とりとめのない話の裏側は
文字数 2,075文字
オリエンテーション合宿の2日目のイベントが終了し夕方を迎え、ホテルに帰って来た者たちから入浴時間までの自由時間を取り始めていた。イベントはと言えば、実際は大したことのない地引網や山中の散策だったが、受験勉強でカラダのなまった元受験生達にはちょうど良いリハビリの運動量であった。
カトリたちはここで一服する時間をとってから肝試しの準備をして、目立たぬようにバラバラにホテルから少々離れた人目につかない集合場所へ集まることにしていた。
お楽しみまでの小休止のこの時間帯、ホテルのみやげ物売場のガラスケースの前に座り込んでカトリはある物をジッと見つめていた。その熱視線の先には人気の子猫のキャラクターのご当地バージョンのキーホルダーがあった。
「カトリ、それが気に入っているのか?」
剛介がカトリの後ろから話しかけたが、キーホルダーに心を奪われているカトリは呼びかけには全く気づく様子はなかった。
“集中すると何も耳に入らないのか?”
剛介はいく度か声をかけたが一向にカトリが反応しないので、後ろから肩をたたき大きめの声で話しかけた。
「おい、カトリ、ずいぶん気に入っているようだな!」
「ビッテ!」
無心にキーホルダーに見入っていたカトリは、剛介の呼びかけに驚いて飛び上がった。
「なんだ、ゴースケか! 急に大きな声出さないでヨ! ビックリしちゃったでしょ!」
振り返って剛介を見つけたカトリは目を丸くしていた。
「俺は何度も声をかけているんだぞ… 『ビックリしちゃった!』じゃないだろ… カトリはそのキーホルダーが気に入っているのか?」
「もちろん! これカワイイよね? ワタシ一目見て気に入っちゃったわ!」
“カトリも案外幼いところがあるな… 俺にはこんな物の良さはサッパリわからん…”
「ほう… そうか…」
「だって聞いてよ! とても珍しいキーホルダーを見つけたの! 普通なら…」
フィーバーに入ってカトリのとめどない解説が始まったが、それが終わるまではとりあえず機嫌を損ねないよう話につき合う覚悟をした剛介だった…
同じフロアのラウンジの前でE組の3人の女子生徒たち今夜のキャンプファイヤーでの『罰ゲーム』について話し合っていた。
「昨日の夜に負けなくて良かったわ!」
「本当にそうだよね、杏奈! 私も最後のゲームで2が3枚きたから何とかなったけど… そうじゃなかったら、私がビリになってたはずだから…」
「とにかく私たち勝てて良かったね、美羽! ねえ鈴、約束は忘れていないわよね?」
「一番負けた人がキャンプファイヤーの時に好きな人に告るっていう約束でしょ… もちろんウチは忘れていないわよ」
女子にしては背が高い、長い黒髪の和風美人の香月 鈴は表情を変えずに桂 杏奈と二谷 美羽の目を見た。
「でも、私が負けていたら… 聖エルモに入ってからまだ1か月しか経っていないから好きな人なんてまだいないし…」
「何言ってんのよ、美羽! あなたA組のバスケ部の男子がイイってずっと言ってたじゃない」
“気になる人がどこの誰だかわかるならいいじゃない… ウチの方はそれが分からないから…”
鈴は一週間ほど前の出来事を思い出していた。
「…そりゃ背も高いしカッコはイイけどさ、杏奈だったら見た目以外のヒトとナリが分からない人からいきなり告られたらどうするの?」
「付き合ってからじゃないとヒトもナリも分からないとも言えるし… ずっと黙っているけど、鈴はどうなのよ?」
すっかり思い出のことに気を取られていた鈴は自分への話の振りに反応しなかった。
「ねえ、鈴! 聞いているの?」
「なんの話だったっけ…」
「彼氏にするなら見た目か性格かって聞いているんだけど!」
「ゴメンゴメン杏奈… ウチは見た目より性格重視かな」
「黙ってても男が寄って来るくらい鈴は美人だからそんなこと言えるのよ…」
「杏奈のいうとおりだよ。私も鈴みたいにスラっとして美人だったら良かったのに」
「全然そんなことないよ。杏奈の目元も美羽の口元もとってもカワイイじゃない! ウチは二人がうらやましいな」
“相手をほめない訳にいかないから女子同士って疲れることも多いよね…”
杏奈と美羽からそらした鈴の目に、離れた所にある遠くのみやげ物売場にいる体のデカい男子の姿が映った。
“エッ! もしかしてあの時の!? 聖エルモの、しかも1年だったの!?”
