九章・人竜(3)

文字数 4,035文字

「一緒に、行っていいかな?」
 街を見てみたい。かつて自分達が造り上げた地下都市で、今の時代の人々がどんな風に生活しているのか知りたい。
 他にも多くのものを見て、知って、触れてみたい。
 彼のその選択を受け、朱璃は銃を下ろす。
 代わりに右手を差し出した。
「なら、これからよろしく」
「うん、よろしく」
 アサヒも右手を差し出して握り返すと、周囲の人々はホッと息を吐き、一人また一人と構えを解く。
 だが一人だけ──マーカスはアサヒの心臓に狙いを定めたまま朱璃を問い質した。
「おい、本当に連れてく気か? そいつはシルバーホーンでもあるんだぞ!」
「だからいいんじゃない」
 何を言ってるの? という表情で振り返る朱璃。
「竜をぶっ殺す方法を探るのに、これ以上最適な実験体がいる?」
「だが」
「暴れ出したら、その時はその時よ」
 再びアサヒを睨みつけ、不敵に笑う朱璃。もし敵に回ったら容赦はしないと、その目が如実に物語っている。背筋に寒気を感じて震え上がるアサヒ。自分の方が遥かに強いはずなのに、どうしてかこの少女には勝てる気がしない。
 ところが──
「うぷっ」
 いきなり頬を膨らませたかと思うと、天才少女はその場にうずくまって嘔吐し始めた。
「おえれれれれれれれれれ」
「は、班長!?
「だからお前は飲むなって言っただろ!」
 慌てて彼女を介抱する班員達。
 彼等の会話を聞いて、アサヒは何が起きたのかを察した。
(さっきの小瓶が、例のあれだったのか)
 強制魔素充填剤。マーカスが言っていた薬だ。消耗した体で“魔弾”を撃つために服用したのだろう。つまり返答次第では本気で自分を殺すつもりだったわけだ。
 朱璃は背中をさすられながら、涙目で周りの大人達に問いかける。
「こ、こん……こんな、なの……二日酔いって」
「そうだよ。だから酒も飲むんじゃねえぞ」
「飲まないわよ。こんな……うえっ。馬鹿じゃないの、なんでこんな地獄を味わってまで美味くもないものを飲むのよ……」
「飲まなきゃやってらんねえ日もあるんだよ、大人にはな。あと味に関しちゃお前が子供舌なだけだ」
 そう言ってぐったりした彼女をおぶるマーカス。人種が違うのに、まるで本当の親子みたいだ。
 彼はアサヒの方に振り返り、顎で福島を示した。
「しゃあねえ、お姫様の命令だ、お前もついてこい」
 アサヒに同行を促し、歩き出すマーカス。
 苦笑しながらその後ろに続く。
「お姫様って……本当に可愛がってるんですね」
「ん?」
 友之が眉をひそめた。
 誤解に気が付き、カトリーヌが正す。
「いや、ホンマに王女やねん、朱璃ちゃん」
「へ?」
「うちらの国の王太女様や。次の女王様になんねんで」
「ん」
 冗談かと思ったが、ウォールまで頷いた。
「……えっ!?
 しばし固まった後、血相を変えて走り出し、マーカスの隣に並ぶアサヒ。改めて朱璃の顔を見つめる。
 少女は不機嫌そうに、そんな彼を見つめ返した。
「あによ?」
「た、たしか……“伊東 旭”が初代国王だって……」
「そうよ」
「じゃあ君、俺の子孫なの!?
「アンタの孫の孫の孫の孫よ。おえっ」
 嫌そうにえづく彼女。
 さっきは赤子扱いで、今度は年寄り扱いか。
「可愛くないな!?
「なんでよ!? こんなに美少女じゃないのっ!!
「おぐ!?
 怒った朱璃は銃床でアサヒの顔面を殴る。
 ツッコミも容赦無い。
「ほら、よく見なさい! 美少女オブ美少女でしょうが!!
「や、やっぱり可愛くない……!」
 殴られた頬を押さえて言い返すアサヒ。
「まだ言うか!?
 朱璃は掴みかかった。
「おい、暴れんなっ!!
 背中で暴れる朱璃。その手を掴んで抵抗しながら、しきりに可愛くないを連呼するアサヒ。二人に対して怒鳴り散らすマーカス。
「なんやこれ」
 騒々しい帰路の光景に、カトリーヌは嘆息しながら肩をすくめる。
 そんな彼女の手の平に、どこからか飛んで来た早咲きの桜の花びらが一枚、ひらひらと舞い落ちた。



