それぞれの思い
文字数 2,616文字
「…森林でも市街地でも、特に狙撃手はニオイや音を絶対に出すなよ。敵に居場所が見つかったら、まず最初にツブしに掛かられるぞ。それも圧倒的な火力でな」
“二人して何であんなに目立つことをしたのかな…”
隼人からの注意や説明に対して、カトリは心ここにあらずと言った様子だった。
「返事がないぞ、カトリ。ちゃんと聞いていたのか? お前の命に関わるんだぞ?」
本気で隼人は忠告したが、カトリの様子は全く変わらなかった。
“注意事項ね…”
「狙撃手はニオイや音を絶対に出さなように注意するんだよね」
すぐに口答したものの、カトリは離れたところから見つめていた隼人と志織の二人だけのフォークダンスのことを思いだしていた。
「なんかずっと変だぞ、カトリ。大丈夫か?」
「ワタシなら何でもないわ。気にしないで」
ボンヤリし続けて話に身の入っていないカトリに隼人は一抹の不安を覚えていた。
「赤城とカトリったら、せっかく夜の森の中で二人きりなのに完全にその気がないわね。意味不明だわ~ ア~ とってもつまんない~」
草むらの中に身を隠し二人の様子を探り続けるエマは、予想通りの進展が全然ないので、ため息をつきながらサジを投げたように言い放った。
「俺の予想と違ってこれはいいアンバイだな… 心配したくても心配のしようがない…」
その横に並んで隠れている剛介にとっては、面白い・つまらないの問題ではなくて、心配・安心の問題だった。
「ねえ、いま二人はどうなっているの?」
「エッ!」 「オッ!」
音もなく近寄ってきた志織にいきなり背後から声をかけられて、気を抜いてはいたものの、直前までは息を殺してカトリと隼人を監視していたエマと剛介は思わず声を上げた。
「ちょっと、剛介もエマも変な声を出さないでちょうだいよ。あちらのお二人に気づかれちゃうでしょ」
「なんだ志織か… ビックリさせないでよ… でも、よく私たちがここにいるってわかったわね…」
「私があなたたちがどこへ行ったかをたずねた人たちは『オリエンテーション合宿の役員は次々にカップルになって、向こうへ人目を避けていなくなったのよ』って、みんな口を揃えて言って、指さしながら教えてくれたわよ。何だか、たずねたこっちの方が恥ずかしくなっちゃった…」
志織の返答を聞いて自分たちがゴシップの種になったことを知ったエマは迂闊だったことを思い知ったが、一旦そのことは棚上げにした。
「それは置いておくとして、あの二人ったら、これ以上ないってシチュエーションなのに抱擁どころか、手もつなごうとしないのよ…」
エマが小声で、志織にこれまで監視してきた状況の説明を簡単にした。
“二人きりになっているのに手もつないでいないのね…”
衆目の下での自分と隼人のフォークダンスを志織は思い出していた。
「それどころか、難しそうな話をずっと続けてるだけでな… それにカトリの方には楽しそうな気配がまるでないんだ…」
カトリのことを心配しているようでもありながら、妙にゴキゲンの剛介が話を続けた。
「カトリの方は楽しくなさそうなんだ…」
草かげから覗くようにして、志織は興味深そうに隼人とカトリのことを見つめた。
「…という手はずになっている。とらえたバベルの連中は手足を拘束して、取り調べのためCIAの管理施設まで全員をまとめて別動隊が車を使って移送する。わかったよな?
