過去編【ルーカス・ブラウン】

文字数 5,038文字

 彼は米陸軍の一等軍曹で、たまたま日本語を話すことができた。祖父の友人に日本人がおり、少年時代、祖父に頼まれ彼から日本語を教わっていたからだ。いつか自分が夢を叶えて日本へ渡ったら、その時は通訳としてお前も連れて行く。それが祖父の口癖だった。
 何故かは知らないが、祖父は祖国(ステイツ)に絶望していたらしい。だから日本に移住したいと死ぬまで言い続け、結局は叶わぬまま六二歳で病死した。死因は膵臓がんだったが、ルーカスは異常に高い医療費こそ真の死因だと思っている。祖父が死んで情に厚い両親の作ってしまった借金だけが残った時、彼もまた生まれ故郷が嫌いになった。
 とはいえ借りたものは返さなくてはならない。そのためには働く必要がある。そして彼には頑丈な体と日本語を話せるスキル以外、これといって優れた才能も技能も無かった。金が無いのだからもちろん進学もできない。なのでハイスクールを卒業すると同時に軍に入隊して、数年かけて一等軍曹まで昇進した。

 さて、その昇進直後である。
 上官に呼び出され、彼のオフィスでこう言われた。

「ブラウン、日本へ行ってくれんか?」
「日本……ですか?」
「東京の赤坂プレスセンターで通訳をしていた曹長が妊娠した。彼女は子供のためにも両親の為にも一国も早い帰国をと望んでいる。で、君に彼女の代役をして欲しい」
「他には誰もいなかったのですか?」
「カタコトならともかく、君ほど流暢に日本語を話せる兵士はそうそういるもんじゃない」
 まあ、そうだろう。あんな難解な言語、自分でもよく覚えられたものだと時々不思議に思う。日本人も英語に対して同じような感想を抱く人間が多いそうだが。
「もちろん君には拒否権もある。しくじったのは向こうなんだ。責任も連中に取らせてやればいい」
 むしろ断ることを望んでいるかのような上官の態度に、思い出す。たしかこの人と非常に険悪な関係の少佐が日本にいたはずだなと。ということは、この一件で責任を引っ被るのはその人物なのかもしれない。
 しかしルーカスは即決した。
「いえ、引き受けさせていただきます」
「そうか」
 それならそれで構わないと上官も簡単に承認する。代役を派遣してやれば嫌いなアイツに恩を売れる。どっちみち損は無いと踏んだようだ。
 ルーカスとしても、そんなお偉いさん同士の確執なんてどうだっていい。彼はただ、この機に乗じて祖父の夢を代わりに叶えてやりたかっただけである。永住するわけではないのだから、天国の彼が納得してくれるかどうかはわからないが。


 ──そして、こうなった。


「ああ、チクショウ……日本になんて来るんじゃなかった」
 なんたってここは、あの有名な怪獣映画の聖地だ。夜の東京。そのド真ん中に出現した巨大なドラゴンを見下ろし、後悔の念を吐き出す。
 彼等はついさっきまで地下都市にいた。多摩の地下に建造された超巨大シェルターに。だがそこへ突如大量の水が流れ込み水没してしまったため、慌てて脱出した。
 地上へ出ると、地下以上の地獄が待っていた。次々現れる怪物。突発的に発生する災害。いったい何が起きているのか誰にもわからない。自分達のいた東京第二シェルターは完全に水没してしまったし、どうにか脱出できた者達もおそらく大半がすでに死滅している。なにせ武装していた自分達でさえ、ほとんどが横田飛行場まで辿り着けなかった。
 生き残ったのは自分と仲間が一人。研究員一名。それにパイロット。この四人だけ。基地にあったヘリを無断拝借して空中へ逃げた。そして第一シェルターのあった新宿に赤い巨竜が現れる様を目撃した。

