誘い
文字数 1,723文字
「そ、それで呼びに来た女の子に連れて行かれるままにその場所まで行ったんだけど、僕のことを呼び出した女の子を見た時に自分の目を疑った… そこには、背が高いモデルみたいな体型で髪の長い美人の女の子が、なんと僕を待っていたんだ…」
「それはE組の香月 鈴のことね。笑顔が素敵な競技ダンス部の期待の新人よ。それがマジならタダゴトじゃないわ…」
“もしかして何かあるのかしら…”
怯える陽二から特徴を聞いただけで、エマはその女子のクラスと部活とチャームポイントまで息をするように答えた。ただ、エマの胸中は言いようのない疑念や不安に曇った。一方の剛介の様子はといえば、エマの情報を聞いただけで見る見るうちにニヤケ顔になっていった。
「その女の子が僕のことを呼びだしたのかと思ったら、実は竜崎のことを連れて来いって言うんだ。僕はパシリとして呼び出されただけだと知って心の底からガッカリしたよ…」
陽二は眉を寄せた悲しそうな顔をしながら、うつむいて肩を落とした。
「でも、なんで本人の方から竜崎のところへ来なかったのかな?」
「そんなことも分からないの、福本は? しょうがないわね」
陽二の疑問に対して、、エマが上から目線で講義する。
「本人がワザワザやって来て誘った時に、もし、本人がその場で断られちゃったらどうするのよ?」
「そんなにいい子が直接誘いに来てくれたら、僕だったら絶対に断らないんだけれどな…」
「じゃあ、福本はその時に目の前に志織がいても断らないって言えるの? 相手のまわりの見えない人間関係なんて誰にも分らないじゃない。それに人前で断られたら恥ずかしい思いをすることになるのよ」
「うっ…」
直前までの勢いを失って息を飲んでしまった陽二だったが、もう一つの疑問点を聞かずにはいられなかった。
「あと、なんで竜崎本人を呼び出さずに僕のことを呼び出したかも不思議だったんだ」
「一つ目の理由はさっきと同じよ。陽二は志織が目の前にいても呼び出しに来た女の子についていくの?」
エマがあきれた顔をして陽二に問うたが、陽二は口を結んで大きく首を振った。
「もう一つの理由は、今回で言うと剛介は福本を介在させたことでOKの返事を返しやすくなるでしょ。お呼び出しのことを福本から聞いた時、返事の際に状況に応じて自分が直接出向くこともできるし、代理人の福本に返事を頼むこともできるでしょ」
“そうか、今回の俺へのお呼び出しは強い運に恵まれていたんだ… 福本にも感謝せんとな…”
陽二とエマのやりとりを横で黙って聞いていた剛介は、人知れずおのれの幸運の喜びを噛みしめていた。
「ねえ剛介、あんた福本についていくの? どうするのさ?」
この話題を途中から放置し、いつの間にか隼人とカトリの方へのかぶりつきに戻った志織を見やりつつ、エマは剛介にたずねた。
“人生には苦渋の選択をせねばならぬ時もある… 特に天の運に恵まれた場合には… ホンの少しの間だからカトリ、俺を許してくれ…”
「食わず嫌いは何事においても良くない… そして、人間なにごとも経験が大切だ… そうだろう、福本君!」
血の涙を流さんばかりの剛介は、訴えかけるような口調で話しかけつつ陽二の両手を包んだ。
“一途じゃないのかよ、剛介は… 志織やカトリのことはいいのかな、もう… まあ、わたし的にはお呼び出しの話の方に俄然、興味がわいてきている…”
「志織、私たちはちょっと出かけてくる。そっちの二人の様子を見といてよ」
エマに声をかけられた志織は、監視対象の二人から目をそらすこともなく、素早く数回うなずいた。
「竜崎、エマ、さあ行くよ」
掛け声だけは小さかったものの、静粛には無頓着な陽二が三人の先に立った。
ガサッ、ガサ、ガサガサッ
三人が覗き見場所からの移動のために草を踏み荒らす、不自然な音があたりの静けさを破った。
「…車から降りた連中を攻撃する際に、連中の ん?」
“今がチャンスね!”
