一章・血族(2)

文字数 4,483文字

「二つ、君には早急に子供を作って欲しい」
「ぶっ!?
 あまりの要望にむせて吹き出してしまう。この少年、タイミングを計っていたのだろう。うろたえるアサヒを眺め、意地の悪い笑みを浮かべた。
 幸い、咄嗟に顔を背けたため剣照にはかかっていない。とはいえ、代わりに神木の袖が犠牲になってしまったから結果は大体同じだ。慌てて頭を下げる。
「すいません!」
「気にするな、そこの悪ガキが原因だ」
 神木は言葉通り、顔色一つ変えずハンカチで袖を拭う。良い意味でも悪い意味でも本当に動じない人らしい。
 その様子を面白くなさそうに見つめ、言葉を続ける開明。
「言っておくけど冗談じゃないよ。陛下は本気で曾孫の誕生を望んでいる」
「んなっ……!? で、でも朱璃はまだ一五歳だよ?」
 自分だって一七歳だ。そんなことをするには早すぎるだろう。
 常識的だと思ったアサヒのその意見は、しかしあっさり否定された。
「君の考えは旧時代的な物の見方だ。現代においては珍しいことではない」
「平均寿命が昔とは違う。早期に子を作ることは、むしろ国を挙げて推奨している」
「そういうこと。僕だってもう結婚できる年齢だよ。この国では中学校を卒業することが即ち成人でもあるんだ」
「ええ……?」
 三者に口を揃えて説得され、そういうものなのかと一瞬納得しかける。いやしかし、だからといって朱璃とそういうことをする気になれるかといったら、やはり話は別。
 そもそも相手が誰だろうと駄目だ。気が早すぎる。まだあの筑波山での出会いから三ヶ月しか経っていないのだ。
(だいいち、俺や朱璃の気持ちを無視しすぎだろ)
 抗議しなければと、そう思った。大きく息を吸って身を乗り出すアサヒ。ところが、いざ口を開こうとするとなかなか言葉が出て来ない。この少年、元来内気な性格なのだ。普通に剣照と神木の迫力に負け、怖気づいてしまう。
「え、ええっと……ですね……」
 その様子を見て、またも開明が笑った。ただし苦笑だったが。
「はは、面白いね君は。その気になれば僕達を一瞬で皆殺しにできる力の持ち主なのに、何をそんなに怖がってるんだい?」
「……そんなことはしない」
 ようやく絞り出せた反論の言葉は、それだけだった。自分は絶対にこの力で人間を傷付けたりしない。それだけは朱璃との結婚や子作り以上に許容できない。
 開明はそんなアサヒを見つめて「うん」と頷き、微笑む。
「だろうね。君は悪さができるような“人”じゃない」
「それについては、まだこれから見極めることになるが」

