言いたくない疑念
文字数 1,554文字
”今日中にアルバイトが見つかってよかった!”
志織にとって生まれてはじめてのアルバイトは慣れない仕事と知らない人たちとの共同作業で緊張の連続だった。本当に身も心も疲れてしまい家に着くとすぐにお風呂に直行し1時間以上湯ぶねにつかっていた。
“アルバイト代も無理を言って今日のうちに現金でもらちゃったし! これで打ち上げにも何の心配しないで行けるわ!”
志織は風呂から上がって自分の部屋でベッドに寝ころんで一息ついた。それからアルバイト中にはカバンに入れて見ることのできなかったスマホの履歴画面を見て目を大きく見開いた。
「えっ、隼人からこんなにたくさんの着信が!?」
時計を見るともう遅い時間だったが、すぐに志織は隼人へ電話をかけた。1回目の呼び出しでスピーカーから隼人の声が聞こえた。
『もしもし… 東条か…』
「あ… 赤城、ぜんぜん連絡しなくてゴメンね。さっきまでアルバイトが忙しくてスマホを見ることができなかったんだ。それでね、聞いて聞いて!
『さっきまでね… メールで送ってあるとおり、打ち上げは日曜の午後からになったから』
手短かに用件を伝えると隼人は一方的に電話を切ってしまった。
“えっ、どういうこと? 隼人は怒ってるの?”
信じられないといった顔をしている志織の握ったスマホからプー、プーと終話音がこだましていた。
“このままで話を終わらせちゃいけない… キチンと隼人と話し合わないと…”
即座に決意した志織はすぐに電話をかけ直した。が、隼人からの反応はなかった。
“隼人がでるまで電話は絶対に切らない…”
志織は電話の呼び出しを止める気はさらさらなかった。
『東条、うるさいぞ! 迷惑なんだよ!』
十数回コールしてからやっと電話にでた隼人の怒りの声がスマホから聞こえてきた。
「迷惑なのは赤城の方でしょ。一言だけ言ってワザと自分の方から電話を切っておいて… ねえ、どうして不機嫌になっているの?」
志織の方は冷静な口調で問いかけた。
『なんでもないんだよ! 放っておいてくれ』
「何でもなくないでしょ。赤城のことは放って置かない。どうしたのか私に答えなさいよ」
“そう言えば、東条とは前にも似たようなやりとりがあったよな…”
フォークダンスにさそわれた時のことが急に頭に思い浮かんで来て隼人は一人で苦笑した。
“オレって東条には拗ねてしまって、いや甘えてしまってばっかりだな…”
『東条、悪かった… すまない謝るよ。実は東条に聞きたくても、自分が恥ずかしくって聞けないことがあって… それで…』
「それでどうしたの?」
『これからその話をさせてくれないか… 今日の夕方過ぎのことなんだけど、駅の反対側にある市のイベント会場の前で東条はスマホを見ていただろ』
「ええ、アルバイト中はスマホを見れなかったから、終わって一息ついたところでお気に入りのマンガを読んでたわ」
『そうか、それでずっとオレからの着信やチャットアプリを見られなかったんだな』
「うん、ゴメンね」
『そのあとのことだけど… 東条の前に派手なワゴン車がやって来たよな… そして… 中からチャラい男が出てきて… 東条に…』
隼人の話し方の歯切れがだんだん悪くなっていく。
『封筒を渡して… それを受け取った東条は… 男に誘われるまま車に乗り込んで… そして一緒にどこかへ…』
“赤城はあの時のこと見ていたんだ…”
『東条… 金儲けのためにヘンなバイトをしたんじゃないだろうな…』
「ちょ、ちょっと待ってよ! 今なんてこと言ったの、赤城?」
志織の鋭い語気が隼人に向けられた。
志織にとって生まれてはじめてのアルバイトは慣れない仕事と知らない人たちとの共同作業で緊張の連続だった。本当に身も心も疲れてしまい家に着くとすぐにお風呂に直行し1時間以上湯ぶねにつかっていた。
“アルバイト代も無理を言って今日のうちに現金でもらちゃったし! これで打ち上げにも何の心配しないで行けるわ!”
志織は風呂から上がって自分の部屋でベッドに寝ころんで一息ついた。それからアルバイト中にはカバンに入れて見ることのできなかったスマホの履歴画面を見て目を大きく見開いた。
「えっ、隼人からこんなにたくさんの着信が!?」
時計を見るともう遅い時間だったが、すぐに志織は隼人へ電話をかけた。1回目の呼び出しでスピーカーから隼人の声が聞こえた。
『もしもし… 東条か…』
「あ… 赤城、ぜんぜん連絡しなくてゴメンね。さっきまでアルバイトが忙しくてスマホを見ることができなかったんだ。それでね、聞いて聞いて!
『さっきまでね… メールで送ってあるとおり、打ち上げは日曜の午後からになったから』
手短かに用件を伝えると隼人は一方的に電話を切ってしまった。
“えっ、どういうこと? 隼人は怒ってるの?”
信じられないといった顔をしている志織の握ったスマホからプー、プーと終話音がこだましていた。
“このままで話を終わらせちゃいけない… キチンと隼人と話し合わないと…”
即座に決意した志織はすぐに電話をかけ直した。が、隼人からの反応はなかった。
“隼人がでるまで電話は絶対に切らない…”
志織は電話の呼び出しを止める気はさらさらなかった。
『東条、うるさいぞ! 迷惑なんだよ!』
十数回コールしてからやっと電話にでた隼人の怒りの声がスマホから聞こえてきた。
「迷惑なのは赤城の方でしょ。一言だけ言ってワザと自分の方から電話を切っておいて… ねえ、どうして不機嫌になっているの?」
志織の方は冷静な口調で問いかけた。
『なんでもないんだよ! 放っておいてくれ』
「何でもなくないでしょ。赤城のことは放って置かない。どうしたのか私に答えなさいよ」
“そう言えば、東条とは前にも似たようなやりとりがあったよな…”
フォークダンスにさそわれた時のことが急に頭に思い浮かんで来て隼人は一人で苦笑した。
“オレって東条には拗ねてしまって、いや甘えてしまってばっかりだな…”
『東条、悪かった… すまない謝るよ。実は東条に聞きたくても、自分が恥ずかしくって聞けないことがあって… それで…』
「それでどうしたの?」
『これからその話をさせてくれないか… 今日の夕方過ぎのことなんだけど、駅の反対側にある市のイベント会場の前で東条はスマホを見ていただろ』
「ええ、アルバイト中はスマホを見れなかったから、終わって一息ついたところでお気に入りのマンガを読んでたわ」
『そうか、それでずっとオレからの着信やチャットアプリを見られなかったんだな』
「うん、ゴメンね」
『そのあとのことだけど… 東条の前に派手なワゴン車がやって来たよな… そして… 中からチャラい男が出てきて… 東条に…』
隼人の話し方の歯切れがだんだん悪くなっていく。
『封筒を渡して… それを受け取った東条は… 男に誘われるまま車に乗り込んで… そして一緒にどこかへ…』
“赤城はあの時のこと見ていたんだ…”
『東条… 金儲けのためにヘンなバイトをしたんじゃないだろうな…』
「ちょ、ちょっと待ってよ! 今なんてこと言ったの、赤城?」
志織の鋭い語気が隼人に向けられた。