その男は下を向いて誰かと話をしているので顔まではハッキリとは見えない。
「… もし私が負けていて誰かに告らないといけなかったら… そうね… 美羽と鈴が私が冗談で選んだって分かる人なら誰でもいいからテキトーに告っちゃう! もし相手が本気になりそうだったら罰ゲームだったから許して、ってすぐに謝っちゃうかな…」
「そんなヒドいこと言って良くないんだ、杏奈は! ねえ、ヒドいよね、鈴?」
美羽が呼びかけに応じない鈴を見ると、まばたきもせずに鈴は遠くに視線が突き刺さったままだった。その先にはデカい体格の、イケているとは言えない髪型の男子がいた。
カトリたちはここで一服する時間をとってから肝試しの準備をして、目立たぬようにバラバラにホテルから少々離れた人目につかない集合場所へ集まることにしていた。
お楽しみまでの小休止のこの時間帯、ホテルのみやげ物売場のガラスケースの前に座り込んでカトリはある物をジッと見つめていた。その熱視線の先には人気の子猫のキャラクターのご当地バージョンのキーホルダーがあった。
「カトリ、それが気に入っているのか?」
剛介がカトリの後ろから話しかけたが、キーホルダーに心を奪われているカトリは呼びかけには全く気づく様子はなかった。
“集中すると何も耳に入らないのか?”
剛介はいく度か声をかけたが一向にカトリが反応しないので、後ろから肩をたたき大きめの声で話しかけた。
「おい、カトリ、ずいぶん気に入っているようだな!」
「ビッテ!」
無心にキーホルダーに見入っていたカトリは、剛介の呼びかけに驚いて飛び上がった。
「なんだ、ゴースケか! 急に大きな声出さないでヨ! ビックリしちゃったでしょ!」
振り返って剛介を見つけたカトリは目を丸くしていた。
「俺は何度も声をかけているんだぞ… 『ビックリしちゃった!』じゃないだろ… カトリはそのキーホルダーが気に入っているのか?」
「もちろん! これカワイイよね? ワタシ一目見て気に入っちゃったわ!」
“カトリも案外幼いところがあるな… 俺にはこんな物の良さはサッパリわからん…”
「ほう… そうか…」
「だって聞いてよ! とても珍しいキーホルダーを見つけたの! 普通なら…」
フィーバーに入ってカトリのとめどない解説が始まったが、それが終わるまではとりあえず機嫌を損ねないよう話につき合う覚悟をした剛介だった…
同じフロアのラウンジの前でE組の3人の女子生徒たち今夜のキャンプファイヤーでの『罰ゲーム』について話し合っていた。
「昨日の夜に負けなくて良かったわ!」
「本当にそうだよね、杏奈! 私も最後のゲームで2が3枚きたから何とかなったけど… そうじゃなかったら、私がビリになってたはずだから…」
「とにかく私たち勝てて良かったね、美羽! ねえ鈴、約束は忘れていないわよね?」
「一番負けた人がキャンプファイヤーの時に好きな人に告るっていう約束でしょ… もちろんウチは忘れていないわよ」
女子にしては背が高い、長い黒髪の和風美人の香月 鈴は表情を変えずに桂 杏奈と二谷 美羽の目を見た。
「でも、私が負けていたら… 聖エルモに入ってからまだ1か月しか経っていないから好きな人なんてまだいないし…」
「何言ってんのよ、美羽! あなたA組のバスケ部の男子がイイってずっと言ってたじゃない」
“気になる人がどこの誰だかわかるならいいじゃない… ウチの方はそれが分からないから…”
鈴は一週間ほど前の出来事を思い出していた。
「…そりゃ背も高いしカッコはイイけどさ、杏奈だったら見た目以外のヒトとナリが分からない人からいきなり告られたらどうするの?」
「付き合ってからじゃないとヒトもナリも分からないとも言えるし… ずっと黙っているけど、鈴はどうなのよ?」
すっかり思い出のことに気を取られていた鈴は自分への話の振りに反応しなかった。
「ねえ、鈴! 聞いているの?」
「なんの話だったっけ…」
「彼氏にするなら見た目か性格かって聞いているんだけど!」
「ゴメンゴメン杏奈… ウチは見た目より性格重視かな」
「黙ってても男が寄って来るくらい鈴は美人だからそんなこと言えるのよ…」
「杏奈のいうとおりだよ。私も鈴みたいにスラっとして美人だったら良かったのに」
「全然そんなことないよ。杏奈の目元も美羽の口元もとってもカワイイじゃない! ウチは二人がうらやましいな」
“相手をほめない訳にいかないから女子同士って疲れることも多いよね…”
杏奈と美羽からそらした鈴の目に、離れた所にある遠くのみやげ物売場にいる体のデカい男子の姿が映った。
“エッ! もしかしてあの時の!? 聖エルモの、しかも1年だったの!?”
その男は下を向いて誰かと話をしているので顔まではハッキリとは見えない。
「… もし私が負けていて誰かに告らないといけなかったら… そうね… 美羽と鈴が私が冗談で選んだって分かる人なら誰でもいいからテキトーに告っちゃう! もし相手が本気になりそうだったら罰ゲームだったから許して、ってすぐに謝っちゃうかな…」
「そんなヒドいこと言って良くないんだ、杏奈は! ねえ、ヒドいよね、鈴?」
美羽が呼びかけに応じない鈴を見ると、まばたきもせずに鈴は遠くに視線が突き刺さったままだった。その先にはデカい体格の、イケているとは言えない髪型の男子がいた。