一つでも漏れがあると任務に差し障りが出てくるんだぞ?」
“ワタシ、手順なんて一度聞けば全部憶えちゃうんだけどな…”
隼人とのブリーフィングにぜんぜん身の入らないカトリにチョットしたイタズラ心が湧きおこって来た。
“あ、そうだ! さっきのシオリのように、ワタシの方からハヤトに近づくと、ハヤトはどんな反応をするかしら? そんなワタシのことをハヤトはどう思う? 試して… みようかな…”
ガサッ、ガサ、ガサガサッ
「?!」「?!」「?!」
三人して覗き見に集中していた志織・エマ・剛介の背後からワリと大き目な草むらを踏みつける音がした。三人は、おののきつつも喉をゴクリと鳴らして、声を出すのを我慢しながら、後ろを振り返った。
「本当にたずねた奴らの言っていたとおりの場所にいたんだね、みんなは! あのさ、今、なにがどうなっている?」
身を隠していることを全く気にしていない声の大きさで、陽二は三人に声をかけた。
「チョット、福本ったら静かにしなさいよ! 信じられない! いったい何考えているの?!」
一時的に忘れていた自分たちがゴシップの渦中にある事実を思い出さされたこともあり、声は潜めているものの、エマが力いっぱい陽二の耳を引っ張った。
「イテテッ! 急に何するんだよ!」
「だ か ら、まず、声を小さくしなさいったら!」
涙目の陽二に対して、声を潜めているエマが再度耳を引っ張りあげた。
「わかった、わかったよ… せっかくグッドニュースを届けに来たのに、この仕打ちはないだろ?」
「グッドニュース? それ一体なんなのよ?」
やっと声が小さくなった陽二に向かって、エマは疑わしそうな顔をして問いかけた。
「剛介に違うクラスの女の子からお呼び出しのお声がかかっているんだよ!」
「?!」「?!」「?!」
志織・エマ・剛介の三人の陽二への疑うような半開きの眼の視線が一瞬にして熱視線に変化した。
「僕はキャンプファイヤーのところでヨソのクラスの知らない女子に呼び出されたんだけど、その時の僕の気持ちは満更でもなかったんだ。だって、生まれて初めてこの僕が女子から声をかけられたんだよ!」
「福本のことじゃなくって、剛介のことが聞きたいんですけど」
途中経過にはゼンゼン興味のないエマはイラついた表情で、ニヤついて説明を続けている陽二の耳に手を伸ばした。
「余計な話はどうでもいいからスキップして。意味分かるよね」
暗闇で下から明かりをあてた能面のようなエマの無機質な顔つきを見て陽二は心から恐怖を感じた。
「俺の方も早くその先が聞きたいんだが…」
震えている陽二へ腕組みをした剛介もにらみを利かせた。
“二人して何であんなに目立つことをしたのかな…”
隼人からの注意や説明に対して、カトリは心ここにあらずと言った様子だった。
「返事がないぞ、カトリ。ちゃんと聞いていたのか? お前の命に関わるんだぞ?」
本気で隼人は忠告したが、カトリの様子は全く変わらなかった。
“注意事項ね…”
「狙撃手はニオイや音を絶対に出さなように注意するんだよね」
すぐに口答したものの、カトリは離れたところから見つめていた隼人と志織の二人だけのフォークダンスのことを思いだしていた。
「なんかずっと変だぞ、カトリ。大丈夫か?」
「ワタシなら何でもないわ。気にしないで」
ボンヤリし続けて話に身の入っていないカトリに隼人は一抹の不安を覚えていた。
「赤城とカトリったら、せっかく夜の森の中で二人きりなのに完全にその気がないわね。意味不明だわ~ ア~ とってもつまんない~」
草むらの中に身を隠し二人の様子を探り続けるエマは、予想通りの進展が全然ないので、ため息をつきながらサジを投げたように言い放った。
「俺の予想と違ってこれはいいアンバイだな… 心配したくても心配のしようがない…」
その横に並んで隠れている剛介にとっては、面白い・つまらないの問題ではなくて、心配・安心の問題だった。
「ねえ、いま二人はどうなっているの?」
「エッ!」 「オッ!」
音もなく近寄ってきた志織にいきなり背後から声をかけられて、気を抜いてはいたものの、直前までは息を殺してカトリと隼人を監視していたエマと剛介は思わず声を上げた。
