八章・進化(2)

文字数 4,070文字

 ──その頃、かつて小学校のグラウンドとして使われていた場所では全身甲冑の男女が延々走り続けていた。
「……」
「…………」
 ガションガションガションガションガションガション。そんな機械的な音が一歩ごとに辺りに響く。
「……」
「…………」
 黙々と走る二人。友之(ともゆき)、そして小波(こなみ)はDA一〇二を装着した状態でかれこれ一〇分近くランニングを行っていた。
 そこへ風花(ふうか)の声が響く。

「一〇分、経ちました!」

「え? もう?」
「早いね」
 同時に立ち止まる二人。ふうと息を吐き、さして乱れていなかった呼吸を軽く整えると、運動場外郭の人が大勢集まっている場所に向かって跳躍した。巨漢と長身の女が金属の鎧を身に着けたまま軽々と、高く高く宙を舞う。

「うおっ!?
「ホンマか、あれっ」

 驚く人々。その目の前で膝の両サイドから圧縮された魔素を噴出し、衝撃を和らげつつ着地する二人。自分達でも驚く。ゆうに三〇m以上を一気に移動してしまった。これでもまだ全力は出してないのに。

「すげ……」
「あれが北の新兵器……」

 同じく運動場で訓練に励んでいた若い、というより幼い術士候補生達も足を止めて振り返る。注意する立場の教官も呆けてしまっていた。
 注目が二人の調査官へ集まる中、門司(もんじ) 三幸(みゆき)が声を張り上げる。

「あー、というわけで、これが我が国の開発したおそらく世界初となる魔素動力式パワーアシストスーツ・DA一〇二です」

 内心、なんで自分がとぼやきながら解説を始めた。朱璃がカトリーヌと共に地上を確認しに行っている間、このデモンストレーションの司会を押し付けられてしまったのだ。
「ご覧の通り、うちの新米調査官二人は汗一つかかず息も切らしておりません。各関節部の水圧式シリンダーが補助をしてくれるため、生身で動く時より身体にかかる負担が軽くなっているからです」
 その言葉の直後、見学者の一人が手を挙げた。彼等は京都から来訪した“国会議員”と護衛の兵士達。南にも一応、王室護衛隊や陸軍に相当する組織があるのだ。規模は遥かに小さいが。
「重量は、どの程度のものなんで?」
「なるべく軽量化してありますが、強度を優先した結果、それでも六〇kgを少し下回るのが精一杯でした」
「俺の体重がだいたい九〇kgなんで、合わせて一五〇くらいッスね」
 友之が自ら体重を申告すると、見学者達はさらにどよめく。
「その重さで、あんな身軽に……」
「えげつない性能やな」
「そっちの君は?」
「えっ」
 議員の一人に訊ねられた小波は、困惑した表情で口ごもってしまう。ちらりと隣の友之を見た彼女の前に、門司が割り込んで助け舟を出した。
「すいません、彼女は口下手でして」
「あっ、女の子なんか……これは申し訳ない」
 なら結構ですと手を振る議員。ところが何を思ったか、小波は急に声を張り上げる。
「七二kgです!」
「うわっ、ビックリした!?
「いきなり何……?」
「すいません」
 顔を真っ赤にして委縮する彼女。しかし、やはりまたキリリと表情を引き締め、友之を一瞥する。同僚と張り合っているかのような態度。京都の人々も困惑した。

(あの二人、仲悪いんかいな?)
(ちゅうより、女の子の方が一方的に意地張っとんのとちゃう?)
(アンタら余計な勘繰りせんでええから、ちゃんと話を聞き。ワシら北の兵器の見定めに来とんねんで)
(はいはい、まったく住吉さんは真面目やな)

 議員達がひそひそ話を終えたタイミングで、今度は小波の背後へと回る門司。その手で腰部に取りつけられた透明な筒を外し、掲げてみせた。中にはオレンジ色の液体と銀色の球体が収まっている。
「で、これが動力源。人工生成された“竜の心臓”です」
「うひっ……」
「北はそないなもんまで作っとんの……」
「危なくないんかいな」
 生物型記憶災害の発生源となる物体を目の当たりにして、議員達は後退る。だが問題は無い。
「生成方法は秘密ですが、この結晶には“記憶”が保存されていません。つまりまだ無垢な状態の魔素なわけです。また、高密度魔素結晶体には二つの状態があり、我々はそれを“開いた”もしくは“閉じた”と表現します。“開いた”状態の結晶体は異世界に繋がるゲートとなっており、そこから他の世界の“記憶”が流入します。しかし、この結晶体は閉じた状態なので、その心配もいりません」
 加えて、同じ容器に封入してある油は電力を完全に遮断する性質を持つ。ゆえに電極によって伝達される装着者以外の思念には反応しない仕掛けなのだ。
 もう一つ重要な事実を説明するため、門司は足下のバッグを開き、中から新たなカートリッジを取り出す。小波のDA一〇二から外した物と同じだが、明らかな違いが一点ある。議員達もすぐに気が付いた。
「おや? 結晶の大きさが」
「そう、違います。こいつは新品なので。ご存知でしょうが開いた状態の“竜の心臓”は無尽蔵に魔素を放出します。しかし、その代わりゲート化してから一〇分間で維持限界を迎え消失する。
 逆に閉じた状態では維持限界がありません。だから先程ご覧いただいたように一〇分間連続で稼働させてもまだ残っています。デメリットは、この通り結晶を構成する魔素そのものを消費するため、次第に小さくなっていくことですね」
「結局は消えるちゅうことですか? ある程度使うと」
「そうです。ただ、開いた状態で運用するより安全かつ長時間の使用が可能で、私どもの実験ではこれ一本で約二〇分の戦闘が可能だと確認されています。開いた状態に比べると最大出力という点で劣りますが、その分だけ長時間かつ安定した状態で利用できることは、十分なメリットだと言えるでしょう」
「おお……」