 再び剣照が口を開き、女王の願いを語る。

「三つ目。これが最重要だ。初代王と同じように、君にはここに留まっている間、最大限我が国の防衛にも助力してもらいたい」
「それはつまり……シルバーホーンみたいな敵が現れたら、戦えと?」
「君の力が必要になるほど強大な相手が現れたなら、当然そうなるだろう。だが平時に君を頼るつもりは無い。君がおらずとも我々は二〇〇年間生き延びて来た。今さら君一人に国防を頼ろうとは、こちらとしても思っていない」
 じゃあ何を? 訝るアサヒの前に神木が数枚の書類を差し出す。
「目を通してくれ」
「これは……?」
 何かの設計図だ。機械のように見える。
 電力が使えなくなったこの世界で?
「それらは朱璃が開発中の新兵器だ。どれも課題が数多く残されているため実用化には至っていない。しかし当人が君の協力さえ得られれば短期で完成へこぎつけられると言っている。
 つまり君への三つ目の願いは、正確に言えば研究開発への協力要請だ。可能な限り朱璃の研究に手を貸すこと。これは君という“災害”をここに置いておくための交換条件でもある。最低限これだけは絶対に守ってもらう。残り二つを拒否したとしてもな」
 裏を返せば他の二つに対しては拒否権があると? 驚くアサヒ。有無を言わさず三つの条件全てを飲めと言われるものだと、そう思っていた。
 三者はそれ以上何も言わず沈黙する。返答を待っているのだ。アサヒはしばし考え込み、やがてゴクリと唾を飲み込む。
 若干、緊張しながら答えた。
「わかりました。その……子供を作るというお話以外は、頑張ってみます」
「まあ、そこに関しては仕方あるまい」
 妥当な線だと頷く剣照。その横でにこりと笑う開明。
「知り合ったばかりだからね。愛なんてこれから育めばいいさ」
(いや、そもそも結婚したくないんだけど……)
 とは言えない臆病な自分が嫌になる。
 一方、神木もアサヒを見つめたまま、何か納得いかないという表情で眉をひそめていた。初めて人間らしい顔を見せた彼女のその姿に、ちゃんと感情があったんだなと少しばかり安心する。
(どうして朱璃と縁を切ったのか気になるけど、まだ聞ける感じじゃないよな……)
 単にそう訊ねる勇気が無いだけなのだが、雰囲気のせいにしてアサヒは問題から目を背けた。直後に部屋を出て別れて以来、この時の三人とは顔を合わせていない。
 いや、顔を合わせていなかった。
 今朝までは──



