誘いのコトバ
文字数 1,506文字
「鈴、もしかして… あなたまで…」
「少し静かにしていてくれないかな、美羽?」
不安そうな美羽のことをよそに男子の顔をよく見ようと鈴は一生懸命に目を凝らしていた。
「美羽、あの程度の男に目を付けるなんて、ホントは鈴だって私と考えが一緒なんだよ! 確かアイツ… B組だったはずよ… 私が話つけて来る!」
「ちょっと待ちなさいよ、杏奈…」
信じられない顔つきをした美羽を残してドヤ顔の杏奈が凸って行った。
「すみません、あなたB組の人ですよね?」
杏奈は男子の肩を後ろから女子っぽい力の入れ具合で叩いた。
「あの、すみません…」
いつものとおり、相手の振り返った時の顔の向きを計算して杏奈は自分の顔の角度をアジャストした。
「はじめまして、私はE組の桂といいます。チョットいいですか?」
声をかけられた男子はウサン臭そうに黙って見返してきたが、そんなことにお構いなく杏奈は上目づかいで話を続けた。
「実はお話ししたいことがあるのですが、聞いてもらえませんか?」
“こっちはまともに取れない休息時間中なんだけどサ… 柏木の機嫌取るのも大変なんだぜ… アイツへのみやげぐらいゆっくり選ばせてくれよ…”
「ええ、いいですよ。どんなことですか?」
杏奈の方へ体を向けてから感情を表に出さないようにして陽二は返答した。
「えーと、大したことではないんですけど… 今晩のキャンプファイヤーの後の『おしゃべりタイム』、ご存じだとは思いますが、オリエンテーション合宿名物の『告白タイム』の時に私たちのところに来てくれませんか?」
“エッ、『告白タイム』の時に、このカワイイ子の所に来いだって!?”
陽二の驚きと嬉しさが混ざった微妙な表情を杏奈は見逃さない。
「お願いできませんか?」
杏奈は小首を傾げたうえで、もう一度上目づかいを使った。
「ええ、もちろん」
「ああ、良かった! 断られるのじゃないかと心配していたんですよ!」
杏奈はワザとらしさが出ないように気をつけながら喜んで話を続けた。
「実は… もう少しお聞きしたいことがあるんですよ! まず、お名前を教えてください。それと、あの体の大きな人とあなたは同じ班の人ですよね? あちらの人についても…」
みやげ物店でのカトリと剛介のやりとりは続いていた。
「このコスチュームで一体をするの?」
カトリの指さした、磯メガネに磯着を身に付けたキーホルダーを剛介は一瞥した。
「これは海女さんだ」
「アマサン? いったい何それ?」
「海に潜って貝とかデカいエビをとる、昔からの女の漁師のことだ」
「それで大きなゴーグルをしているんだ。水着もキモノみたいなのね… ところで、潜っている間の空気はどうするの?」
カトリは初めて聞く話に目を輝かせながら剛介の方を向いて、口に潜水呼吸器をあてる格好をしながらたずねた。
「何も知らんのだな、カトリは! 海女さんは潜っている間はずっと息をガマンしているんだ」
「ずっと息をしていないの? とっても大変ね… ワタシにはゼッタイ無理だわ…」
ホホに手をあてたカトリはキーホルダーを見つめながら、つぶやくように返事をした。
「そんなにこのキーホルダーが気に入っているなら買えばいいじゃないか」
「実はね… おサイフは部屋の金庫にしまって来ちゃった…」
“すぐに俺が買ってやってもいいが、ツマランから少しからかってやるか… 勝っても負けても俺がプレゼントしてやるのを黙っておいて、ジャンケンでの勝負を持ちかけてやろう”
「サイフは部屋に置いてきたのか? しょうがないなカトリは!」
あきれた声を出した剛介の顔には、ほくそ笑みがハッキリと表れていた。
「少し静かにしていてくれないかな、美羽?」
不安そうな美羽のことをよそに男子の顔をよく見ようと鈴は一生懸命に目を凝らしていた。
「美羽、あの程度の男に目を付けるなんて、ホントは鈴だって私と考えが一緒なんだよ! 確かアイツ… B組だったはずよ… 私が話つけて来る!」
「ちょっと待ちなさいよ、杏奈…」
信じられない顔つきをした美羽を残してドヤ顔の杏奈が凸って行った。
「すみません、あなたB組の人ですよね?」
杏奈は男子の肩を後ろから女子っぽい力の入れ具合で叩いた。
「あの、すみません…」
いつものとおり、相手の振り返った時の顔の向きを計算して杏奈は自分の顔の角度をアジャストした。
「はじめまして、私はE組の桂といいます。チョットいいですか?」
声をかけられた男子はウサン臭そうに黙って見返してきたが、そんなことにお構いなく杏奈は上目づかいで話を続けた。
「実はお話ししたいことがあるのですが、聞いてもらえませんか?」
“こっちはまともに取れない休息時間中なんだけどサ… 柏木の機嫌取るのも大変なんだぜ… アイツへのみやげぐらいゆっくり選ばせてくれよ…”
「ええ、いいですよ。どんなことですか?」
杏奈の方へ体を向けてから感情を表に出さないようにして陽二は返答した。
「えーと、大したことではないんですけど… 今晩のキャンプファイヤーの後の『おしゃべりタイム』、ご存じだとは思いますが、オリエンテーション合宿名物の『告白タイム』の時に私たちのところに来てくれませんか?」
“エッ、『告白タイム』の時に、このカワイイ子の所に来いだって!?”
陽二の驚きと嬉しさが混ざった微妙な表情を杏奈は見逃さない。
「お願いできませんか?」
杏奈は小首を傾げたうえで、もう一度上目づかいを使った。
「ええ、もちろん」
「ああ、良かった! 断られるのじゃないかと心配していたんですよ!」
杏奈はワザとらしさが出ないように気をつけながら喜んで話を続けた。
「実は… もう少しお聞きしたいことがあるんですよ! まず、お名前を教えてください。それと、あの体の大きな人とあなたは同じ班の人ですよね? あちらの人についても…」
みやげ物店でのカトリと剛介のやりとりは続いていた。
「このコスチュームで一体をするの?」
カトリの指さした、磯メガネに磯着を身に付けたキーホルダーを剛介は一瞥した。
「これは海女さんだ」
「アマサン? いったい何それ?」
「海に潜って貝とかデカいエビをとる、昔からの女の漁師のことだ」
「それで大きなゴーグルをしているんだ。水着もキモノみたいなのね… ところで、潜っている間の空気はどうするの?」
カトリは初めて聞く話に目を輝かせながら剛介の方を向いて、口に潜水呼吸器をあてる格好をしながらたずねた。
「何も知らんのだな、カトリは! 海女さんは潜っている間はずっと息をガマンしているんだ」
「ずっと息をしていないの? とっても大変ね… ワタシにはゼッタイ無理だわ…」
ホホに手をあてたカトリはキーホルダーを見つめながら、つぶやくように返事をした。
「そんなにこのキーホルダーが気に入っているなら買えばいいじゃないか」
「実はね… おサイフは部屋の金庫にしまって来ちゃった…」
“すぐに俺が買ってやってもいいが、ツマランから少しからかってやるか… 勝っても負けても俺がプレゼントしてやるのを黙っておいて、ジャンケンでの勝負を持ちかけてやろう”
「サイフは部屋に置いてきたのか? しょうがないなカトリは!」
あきれた声を出した剛介の顔には、ほくそ笑みがハッキリと表れていた。