八章・進化(1)

文字数 4,526文字

「?」
 アサヒと別行動になってからしばし後、地上へ出た朱璃(あかり)は、周辺の地形を撮影する手を止め地下都市の方へ振り返った。
 不可解そうな彼女を見て、カトリーヌが問う。
「どうした?」
「いや……なんか、ね」
 どことなく懐かしい気配を感じた。ここは生まれて初めて訪れる土地。共に北日本から来たメンバー以外、知ってる人間などいるはずもないのに。
 気を取り直して再び辺りを見渡す。
「しっかし、なんにも無くなってるわね」
 空が高い。遮るものが無いせいで日差しが強すぎる。風はあっても涼しくない。あまり長居すべき場所ではなさそうだ。
「根こそぎ持っていかれたからな」
 荒涼とした風景を眺め、悲しむわけでなし、怒っているわけでもなし、ただありのままを受け入れた諦観の表情を見せるカトリーヌ。彼女は本来術士隊の一員だが、どうしても朱璃に護衛を付けたかった月華に、この戦いが終わるまで星海(ほしみ)班に残りなさいと命令され従った。朱璃も何も言わないので、まだ自分を班員として認めてくれているらしい。

 ──二人の言葉通り、地下都市大阪の直上、かつての大阪府があった場所は何もかもが削られ無くなってしまっていた。地下都市に続く裂け目の周辺は傾斜がついていて、それ以外の場所は真っ平。遮蔽物が無いから遥か彼方まで見渡せる。これでは写真を撮る意味も無い。朱璃はカメラをカバンにしまう。

「……大阪だけじゃないわね」
 目安になる建物や山が無いため、目視では測り辛いが、大阪だけでなく周辺の都道府県まで更地になっているようだ。和歌山が海底に沈んだという話も事実だろう。あるはずの方向を見ても海しかない。
「霊術に頼るわけだわ」
 霊術、魔法、陰陽、サイキック──オカルトじみた技や力は、旧時代には眉唾物でしかなかった。あったらいいな、面白そうだと考えるだけで、大半の人間はその実在を疑っていた。ハナから信じない人間も多かっただろう。
 しかし“崩界の日”以降、北に超常的な力を持つ英雄・伊東(いとう) (あさひ)が現れたように、ここ南日本においても神秘は神秘でなくなった。天王寺(てんのうじ) 月華(げっか)という“本物”が現れ、人々を救ったから。
 けれど、この惨状を見るに別の理由もあったことは容易に察せられる。誰もが縋るしかなかったのだろう、眉唾でもなんでも不可思議な力に。溺れる者は藁をも掴むというではないか。
 山林は本来、人に多くの恩恵をもたらす。地上で耕作できなくなった現代、自然に山菜や木の実が生産される環境は人の腹を満たす重要な食料源だ。木が生えなければ薪も取れない。獣が棲めない土地では、狩りだって出来なくなる。
 だが霊術があれば、薪無しで火を扱える。空が飛べる術士達なら、山林がある場所まで遠出して狩りを行えるだろう。地上と地下、両方に深刻な被害を受けてしまったこちらの人々にとって、霊術は命綱なのだ。絶やせば自分達の生活も成り立たなくなる。
 ふと、朱璃は地下都市へ続く谷に目を留めた。元々海に面した土地だけあり、海は目と鼻の先。その一部が川となって地下都市へ流れ落ちている。つまり例の瀑布。
 人工の水路のようにまっすぐ流れて来るそれを指差し、問いかける。
「あの川は汚染されてないの? その“蒼黒”に」
 敵は海と一体化している。なら海水や海棲生物にも危険があるのではないか?
 さっき、ここへ上がって来る前に養殖場を視察した。地下都市大阪の水没地を利用して作られた巨大な生け簀。あれも南日本の貴重な食糧生産地。当然、汚染を許しているはずは無い。
 だからといって決めつけては危険である。こちらが無いと思っても、そのはずだと推察しても実際には違うかもしれない。だから確認が必要。
「安心しろ、母様の結界が危険を弾く」
「汚染を除去できると?」
「汚染された生物が入って来られないのさ。霊力障壁は魔素障壁とは根本的に違うものだ。疑似魔法の障壁は魔素にイメージを再現させて形成した物質的な盾。霊力障壁は術者の心の壁、自他の境界線を拡張する精神的防壁だ」
「境界線?」
「自分と他人は違う。誰もがその事実を認識しているだろう? そうして創り上げた心の壁の中には、人それぞれの“世界”がある。そこに何を受け容れ、そして何を拒絶するか、決められるのは当人だけだ。霊力障壁とは、その境界線を操作して物質世界に干渉する技だと、母様からはそう教わった」
「つまりアンタ達の使うアレは、術者の認識次第で任意の対象を透過させられるってことね?」
「ああ。光や音、空気、そういったものを普段は透過対象に指定してある。その方が便利だからな」
「でしょうね」