 いや、もう一つ。

「な、なんだありゃ?」
 光──銀色の小さな光が赤い巨竜と共に空中高く駆け上がる。そして、その両者に向かってやはり銀に輝く霧のようなものが吸い寄せられて行き、巨大な二つの渦を形成した。
 その幻想的な光景にルーカス達が魅入った瞬間、機体がガクンと揺れる。
「うわっ!?
「どうした、おい!」
「わ、わからない! 急に操縦がきかなくなった!? で、電気系統がイカレ──うああああああああああああああああああああああっ!?
 いつの間にか、パイロットの腕に小さなものがびっしりと貼りついていた。醜悪な小人──まさかグレムリン?
「やめ、やめろ! 来るな! やめてくれっ!!
「ぎゃあああああああああああああああああああっ!?
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃはは!」
 小人達はルーカスらパイロット以外の三人にも群がって来た。牙や爪を立て容赦無く肉を削る。激痛に顔を歪めながら振り払おうとする同僚。しかし離れない。それを見たルーカスは機体に手足を叩きつけて小人達を潰す。
 直後、恐怖に耐え切れなかった研究員がヘリの外へ飛び降りた。
「ウィル!?
 必死に手を伸ばしたルーカスの、その指をすり抜けて落下して行く彼。
 瞬く間に遠ざかる姿が、彼方からの眩い光に照らされた。
 轟音が迫って来る。自身もまた恐怖で心臓を握り潰されそうになりながら、ルーカスは顔を上げ、そして見てしまった。
 上空で発生した核爆弾にも匹敵する眩い閃光。それが膨れ上がり、眼下にあるもの全てを飲み込みながら巨大な球体と化す。
 幸い、ここまでは届かない。けれど、目には見えない衝撃波があっという間に到達してヘリをバラバラに引き裂く。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?

 やはり何が起きているのかわからぬまま、彼はその波に飲み込まれた。
 そして不思議なものを見た。

『死ぬな』
『生きろ』
『頑張るのよ』

 ──日本にいるはずのない両親が。そしてとっくの昔にこの世を去った祖父が目の前に現れて盾となってくれた。

 何故?

 涙を流しながら、ルーカスは地上へ落下して行った。



「……生き、てる」
 何時間も気絶していたらしい。目が覚めると夜明けが近かった。瓦礫の上に倒れていた彼の体には、多少の打ち身や擦り傷があるくらいで大きな外傷は無い。
 守られたのか? 衝撃波に翻弄されながら見た家族の幻のことを思い出す。まさかとは思うものの、そもそも昨夜起きた全ての出来事が異常事態だったのだから、そんな奇跡の一つや二つ起きてもおかしくない気がした。
 立ち上がって歩いていると、やがて他の生存者達が彼を見つけて集まって来た。ルーカスの腕の中にはいまだ小銃が握られており、服装も軍服。この状況下では頼りたくなってしまうのもしかたがない。
 どうも自分達の現在地は東京の西端らしい。ということは、この人々は第三シェルターの生存者かもしれない。
 東の方では、あれだけたくさん立ち並んでいた高層ビルが軒並み消滅していた。あの光の真下にあったからだろう。向こうにいた人々は、おそらくすでに……。
 ともかく彼は、皆に一刻も早く武器を持たせるべきだと判断した。まだ異変は続いていたから。
「いやああああああああああああああっ!?
「走れ! 走れ皆! 行け!!
 突如現れた自分よりでかいカマキリという異常な怪物を銃撃で牽制し、他の皆を先に逃がす。
 横田飛行場だ。あそこまで戻れば、きっと銃が手に入る。皆で武装して立ち向かえば敵を倒せる。生き延びることができる。今はそう信じるしかない。
 他の生存者達を守りながら逃げ続けるうち、彼は一つの事実に気が付いた。

 こいつらにはタイムリミットがある。

 とても現実のものとは思えない怪物達。そのどれもが、種類に関係無く一定時間の経過によって消失する。腕時計のストップウォッチ機能で計測してみたところ一〇分でそうなった。正確かはまだわからないが、およそそれだけの時間が経てば敵は勝手に消失する。
 それに気付いてからは下手に攻撃せず、隠れてやり過ごすことを優先した。他の生存者達にも方針を徹底させた。
 そして横田飛行場へ戻ると、幸いにも武器がたっぷり残っていた。在日米軍も自衛隊もロクな反撃ができないまま壊滅してしまったのだから当然と言える。
 武装した途端、日本人達は強気になった。普段銃なんて触ったことが無いのだから気が大きくなるのは理解できる。しかし危険だとルーカスは思う。

