崖っぷちの人々
文字数 1,883文字
「おい、何やってんだ? 相手にナイフなんか向けてどうするんだ? 意味ないだろ…」
「お願い、剛介は黙っていて… そして動かないで…」
“私が『特技』で身に付けた技能をここで使わないといつ役立てられるっていうの… 本当はみんなの前では使いたくなかった… でも今、せっかく仲良くなれたみんなを助けられるのは、私しかいない…”
冷酷な相手を目の前にして、志織は仲間を救うためには人をアヤメることでさえ断行する決意でいた。
「ただ者ではないと思っていましたが、アナタもスペツナズナイフをお持ちでしたか。今、特技では『飛びナイフ』と言うのでしたっけ。あの思想士官ドノが話されていた、バチカンの小娘に対するこちら側のスパイがアナタなんですね」
「「志織がスパイ?! それもカトリ? への?!」」
剛介とエマの驚きと疑いの混ざった視線が志織の方向へまっすぐ注がれた。
「ウルサイわね、オジさん。黙りなさいよ」
「この場にいるお二人も、この人の今までの強引な行動とか発言に思い当たるフシがあるんじゃないのですか?」
男の問いかけを受けた剛介とエマは、離れ離れだったが口を結んだまま互いの目を見合わせてうなずき合った。
「そうでしょう、そうでしょう!」
男が満足そうな表情を浮かべた時に、剛介が突然あきれた顔をして大声を出しながら背中の志織を粗雑に床へ降ろした。
「バカらしい! こんな女いつまでも背負っていられないぜ!」
「みなさん理解が早いですね。アナタも早くそんな物騒な『飛びナイフ』なんか手放しなさい」
“この距離だったら私は絶対に外さない! 『飛びナイフ』の扱いは私がトクギで1番だったんだから!”
志織は男の催促には耳を貸さず、座り込んだ姿勢のまま腕を伸ばして、自信を持ってナイフの先端を男の頭部に向けて狙いを定めた。
その瞬間、ハンマーで強く叩かれたように、志織のナイフが火花を散らしてハジき飛ばされた。
「っ…」
シビレた利き手を志織は反対の手で押さえた。
「『飛びナイフ』に自信があるのは、なにもアナタだけではありませんよ。次は遠慮せずに急所を狙いますから覚悟しておいてください」
刃のなくなったナイフの柄を捨てた男は次の『飛びナイフ』を取り出してエマの喉に当て直した。
バ!バ!バ!バ!バ!バ!
連続した銃声と銃口炎が突然起きて、その場の主導権を奪い取った。
「みんな、助けに来たよ! 志織さん、大丈夫?」
突撃銃をかまえた陽二が少しふらつきながら室内に踊り込んで来た。その場にいた仲間たちは信じられない光景に我が目を疑った。
「お、おい、お前、エ、エマから手を離せ!」
息を切らし切らし、陽二は男に銃口を向けながら命令した。
“刃物のくせに種子島に楯突こうなんて500年早いんだよ!”
「早く言うことを聞け! 志織さんのこともすぐ助けてあげるからね!」
陽二の男に向けた鋭い目つきと言葉が、志織に話しかける際には、だらしないくらいに緩まった。
“福本が… あのビビリの福本がどうしてココに… ”
志織の胸中には信じられない思いと嬉しい気持ちが同時に湧き上がってきた。まわりの人の気持ちも気にしない自己中で、肝試しの時にはあれほどのビビリ君だったのに…
“でも、正体をばらされた今の自分は仲良くなれたみんなにとても顔向けできない”
同時にそう思うと志織の気持ちは深く沈み込んでいった。
「そこのお前、何度も同じことを言わせるな!」
バ!バ!バ!バ!バ!バ!
天井に銃を向けて引き金を引き、陽二はエマの釈放を男に迫った。
《福本の銃の扱い方… シロウトっぽくないよな…》
普通の高校1年のくせに大口径で重いAK-47の反動に翻弄されることもなしに、難なく銃の扱う陽二に隼人は刮目していた。
「おい、福本!」
得意満面の陽二に向かって、剛介が大声をかけた。
「志織はスパイだ! 気をつけろ!」
「エッ?!」
剛介の怒鳴り声の意味が、最初は陽二には分からなかった。
「俺たちは志織にダマされていたんだ、油断するなっ!」
信じられないといった顔つきをした陽二が志織の方を見ると、志織の顔は無表情だった。
“銃を持った原始人め! まず、お前から始末してやる!”
