猜疑心の代償
文字数 1,431文字
「で、私がお金のために何をしたって?」
『…だから、これが自分がゲスで、恥ずかしくって聞けないことだったんだ…』
一呼吸おいてから話した隼人の声には力が無かった。
「じゃあよく聞いて、赤城。あれは、あの会場を使ったライブの会場を設営するバイトだったの! ドタキャンでシフトに穴があいて緊急募集されていたのを運よく見つけたからアルバイト代もよかったんだよ! おまけに支店長に喜ばれちゃったうえに、遅くなったからって夕ご飯までご馳走になっちゃっただけ!」
『そうか…』
「そうかって… どういうこと?」
隼人の乾いた短い返答に対して志織は途方に暮れた。が、すぐに口を結びながら目をつむって頭を左右に振った。
「つまり、赤城は私の言うことなんか信じられない、っていうの?」
『そうじゃないんだ、東条…』
「えっ?」
『そうじゃないんだよ、東条… オレは心配しているんだよ…』
「…」
『もともとはオレが何も考えずに打ち上げの費用を高くしたのが悪かったんだ… それで東条に迷惑をかけたり大変な思いをさせて申し訳ない。謝るよ』
志織にはスマホの向こう側にある隼人の悔やむ顔が浮かんでいた。
『それに東条はみんなのためなら進んで嫌なことでもするタイプだろ… ときには自分を犠牲にしたりして平気でムチャをしかねないし… 本当にオレが悪かった。ゴメンな東条』
廃ホテルでの肝試しの時の出来事、すなわち志織がみんなのために命をかけて敵に挑んだことを隼人は忘れていなかった。
「だからといって、わざわざヘンなバイトって言い方しなくてもいいでしょ… 赤城は私のことをビッチだと思っているんだよね?」
自分が微妙に誉められたようで恥ずかしくなった志織は、照れ隠しもあって隼人に意地悪を言った。
『それも本当に悪かった。オレってバカでエッチだからさ、そんなことしか…』
「まったくしょうがないわね、赤城ったら」
いつのまにか志織はスマホに微笑みかけながらしゃべりかけていた。
“このチャンスを逃さないでずっと隼人にして欲しかったことをお願いしちゃおう!”
「でも、このままじゃ私の気持ちがおさまらないし… 赤城にはペナルティを与えようかな?」
『オレにも悪いところがあったのは確かだけど、ペナルティって何だよ…』
不安な気持ちを隠さない隼人を志織はカワイイと思った。
「簡単なことだよ! 私のことを志織って下の名前で呼んで欲しいんだ」
『エッ?』
「赤城が恥ずかしいって言うんなら… 私も赤城のことを隼人って呼ぶからさ」
『簡単なことって言っても、下の名前で呼び合うのはチョット…』
「だって、だってさ、カトリもエマも赤城に、いえ隼人に下の名前で呼んでもらっているでしょ… ずっと私も下の名前で呼んで欲しかったんだよ」
『あいつらには気をつかう必要なんか全然ないから』
「私にだって気兼ねなんか要らないんだよ!」
志織の口調は真剣で必死だった。
『わかったよ… だから落ち着けって、東条、いや、し、しおり』
「これからは、ず~っと志織って呼ぶんだからね、は、や、と!」
照れくさそうな隼人の声に志織の顔はほころんだ。
『わかった、わかったよ。じゃ、また明日な』
「また明日、だけ?」
『また明日な、志織』
「うん、明日ね、隼人」
満足そうな笑みを浮かべた志織は鼻歌まじりに終話ボタンを押した。
♫ …
志織の微笑みが消える間もなく かたわらに置いたスマホが1回だけ鳴って切れた。
『…だから、これが自分がゲスで、恥ずかしくって聞けないことだったんだ…』
一呼吸おいてから話した隼人の声には力が無かった。
「じゃあよく聞いて、赤城。あれは、あの会場を使ったライブの会場を設営するバイトだったの! ドタキャンでシフトに穴があいて緊急募集されていたのを運よく見つけたからアルバイト代もよかったんだよ! おまけに支店長に喜ばれちゃったうえに、遅くなったからって夕ご飯までご馳走になっちゃっただけ!」
『そうか…』
「そうかって… どういうこと?」
隼人の乾いた短い返答に対して志織は途方に暮れた。が、すぐに口を結びながら目をつむって頭を左右に振った。
「つまり、赤城は私の言うことなんか信じられない、っていうの?」
『そうじゃないんだ、東条…』
「えっ?」
『そうじゃないんだよ、東条… オレは心配しているんだよ…』
「…」
『もともとはオレが何も考えずに打ち上げの費用を高くしたのが悪かったんだ… それで東条に迷惑をかけたり大変な思いをさせて申し訳ない。謝るよ』
志織にはスマホの向こう側にある隼人の悔やむ顔が浮かんでいた。
『それに東条はみんなのためなら進んで嫌なことでもするタイプだろ… ときには自分を犠牲にしたりして平気でムチャをしかねないし… 本当にオレが悪かった。ゴメンな東条』
廃ホテルでの肝試しの時の出来事、すなわち志織がみんなのために命をかけて敵に挑んだことを隼人は忘れていなかった。
「だからといって、わざわざヘンなバイトって言い方しなくてもいいでしょ… 赤城は私のことをビッチだと思っているんだよね?」
自分が微妙に誉められたようで恥ずかしくなった志織は、照れ隠しもあって隼人に意地悪を言った。
『それも本当に悪かった。オレってバカでエッチだからさ、そんなことしか…』
「まったくしょうがないわね、赤城ったら」
いつのまにか志織はスマホに微笑みかけながらしゃべりかけていた。
“このチャンスを逃さないでずっと隼人にして欲しかったことをお願いしちゃおう!”
「でも、このままじゃ私の気持ちがおさまらないし… 赤城にはペナルティを与えようかな?」
『オレにも悪いところがあったのは確かだけど、ペナルティって何だよ…』
不安な気持ちを隠さない隼人を志織はカワイイと思った。
「簡単なことだよ! 私のことを志織って下の名前で呼んで欲しいんだ」
『エッ?』
「赤城が恥ずかしいって言うんなら… 私も赤城のことを隼人って呼ぶからさ」
『簡単なことって言っても、下の名前で呼び合うのはチョット…』
「だって、だってさ、カトリもエマも赤城に、いえ隼人に下の名前で呼んでもらっているでしょ… ずっと私も下の名前で呼んで欲しかったんだよ」
『あいつらには気をつかう必要なんか全然ないから』
「私にだって気兼ねなんか要らないんだよ!」
志織の口調は真剣で必死だった。
『わかったよ… だから落ち着けって、東条、いや、し、しおり』
「これからは、ず~っと志織って呼ぶんだからね、は、や、と!」
照れくさそうな隼人の声に志織の顔はほころんだ。
『わかった、わかったよ。じゃ、また明日な』
「また明日、だけ?」
『また明日な、志織』
「うん、明日ね、隼人」
満足そうな笑みを浮かべた志織は鼻歌まじりに終話ボタンを押した。
♫ …
志織の微笑みが消える間もなく かたわらに置いたスマホが1回だけ鳴って切れた。