 奴らは銃では倒せない。

 銃弾を弾く強固な皮膚や外骨格を持つ生物が大半だし、ダメージを与えられたとしても何故か瞬く間に再生してしまう。あんなもの戦車砲やミサイルを使ったって倒せるかわからない。
 それに、どうやらそれら強力な兵器の大半は使用不可能に陥ったようだ。生存者の一人が無事だったジープを動かそうとしたことで別の事実も理解できた。昨夜のヘリと同じように無数のグレムリンが現れて彼を八つ裂きにしてしまったからだ。どうやら怪物達は電力をトリガーに発生してしまうらしい。ならば、それが必須な現代兵器の大半は使えるはずも無い。
 その事実は、もう一つの絶望的な現実を彼等に突き付ける。
「乗り物が使えないんじゃ……どうやって脱出したらいいんだ……」

 東京は今、巨大な銀色の雲の壁で囲われていた。その壁の近くでは昨夜見たものよりは遥かに小さいが、まるでファンタジー映画に出て来るワイバーンのような怪物達が無数に飛び交っている。あれでは近付くことさえ難しい。
 しかし、それに関してはすぐにアイディアが閃いた。

「地下鉄だ」
 ルーカスの提案に、全員が目を輝かせる。
「地下鉄のトンネルを使って壁の外に出よう」
「それだ」
「それしかない、そうしよう」
 他の皆も賛同してくれたため、路線の集中している東へ移動することになった。あの謎の爆発の爆心地に近付いて行くわけだからもちろん恐怖心はあったが、同時に、東京の中心がどうなったのかを確認してみたいという好奇心も抑え切れなかった。こちら側に親しい友人や家族がいた人間もいるのかもしれない。
 そして彼等は、そんな自分達の選択を後悔した。
「な、なんだよあれ!?
「怪獣!?
 やはり彼等は西側の第三シェルターの生き残りだったらしい。誰一人として奴の姿を見ていなかった。
 ルーカスだけが知っていた。ヘリに乗って空中から見下ろした巨体。あの赤い竜が徐々に再生しながら昨夜の爆発で生じたクレーターの中心で立ち上がろうとしている。パニックに陥った何人かが銃撃した。しかし距離が遠すぎて届かない。届いたところで、あんな一〇〇m以上ありそうな化け物に通じるはずが無い。単に注意を引き付けてしまうだけ。
「やめろ!」
 ルーカスの声も恐慌状態の人々の耳には届かない。さらに音を聴きつけたのか他の小型の怪物達まで集まって来た。
「う、うわあああああああああああああああああああああああああっ!?
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
 再び地獄絵図が生じる。怪物に蹂躙される人々。さらには体内から発火して炎上する者もいた。
 電気──まさか、この現象は神経に流れる電気パルスでも引き起こされてしまうと? だとしたらもう人類に生き残る術など無い。

 彼が、そう考えた瞬間、
 否定するかのように光が走った。

「オォッ!」
 少年だ。日本人らしき少年が全身から銀色の光を放ち、それで推進力を生んで超高速移動しながら圧倒的なパワーを発揮し怪物共を打ち砕いて行く。銃でさえ全く通じなかった敵を粉々にして銀色の塵と変える。

 誰もがその姿に魅入った。敵も味方も否応無しに惹きつけられた。
 人類が記憶災害の脅威を知ってから二日目、彼等は自分達の中にそれに対抗しうる可能性が眠っていることを知った。
 一人の英雄の登場によって。

「今なら抜けられます! 皆、急いで!!
「そ、そうだ! 今なら逃げられる!」
 彼の言葉で我に返ったルーカスは人々を先導して地下鉄駅の入口へ向かって走り出す。振り返ると、あの謎の少年に一人の少女が近付いていく姿が見えた。

 それが後の北日本王国の初代王と王妃の出会い。
 そして四騎士の一人に数えられるルーカス・ブラウンと彼等との出会いでもあった。

 ルーカスは日本人の女性と結婚し、その子もやはり日本人と結婚し、彼が先祖から受け継いだアフリカ系アメリカ人としての遺伝的形質はどんどん薄れていったが、魔素の影響によって先祖返りを果たした子孫が奇しくも旭の子孫と彼の模倣体との出会いに立ち会うことになったのは、二五〇年後のことである。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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