五章・奸計(4)

文字数 4,026文字

『クソッ、どけよっ!!
 流石にこの体勢から押し返すのは無理だ。圧倒的な重さの前に装甲と金属の骨格が軋み始める。頑強な素材が用いられているが、それでも長くは保たない。
 なのに朱璃は、

「詰みよ」

 勝利を確信した。
 敵は逃げれば良かったのだ。こちらには追う理由が無い。早々に撤退していたら大した痛手を被らずに済んだ。けれどもう遅い。友之にトドメを刺そうとして完全に脚を止めてしまっている。そこへ小波が側面から襲いかかった。
『離れろ!』
 魔素の噴射口は、実は拳にもある。移動のための他のパーツとは異なり、これは完全に攻撃用だ。より細く高圧に絞り込まれた魔素が噴き出すそれを、自分の右腕ごとヤドカリの口に叩き込む小波。
 直後、放出された魔素が頭部を貫通した。
『ギュギッ!?
 悲鳴を上げる怪物。なのに死なない。やはりまだ、アサヒに比べたら大した威力は引き出せていない。でも効いてはいる。ならさらに叩き込めばいい。
『このっ!! このっ!! 死ね!』
 腕を引き抜き、何度も殴りながら立て続けに圧縮魔素を発射する小波。少しだけ巨体が浮き上がる。その隙をついて右腕を支柱のように立てた友之も、組み伏せられた姿勢から同じ攻撃を繰り出した。
『おらッ!!
 連続で撃ち込まれた魔素弾が腹部の柔らかい甲殻をひしゃげさせる。
『ピッ!? ギ、イッ!! ギッッ!?
 上下からの挟撃を喰らい、慌てて貝殻の中へ引っ込む怪物。そのまま爪先だけ外に出し、友之から離れて海へ逃がれようとした。
 朱璃は追う理由など無いと思ったものの、友之と小波はそうでもなかったらしい。戦闘の興奮からか、さらに追撃をかける。
『逃がさねえよ!』
『こっちの銃も、でっかいからね!』
 素早く起き上がる友之。回り込む小波。共に構えたのは重機関銃タイプのMWシリーズ五〇四。ソ連が開発したNSVを改造したもので重量は二四kg。旧時代の人間に比べて筋力が強化されている現代人からすれば、けして重い武器ではない。しかし反動が大きいため普通は地面等に固定して使う。
 トリガーを引く二人。その姿勢は揺るがず、弾道にもブレが生じない。パワーアシストスーツを装着した状態でなら、重機関銃の反動も普段使っている突撃銃のそれと大差無く感じられた。
 朱璃の愛用する対物ライフルと同じ一二.七mm弾が高速で連射され、敵が隠れた巨大な貝殻にめり込む。だが貫通はできていない。
 ならば──
『焼いてやる!』
 素早くスイッチを切り替え、火球を放つ二人。熱せられた貝殻は瞬く間に変色し亀裂が走った。普段の二人が使う疑似魔法より圧倒的に火力が高い。
 秘密は背面腰部に取り付けられた金属の筒。そこから膨大な量の魔素がパワーアシストスーツ全体に供給されている。一部は手の平の放出口から銃へ流し込まれていた。二人は自分の魔素を導火線として用い、この大量の魔素に火を点ける。すると体内の魔素だけで発生させた疑似魔法より威力が大幅に上がるという仕組み。
 外からは見えないが、筒の中では銀色の球体がオレンジ色の油に浸かっていた。球体は人工的に生成した“竜の心臓”で、これを消費しながらDA一〇二は動いている。カートリッジ一本での稼働時間は全力での戦闘行動を想定した場合、およそ二〇分。
「我々も撃て!」
 大谷の号令で疑似魔法を放つ隊士達。さらに熱せられた貝殻が弾け、小さな亀裂が走る。
「よっしゃあ!」
 その亀裂に、すかさず拳を叩き込む友之。同時に、熱に耐え切れず出て来た顔を小波が蹴り上げる。
「フン!」
 怪物は二人の連携の前に、為す術なく息絶えた。



「なるほど、あれが完成したパワーアシストスーツか。併用することでMWシリーズまで強化されるとはな」
「姉様、あれで殴られたって本当(マジ)ッスか?」
「ああ、流石に痛かったぞ」
 とうの昔にもう一体のヤドカリを倒していたカトリーヌ達は、バラバラになって地面に散らばったそれから離れ、やはり遠巻きに北日本の新兵器を観察していた。
「おい、やっぱやべえな梅花姉様……」
「頑丈さでは人類最強よね……」
 あんなものに殴られて「痛かった」の一言で済ませる姉の言葉に、妹二人は若干引いてしまう。
 ひそひそ話は聴こえていたが、カトリーヌはあえて無視した。実際、自分でもちょっとどうかしている耐久力(タフネス)だと思うことがある。昔、けっこう大きな“竜”に踏まれた時にも軽い怪我で済んだ。
「そいやDAってなんの略なんです?」
「ドラゴン・アーマーだそうだ」
「安直な……」
「てか、竜は敵っしょ?」
「そうとも限らん」
 彼女が空を見上げると、ちょうどアサヒが戻って来たところだった。恐ろしく素早い敵と戦っていたようだが、やはり勝ったのか。マーカスや護衛隊の活躍でゾエアも全滅したらしい。あるいは親が両方やられた時点で種の存続を優先し撤退を選んだのかもしれない。だとしたら意外と賢い生き物である。
「なるほど……」
 同様に降りて来るアサヒを見つめ、頷く斬花。あの少年も“竜”には違いない。けれど今は人類の味方である。
「まあ、ボクも納得できましたよ」
 ニヤリと笑う烈花。竜に通じるかは未知数だが、あの“竜の鎧”は同じ人間にとってはかなりの脅威だ。まだ自分達術士なら確実に勝てるレベルではあるものの、仮に量産配備された場合、無視できない程度には危険な兵器。
「なにより、魔法の杖と竜の鎧。どっちもボクらみたいな修行や才能を必要としないのがやべえッス。誰でも身に着けるだけで強くなれる」
「ええ、だからこそ、こちらも確実にあれを手に入れなければ」
 北日本にパワーバランスを覆させてはならない。将来、再び起こるかもしれない戦争のために。その戦争を回避できる未来のために。
「そういうことだ。だから、まずは彼等を確実に大阪へ導く」
「はい、姉様」
「了解ッス」
「ここはまだ危険かもしれない! 急いで離れるわよ!」
 朱璃に呼びかけられ、三人の術士達は小走りに駆け寄って行った。