 説明を聞き、なるほどなと頷く議員達。開いた状態と閉じた状態、それぞれにメリットとデメリットがある。比較してどちらがより有用かという話だ。北日本は後者で運用することを選んだ。安全性を考えれば当然の選択である。

 彼等の理解を得られたと察し、門司は次の段へ移行する。小波のDA一〇二に消耗した方のカートリッジを再び取り付け、ポンと軽く叩いた。予備は少ない。この結晶にはもうひと働きしてもらわないと。
「さて、今度はMWシリーズをご覧に入れましょう」
「おお、例の“魔法の杖”でんな」
「待ってました」
「じゃあ友之、小波、お見せして」
「押忍」
「わかりました」
 頷いた二人のところへ、アシストスーツ装着者専用に設計された重機関銃MW五〇四が運ばれて来た。運び手はウォールだ。図抜けた巨漢の登場に南日本の人々はよりいっそう大きく目を見開く。
「でっか……」
「北はいいもん食ってんねやろな……」
「ありがとうございます」
 礼を言って受け取った二人は、素早くそれを構えて発砲する。銃身に光る紋様が浮かび上がり、銃口からは光弾が射出された。当たったのは地面。魔素が二人の思い描いた像を再現して土を盛り上げ、即席の壁を作り出す。
 高さは三mほど。今度は術士候補生達が驚嘆の声を上げた。

「疑似魔法だ!」
「本当に霊力を一切使ってない」
「記憶災害を人為的に引き起こすなんて」

 霊術という全く系統の異なる技を身に着けた彼等の目には、やはり北日本の疑似魔法は異質に映るらしい。
 友之と小波は一旦セレクタースイッチを切り替え、続けざま通常弾を発射する。大口径弾が高速で連射され土壁を粉々に粉砕した。同時に議員達の方へ振り返る門司。
「ご覧のように、MWシリーズは疑似魔法を増幅する“魔法の杖”としての機能と通常弾を発射する“銃”としての機能を併せ持っています。また彼等が使っているMW五〇四はパワーアシストスーツ専用に設計されたもので、反動が強く生身では到底扱い切れません。しかし、今しがた見ていただいたようにDA一〇二を装着した状態でなら何の支障も無く使用可能です」
「大した威力やな……」
「とはいえ、竜には効かないのでしょう?」
「そうですね。竜を倒せるほどの火力は、まだ出せません」
 唯一、朱璃の“魔弾”とDA一〇二の組み合わせでなら“竜の心臓”を撃ち貫けるかもしれない。だが、その事実は伏せておいた。今以上に彼女に対する彼等の関心の度合いを高めてやる必要は無い。
 門司は挑戦的な笑みを浮かべ議員達一人一人を眺め渡す。彼女の気迫に圧倒された男共は若干ながらもたじろいだ。
「しかし、いいですか? これはまだ一歩目に過ぎません。ゆくゆくはさらに強力な兵器へと発展させ、竜に対抗しうる力となるでしょう。それに倒すことはできなくとも、兵士の生存性さえ上がれば十分に有効なのです。敵には維持限界がありますから」
「ああ、なるほど」
「たしかにそうですな」
 予想通り頷く議員達。どうにか役割は果たせそうだと、ホッとする門司。友之と小波を一〇分間連続で走らせたのは、そこに説得力を持たせるためだ。記憶災害との戦いで最も重要なのは逃げ足である。奴らは一〇分経てば勝手に消えるからだ。あのアシストスーツの機動力は、それを従来よりずっと容易にしてくれる。

 ──福島の戦いでだって、これがあったら真司郎は死なずに済んだろう。

「大変参考になりました。急な見学の申し入れ、受けていただき感謝いたします」
 議員団の代表が頭を下げ、続けて他の議員達もそれに倣う。
 彼等はすぐに兵士達を引き連れ去って行った。京都へ戻り、さらに上の者達に報告するのだろう。現在の南日本には“上院”と“下院”があるらしい。ここへ来たのは下院議員達だけだ。
「やれやれ、これで時間は稼げたか」
 ため息と共にタバコを取り出し、口に咥える門司。すると烈花(れっか)が近付いて来た。素早く指先から炎を出し、着火する。
「お疲れ様ッス」
「お、ありがとさん。便利な術だねほんと」
「ヘヘッ、おばちゃんも練習すりゃ使えると思うぜ。見た感じ霊力持ちだし」
 この二人、どことなくウマが合うらしく、ここまでの道中でいつの間にか仲良くなっていた。
「見た目でわかるのかい?」
「ある程度強い霊力の持ち主なら感知できんのさ。まあ、ボクは感知能力が低いから勘で言ってるんだけどな」
「なんだ、当てずっぽか」
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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