎が渦巻き、いくつもの巨大な竜巻を形成した。
 海が盛り上がり、何かが水中から這い出して来るのが見えた。地下から逃げ出して来た人々が異形の怪物に捕まり、無惨に引き裂かれるのが見えた。
 それでも脳裏に浮かぶ言葉は一つだけ。

 殺す、殺す、殺す。

 渦を巻く。炎を巻き込み、彼の周囲でも竜巻が生まれる。炎の赤に混じって銀色の霧が光を放つ。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!

 血の涙を流しながら叫んだ彼の視線の先には、同じように咆哮する赤い竜が羽ばたいていた。鼻の頭から一本、太く鋭い銀色の角を生やしたドラゴン。
 現実に存在するはずの無いその怪物の眼は、天高く舞い上がった怒れる少年を追いかけ、彼の背負った球体をも同時に捉えた。

 ──割れた月。まるで縦長の瞳孔のような亀裂から、涙のように流れ出す銀の輝き。
 同じ光がこの東京の地から周囲へ、全世界へ広がり続けていた。悲鳴が、悪夢のような“災害”が誰にも止められることなく拡散して行く。
 アメリカの首都ワシントンD.C.ではポトマック川から現れた“モンスター”によりホワイトハウスが破壊され、その報告を最後に通信途絶。三時間後には全住民の姿も消失していた。
 ロシア西部では街に強酸の雨が降り注ぎ、それを巻き込んだ無数の竜巻によって一時間で百万を超える犠牲者が発生。
 中国の穀倉地帯・黒竜江省には突如としてイナゴの群れが出現し手当たり次第に穀物を食い漁った。さらにそのイナゴ達を狙った巨大な蜂の群れが人間をも連れ去り、発見時に彼等は無残な肉塊に変えられていたという。
 ロンドンは深い霧に包まれ、巻き込まれた住民達は幻に惑い、狂気に陥った。さらには墓場から死者が蘇り、まだ生きている者達に襲いかかる。
 東京は二三分で壊滅した。少年が空中へ駆け上がった直後のことである。

 全ての始まりはここだった。この都市を中心に文明は崩壊した。殺意に思考を塗り潰された少年は落下しながら拳を叩き付ける。鋭い角でそれを迎え撃つ巨竜。
 次の瞬間、数km先まで大地が弾け飛んだ。彼等を中心に高々と舞い上げられた大量の土砂は、やがて何かに吸い寄せられ大きな渦を形成する。

「なんだ、あれ……」

 遠く離れた地にいて生き残った人々は目撃した。天地を繋ぐ一本の柱、銀色の光の柱を。そして、その根元で回転する巨大な壁を。
 やがて柱が細くなり消失した頃に人類は知った。新たな時代が訪れたことを。自分達の良く知る旧世界の終焉を。
 後に人々はこの日を“崩界の日”と名付け、それを引き起こした現象を“記憶災害”と呼ぶようになった。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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