情意の発露
文字数 2,524文字
「それに?」
「それに副委員長のカトリがいるところでは、私の方から一人で進んで赤城に手伝ったり関わることはできなかったでしょ…」
“私としては本当は赤城のそばに行きたかったんだけどね… 任務でカトリから目を離してはいけなかったけど、そのせいでずっと赤城とカトリが一緒にいるところを見せつけられることになっていた…”
カトリのことに触れた途端、志織の口調が熱を帯びてきた。
「この合宿でもゼッタイに赤城と同じ班になりたくて… そのためには、どんなことでもして、なんでも我慢してきたの… 赤城は私の気持ち、今はわかってくれるよね?」
“私はここで気持ちを伝えたい… 伝えないまま後悔したくはない…”
志織の胸中にはこれまでに積もりに積もってきた思いがあふれんばかりになっていた。
“そうだった… これまで東条にはいろいろな苦労をさせていたんだ…”
志織が自分と剛介との間の不和に和解をとりなしたこと、嫌がる陽二の肝試し参加への説得やその後の面倒見を買って出てくれたこと等々を隼人は思い起こして志織に対して申し訳なくなった。今までの志織の行動に隼人は感謝すると同時に、必死で思いを語ってくれる志織の表情をケナゲに感じていた。
「これまでありがとう、東条」
隼人は志織に頭を下げて丁寧に礼を言った。
「赤城、そんなことしないで! 頭なんて下げないでよ!」
志織は隼人の感謝を受けたものの逆に恐縮してしまい、それまでの熱い感情が一瞬だったがどこかへ去ってしまった。
「肝試しの時に赤城が私と福本を迎えに来てくれたことがあったでしょ? そこで私が福本の相手をしている時に赤城が声をかけてくれたことがあったんだ。それが、とてもうれしかったんだよ…」
おずおずと話す志織の気持ちとは対称的に隼人はその時のことを全く思い出せなかった。
「そのときは、私が一生懸命に福本を落ち着かせていると赤城が近くまで寄って来てくれてさ! おまけに私を誉めてまでくれたんだよ!」
隼人へ話しかける志織の気持ちは再び熱く熱くなっていった。
「他の人に誉めてもらうことって、私にはこれまで一度もなかったんだよ… そう、一度もね… だから、赤城に誉めてもらった時の嬉しさったら!」
最後には志織は隼人の手を両手でつかんでいた。
「赤城、グループじゃなくて直接連絡を取り合いたいな! ねえ、私と電話番号とメールアドレスを交換しようよ!」
「おいおい東条、落ち着けよ。おまえの気持ちは分かっているからさ」
熱気に満ちた志織が隼人にスマホを取り出させデータ交換のセッティングをしはじめたのを隼人は苦笑してながめていた。
「私には赤城にお願いしたいことがまだあるんだけど、聞いてもらえるかな… とても大切なことなんだ…」
隼人の目を見つめてセッティングが終わったスマホを返しながら、一転して聞こえるか聞こえないかの声で、志織が隼人につぶやきかけた。志織の真っ直ぐなまなざしを受けた隼人には、志織が話を始める前の時点で、自分の心臓の鼓動がドクンドクンと大きく響いているのが聞こえていた。
「ハヤトーッ! まだココにいたんだーっ!」
離れたところから隼人の後ろ姿を見つけて、カトリが大きな声をかけてきた。
「もう集合の放送が何度もあったよーっ! 聞こえなかったーっ?!」
カトリの呼びかけを聞いた志織は今にも泣き出しそうな顔をして隼人を見た。
「聞こえているんでしょ! ハヤトーっ!」
カトリの声が近づいて来たが、隼人はそちらへ振り向こうとしなかった。
「これ以上は…」
隼人は志織に小さく声をかけた。
「…っ」
声も漏らすことなく志織は、かぶりを振って、駆け足でその場を去って行った。
「ハヤトったら、返事してよ… ねえ早く戻ろう…」
隼人にいくら呼びかけても反応どころか返事一つなかったので、隼人のところにたどり着いたカトリは困ったような顔をしていた。