 疑似魔法で作り出す障壁は、彼女の言った通り物質的な盾だ。体内に蓄えられた微粒子を体内から放出し、脳が思い描いたイメージを再現させ形作る。だから空中に固定された状態をしっかり想像しないと、重力に引かれて落下してしまったりもする。
 また物質的な盾だけに、あれらはあらゆるものを遮断してしまう。透明な盾を想像することで視界は確保できるし、音も障壁そのものが振動することにより伝わる。けれど周囲を完全に覆う形で展開した場合、空気は入って来られなくなる。
 以前、シルバーホーンとの戦いの最中、魔素障壁で身を守りながら炎の中を突っ切ったことがあった。あの時、自分達は障壁内の酸素が尽きてしまうことを心配したのだが、仮に霊術を覚え、霊力障壁を展開できていたら話は違っただろう。透過対象を任意で変えられるということは、たとえば煙から有毒な成分だけを除去して酸素を抽出したりもできる。あの時のように障壁内を冷気で満たして熱から身を守る必要も無い。炎熱そのものを遮断すればいいのだから。

(本当、便利な術ね)
 やはり確認して良かった。地下都市に流れ込む水の安全性云々より、霊力障壁の特性を知ることができた、その収穫の方が大きい。
(地下の魔素が薄い感じはしてたのよね。おそらく生活用水も霊力障壁を利用して魔素を取り除き、安全性を高めてあるんだわ。つまり──)
 霊術があれば、魔素動力式パワーアシストスーツ・DA一〇二。あれを量産化する上で最大の難点を克服できる。

 旧時代、パソコンと呼ばれた情報端末の中には“油冷式”という冷却方法を取り入れたものがあったそうだ。高熱を発するパーツを容器の中に満たした油の中へ沈めるのである。その方がファンを回し、空気の流れを作り出して冷やすより効率が高く、最大限の性能を発揮しやすかったらしい。

 そこからヒントを得た朱璃は、人工高密度魔素結晶を作り出そうという実験の初期段階において、ようやく作り出せた極めて小さな結晶を油に浸してみた。実は油という代物は電気を通さない。極めて電導性の低い物質なのである。
 それ自体は単なる安全対策だった。通電しなければ“記憶災害”も発生しない。そこを狙っただけのこと。
 ところが別の利点が見つかった。数日後、厳重に管理され誰も接触できない状態で保管されていた結晶がさらに小さくなっていたことにより気が付いたのだ。魔素にはどうやら、記憶の再現が可能な環境へ移動する性質もあるようだと。ひとりでに縮んだのは、一部が拡散して外へ逃げ出したからではないかと。
 そして、これを利用できないかと考えた。当時の彼女が生み出した結晶は自然界にあるもの同様、様々な記憶が保存された危険な物質。その記憶を取り除くことができれば純粋なエネルギー源として利用可能になる。
 思いついた方法は単純だ。魔素が簡単に出ていけないよう、容器にフタをする。ただし完全に閉じ込めてしまってはいけない。少しずつなら外へ出られるようにしておく。
 はたして、この試みは成功した。おそらく魔素は少しでも脱出の効率化を図ろうとしたのだろう。人間のような意思に基づく選択ではなく、粘菌がビーカーの中に作られた迷路を最短の手順で攻略してのけるのと同じように、本能的にそうした結果だ。
 魔素は先に脱出した分に、保存してあった記憶の全てを託し、油で満たされた容器の中には純粋な、何の記憶にも汚染されていない結晶だけを残した。元より小さくなっていたけれど、たとえ電気に触れたとしても暴発事故を起こす危険性が無い安全な欠片。
 後はさらに簡単だ。同じことを繰り返して必要な量の結晶を生成すればいい。そうして生み出されたのが友之と小波に使わせているDA一〇二の動力源というわけである。