 北日本王国の王都──その内縁部に建つ五階建ての大きな建物。建設から二五〇年経過してなお当初のような白さを保つ壁の一角には“特異災害対策局本部”と彫られた大きなプレートが固定されていた。
 最上階の局長室で、組織の長・神木は部下からの報告に耳を傾ける。
「──以上が福島の件の顛末です。にわかには信じ難い話でしたが、現地に派遣した者達が事実であることを確認しました。詳細はそちらの資料にまとめてあります」
「ご苦労。伊東 旭の再現(もどき)とシルバーホーンが戦ったという割に、被害は軽微だな」
 冷静に、淡々と報告書に目を通す彼女。何が起きたのかをより正確に知るべく、記載されてある情報を委細漏らさずチェックする。
 この報告内容が全て事実なら、福島どころか北日本が壊滅してもおかしくなかった前代未聞の大事件だ。ところが結果としては福島の使われていないエレベーターシャフト一基と周辺区画が吹き飛んだ程度。人的被害は調査官一名が死亡しただけ。
(だけ……とは言いたくないですけどね、ジロさん……)
 死者の名前を見て一瞬、表情を曇らせた。
 そこへさらに、部下が苦言を呈す。
「たしかに損害は少ない。しかし、そもそもは星海班長が“もどき”を連れ帰ろうとしたことが原因です」
「そうだな」
 功績は功績として称えるべきだが、同時に組織の長として構成員の犯した過ちは厳正に正さねばならない。
「星海班には一ヶ月間の謹慎処分を命じる」
「局長、それでは」
 甘すぎます、と言おうとした部下の言葉を片手で遮る。
「人の姿で人の言葉を話す相手だ。しかも英雄と同じ顔。放置するわけにもいかなかっただろう。福島まで同行させたことに関しては咎められん。消えない人型記憶災害など前例の無い話だし、そのまま南にくれてやれば良かったとは君も思うまい?」
「それは、まあ……」
 渋々納得する部下。つまり処罰は班員一名の死亡に対してのもの。それなら一ヶ月の謹慎は妥当と言える。
「とはいえ、流石にこの星海班長からの要望は通らないと思いますよ」
「たしかに、いくらなんでも難しいだろう」

 伊東 旭もどきを連れ帰りたい。
 朱璃は報告を送ると同時に、そう頼んできた。

「許可が下りるはずありません」
「ああ」
 普通ならそうだろう。いくら彼女の立場でも──いや、王女であるからこそ許されない。生物型記憶災害を王都に持ち込むなど、あまりに危険すぎる。他の地下都市だったとしても無理だ。福島に留め置いているだけでも特例中の特例。
 しかし神木は考える。これは考えようによっては利用できるかもしれないと。
 彼女は即断即決の女だ。おもむろに椅子から立ち上がったかと思うと、資料をまとめて手提げカバンに仕舞い、歩き出した。
「局長、どちらへ?」
「陛下にお会いして来る。一応、あの子の要望を伝えてみないとな」
「……娘さん思いですね」
「違う」
 振り返った時、彼女の赤い髪が揺れた。
 娘と同じ色の髪が。
 神木 緋意子は自分自身を侮蔑する。
「私は彼女を捨てた女だ。これはあくまで、局長としての仕事だよ」



「──今回はここから出られず、か」
 伊東 陽はそう呟きながら道路に面したオープンテラスの椅子に座り、砂糖たっぷりのカフェオレを飲んだ。飽き飽きしたこの甘ったるい味ともついにおさらばできると思ったのだが。
「もうすぐ出られますよ、きっと」
 対面の席で、微笑みながら同じものに口をつける桜花。黒髪の美しい娘だ。惜しいなあと呟く陽。桜花は片眉を持ち上げる。
「何がですか?」
「うちの子には、桜花ちゃんみたいな子と結ばれて欲しかった」
「私も彼は好きですよ。でも、仕方ありません」
 あの状況では自分が犠牲になる以外、彼を守り抜く方法が無かった。むしろ自分達の死を目の当たりにしたアサヒが覚醒してくれたのだから万々歳だ。

 旭によるアサヒへの記憶の移植は失敗したわけではない。
 ただ、必要最低限の記憶しか与えなかっただけ。

(ここへ来て、ようやくわかった……彼がこの二〇〇年、どれだけ懸命に抗い続けて来たのか)
 アサヒ達は気が付いただろうか? 本当に倒すべき敵はシルバーホーンではないのだと。あれは野心を利用されただけの傀儡の王に過ぎない。
 真の支配者は、あの大蛇だ。奴はシルバーホーンの中に潜み、取り込まれた旭の精神をずっと攻撃し続けてきた。幻を見せ、トラウマとなった記憶を揺さぶり、己の意のままに操れる道具に変えようとしたのだ。
 その目論見は果たされた。オリジナルの旭の記憶と精神は徹底的に破壊され、今や魔素を集めるための装置となり果てている。正面に座る伊東 陽の肉体が二〇〇年以上前、そうなってしまったように。
 シルバーホーンに敗れ、取り込まれた旭は、奴の体内の魔素に溶け込み拡散していた彼女達の魂や記憶をかき集め、この街を作り出した。一種の仮想空間だ。ここがあったおかげで桜花の魂も消滅を免れた。
 しかし、二〇〇年間この空間を守り続けた代償としてオリジナルの旭は魔素の収集装置にされた。もはや死んだと言っても過言では無い。
 それでも希望は潰えていない。まだ彼がいる。旭が自分に残された記憶の一部を託し生み出した“アサヒ”という新しい命が。
 彼は旭とは違う存在だ。似ていても非なる者だ。けれど、それでも桜花は彼を信じている。
 彼もまた、英雄として輝くはずだと。
「やっつけてくれるかな?」
「そう願います」
 少しばかり俯いて、コーヒーをテーブルに置く桜花。この世界では時間は前に進まない。取り込まれた者達は止まった時間の中で延々と同じことを繰り返し、その“記憶”を奴に搾取され続ける。言ってみれば奴を肥え太らせるための牧場であり、自分達は家畜。シルバーホーンは番犬。もしくは牧羊犬か。
 でも、問題はそんなことじゃない。あれを倒せなければ現実世界ではもっと深刻な事態に陥る。
 彼女は銀色の空を見上げ、その向こうにいる者達に願った。
「姉様……アサヒ……“ドロシー”を倒して。彼女がこの星を滅ぼす前に」
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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