終章・来訪

文字数 4,053文字

「そうですか、彼が目覚めましたか」
「はい」
 王城、その上層階にある王の私室。小畑(おばた) 小鳥(ことり)は真の主の前で頭を垂れる。
 剣照(けんしょう)の死後、彼女は忙しかった。捕らえた兵士達と反体制派から情報を引き出し、王の御旗の下、彼等の残党を一掃した。アサヒが長らく眠っていてくれたことは、彼女にしてみればむしろ幸いだったと言える。
「今後も私はあの方の監視を?」
 剣照一派の掃討という任務を終えた今、余力はある。本来の職務をこなしつつ彼の侍女を続けることも難しくはない。
 しかし女王は頭を振った。
「そろそろ貴女の淹れてくれるお茶が恋しくなってきました。それに彼は朱璃(あかり)以外を抱くことはないでしょう」
「そうですね」
 初代王(あさひ)の血を再び王国に取り戻す。そのために女王がアサヒに対し宛てがった花嫁候補は実は朱璃だけではない。彼女は小畑や大谷にも同じ役割を期待した。他にも数名、いつ消えてしまうかもしれない彼に少しでも多く子を生してもらおうと若くて有能な女性達をさりげなく近い場所へ配置した。
 とはいえ、最初の頃はともかく、今の彼に対しては無意味な策略だろう。
「まさか、あれほどまでに王太女殿下を愛してしまわれるとは」
 意識を失う直前まで必死に朱璃に呼びかけていた彼の姿を思い出す。あれを見ていたら否が応にも理解できた。彼の愛情の行き先は、もうたった一人に決まってしまったのだと。もし朱璃以外に同等以上の愛を注がれる人間がいるとしたなら、それはきっと二人の子供だけだ。
「私も予想できませんでした。彼の中でどんな変化があったのでしょうね」
 窓の外の景色を眺めつつ微笑む女王。人の心とは複雑怪奇で、この歳になっても未だにわからない部分が多い。甥の野心には察しがついていたが、開明があれほどの胆力を発揮することは予想していなかった。
 なにはともあれ、これで初代王の遺伝子を取り戻すという企みは成功しそうだ。本物の彼が姿を消してから二〇〇年、自分達一族の中に流れる英雄の血はすっかり薄れ、唯一の証だった魔素吸収能力も次第に弱まりつつある。このままでは早晩、王族は民からの信頼を失ってしまうだろう。
(いや、すでにそうなっているのかもしれませんね……)
 剣照の計画は失敗に終わったが、彼が遺した傷痕は大きく根が深い。彼の息がかかった者達を一掃しても、恐らく似たような思想の持ち主はまた現れてしまうだろう。
 急がなければならない。その一点では自分も亡き甥と同じ想い。ただし彼女は彼以上に慎重に、ギリギリまで時機を見極めたいと思っている。
 そのためには……もう一つ、どうしても至急片付けなければならない問題があった。
 高みから地下都市・秋田を眺めた彼女は、意を決して小畑へ命じる。
「隊長、あの子達を集めなさい。大切な話をしなければなりません」
「御意」
 王室護衛隊隊長・小畑 小鳥は再び恭しく頭を下げた。



 三週間ぶりに目を覚ました直後、いきなりアサヒは女王に呼ばれ、朱璃と共に見覚えのある部屋の前に立った。
「ここは……」
「ん? アンタ、ここに来たことあるの?」
「うん……前に、一回ね」
 あの時、秋田へ来たその日、剣照、開明(かいめい)神木(かみき)の三人から自分と朱璃が婚約しなければならない理由を説明された部屋だ。
 何故か部屋の前に見張りはいない。あの時は兵士が立っていたはずだが。
「まあ、とにかく中に入りましょ」
「そうだね」
 そう言ってドアをノックしようとすると、先に中から開かれた。
「ようこそおいでくださいました、王太女殿下、アサヒ様」
「小畑さん」
「アンタ、なんでここにいるのよ」
「本日より女王陛下付きの侍女に復帰しました。アサヒ様のお世話は、今日から別の者に引き継ぐことになっております」
「え……そうなんですか……」
 アサヒが残念そうな顔をすると、すかさず朱璃が肘鉄を入れる。
「ぐほっ!? な、何……?」
「肘が滑った。それよりほら、入るわよ」
「肘って滑るの……?」
 朱璃の肩を借りて進むアサヒ。彼のもう一方の手は松葉杖をついていた。暴走しかけた魔素の影響がまだ少し残っていて足を上手く動かせないのだ。
 室内には複数の見知った顔。その中の一つを見た途端、アサヒは息を呑む。
「開明……?」
「やあ、アサヒ君。君もやっと目覚めたか。どうだい、男前になっただろ?」
 朱璃に良く似ていた彼の顔には斜めに刀傷が走り、左目は眼帯で隠されていた。そして右腕の肘から先は無くなっている。
 それを見た瞬間、あの時、朧気な意識の中で見た光景を思い出した。
 彼は自分の父親に斬られ、そして自分の父親を……。
「おいおい、そう暗い顔をしないでくれ。僕はもう吹っ切れたんだよ。母の仇は取れたし、父の凶行も止められた。僕みたいな半端者にしちゃ上々の成果じゃないか」
「ええ、あなたはよくやりましたよ開明。とりあえず、朱璃、アサヒ殿、二人とも椅子に座りなさい。話したいことがあります」
 女王に促され、二人は開明と同じソファに腰かける。
 向かい側のソファには神木とマーカスが座っていた。神木はともかくマーカスまでが何故ここに?
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 あの時と同じように小畑の淹れてくれたお茶を飲む。
 上座の一人がけソファに座った女王もカップを手に持ち、じっくりとその味を楽しんだ。話があると言っていたのに、なかなかそれを切り出さない。
 朱璃が次第に苛立ち、痺れを切らしそうになったタイミングで、それを待っていたかのように口を開く。
「ふふ、もう少し待ってね。まだ大切なお客様がみえていないの」
「お客様?」
 開明も知らないらしい。彼が眉をひそめた途端、ドアがノックされた。
「小畑」
「はい」
 女王の指示で小畑が駆け寄り、さっきと同じように中からドアを開ける。すると、その向こうに立っていたのは──

