五章・奸計(3)

文字数 4,062文字

 一方、地上でも──
「殿下! やはり銃は通じません、弾かれます!」
 巨大ヤドカリの甲殻に対し、北日本の兵士達が持つアサルトライフルの弾は無力だった。何人かは疑似魔法による攻撃も試みているが、多少怯ませる程度の効果しか無い。朱璃の魔弾なら通用するだろうが、さっき一発撃ったばかり。すぐに二度目を使えば魔素不足で動けなくなる。この状況でそれは不味い。
 だとしても、彼女は冷静に指示を下す。
「カトリーヌ、アンタ達はあっちのデカブツに対処!」
「了解!」
「ハハッ! 焼いたら美味そうだな!」
「切り分けるのはお任せを」
 彼女達から見れば大した脅威ではないのだろう。前方に立ち塞がったもう一方の怪物へ意気揚々と立ち向かって行く術士達。すると朱璃は、その後へ続こうとした風花の服の襟掴み、彼女だけを引き留めた。
「ぐえっ!?
「アンタはこっち!」
 カトリーヌから聞いた話では、この子は守りに長けてるらしい。
「こっちは準備に時間がかかる。少しでいいから稼いでちょうだい」
「わ、わかりました! でも、もうちょっと優しく!」
「おねがい」
「はい!」
 ぞっとする笑みを向けられ、慌てて袖に手を突っ込む風花。四枚の木の葉を取り出したかと思うと、一枚ずつ四方に投げる。葉の表面には文字と謎の記号。術士が使う符というやつだ。術の効果を定め、時に増幅もする触媒。続けて彼女が呪文を唱えると猛烈な突風が生じ、渦を巻き始めた。
「うおっ、アサヒみてえ!?
「風の結界です!!
 似ているが違う。アサヒの渦が周囲の魔素を吸収する際の副産物であるのに対し、彼女の旋風は後方から迫りつつあったもう一体の怪物を押し返す。巻き込まれた隊士や調査官達には全くダメージを与えずにだ。ただの風でもないらしい。
「あっちいけ!」
!?
 少女が裂帛の気合を放つと、さらに風の渦が拡大して巨大ヤドカリを怯ませた。必死に脚を動かしているものの、それ以上前へ進めずにいる。
「これが霊術……!」
「凄いな」
 北日本の面々は改めてその威力に感嘆する。
 ところが、次の瞬間──
「下から来るぞ!」
『ギピッ!?
 いちはやく異変に気付いたマーカスが、地面から這い出してきた敵を踏みつける。悲鳴と共に緑色の体液が飛び散った。そして周囲から続々と同じものが這い出す。猫くらいの大きさの甲殻類達。

「ゾエアよ!」

 馬にとりついた一匹を、やはりブーツの底で蹴り飛ばす朱璃。ゾエアとはエビ・カニなど十脚目の幼生。親がここにいるのだから、子も同じ場所に潜んでいたっておかしくない。
「じ、地面の下までは無理です! 自分の術じゃ防ぎようがありません!」
「上等! みんな、降りて馬を守りなさい!」
 大阪までの道のりは長い。ここで彼等をやられてしまえば残りは徒歩だ。それでは着く前に南日本が亡んでいるだろう。
「殿下の指示通りに!」
「はい!」
 大谷ら王室護衛隊が真っ先に降りて攻撃を始めた。幸い、あの親ヤドカリに比べ幼生は脆く、普通に銃弾が通じる。正確な射撃で容易く蹴散らされていくゾエアの群れ。
 しかし、その様子を見たマーカスは怒鳴りつける。
「弾を節約しろ!」
「あ……はいっ!」
 そう、この先も旅は続く。浪費は避けなければならない。思い出した彼女達は突撃銃型“魔法の杖”MW二〇三のスイッチを切り替え、疑似魔法を織り交ぜながらの近接戦へと移行した。
 護衛隊は精鋭揃いだが、普段は王都の中で城勤め。このように地上で長時間行動した経験は少ない。
(感覚を切り替えよう。ここはいつでも補給のできる王都じゃない)
 マーカスのおかげで早目に気付けて良かった。大谷はさらにサーベルを引き抜く。魔素にもまた限りがあるため、陸軍、王室護衛隊、特異災害対策局、そのいずれも戦闘員には近接戦闘訓練を施す。彼女の学んだそれは現女王や故・剣照(けんしょう)と同じ流派の剣術。間合いに入った敵を半ば無意識に斬り伏せて行く。
 空識一刀流。どちらかと言えば攻撃に重きを置く流派。しかし、彼女は護衛隊士としてカウンター主体の防御技術を磨いた。視覚のみに頼らず五感を総動員し、刃の届く範囲に侵入した敵を察知して迎撃。たとえ背後から襲われたとしても、彼女にとっては死角ではない。
 とはいえ、幼生達は際限無く湧き出してくる。ついに彼女の剣を掻い潜った一匹が脚に張り付いた。
「フン!」
 すかさずマーカスが蹴り飛ばす。直後、大谷は吹っ飛んだ敵を切り裂いた。白刃は波のような軌跡を描き、さらに別方向から飛びかかって来た敵も二体続けて断つ。
「流石にやるな」
「恐縮です」
 流れで背中合わせになり、一瞬だけ連携して再び離れる二人。非常にやりやすいと双方共に考える。
(あの人の弟子なだけあるぜ)
 マーカスは昔、女王になる前の(ほむら)に教えを受けたことがあった。剣こそ教わらなかったものの、戦い方は良く覚えているし、彼女が陸軍で訓練教官をしていた頃の教え子達とも合わせやすい。

