霹靂(へきれき)
文字数 2,283文字
「赤城はカトリのこと、どう思っている? 好きなの?」
「ああ、好きだけど」
“えっ!”
隼人が躊躇なくカトリへの好意を表明したことに志織は息を飲んだ。
「…だけど、オレはカトリに釣り合うような人間じゃないんだ。だから、カトリと付き合うとかそういうのはないと思う」
隼人は志織がいることも忘れたように一人語りを始めていた。
「実は前にオレが親の期待に応えられないことで、親に対してわだかまりを持っていることをカトリに話したことがあるんだ」
その時のことを隼人はありありと思い出しているようだった。
「その時カトリはオレに悩まなくていい、わだかまりがあるままでいい、と言ってくれたんだ… 神様が許してくださるとね…」
隼人の声は淡々としていた。
「そう、カトリは人間力があって、正しいから、強く生きている… オレはそんなカトリのことが好きなんだ… けど、カトリと同じように強くなることはオレには難しい… オレはどうしても気にせずには、悩まずにはいられない… だから、カトリはオレなんかとは釣り合いがとれるはずがないんだ…」
話している途中で熱が入っていることに気がついて、隼人は苦笑いをした。
「ごめんな、東条… こんな話、重いだけだよな…」
「そんなこと全然ないよ、赤城… それに私にも同じようなことがあるんだよ… 聞いてくれる? いや、聞いてちょうだい…」
志織は真顔になって隼人の真正面に立った。
「私の家も親の期待が高くってね… それに応えようとして、今まで頑張ってきたんだよ。それで、これまでの学校でも一生懸命に一番を目指してきたんだ。でも、どれだけ私が頑張っても成果を出しても親には喜んでも誉めてももらえない… 親の期待に応えてあげるのを続けるのは大変だよね、お互い…」
志織は隼人の顔を見上げて苦笑いをしたが、それに隼人も苦笑いでこたえた。初めて見せた心の内に対して同じように心の内を見せてくれた志織に隼人はとても他人とは思えない親近感を覚えた。
「もう一つ話をしてもいい、かな?」
少し上目づかいで、はにかんだ表情になった志織が、小首を傾けて隼人にたずねた。
“えっ、東条のヤツどうしたんだ? 普段は絶対こんな顔を見せないよな?”
志織のモジモジとした態度に隼人は戸惑いを隠せなかったし、心の中はおだやかではなかった。そしてあらためて近くで見た志織の、今まで意識しなかった顔立ちの良さに気が付くことで自分の心拍数が急激に上がっていくのを感じていた。
「あのね、この学園に来てからずっと赤城のことが気になっていたんだ…」
モジモジしていても志織はハッキリとした話し方をしていた。
「何となくだけど、赤城からは不安そうで寂しそうな雰囲気を感じるんだよね… そこが私にも似ている気がして、赤城のことが気になっていたんだ思う… だから、私は入学式の日に赤城のことを一目見たときから、このクラスでは赤城の近くにいたいと最初っから本気で思ったんだよ… それで…」
ここで志織は一度大きく深呼吸をした。
「赤城を学級委員長に推薦したんだよ、私は… そのあとに自分が副委員長に立候補するつもりだったんだ… そうして、委員長と副委員長として二人が協力しながら、苦労をともにしながら、一緒にクラスの仕事をしていきたい、と思っていた…」
この時、それまで輝いていた志織の目が突然曇った。
「でも、実際の結果は違うことになってしまったけどね…」
“二人で学級委員になってさえいれば、うまくすると、今頃はそれ以上の仲になれていたかも…”
一気呵成に話をしていた志織だったが、その顔には残念そうな表情が一瞬浮かんで消えた。
“あの委員長選びのとき東条はそんな気持ちでいたんだ… オレは全然気づいていなかった…”
志織の明らかにした話に隼人は衝撃を受けていた。
“委員長のなり手がいないから、早く選挙を終わらせようと気を利かせたヤツが適当にオレを推薦したものばかりと思ってた… 単なる迷惑話だと今まで思っていたが、東条のそんな思いがあったのか…”
一方で動揺している隼人であったが、頭の中にある疑問が浮かんできていた。
「でも、あのあと東条は竜崎と一緒に教室に入ってきたよな…」
隼人の問いを聞くや否や志織は暗記していた原稿をしゃべるように、よどみなく返答し始めた。
「実は、私から剛介にある用事を手伝うようにお願いをしていたのよ。あの委員長選びの時にごつい見た目だけじゃなくて結構口が立つことが分かったから頼れるかなと思ってね。見た目からは信じられないかも知れないけど、あれでいて剛介は頼りになるのよ」
事務的な答え方に自分でも気づいたのか、志織は話し方を感情を込めた方法に変えた。
「ただ、あの時の教室での騒ぎでは赤城に迷惑をかけて悪かったわ、ごめんなさい」
「そんな前のことなんか謝らなくていいよ。それに最近は竜崎も人柄が良くなってきているし」
志織の話し方が変わったことには気がつかない様子で、隼人は志織の謝罪を断った。
「だから、決して私と剛介が付き合っている、とかってないのよ…」
「そうか… 別に東条のことを疑ってた訳じゃないんだ…」
隼人は自分の疑問に対する志織の説明を求めたことを恥ずかしく思った。
「分かってもらえてよかった。それに」
このとき志織の表情が真剣になった。
「ああ、好きだけど」
“えっ!”