 何かがおかしい。
 再び馬に乗り、戦闘を行った地点から離れ行きつつ、振り返る朱璃。この奇妙な状況に疑念を抱く。
(ここはまだプレートの境界線上でしょ?)
 なのにどうして追撃を仕掛けて来ない? それにさっきの戦闘では、アサヒだけが竜に襲われ、自分達には変異種があてがわれた。ドロシーは竜や変異種を操れる。その情報が真実だとすると、あの状況もまた操作されていた可能性が高い。

 あれでは、まるで──

(こちらの手の内を探るような……威力偵察が目的だったとでも?)
 あの蛇にそこまでの知能があるのか? もちろん、あってもおかしくはない。シルバーホーンが明確に格上と認めるほどの相手なのだし。
 けれど、やはり不可解だ。福島での戦いの時、敵はアサヒに対する強烈な執着を示した。なのに今回の攻撃は淡白すぎる。自分達と彼を引き離したさっきの状況は、彼の力を奪うには絶好のチャンスだったはず。でも、そうしなかった。
 こちらに対し試すような真似をしたこともおかしい。人間ごとき、あの大蛇から見ればなんら脅威とは思えまいに。

 まるでチグハグ。

「別の意思を感じる……」
 あの蛇以外に誰かが自分達を見ている。そんな気がした。ここまで全く襲撃が無かったことも含め、ひょっとしたら第三者が一連の動きに関わっているのかもしれない。
「どうしたの朱璃?」
 神妙な顔の彼女を訝り、アサヒが声をかけてきた。その顔を見つめ返し、朱璃は一つの可能性に思い当たる。
(コイツが記憶の大半を与えられなかった理由。それって、もしかすると……)
 まだ仮説の段階。だから彼に教えるべきではない。
 いや、この推察が当たっているなら──

「……アンタは知らなくていいことよ」

 彼にだけは、絶対に知られてはならない。



「……フフ、へえ……」
 一面が銀色の世界。地面など無いように見える空間に、女が一人立っていた。その目は眼前に投影された映像へ注がれている。
「面白い物を作るわね」
 疑似魔法を増幅する銃に人工の高密度魔素結晶体。さらに、それを消費して動作させるパワーアシストスーツ。
 その三つが一人の少女の手により生み出された。まさに奇跡。彼女の頭脳には十二分に価値がある。あだやおろそかになどできはしない。
「そう思わない? 旭」
 問いかけた彼女の傍らには一本の杖があった。誰に掴まれているでもなし、地面に突き立っているわけでもなしに何故か自立している。全体的に骨のような材質で、そのせいかどこか生物的な印象も受ける。ねじれて螺旋を描いており、頂点に青い球が嵌め込まれていた。それは透明で、中を覗き込むと無数の小さなものが動き回っている。

 杖は当然、何も答えない。彼は壊れてしまったから。
 壊れてなお、いまだに他者を守り続けている。
 懸命に、他の何をも顧みず。

「自我を失っても、やっぱり君はヒーローなのね」

 自分にとっても、そうだ。
 彼は素晴らしいものを生み出してくれた。
 彼の血を引くあの少女と、そして、彼の力を継いだあの紛い物を。

「おかげで、私達の夢は大きく前に進む。ねえ? ドロシー」
 今度の問いかけには反応があった。周辺は一面の銀色。その空間の一角から白い大蛇が這い出して来て彼女の体に絡み付く。
 一人と一匹で一つの怪物になり、女は妖艶に微笑む。
「悪いけど、この星には死んでもらう」

 その未来は回避できない。自分がさせない。
 でも、どうか恨まないで欲しい。
 怒る必要は無いのだから。

「もうすぐわかる。みんな一緒に連れて行ってあげる。生死さえ関係無い。あの崩界の日から魔素は全てを“記憶”し続けているもの。一木一草残さず……ね」

 次の瞬間、目の前の球体が変色して赤い輝きを放つ。
 彼の怒りを示すように。
 女は屈み込み、その無力な杖に口付けした。

「また会いましょう、渦巻く者。彼等がここまで来た時に」
 言うなり、彼女と蛇は霧の中へ溶け込んで消える。後には、杖だけが静かに佇み続けていた。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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