「いま誰か、いた?」
口を開かない隼人のことをうかがうような顔をしてカトリはたずねた。
「いや、誰もいなかったよ… オレ一人だ…」
「あれから一人でここで何していたの?」
「……」
「キョーコ先生は来なかったの?」
「……」
「ハヤト、なんとか言ってヨ」
「あのあと一人でいたかったんだ…」
放心したようになって隼人は答えた。
「カトリ… いろんなことがあって疲れたんだ…」
「ハヤト… 疲れちゃったのね…」
カトリはキャンプファイヤーから後に隼人の身に起こった様々な出来事を思い浮かべた。
「うん、わかった。一緒に戻ろう」
カトリは黙っている隼人の手を引いて集合場所へ向かった。
~♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪~
その晩の消灯時間後、隼人のスマホのメールの着信音が鳴った。
「ん? 誰だこんな時間に?」
そう口ではつぶやいたものの、隼人には誰からのメールか想像がついていた。眠っている剛介と陽二を起こさないように気を付けながらスマホを取り出して見ると、画面には思ったとおりの着信が表示されていた。
『さっきは言えませんでしたが、合宿休みの日に私と会ってください』
メール画面を凝視する隼人の心にさざ波が立った。緊張しつつ返信を入力した隼人の手は少し震えていた。
『どういう意味ですか?』
相手からは即返信があった。
『…そういう意味です』
“二人きりで逢いたいという意味か…”
『分かりました、こちらこそお願いします』
短い文章だったが隼人は慌てずに文字を入力するのに苦労してしまった。
『どうもありがとう! なんと、フォークダンスの画像ををとってもらっていました! 恥ずかしいけど画像を送るので見てください。自分で言うのもなんですが、よくとれていると思います♡ そうそう、時間と場所は…』
受信の確認後、ホッ、とため息をついてから隼人はスマホを枕元に置いた。
「それに副委員長のカトリがいるところでは、私の方から一人で進んで赤城に手伝ったり関わることはできなかったでしょ…」
“私としては本当は赤城のそばに行きたかったんだけどね… 任務でカトリから目を離してはいけなかったけど、そのせいでずっと赤城とカトリが一緒にいるところを見せつけられることになっていた…”
カトリのことに触れた途端、志織の口調が熱を帯びてきた。
「この合宿でもゼッタイに赤城と同じ班になりたくて… そのためには、どんなことでもして、なんでも我慢してきたの… 赤城は私の気持ち、今はわかってくれるよね?」
“私はここで気持ちを伝えたい… 伝えないまま後悔したくはない…”
志織の胸中にはこれまでに積もりに積もってきた思いがあふれんばかりになっていた。
“そうだった… これまで東条にはいろいろな苦労をさせていたんだ…”
志織が自分と剛介との間の不和に和解をとりなしたこと、嫌がる陽二の肝試し参加への説得やその後の面倒見を買って出てくれたこと等々を隼人は思い起こして志織に対して申し訳なくなった。今までの志織の行動に隼人は感謝すると同時に、必死で思いを語ってくれる志織の表情をケナゲに感じていた。
「これまでありがとう、東条」
隼人は志織に頭を下げて丁寧に礼を言った。
「赤城、そんなことしないで! 頭なんて下げないでよ!」
志織は隼人の感謝を受けたものの逆に恐縮してしまい、それまでの熱い感情が一瞬だったがどこかへ去ってしまった。
「肝試しの時に赤城が私と福本を迎えに来てくれたことがあったでしょ? そこで私が福本の相手をしている時に赤城が声をかけてくれたことがあったんだ。それが、とてもうれしかったんだよ…」
おずおずと話す志織の気持ちとは対称的に隼人はその時のことを全く思い出せなかった。
「そのときは、私が一生懸命に福本を落ち着かせていると赤城が近くまで寄って来てくれてさ! おまけに私を誉めてまでくれたんだよ!」
