おかしな空気
文字数 1,925文字
「ねえ、赤城と志織で打ち上げのこと準備してくれてんだよね。志織にはちょっと聞けないから赤城に聞きたいんだけど…」
まわりには聞こえないように注意してエマがささやき声で登校して来た隼人に話しかけてきた。
「明日の打ち上げは志織がお店の予約はするけど自分は参加できない、ってメールがきてたけど、どういうことなのか分かる?」
「心配かけて悪いな、エマ。そのことなんだけど、今はまだ調整の途中で本決まりって訳じゃないんだ」
打ち上げの日の変更についての剛介との話合いの結果をカトリから早く聞きたい隼人は、エマに丁寧とは言えない対応をした。
「申し訳ないけど、込み入った話で一言でいうことが簡単じゃないんだよ」
説明にもなっていないことを聞かされて納得できない顔をしているエマを半ば放置して、隼人は自分より早く来ていたカトリを見つけると、登校時の教室内の喧騒をかき分けてカトリの席へ向かった。
「どうだった?」
「………」
期待がこもった隼人の問いかけに対してカトリがやつれた顔をして黙ったまま首を振った。
「そ、そうだったか…」
”あんなにお気に入りだったカトリの説得でも無理だったのか… 竜崎はどうしてこんなに頑固なんだ?”
隼人は打ち上げを簡単に日曜日に変えられると思っていた自分の見立てが甘かったことを痛感した。
その時に剛介が不機嫌な顔をして教室に入ってきた。剛介は隼人とカトリの横を通るときには顔をそむけて行った。
「おかしいよ、みんな! いったい何があったの、教えてよ?」
エマが隼人とカトリのところに近づいてきて二人に真剣な表情で問いかけた。
「いや、さっき話した打ち上げのメールのことで日曜日にできないかを昨日からカトリに竜崎と話し合ってもらっていたんだけど…」
カトリと剛介のことを順々に見て隼人は深くため息をついた。
「うまくいかなかった…」
「ねえ、打ち上げを明日にするんじゃダメなの?」
エマがヒソヒソ声で話しかけると、それにつられて隼人もヒソヒソ声になった。
「それじゃ東条の都合がどうしてもつかなくて… 明日だと東条は参加できないんだ」
「そうすると、打ち上げはどうなるの?」
「打ち上げ自体は明日になるけど、東条は打ち上げには参加できないな…」
「志織が来ないんじゃ、打ち上げにならないよ!」
思わずエマの声は大きくなった。この時の志織は他の仲間とは交わらず、自分の席にいて落ち着き払っていた。
「じゃあ、それって剛介のせいなの?」
「そこのヤツら、なにゴチャゴチャ言ってんだ!」
自分の席に座りふんぞり返ってエマと隼人の話合いの様子を見ていた剛介が背後でウロウロする陽二をよそに大声を出した。一瞬の静けさの後、教室内がザワついた。
「なんだって? なんで絡んでくるんだ、竜崎?」
「二人でコソコソと目ざわりだって言ってるんだ!」
何とかして落ち着かせようとする陽二を振り払って剛介が怒鳴った。今度は教室中が静まり返り室内の目や耳が一斉に隼人と剛介に向かった。
「このことはクラスのみんなには内緒のことだから教室では止めておこうよ、ね」
隼人の制服の袖を引っ張ってエマがささやくように隼人を諭した。
「竜崎、ちょっと話がある。外へ出ろ」
隼人がアゴで教室の後ろの扉をさし示した
「そうじゃないでしょ!ねえ止めなさいよ、赤城ったら!」
「ちょうどいい、俺もそう思っていたところだ」
剛介は席から立ちあがり、制止する陽二の手を振りほどいて後ろの扉へ向かった。
ガラッ
前の扉から響子先生が入ってきた
「ホームルームの時間ですよ。みなさん席に着いてください」
「オレたちチョット用事があるんで」
後ろの扉に向かって進み始めていた隼人と剛介は、響子先生の優しい呼びかけの声を聞いても自分たちの行動を止めようとはしなかった。
「あなたたち、いつまでふざけているの」
普段は柔和な響子先生が目を細めて隼人と剛介を見下した。二人は自分たちの背よりも低い位置からの女性教師の視線に射すくめられた。
「もう時間です。皆さん、早く席に着きなさい」
教室内を睥睨した響子先生は決して大きな声ではないが反論を許さない低い声と厳めしい口調で生徒たちに指示を与えた。完全に響子先生の気に圧された生徒たちは全員黙って席に着いた。
この時エマは今までのことを机の下でスマホにブラインドタッチで打ち込んでいって、しばらくしてからあるところへ送信した。
まわりには聞こえないように注意してエマがささやき声で登校して来た隼人に話しかけてきた。
「明日の打ち上げは志織がお店の予約はするけど自分は参加できない、ってメールがきてたけど、どういうことなのか分かる?」
「心配かけて悪いな、エマ。そのことなんだけど、今はまだ調整の途中で本決まりって訳じゃないんだ」
打ち上げの日の変更についての剛介との話合いの結果をカトリから早く聞きたい隼人は、エマに丁寧とは言えない対応をした。
「申し訳ないけど、込み入った話で一言でいうことが簡単じゃないんだよ」
説明にもなっていないことを聞かされて納得できない顔をしているエマを半ば放置して、隼人は自分より早く来ていたカトリを見つけると、登校時の教室内の喧騒をかき分けてカトリの席へ向かった。
「どうだった?」
「………」
期待がこもった隼人の問いかけに対してカトリがやつれた顔をして黙ったまま首を振った。
「そ、そうだったか…」
”あんなにお気に入りだったカトリの説得でも無理だったのか… 竜崎はどうしてこんなに頑固なんだ?”
