打ち合わせのゆくえ

文字数 1,778文字

 「そうなると早めの夕食をとると考えて… うーん… 解散時間は午後8時くらいで大丈夫かな?」

 今までの会話中に少しづつ体を何とか動かして隼人は志織との間に少しの空間を確保していった。

 「たしかに8時だとみんな9時までには家に帰れるはずだから、それくらいで時間はいいと思う… 念のため女子たちには私から聞いておくわ…」

 “人と話をしているのに顔を見ようともしないし、手はお留守だし…”

 それから志織の様子を密かにのぞき見た隼人は、志織がずっとスマホから目を離さずにいることに気がついて、自分との話には片手間で返事をされているように思えてきた。

 「一応8時終了と考えて、それから逆算していってみると… 夕食に2時間かかるとすると6時には食べ始める、と… その前に遊びを2時間することになってきて… そうなると4時に遊び始めることになるよな…」
 
 「もし4時に遊びはじめるとすると… 集合時間は3時半くらいってことになるわね…」 

 「ただそれだけだと、ちょっとだけ物足りないような気がするのよ…」

 スマホの画面から目を離して顔を上げた志織が隼人の方を向いた。

 「東条もそう思うか? もう少し一緒にいたいとオレも思うんだ」

 「ねえ、ちゃんとコッチ向いてよ、赤城! 大事なところなんだから!」

 少しだけ志織の方をチラ見していた隼人の頬を志織は両方の手のひらではさんで自分の顔の方にグイっと向けた。そして握っていたスマホの画面をそっちのけで志織は隼人に自分の思いを力説した。

 「そう! もうちょっとだけ、みんなで一緒にいる時間を多くしたいと思うの… せっかく街で集まるんだからさ… 私はかわいい雑貨屋さんとか話題のスイーツのお店とかにみんなで行ってみたいな… 3時半っておやつの時間に近いでしょ? その前にみんなでおやつを食べたり街の中を歩き回るのってどうかな?」 

 「男子的にはちょっとそういう感じにはついていけないかもよ…」

 「別にみんなで行ければ、どんなお店でもいいのよ! カジュアルな服のお店… スポーツ用品のお店… 文房具屋さん… 本屋さん… どこでもいいの! みんなで一緒に同じ時間を楽しく過ごしたいだけなのよ! あと、やっぱりできればスイーツのお店とか…」

 “スイーツのお店だけは絶対に外せないんだな…”

 甘いものは何物にも勝るんだ、と隼人は思った。

 「それじゃ、みんなで色んなお店に行く時間もプラスして2時に紙屋町の駅の改札口前でどうだ?」

 「話わかるー! 赤城ならOKしてくれると思ったんだ!」

 いつの間にか再びスマホに見を移し始めた志織に対して隼人が一言いった。

 「ところで、東条… 今日はずっとスマホから目を離さないでいて… 人と話をしているのに失礼だろ」

 隼人にまっすぐ見すえられた志織はスマホを握りしめたままショックを受けたような顔になった。

 「今の打ち合わせのことだって途中からノートとっていなかっただろ」

 追い打ちをかけられて志織はうつむいてしまった。怒って見せた隼人だったが、すぐに心配そうな顔になった。

 「本当は何かあったのか? どうなんだ?」

 「えっ、全然そんなことないよ… ずっと私はちゃんと赤城と話をしてたよね」

 「でもスマホをいじりっぱなし、って良くないだろ… ん!」

 何ごとかに気付いた様子の隼人は言いにくそうな顔で志織にたずねた。

 「そう言えば昨日は予算のことをずいぶん気にしていたよな… もしかして、東条おまえ… 金のことが…」

 「そんな赤城が心配するようなことはないよ、本当に。ずっと打上げのプランの情報をさがしていただけなんだよ」

 顔を上げて隼人の方を向いたものの、志織は隼人に目を合わせられなかった。

 “これ以上ここではバイトを調べられない… とにかく時間がない… 隼人のいないところに行って探さないと…”

 「あ、これから用事があるんだった! ゴメンね、今日はもう帰らないと! 悪いけどさっきの打上げの日の集合時間と場所の予定をスマホで送るから、ちょっと見てみんなに送信しておいて!」

 とって付けたようにそれだけを言い残すと、荷物を片付けて志織は逃げるようにその場を去って行った。 
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登場人物紹介

赤城 隼人(あかぎ はやと)

前の年にある手術を外国でしたため、みんなより1才年上の高校1年生

困っている人を助けずにはいられない優しいところも

窮地におちいると性格が急変することが?!


カトリーナ クライン

カトリック教徒で神様が大好き

ドイツ系スイス人の留学生で日本の文化慣習に疑問を持つことも

日本に来たのは勉強のためだけではなさそうな…

神鳴 響子(かみなり きょうこ)

隼人やカトリーナたちのクラスの担任の先生

柔和な中にも厳しい一面がある、この学校が好きな卒業生

「生徒たちには成長を期待しています」

東条 志織(とうじょう しおり)

誰とでも仲良くなれる社交的な女の子

ときには、周囲の人間関係をひっかき回すことが

実は何を思っているかは誰にもわからない

竜崎 剛介(りゅうざき ごうすけ)

地域で力を持つ竜崎グループの御曹司

家庭環境のせいか典型的オレ様タイプ

根は腐っていないので真の愛に目覚めるか

江間 絵馬(えま えま)

聖エルモ学園の24時間録画カメラ

ジャーナリスト魂の持ち主

相手によっては日和見することも

サトー ヨーコ

学園で一番人気の大人な美人

表向きは保健室のクールな先生

裏の稼業は読んでのお楽しみ

福本 陽二(ふくもと ようじ)

何にも考えず、思ったことをすぐ口にするタイプ

かなりのビビリで動揺が隠せないチキンな面も

加えて志織のことが気になる様子も隠せない

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