志織の正体を暴露する剛介の声に男はほくそ笑みつつ、ナイフの刃先をゆっくりと陽二の方に向けていった。
「お願い、剛介は黙っていて… そして動かないで…」
“私が『特技』で身に付けた技能をここで使わないといつ役立てられるっていうの… 本当はみんなの前では使いたくなかった… でも今、せっかく仲良くなれたみんなを助けられるのは、私しかいない…”
冷酷な相手を目の前にして、志織は仲間を救うためには人をアヤメることでさえ断行する決意でいた。
「ただ者ではないと思っていましたが、アナタもスペツナズナイフをお持ちでしたか。今、特技では『飛びナイフ』と言うのでしたっけ。あの思想士官ドノが話されていた、バチカンの小娘に対するこちら側のスパイがアナタなんですね」
「「志織がスパイ?! それもカトリ? への?!」」
剛介とエマの驚きと疑いの混ざった視線が志織の方向へまっすぐ注がれた。
「ウルサイわね、オジさん。黙りなさいよ」
「この場にいるお二人も、この人の今までの強引な行動とか発言に思い当たるフシがあるんじゃないのですか?」
男の問いかけを受けた剛介とエマは、離れ離れだったが口を結んだまま互いの目を見合わせてうなずき合った。
「そうでしょう、そうでしょう!」
男が満足そうな表情を浮かべた時に、剛介が突然あきれた顔をして大声を出しながら背中の志織を粗雑に床へ降ろした。
「バカらしい! こんな女いつまでも背負っていられないぜ!」
「みなさん理解が早いですね。アナタも早くそんな物騒な『飛びナイフ』なんか手放しなさい」
“この距離だったら私は絶対に外さない! 『飛びナイフ』の扱いは私がトクギで1番だったんだから!”
志織は男の催促には耳を貸さず、座り込んだ姿勢のまま腕を伸ばして、自信を持ってナイフの先端を男の頭部に向けて狙いを定めた。
その瞬間、ハンマーで強く叩かれたように、志織のナイフが火花を散らしてハジき飛ばされた。
「っ…」
シビレた利き手を志織は反対の手で押さえた。
「『飛びナイフ』に自信があるのは、なにもアナタだけではありませんよ。次は遠慮せずに急所を狙いますから覚悟しておいてください」
刃のなくなったナイフの柄を捨てた男は次の『飛びナイフ』を取り出してエマの喉に当て直した。
バ!バ!バ!バ!バ!バ!
連続した銃声と銃口炎が突然起きて、その場の主導権を奪い取った。
「みんな、助けに来たよ! 志織さん、大丈夫?」
突撃銃をかまえた陽二が少しふらつきながら室内に踊り込んで来た。その場にいた仲間たちは信じられない光景に我が目を疑った。
「お、おい、お前、エ、エマから手を離せ!」
息を切らし切らし、陽二は男に銃口を向けながら命令した。
“刃物のくせに種子島に楯突こうなんて500年早いんだよ!”
「早く言うことを聞け! 志織さんのこともすぐ助けてあげるからね!」
陽二の男に向けた鋭い目つきと言葉が、志織に話しかける際には、だらしないくらいに緩まった。
“福本が… あのビビリの福本がどうしてココに… ”
志織の胸中には信じられない思いと嬉しい気持ちが同時に湧き上がってきた。まわりの人の気持ちも気にしない自己中で、肝試しの時にはあれほどのビビリ君だったのに…
“でも、正体をばらされた今の自分は仲良くなれたみんなにとても顔向けできない”
同時にそう思うと志織の気持ちは深く沈み込んでいった。
「そこのお前、何度も同じことを言わせるな!」
バ!バ!バ!バ!バ!バ!
天井に銃を向けて引き金を引き、陽二はエマの釈放を男に迫った。
《福本の銃の扱い方… シロウトっぽくないよな…》
普通の高校1年のくせに大口径で重いAK-47の反動に翻弄されることもなしに、難なく銃の扱う陽二に隼人は刮目していた。
「おい、福本!」
得意満面の陽二に向かって、剛介が大声をかけた。
「志織はスパイだ! 気をつけろ!」
「エッ?!」
剛介の怒鳴り声の意味が、最初は陽二には分からなかった。
「俺たちは志織にダマされていたんだ、油断するなっ!」
信じられないといった顔つきをした陽二が志織の方を見ると、志織の顔は無表情だった。
“銃を持った原始人め! まず、お前から始末してやる!”
志織の正体を暴露する剛介の声に男はほくそ笑みつつ、ナイフの刃先をゆっくりと陽二の方に向けていった。