このときカトリの目が光った。
「それはE組の香月 鈴のことね。笑顔が素敵な競技ダンス部の期待の新人よ。それがマジならタダゴトじゃないわ…」
“もしかして何かあるのかしら…”
怯える陽二から特徴を聞いただけで、エマはその女子のクラスと部活とチャームポイントまで息をするように答えた。ただ、エマの胸中は言いようのない疑念や不安に曇った。一方の剛介の様子はといえば、エマの情報を聞いただけで見る見るうちにニヤケ顔になっていった。
「その女の子が僕のことを呼びだしたのかと思ったら、実は竜崎のことを連れて来いって言うんだ。僕はパシリとして呼び出されただけだと知って心の底からガッカリしたよ…」
陽二は眉を寄せた悲しそうな顔をしながら、うつむいて肩を落とした。
「でも、なんで本人の方から竜崎のところへ来なかったのかな?」
「そんなことも分からないの、福本は? しょうがないわね」
陽二の疑問に対して、、エマが上から目線で講義する。
「本人がワザワザやって来て誘った時に、もし、本人がその場で断られちゃったらどうするのよ?」
「そんなにいい子が直接誘いに来てくれたら、僕だったら絶対に断らないんだけれどな…」
「じゃあ、福本はその時に目の前に志織がいても断らないって言えるの? 相手のまわりの見えない人間関係なんて誰にも分らないじゃない。それに人前で断られたら恥ずかしい思いをすることになるのよ」
「うっ…」
直前までの勢いを失って息を飲んでしまった陽二だったが、もう一つの疑問点を聞かずにはいられなかった。
「あと、なんで竜崎本人を呼び出さずに僕のことを呼び出したかも不思議だったんだ」
「一つ目の理由はさっきと同じよ。陽二は志織が目の前にいても呼び出しに来た女の子についていくの?」
エマがあきれた顔をして陽二に問うたが、陽二は口を結んで大きく首を振った。
「もう一つの理由は、今回で言うと剛介は福本を介在させたことでOKの返事を返しやすくなるでしょ。お呼び出しのことを福本から聞いた時、返事の際に状況に応じて自分が直接出向くこともできるし、代理人の福本に返事を頼むこともできるでしょ」
“そうか、今回の俺へのお呼び出しは強い運に恵まれていたんだ… 福本にも感謝せんとな…”
陽二とエマのやりとりを横で黙って聞いていた剛介は、人知れずおのれの幸運の喜びを噛みしめていた。
「ねえ剛介、あんた福本についていくの? どうするのさ?」
この話題を途中から放置し、いつの間にか隼人とカトリの方へのかぶりつきに戻った志織を見やりつつ、エマは剛介にたずねた。
“人生には苦渋の選択をせねばならぬ時もある… 特に天の運に恵まれた場合には… ホンの少しの間だからカトリ、俺を許してくれ…”
「食わず嫌いは何事においても良くない… そして、人間なにごとも経験が大切だ… そうだろう、福本君!」
血の涙を流さんばかりの剛介は、訴えかけるような口調で話しかけつつ陽二の両手を包んだ。
“一途じゃないのかよ、剛介は… 志織やカトリのことはいいのかな、もう… まあ、わたし的にはお呼び出しの話の方に俄然、興味がわいてきている…”
「志織、私たちはちょっと出かけてくる。そっちの二人の様子を見といてよ」
エマに声をかけられた志織は、監視対象の二人から目をそらすこともなく、素早く数回うなずいた。
「竜崎、エマ、さあ行くよ」
掛け声だけは小さかったものの、静粛には無頓着な陽二が三人の先に立った。
ガサッ、ガサ、ガサガサッ
三人が覗き見場所からの移動のために草を踏み荒らす、不自然な音があたりの静けさを破った。
「…車から降りた連中を攻撃する際に、連中の ん?」
“今がチャンスね!”
このときカトリの目が光った。