隼人は打ち上げを簡単に日曜日に変えられると思っていた自分の見立てが甘かったことを痛感した。
その時に剛介が不機嫌な顔をして教室に入ってきた。剛介は隼人とカトリの横を通るときには顔をそむけて行った。
「おかしいよ、みんな! いったい何があったの、教えてよ?」
エマが隼人とカトリのところに近づいてきて二人に真剣な表情で問いかけた。
「いや、さっき話した打ち上げのメールのことで日曜日にできないかを昨日からカトリに竜崎と話し合ってもらっていたんだけど…」
カトリと剛介のことを順々に見て隼人は深くため息をついた。
「うまくいかなかった…」
「ねえ、打ち上げを明日にするんじゃダメなの?」
エマがヒソヒソ声で話しかけると、それにつられて隼人もヒソヒソ声になった。
「それじゃ東条の都合がどうしてもつかなくて… 明日だと東条は参加できないんだ」
「そうすると、打ち上げはどうなるの?」
「打ち上げ自体は明日になるけど、東条は打ち上げには参加できないな…」
「志織が来ないんじゃ、打ち上げにならないよ!」
思わずエマの声は大きくなった。この時の志織は他の仲間とは交わらず、自分の席にいて落ち着き払っていた。
「じゃあ、それって剛介のせいなの?」
「そこのヤツら、なにゴチャゴチャ言ってんだ!」
自分の席に座りふんぞり返ってエマと隼人の話合いの様子を見ていた剛介が背後でウロウロする陽二をよそに大声を出した。一瞬の静けさの後、教室内がザワついた。
「なんだって? なんで絡んでくるんだ、竜崎?」
「二人でコソコソと目ざわりだって言ってるんだ!」
何とかして落ち着かせようとする陽二を振り払って剛介が怒鳴った。今度は教室中が静まり返り室内の目や耳が一斉に隼人と剛介に向かった。
「このことはクラスのみんなには内緒のことだから教室では止めておこうよ、ね」
隼人の制服の袖を引っ張ってエマがささやくように隼人を諭した。
「竜崎、ちょっと話がある。外へ出ろ」
隼人がアゴで教室の後ろの扉をさし示した
「そうじゃないでしょ!ねえ止めなさいよ、赤城ったら!」
「ちょうどいい、俺もそう思っていたところだ」
剛介は席から立ちあがり、制止する陽二の手を振りほどいて後ろの扉へ向かった。
ガラッ
前の扉から響子先生が入ってきた
「ホームルームの時間ですよ。みなさん席に着いてください」
「オレたちチョット用事があるんで」
後ろの扉に向かって進み始めていた隼人と剛介は、響子先生の優しい呼びかけの声を聞いても自分たちの行動を止めようとはしなかった。
「あなたたち、いつまでふざけているの」
普段は柔和な響子先生が目を細めて隼人と剛介を見下した。二人は自分たちの背よりも低い位置からの女性教師の視線に射すくめられた。
「もう時間です。皆さん、早く席に着きなさい」
教室内を睥睨した響子先生は決して大きな声ではないが反論を許さない低い声と厳めしい口調で生徒たちに指示を与えた。完全に響子先生の気に圧された生徒たちは全員黙って席に着いた。
この時エマは今までのことを机の下でスマホにブラインドタッチで打ち込んでいって、しばらくしてからあるところへ送信した。