 ただし、この方法ではたった一つの“竜の心臓”を作り出すため、実に二週間もの時を要する。そのくせ一つでDA一〇二を稼働させられる時間は二〇分だけ。

「来た甲斐があったわ」
 霊力障壁の特性を利用すれば、結晶の生成工程を大幅に短縮できる。安全な結晶一個を作り出すのに、おそらく一日とかからないだろう。
 自分達北日本にとって未知の技術である霊術。これを解き明かせば、疑似魔法学もまた発展を遂げる。霊術側とて魔素を利用することにより、さらに上の次元へ到達できるかもしれない。
 月華が自分に求めているのは、こういうことだろう。なら期待には応えられる。彼女に言われるまでもなく、そうするつもりだった。
 けれど──

『アドバイスはしてあげる。霊術の基本でもあるからしっかり覚えなさい。霊術にとって最も大事な要素は霊力でも術式でもない。信じること、ただそれだけ』

 昨夜の会話を思い出す。人を信じろと言われた。その意味も、多少なら理解できているつもりだ。
 でも、まだ明確な答えは出せていない。答えというよりも、態度か。自分がどう接するべきなのか決められずにいる。

『本音を言うと、まだ少し期待してるの。貴女に足りないものは“勇気”と言い換えてもいい。魔力と違って勇気は誰にでも持てる。誰もが引き出すことのできる大きな力。勇気さえあれば、貴女は“偉大な魔女”になれるのよ。必ずね』

「……」
 一転、無言で俯く朱璃。カトリーヌは再び怪訝な眼差しを向ける。
 だが、彼女が問い質すより先に踵を返した。そろそろ戻りましょうと言って地下都市の方へ歩き出す。
「霊術はアンタが教えてくれるの?」
 てっきり術士の頭領である月華から教わるものと思っていたが、彼女はアサヒを連れてどこかへ行ってしまった。
 ニヤリと口角を持ち上げるカトリーヌ。
「そうだ、私が教えてやる。なんなら先生や師匠と呼んでもいいぞ」
「アタシだって、アンタがこっちの連中から疑われないようにMWシリーズの機密情報をくれてやったでしょ。調子に乗んじゃないわよ」
「はいはい」
 ようやく調子が戻って来た友人の手を取り、地面の亀裂に向かって身を投げ出す。瞬間、朱璃共々青白い光に包まれ、ゆっくりと地下都市大阪へ向かって降下して行く。上がって来る時にも、こうして飛翔術で飛んで来たのだ。
「エレベーターは無いの?」
「蒼黒のせいで埋まったよ。新しく設置しても月一の襲撃で壊されてしまうからな。安全なのは地下だけだし、術士さえ自由に移動できればそれでいい」
「納得だけど、普通の人間にとっちゃ不便な話よ」
「まあ、たしかにな。福島か仙台に移住できれば、こういった事情も変わるだろう」
「できたらでしょ。まずは目の前の仕事に集中なさい」
「わかっているよ、班長」
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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