 一方、結界を維持している風花も密かに彼等の戦闘を観察していた。護衛隊士や調査官の持つ銃は、その銃口から冷気の塊を放ち、敵を凍結させて動きを封じる。彼女を狙って襲いかかった敵もそうして何体か氷漬けになり、トドメを刺された。おかげで自分で対処する必要が無い。

(MWシリーズ……)
 北日本が長年研究を続けている、魔素を用いた疑似魔法学の成果。南日本の技術者達も盗み出した情報を基に再現を試みたのだが、なかなかオリジナルほどの性能は引き出せていないという。まさしく現代の魔法の杖。
 盛岡の地下都市に潜伏していた一年の間、何度か使用される場面を目撃したことはある。だが、いずれも射撃練習をこっそり見学した程度。実戦での使用を目の当たりにしたのはこれが初めて。
(よく見ておかなくちゃ)
 スパイの自覚が無いと言われがちな彼女だが、だとしても、そういう職務についているという意識はある。役立つ発見があるとは限らないが、それでも出来る限りの情報は収集しておかなければ。
 そこへ、もう一つ疑似魔法学の研究成果が投入された。関節部から銀色の煙を吐き出し、二体の巨人が参戦する。
(で、出た!!
 梅花から話は聞いていた。それでもMWシリーズ以上のインパクトが彼女を襲う。

『お待たせしました班長!』
『装着完了です!』

 それは巨大な銃を携える、二人の重装歩兵だった。



「──四八秒。まあ、そんなとこでしょうね。改善の余地はあるけど」
 時計も見ずに言う朱璃。なんとこの状況で時間を数えていたらしい。
 現れたのは全身甲冑の二人組。中身は友之と小波。今までは門司とウォールの手を借り、荷運び専用の馬の背に括りつけられていた荷の装着作業を行っていた。

 試作型パワードスーツ・DA一〇二。アサヒの能力を解析して得たデータを基に改良を施し、先月ついに完成した新兵器。

 朱璃は風花の結界で足止めされている巨大ヤドカリを見上げ、指先を突き付けた。
「背中の馬鹿でかい貝殻を含めて全高五m弱。体重は一トンと推定。竜じゃないのが残念だけど、初の実戦投入にはちょうどいい相手。やっちゃいなさい!」
『押忍!』
『援護、お願いします!』
 金属の骨格の上に、マーカスが結婚式場で使った時には無かった装甲板が足されている。頭部全体をしっかり覆ったそれのおかげで声がくぐもって聴こえるものの、二人は臆すること無く屈み込み、クラウチングスタートの姿勢でタイミングを計った。
「結界を解除!」
「はいっ!」
 何が起きるのか見てみたい。そう思った風花は素直に風の結界を消す。
 瞬間、別の突風が吹き、地面の一部が弾け飛んだ。進路上にいて巻き込まれた幼生達がまとめて砕け散る。

『どおおおおおっ!』
『せいっ!!

 再び銀色の煙を吐き出し、巨大ヤドカリへ体当たりする二人。銃弾とは比較にならない質量に高速で激突され、巨体が大きくよろめく。
 が──
『あだだだだだっ!?
『は、反動が……』
「なにやってんのバカ!?
 憤慨する朱璃。体当たりなんて指示は出してない。衝撃で自分もダメージを受けるのは当然だ。アサヒじゃないんだから。
 しかし実を言えば、友之と小波もしたくて体当たりしたわけではなかった。想像以上の速度が出た結果なのである。
『す、すげえぞこれ! 本当にすげえ!』
『あ、ああ、流石は班長だ!』
 一旦間合いを取る二人。関節を動かす度、シリンダーが伸び縮みする。防御力を高めるため装甲を足したものだから、かなりの重量になってしまった。その状態で機敏な動きを実現すべく水圧シリンダーも組み込んである。中の液体は魔素と結合しており、装着者の意思に反応して収縮と膨張を行い、補助動力の役割を果たす。

 パワーとスピードを跳ね上げる仕掛けは、他にもある。

『小波、左!』
『!』
 ゾエアが飛びかかって来た。友之の警告を聞いた瞬間、銀色の煙を噴射してその場から跳び退く小波。生身の動きを遥かに超えた高速機動。
『友之、気を付けろ!』
『おうっ!!
 親はもう一方の友之を狙って攻撃を仕掛ける。意外に俊敏な動きで繰り出されたハサミが彼を捕えた。内側に並ぶギザギザの突起が装甲にぶつかって火花を散らす。
 だが一瞬だけだ。一旦閉じたハサミは力づくでこじ開けられる。友之の膂力がヤドカリの握力を上回り、強引に押し開いた。
『もういっちょ!』
 煙を噴出しつつ体を捻る彼。勢いのまま、ハサミを人間の手首に当たる部分から強引に引き千切ってしまう。

 これが、もう一つのパワーアシスト機能。アサヒの戦い方を参考に組み込まれた噴射器。両肘、背部、両膝に取り付けられたノズルから魔素を噴出し、瞬間的に加速を得る仕掛け。

 巨大ヤドカリは、それでもなお怯まなかった。口から吐き出す泡の量が増え、もう片方のハサミを振り回す。自慢のハサミを奪われ怒り心頭らしい。友之が攻撃をかわした隙を的確に狙い、素早く突進した。
『うぐっ!?
 押し倒され、のしかかってくる重量に抗う友之。だが今度は完全にマウントを取られてしまっている。ほとんど身動きが取れない。
『友之っ!』
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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