隼人へ話しかける志織の気持ちは再び熱く熱くなっていった。
「他の人に誉めてもらうことって、私にはこれまで一度もなかったんだよ… そう、一度もね… だから、赤城に誉めてもらった時の嬉しさったら!」
最後には志織は隼人の手を両手でつかんでいた。
「赤城、グループじゃなくて直接連絡を取り合いたいな! ねえ、私と電話番号とメールアドレスを交換しようよ!」
「おいおい東条、落ち着けよ。おまえの気持ちは分かっているからさ」
熱気に満ちた志織が隼人にスマホを取り出させデータ交換のセッティングをしはじめたのを隼人は苦笑してながめていた。
「私には赤城にお願いしたいことがまだあるんだけど、聞いてもらえるかな… とても大切なことなんだ…」
隼人の目を見つめてセッティングが終わったスマホを返しながら、一転して聞こえるか聞こえないかの声で、志織が隼人につぶやきかけた。志織の真っ直ぐなまなざしを受けた隼人には、志織が話を始める前の時点で、自分の心臓の鼓動がドクンドクンと大きく響いているのが聞こえていた。
「ハヤトーッ! まだココにいたんだーっ!」
離れたところから隼人の後ろ姿を見つけて、カトリが大きな声をかけてきた。
「もう集合の放送が何度もあったよーっ! 聞こえなかったーっ?!」
カトリの呼びかけを聞いた志織は今にも泣き出しそうな顔をして隼人を見た。
「聞こえているんでしょ! ハヤトーっ!」
カトリの声が近づいて来たが、隼人はそちらへ振り向こうとしなかった。
「これ以上は…」
隼人は志織に小さく声をかけた。
「…っ」
声も漏らすことなく志織は、かぶりを振って、駆け足でその場を去って行った。
「ハヤトったら、返事してよ… ねえ早く戻ろう…」
隼人にいくら呼びかけても反応どころか返事一つなかったので、隼人のところにたどり着いたカトリは困ったような顔をしていた。
「いま誰か、いた?」
口を開かない隼人のことをうかがうような顔をしてカトリはたずねた。
「いや、誰もいなかったよ… オレ一人だ…」
「あれから一人でここで何していたの?」
「……」
「キョーコ先生は来なかったの?」
「……」
「ハヤト、なんとか言ってヨ」
「あのあと一人でいたかったんだ…」
放心したようになって隼人は答えた。
「カトリ… いろんなことがあって疲れたんだ…」
「ハヤト… 疲れちゃったのね…」
カトリはキャンプファイヤーから後に隼人の身に起こった様々な出来事を思い浮かべた。
「うん、わかった。一緒に戻ろう」
カトリは黙っている隼人の手を引いて集合場所へ向かった。
~♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪~
その晩の消灯時間後、隼人のスマホのメールの着信音が鳴った。
「ん? 誰だこんな時間に?」
そう口ではつぶやいたものの、隼人には誰からのメールか想像がついていた。眠っている剛介と陽二を起こさないように気を付けながらスマホを取り出して見ると、画面には思ったとおりの着信が表示されていた。
『さっきは言えませんでしたが、合宿休みの日に私と会ってください』
メール画面を凝視する隼人の心にさざ波が立った。緊張しつつ返信を入力した隼人の手は少し震えていた。
『どういう意味ですか?』
相手からは即返信があった。
『…そういう意味です』
“二人きりで逢いたいという意味か…”
『分かりました、こちらこそお願いします』
短い文章だったが隼人は慌てずに文字を入力するのに苦労してしまった。
『どうもありがとう! なんと、フォークダンスの画像ををとってもらっていました! 恥ずかしいけど画像を送るので見てください。自分で言うのもなんですが、よくとれていると思います♡ そうそう、時間と場所は…』
受信の確認後、ホッ、とため息をついてから隼人はスマホを枕元に置いた。