 カトリーヌと、見知らぬ少女。

「ああ、帰って来てたのね、アンタ」
「久しぶりに会ったのに第一声がそれか。私は京都まで行って来たんだぞ、少しは労え」
「カトリーヌさん?」
「起きたようだなアサヒ。なによりだ」
 たしかにそこにいるのはカトリーヌのはずだ。しかし一瞬そうだとわからなかったほどに雰囲気が異なる。
「あ……そうか、関西弁じゃない……それに今、京都って……」
 まさか彼女の正体は──察しの付いたアサヒが周囲を見回すと、驚いているのは何故か彼一人だけだった。
 困惑する彼を見つめ、少しばかり色素が薄く紫がかって見える黒髪をボブカットにした少女が口を開く。
「教えてあげたら?」
「……アサヒ、今から話すことは、今この場にいる面々以外には他言無用で頼む」

 そう前置きしてからカトリーヌが語ったのは、彼女が南日本から送り込まれた工作員で、なおかつそのことが露見して以来、対策局に協力しているという事実だった。

「カトリーヌさんが、南日本の人……」
「混乱させてしまったら申し訳ないんだが、今からもっとわけのわからなくなる話が出る。私のことは早目に飲み込んでおけ」
「は、はあ……」
 彼にとっては十分に衝撃的な出来事だったのだが、やはり他の面々は全く驚いていない。カトリーヌの友人である朱璃や対策局長の神木はともかく、他も全員知っていたようだ。
「開明とマーカスさんはどうして……」
「マーカスはそもそも、三年前にアタシと一緒にカトリーヌに接触したのよ。人斬り燕に調査官が殺された時、アタシ達もその捜査に加わったの。その過程で偶然アイツが南日本の工作員(スパイ)だってわかったのよね。結局人斬り燕とは無関係だったけれど」
「僕は父さんの隠し持っていた資料でそれを知った」
 開明はカトリーヌが二代目・人斬り燕だったことも知っている。だが、あえてその情報は伏せた。この場で言っても余計な不和と混乱を生み出すだけだと思ったからだ。
(回収された死体は男のものだった……多分、どこかのタイミングで入れ替わったんだろうな。一人でそんな真似ができるとは思えないし、この中にも協力者がいそうだ)
 いや、そういえばあの時、いつの間にか王室護衛隊の一人が消えていた。たしか名前は大谷(おおたに) 大河(たいが)だったか?
 彼が一人で推理を楽しんでいるうちに、女王は来客へ席を勧める。
「どうぞ、お座りになってください」
「ありがとうございます」
 ニコニコ微笑みながら迷わず女王の対面の一人がけソファに陣取る少女。カトリーヌはマーカスと彼女の間の位置に腰かける。
 その二人の前にも小畑がお茶を出した。すると、少女は小畑の手を取り、語りかける。
「この間はありがとう、護衛隊長のお姉ちゃん」
「!」
「……なるほど、そういうこと」
 驚く小畑と他の面々。朱璃だけが納得顔で腕を組む。
 女王はいたずらっ子に困るような表情を向けた。
「王室護衛隊の隊長が何者かは、代々の王だけが知る秘密なのですよ」
「あら、そうだったの? ごめんなさい」
「……私は兜で顔を隠してありましたが」
「そうね。でも、私は霊力波形で人を識別できるの」
「霊力?」
 聞き慣れない言葉が出て来た。疑問符を浮かべたアサヒに朱璃が答える。
「霊術を使うために必要なエネルギーよ。誰の体にも流れてるらしいわ。アタシ達はまだ使い方を知らないけれど」
「そう難しい話でもないのよ、お嬢さん。あなたが望むのなら教えてあげる」
「お嬢さん?」
 今度は朱璃が片眉を上げた。目の前の少女は、どう見ても一〇歳前後。自分より年下のはず。
 少女は次に女王を見つめた。北日本の君主に驚いた様子は無い。この場に現れた時点でこちらの正体は察していたのだろう。流石ですこと、そう呟いて立ち上がる。
「失礼、名乗るのが遅れました」
 彼女は芝居がかった仕種で会釈すると、顔だけを持ち上げ、そこはかとなく気味の悪い笑みを浮かべた。
「改めて、お初にお目にかかります女王陛下。ならびに北日本の皆様。
 私の名は天王寺(てんのうじ) 月華(げっか)。南日本の防衛組織“術士隊”を率いる長で、そこの、皆様から“カトリーヌ”と呼ばれている女の育ての母です」





                           (第三部へ続く)
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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