二人の行き先は…
文字数 1,965文字
「俺は、カトリの行きそうな場所ならわかる」
剛介の二度目の返答に手に持ったスマホをさすりながら志織が聞き返した。
「で、それはどこだっていうの?」
「カトリは肝試しをした、あの廃ホテルにいるに違いない…」
「どうしてこんな夜中にその場所に行ったって言えるの?」
エマと陽二は、剛介と志織の問答に合わせて二人の顔を順々に見ながら、黙って話を聞いていた。
「カトリは、肝試しの際に目印にしたキーホルダーをあの場所に落としてきたんだ」
「あ、あの時の… キーホルダーをカトリは落としてきた、っていうこと?」
剛介の答えを聞いて、志織は肝試しを始める前の記憶をたどっていた。
「正確に言うと、俺がカトリの腕を引っ張った時に手から離れて、真っ暗な部屋のどこかに落ちてしまったんだ…」
少し遠い目をして剛介は返事をした。
「また何で剛介はカトリの腕なんか引っ張ったのよ?」
「カトリは俺が聞いた話の相手になってくれなくて… それで俺はカトリの腕を引っ張てしまったんだ…」
「ちょっと良く分からないんだけど…」
志織は首をかしげてケゲンそうな顔つきになった。
「そもそも、赤城が肝試しを終えて建物を出てくるなり、カトリと二人きりで話をしたがったのがキッカケだったんだ。それも血相を変えるくらいの勢いで…」
剛介の説明に黙っていられず、エマも合いの手を入れてきた。
「私もその時のことには思い当たりがあるんだ… 正直言って、あのときの赤城は行き過ぎていたわね… で、希望のとおり二人で話をさせたら、今度は急に肝試しを止めようって言い始めて… まったくワケ分かんなかったわよ…」
「カトリと赤城の二人して俺とエマに隠し事をしている感じが強くしたんだ… 実際、カトリが赤城に頼まれた用事っていうのが、机を動かすだけの全然大したことじゃなかったし… その点についてカトリにたずねたんだが、それを完全にスルーされてしまって…」
剛介は悔しそうに顔をゆがめていた。
「それで怒ってしまって、カトリの腕を引っ張った、ていうのね…」
話を引き受けた志織を黙って剛介は見つめていた。
「でもさ、あのキーホルダーが大事なモノとしても、こんな夜中に取りに戻らなければならないほどのシロモノなのかな? ここの売店で代わりならまた買えるんだよね?」
その場全員の顔を見まわしながら、エマが同意を求めて問いかけた。
「実はあのキーホルダー、カトリが売店で欲しそうにしていた時に、俺がカトリに買ってやろうと考えていたんだ… が、俺がカトリを焦らしているうちに赤城の方が先にカトリに買ってしまってな… カトリがそれをとても喜んでいるのを見て、俺は…」
苦虫を噛んだような表情が剛介の気持ちを十分に表していた。
“だからあの時に、剛介は渋い顔をして、隼人は嬉しそうで恥ずかしそうな顔をしていたのか…”
エマは、カトリのキーホルダーを目印に決めた時の剛介と隼人の表情の違いをハッキリと思い出していた。
「でも、カトリは足をケガしているのよ… あんなところまで捜しに行ける訳がないでしょ?!」
志織の指摘に剛介の表情は急激に険しくなった。
「だ、か、ら、 赤城が一緒になってカトリを連れて行ってやってるに違いないんだ!」
「二人で行って帰ってくるときに三人になってたりして」
剛介の険しい表情をよそに、含み笑いをするような、真面目なような顔をして陽二が微妙なツッコミを入れてきた。残りの三人は訳も分からずポカンとして顔を見合わせた。
「もし『不純な交遊』があったら、だよ」
「てめえ、ザケンなよ!」
無神経な一言で頭に血の昇った剛介は、カトリとの約束も忘れて陽二の胸倉をつかんで締め上げた。
「もう、福本はこんな時に何を言っているのよ?! 剛介も止めなさい!」
志織が持っていたスマホを手放して二人の間に割って入って、エマは剛介を後ろから羽交い絞めにした。
「おい離せ! 俺は今から行ってくる!」
剛介はエマのことを振りほどき、走って部屋を出て行ってしまった。
「福本、アンタがこんな時に余計なこと言うからでしょ! 剛介、チョット待ちなさいよ!」
陽二を睨みつけながら怒鳴ってから、志織も靴をつっかけて剛介の後を追った。
「剛介と志織の二人だけで行かせるの? 私は行くわよ。アナタはここで何もしないで待っている気なの?」
エマも陽二の方を軽蔑するように見て、一言吐き捨ててから二人を追って部屋を出て行った。