隼人が躊躇なくカトリへの好意を表明したことに志織は息を飲んだ。
「…だけど、オレはカトリに釣り合うような人間じゃないんだ。だから、カトリと付き合うとかそういうのはないと思う」
隼人は志織がいることも忘れたように一人語りを始めていた。
「実は前にオレが親の期待に応えられないことで、親に対してわだかまりを持っていることをカトリに話したことがあるんだ」
その時のことを隼人はありありと思い出しているようだった。
「その時カトリはオレに悩まなくていい、わだかまりがあるままでいい、と言ってくれたんだ… 神様が許してくださるとね…」
隼人の声は淡々としていた。
「そう、カトリは人間力があって、正しいから、強く生きている… オレはそんなカトリのことが好きなんだ… けど、カトリと同じように強くなることはオレには難しい… オレはどうしても気にせずには、悩まずにはいられない… だから、カトリはオレなんかとは釣り合いがとれるはずがないんだ…」
話している途中で熱が入っていることに気がついて、隼人は苦笑いをした。
「ごめんな、東条… こんな話、重いだけだよな…」
「そんなこと全然ないよ、赤城… それに私にも同じようなことがあるんだよ… 聞いてくれる? いや、聞いてちょうだい…」
志織は真顔になって隼人の真正面に立った。
「私の家も親の期待が高くってね… それに応えようとして、今まで頑張ってきたんだよ。それで、これまでの学校でも一生懸命に一番を目指してきたんだ。でも、どれだけ私が頑張っても成果を出しても親には喜んでも誉めてももらえない… 親の期待に応えてあげるのを続けるのは大変だよね、お互い…」
志織は隼人の顔を見上げて苦笑いをしたが、それに隼人も苦笑いでこたえた。初めて見せた心の内に対して同じように心の内を見せてくれた志織に隼人はとても他人とは思えない親近感を覚えた。
「もう一つ話をしてもいい、かな?」
少し上目づかいで、はにかんだ表情になった志織が、小首を傾けて隼人にたずねた。
“えっ、東条のヤツどうしたんだ? 普段は絶対こんな顔を見せないよな?”
志織のモジモジとした態度に隼人は戸惑いを隠せなかったし、心の中はおだやかではなかった。そしてあらためて近くで見た志織の、今まで意識しなかった顔立ちの良さに気が付くことで自分の心拍数が急激に上がっていくのを感じていた。
「あのね、この学園に来てからずっと赤城のことが気になっていたんだ…」
モジモジしていても志織はハッキリとした話し方をしていた。
「何となくだけど、赤城からは不安そうで寂しそうな雰囲気を感じるんだよね… そこが私にも似ている気がして、赤城のことが気になっていたんだ思う… だから、私は入学式の日に赤城のことを一目見たときから、このクラスでは赤城の近くにいたいと最初っから本気で思ったんだよ… それで…」
ここで志織は一度大きく深呼吸をした。
「赤城を学級委員長に推薦したんだよ、私は… そのあとに自分が副委員長に立候補するつもりだったんだ… そうして、委員長と副委員長として二人が協力しながら、苦労をともにしながら、一緒にクラスの仕事をしていきたい、と思っていた…」
この時、それまで輝いていた志織の目が突然曇った。
「でも、実際の結果は違うことになってしまったけどね…」
“二人で学級委員になってさえいれば、うまくすると、今頃はそれ以上の仲になれていたかも…”
一気呵成に話をしていた志織だったが、その顔には残念そうな表情が一瞬浮かんで消えた。
“あの委員長選びのとき東条はそんな気持ちでいたんだ… オレは全然気づいていなかった…”
志織の明らかにした話に隼人は衝撃を受けていた。
“委員長のなり手がいないから、早く選挙を終わらせようと気を利かせたヤツが適当にオレを推薦したものばかりと思ってた… 単なる迷惑話だと今まで思っていたが、東条のそんな思いがあったのか…”
一方で動揺している隼人であったが、頭の中にある疑問が浮かんできていた。
「でも、あのあと東条は竜崎と一緒に教室に入ってきたよな…」
隼人の問いを聞くや否や志織は暗記していた原稿をしゃべるように、よどみなく返答し始めた。
「実は、私から剛介にある用事を手伝うようにお願いをしていたのよ。あの委員長選びの時にごつい見た目だけじゃなくて結構口が立つことが分かったから頼れるかなと思ってね。見た目からは信じられないかも知れないけど、あれでいて剛介は頼りになるのよ」
事務的な答え方に自分でも気づいたのか、志織は話し方を感情を込めた方法に変えた。
「ただ、あの時の教室での騒ぎでは赤城に迷惑をかけて悪かったわ、ごめんなさい」
「そんな前のことなんか謝らなくていいよ。それに最近は竜崎も人柄が良くなってきているし」
志織の話し方が変わったことには気がつかない様子で、隼人は志織の謝罪を断った。
「だから、決して私と剛介が付き合っている、とかってないのよ…」
「そうか… 別に東条のことを疑ってた訳じゃないんだ…」
隼人は自分の疑問に対する志織の説明を求めたことを恥ずかしく思った。
「分かってもらえてよかった。それに」
このとき志織の表情が真剣になった。