「ちょっと、剛介もエマも変な声を出さないでちょうだいよ。あちらのお二人に気づかれちゃうでしょ」
「なんだ志織か… ビックリさせないでよ… でも、よく私たちがここにいるってわかったわね…」
「私があなたたちがどこへ行ったかをたずねた人たちは『オリエンテーション合宿の役員は次々にカップルになって、向こうへ人目を避けていなくなったのよ』って、みんな口を揃えて言って、指さしながら教えてくれたわよ。何だか、たずねたこっちの方が恥ずかしくなっちゃった…」
志織の返答を聞いて自分たちがゴシップの種になったことを知ったエマは迂闊だったことを思い知ったが、一旦そのことは棚上げにした。
「それは置いておくとして、あの二人ったら、これ以上ないってシチュエーションなのに抱擁どころか、手もつなごうとしないのよ…」
エマが小声で、志織にこれまで監視してきた状況の説明を簡単にした。
“二人きりになっているのに手もつないでいないのね…”
衆目の下での自分と隼人のフォークダンスを志織は思い出していた。
「それどころか、難しそうな話をずっと続けてるだけでな… それにカトリの方には楽しそうな気配がまるでないんだ…」
カトリのことを心配しているようでもありながら、妙にゴキゲンの剛介が話を続けた。
「カトリの方は楽しくなさそうなんだ…」
草かげから覗くようにして、志織は興味深そうに隼人とカトリのことを見つめた。
「…という手はずになっている。とらえたバベルの連中は手足を拘束して、取り調べのためCIAの管理施設まで全員をまとめて別動隊が車を使って移送する。わかったよな?
一つでも漏れがあると任務に差し障りが出てくるんだぞ?」
“ワタシ、手順なんて一度聞けば全部憶えちゃうんだけどな…”
隼人とのブリーフィングにぜんぜん身の入らないカトリにチョットしたイタズラ心が湧きおこって来た。
“あ、そうだ! さっきのシオリのように、ワタシの方からハヤトに近づくと、ハヤトはどんな反応をするかしら? そんなワタシのことをハヤトはどう思う? 試して… みようかな…”
ガサッ、ガサ、ガサガサッ
「?!」「?!」「?!」
三人して覗き見に集中していた志織・エマ・剛介の背後からワリと大き目な草むらを踏みつける音がした。三人は、おののきつつも喉をゴクリと鳴らして、声を出すのを我慢しながら、後ろを振り返った。
「本当にたずねた奴らの言っていたとおりの場所にいたんだね、みんなは! あのさ、今、なにがどうなっている?」
身を隠していることを全く気にしていない声の大きさで、陽二は三人に声をかけた。
「チョット、福本ったら静かにしなさいよ! 信じられない! いったい何考えているの?!」
一時的に忘れていた自分たちがゴシップの渦中にある事実を思い出さされたこともあり、声は潜めているものの、エマが力いっぱい陽二の耳を引っ張った。
「イテテッ! 急に何するんだよ!」
「だ か ら、まず、声を小さくしなさいったら!」
涙目の陽二に対して、声を潜めているエマが再度耳を引っ張りあげた。
「わかった、わかったよ… せっかくグッドニュースを届けに来たのに、この仕打ちはないだろ?」
「グッドニュース? それ一体なんなのよ?」
やっと声が小さくなった陽二に向かって、エマは疑わしそうな顔をして問いかけた。
「剛介に違うクラスの女の子からお呼び出しのお声がかかっているんだよ!」
「?!」「?!」「?!」
志織・エマ・剛介の三人の陽二への疑うような半開きの眼の視線が一瞬にして熱視線に変化した。
「僕はキャンプファイヤーのところでヨソのクラスの知らない女子に呼び出されたんだけど、その時の僕の気持ちは満更でもなかったんだ。だって、生まれて初めてこの僕が女子から声をかけられたんだよ!」
「福本のことじゃなくって、剛介のことが聞きたいんですけど」
途中経過にはゼンゼン興味のないエマはイラついた表情で、ニヤついて説明を続けている陽二の耳に手を伸ばした。
「余計な話はどうでもいいからスキップして。意味分かるよね」
暗闇で下から明かりをあてた能面のようなエマの無機質な顔つきを見て陽二は心から恐怖を感じた。
「俺の方も早くその先が聞きたいんだが…」
震えている陽二へ腕組みをした剛介もにらみを利かせた。