誰もいなくなって静かになった部屋の中に、呆然としたままの陽二は一人で取り残されていた。
剛介の二度目の返答に手に持ったスマホをさすりながら志織が聞き返した。
「で、それはどこだっていうの?」
「カトリは肝試しをした、あの廃ホテルにいるに違いない…」
「どうしてこんな夜中にその場所に行ったって言えるの?」
エマと陽二は、剛介と志織の問答に合わせて二人の顔を順々に見ながら、黙って話を聞いていた。
「カトリは、肝試しの際に目印にしたキーホルダーをあの場所に落としてきたんだ」
「あ、あの時の… キーホルダーをカトリは落としてきた、っていうこと?」
剛介の答えを聞いて、志織は肝試しを始める前の記憶をたどっていた。
「正確に言うと、俺がカトリの腕を引っ張った時に手から離れて、真っ暗な部屋のどこかに落ちてしまったんだ…」
少し遠い目をして剛介は返事をした。
「また何で剛介はカトリの腕なんか引っ張ったのよ?」
「カトリは俺が聞いた話の相手になってくれなくて… それで俺はカトリの腕を引っ張てしまったんだ…」
「ちょっと良く分からないんだけど…」
志織は首をかしげてケゲンそうな顔つきになった。
「そもそも、赤城が肝試しを終えて建物を出てくるなり、カトリと二人きりで話をしたがったのがキッカケだったんだ。それも血相を変えるくらいの勢いで…」
剛介の説明に黙っていられず、エマも合いの手を入れてきた。
「私もその時のことには思い当たりがあるんだ… 正直言って、あのときの赤城は行き過ぎていたわね… で、希望のとおり二人で話をさせたら、今度は急に肝試しを止めようって言い始めて… まったくワケ分かんなかったわよ…」
「カトリと赤城の二人して俺とエマに隠し事をしている感じが強くしたんだ… 実際、カトリが赤城に頼まれた用事っていうのが、机を動かすだけの全然大したことじゃなかったし… その点についてカトリにたずねたんだが、それを完全にスルーされてしまって…」
剛介は悔しそうに顔をゆがめていた。
「それで怒ってしまって、カトリの腕を引っ張った、ていうのね…」
話を引き受けた志織を黙って剛介は見つめていた。
「でもさ、あのキーホルダーが大事なモノとしても、こんな夜中に取りに戻らなければならないほどのシロモノなのかな? ここの売店で代わりならまた買えるんだよね?」
その場全員の顔を見まわしながら、エマが同意を求めて問いかけた。
「実はあのキーホルダー、カトリが売店で欲しそうにしていた時に、俺がカトリに買ってやろうと考えていたんだ… が、俺がカトリを焦らしているうちに赤城の方が先にカトリに買ってしまってな… カトリがそれをとても喜んでいるのを見て、俺は…」
苦虫を噛んだような表情が剛介の気持ちを十分に表していた。
“だからあの時に、剛介は渋い顔をして、隼人は嬉しそうで恥ずかしそうな顔をしていたのか…”
エマは、カトリのキーホルダーを目印に決めた時の剛介と隼人の表情の違いをハッキリと思い出していた。
「でも、カトリは足をケガしているのよ… あんなところまで捜しに行ける訳がないでしょ?!」
志織の指摘に剛介の表情は急激に険しくなった。
「だ、か、ら、 赤城が一緒になってカトリを連れて行ってやってるに違いないんだ!」
「二人で行って帰ってくるときに三人になってたりして」
剛介の険しい表情をよそに、含み笑いをするような、真面目なような顔をして陽二が微妙なツッコミを入れてきた。残りの三人は訳も分からずポカンとして顔を見合わせた。
「もし『不純な交遊』があったら、だよ」
「てめえ、ザケンなよ!」
無神経な一言で頭に血の昇った剛介は、カトリとの約束も忘れて陽二の胸倉をつかんで締め上げた。
「もう、福本はこんな時に何を言っているのよ?! 剛介も止めなさい!」
志織が持っていたスマホを手放して二人の間に割って入って、エマは剛介を後ろから羽交い絞めにした。
「おい離せ! 俺は今から行ってくる!」
剛介はエマのことを振りほどき、走って部屋を出て行ってしまった。
「福本、アンタがこんな時に余計なこと言うからでしょ! 剛介、チョット待ちなさいよ!」
陽二を睨みつけながら怒鳴ってから、志織も靴をつっかけて剛介の後を追った。
「剛介と志織の二人だけで行かせるの? 私は行くわよ。アナタはここで何もしないで待っている気なの?」
エマも陽二の方を軽蔑するように見て、一言吐き捨ててから二人を追って部屋を出て行った。
誰もいなくなって静かになった部屋の中に、呆然としたままの陽二は一人で取り残されていた。