「お……おはよう」
「遅い!」
 約束の時間に遅れること五分。案の定、研究室に入るなり怒声が飛んで来た。
 ところが白衣で身を包むポニーテールの小柄な少女・朱璃は、アサヒに続いて入室して来た相手を見るなり片眉を上げ態度を変えた。
「って、アンタのせいね」
「決めつけは良くないんじゃないかな?」
 肩を竦め、アサヒの後ろから姿を現す開明。双子のように似た顔の二人の視線が真っ向からぶつかり合う。
「物事はしっかり見定めた方が良い。調査官としての資質を疑われるよ?」
「確認するまでもない事実だってあるわ。アンタ、蟻が砂糖にたかるのを見て『どうしてかな?』って思うわけ?」
「そうだね、僕なら『貴重な砂糖をこんなところに落としたのは誰かな?』って考えると思う」
「アタシじゃないわ」
「僕達が子供の頃、おばあさまから貰った飴玉がいつの間にか消えていて、蟻達がそれらしき物体に群がっていたことや、それを君が自分の飴玉を頬張りつつ熱心に眺めていた時のことなんて、僕は一言も言っていないよ」
「そう、それでアサヒ、アンタなんで遅刻したわけ?」
 いきなり話を振られ、正直に答えてもいいのかと迷ったアサヒは開明を見やる。少年は構わないよと小さく頷いた。それを確認してから朱璃の方へ向き直る。
「えっと、廊下でバッタリ開明君に会って……色々話しながら来たから……」
「ほら、アンタのせいじゃない」
「だとしても確認することは大切さ。万が一って場合もある」
「はいはい、それで何の用なの学生さん?」
 遅刻について問い詰めても埒が開かないと思ったのだろう、別の質問を投げかける朱璃。開明は研究室の中をグルリと見渡しながら答えた。
「別に、ちょっとした見学。将来はここで研究員になるのも面白いかと思ってね」
「許可は?」
「緋意子おばさんのお許しなら、もちろん貰ってある。機密に触れない程度でなら自由に見て回っていいそうだよ」
 どうだい? 探るような眼差しを向ける開明。すると朱璃は珍しく自分から先に視線を逸らした。アサヒはちょっと驚かされる。
(あいつのことが苦手なのか?)
「なら、ここからは出て行きなさい。常識的に考えりゃわかるでしょ、アタシの研究室は機密扱いの物だらけよ」
「君が常識を語るかね。まあ、そういうことなら退散するよ。またそのうちに話をしよう。ああ、それとアサヒ、僕のことは開明と呼び捨てにしてくれて構わない」
「あ、うん、また」
 あっさり引き下がった彼にも驚きつつ、本当に退室していくその背中を見送った。開明にも監視役の調査官が一人付けられていたのだが、その男も一緒に立ち去る。
(あれ?)
 監視役がいるのに開明が研究室の中に入るのを止めなかった。単にうっかりしていただけだろうか? 何か引っかかるものを感じる。
「んん?」
「いつまでボケッと突っ立ってんの」
「あ、ごめん」
 叱られて朱璃の傍まで駆け寄るアサヒ。彼の監視役である大谷は、室内全体を見渡せる壁際に立って待機状態に移行した。ここへ来た際の定位置だ。
「他の皆は?」
 朱璃には十数人の部下がいる。地上で調査活動を行う際に連れて行く調査官と、ここで研究開発を行う場合にサポートさせる研究員だ。しかし今朝は誰一人、その姿が見当たらない。
「例の装置が完成したから、先に実験場へ行って組み立ててるわ」
「装置?」
「アンタが先月ぶっ壊したやつよ。改良版がようやくできたの」
「あ、ああ~……」
 思い出した。先月この対策局本部の敷地内で研究室に収まりきらない大型装置を使った野外実験が行われたのだ。野外と言っても都市全体が地下だが。
 その際、思いっ切りやりなさいと言われた彼は言葉を額面通りに受け取って全力で挑んでしまった。結果、実験装置はバラバラに砕け散り、挙句、地下都市の内壁に大穴が空いたのである。後で物凄く怒られた。
「あれを……またやるの?」
「安心しなさい。前回の教訓を活かして今度は地上で実験することにしたわ」
「え?」
 思わぬ言葉を聞いて目を見開くアサヒ。
 それはつまり、もしかして──
「地上に出られるの?」
「たった今、そう言ったばかりでしょうが!」
 怒らせてしまった。でもアサヒは心が浮足立つのを自覚する。久しぶりにこの建物から出られるのだ。さらに地上へ上がれる。嬉しくないはずがない。
 そんな彼の表情を見た朱璃も、フッと苦笑して力を抜く。
「ついでだし街も見せてあげるわ。実験場へ連れて行く許可が降りただけだから、途中で少しだけね。局長には黙ってなさいよ?」
「ほんとに?」
 ますます興奮するアサヒ。当面無理だろうと思っていたことがいっぺんに叶ってしまいそうなのだ。無理も無い。
 しかし、そこで大谷が口を挟む。
「殿下、それは……」
「エレベーターまで、ほんのちょっと遠回りをして行くだけよ。大丈夫でしょ、アナタもいるんだし」
「……はい」
 一瞬の間を空け、頷く彼女。まだ迷いは残っているようだが、それでも朱璃の言葉には逆らえないらしい。さっきの開明のことといい、王族の発言力とはそんなに強いものなのだろうか?
「さて、それじゃあ」
 何故か白衣を脱ぐ朱璃。ここで研究者として働く時にはいつも羽織っている物なのだが、その下から意外なものが現れた。
「あれ?」
 朱璃はこれまで、いつも黒一色の飾り気の無いスキンスーツを着用していた。なのに今日は黄色と白。手足が白でそれ以外は黄色。下半身にスカート状のパーツが付け足されておりワンピースのように見える。
 ちなみに侍女の小畑の服もそうなのだが、衣擦れによる静電気の発生を防ぐため、この時代のスカートはワイヤーによって形状が固定されている。つまりは傘のような構造。
 元々整った容姿なので、少女らしい格好をすると普通に可愛く見えた。
 とはいえ三ヶ月の付き合いは伊達じゃない。アサヒは嫌な予感を覚える。なんだか話が美味すぎるような気がしてきた。
「何か企んでる?」
 彼の問いかけに、少女は呆れ顔で答える。
「デートよデート。婚約したってのに、ちっともらしいことしてないでしょうが」
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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