サプライズにサプライズ
文字数 2,904文字
「で、エマ、面白いモノっていったい何なの?」
志織が目を輝かせながら、エマの話に食い付いた。
「みんなは余り興味が無いかもしれないけど… ホテルから歩いて少し行ったところにドンピシャの肝試しスポットがあるようなのよ!」
「え? 肝試しスポット…」
陽二は自分でも驚く位の大きな声を出したが、他の誰にも聞こえていないようだった。
「肝試しイイじゃん! 盛り上がりそう!」
「泊まりの旅行先での肝試し… 考えただけでもワクワクだな!」
「恐怖の時間を共にした男女の間に愛が生まれちゃったりして?!」
「ね~え、みんなだけ盛り上がってズルい~」
ホッペタをふくらませ、口をとがらせたカトリが不満そうな顔をしていた。
「その“肝試し”っていったい何なのか教えてよ~」
「なんだ、カトリは肝試しも知らないのか?」
小馬鹿にした口調で剛介が話かけた。
「だって、肝は体の大事な部分で、試すは試験することでしょ? 意味が分かんないわ…」
「そういうものじゃないのよ、カトリ!」
笑いながらエマが説明し始めた。
「幽霊やお化けの出そうな所へ行ってから、その中を一人か二人で歩いて行って帰ってこれるか、怖さに耐えられるかを比べ合うものなのよ」
カトリは不思議そうにたずね返した。
「幽霊やお化け? それって悪魔の仕業でしょ。神様が人間を守ってくださるから、怖くはないわよ」
志織が二人の仲を取り持つように話に加わった。
「日本では、不気味な場所や恐ろしそうな場所へ行っても、あわてて騒いだり取り乱したりしないことが勇気の証明とされているの。それが“肝”と言われているのよ、カトリ。難しい話は置いておいて、日本流のレクリエーションを楽しんでみない?」
“志織さん、肝試しはやめましょうよ… 僕は絶対に腰を抜かします…”
それだけはやめるよう、陽二は心の中で懇願していた。
「ところで、エマはどんな所を見つけたんだ?」
エマの方を見た剛介の顔は明らかに乗り気だった。
「私たちの泊まるホテルから歩いて二、三十分くらいのところでね、地元では結構有名な肝試しのスポットらしいのよ」
スマホの画面をエマは指で上下にスクロールさせている。
「えーと、古くからあったホテルだったんだけど、バブルとかいうのが終わった後に、海の近くに新しく私たちの泊まるホテルができたとかで、廃業したみたいなの。それで社長の幽霊が出たとか、神隠しがあったとのウワサも出ているらしいわ」
《肝試しなんだから、不測の事態の発生を女子たちも望んでいるはずだよな…》
たまに心の中に湧き上がる《誰かの声》が、隼人の心の内に聞こえてきた。
「真面目な顔をして何を考えているのかしら、はやとくん?」
志織は真剣な表情の隼人を指で突っつきながら微笑みかけた。
「オ、オウ、ちょっと考え事をしてたんだ」
不意な志織の突っつきに、隼人は視線を動かさないままビクッと体を動かした。
「私、赤城君と一緒に肝だめししたいな…」
ささやきに隼人が驚いて志織の方を見ると、志織は何事もないようにエマの顔を見つめていた。
「肝試しに行くとして、合宿中のいつに行けそうだ?」
「ちょっと待ってね… そうね… 2日目の… キャンプファイヤーの後はどうかしら?」
剛介の問いに、響子先生からもらった合宿のスケジュールを確認しながらカトリが返事をした。
「うーん、そこは夜じゃなくて夕方くらいの方がいいんじゃないかな…」
スマホから目を離しもしないエマのアドバイスに剛介が不満を漏らした。
「夜じゃなくて、夕方か? 肝試しには物足りねーな」
「画像を見ていると、夜だと懐中電灯だけでは室内が暗すぎて危険そうよ。電気が無いから夕方でも肝試しに十分のはずだわ」
「そうよ、肝試しに行って、わざわざケガをしたり危ない目には遭いたくないでしょ?」
志織もエマの意見に賛成し、カトリもスケジュールを確認した。
「う~ん 夕方でもスケジュールの方も… なんとかなりそうよ…」
「マジか?! ホントに全員で肝試しをする気か?!」
陽二は再度大きな声を出したが、今度は他の仲間も振り返るほどの大きさだった。
「僕は行きたくない! そんなもの!」
「どうしたの、フクモトクン?!」
大声にビックリしたカトリは、真剣な顔の陽二に問いかけた。
「僕は怖いモノが嫌いなんだ! 理屈じゃないんだ!」
「全然怖くないよ、フクモトクン! ワタシと一緒に行こうよ!」
カトリの誘いにも陽二は応じる気配はなかったが、剛介はそんな二人をにらんでいた。
「私とじゃダメかしら、陽二くん?」
志織が陽二の手を取って優しく話しかけた。
「ただのレクリエーションだから、みんなが楽しくなくっちゃね」
「…わかったよ、志織さん」
しばしの沈黙の後に、少しうれしそうな顔をして陽二が皆に謝った。
「みんな、僕が一人でカリカリして悪かった」
“さっき東条さんがオレにささやいたのは何だったんだろう…”
隼人は先ほど志織が言ったことの真意を図りかねていた。
「せっかくだから、他の組み合わせも決めちゃいましょうよ!」
その場の勢いに乗ってエマが仕切り始めた。
“ここで剛介に話を振ってもつまんないものね”
「赤城君は誰と組みたいのかな?」
「エッ! オレ?!」
突然、選択権を振られた隼人はうろたえた。
「今なら、カトリと私の好きな方を選べるわよ!」
剛介がにらんでいるのを楽しみながら、エマは隼人をあおった。カトリも隼人の方を凝視していた。
「どーするの? 赤城君?」
隼人はしばらく時間をとってから答えた。
「オレは、エマにするよ」
「「エエッッ?!」」
エマとカトリはハモって驚きの声をあげた。
「本当にそれでいいの?」
意外な返答に思わずエマは隼人に聞き返した。
「全然。前からエマに聞きたいことがあったんだ。エマはイヤなのか?」
「いいえ、私は光栄ですけど… それじゃ、もう一組は剛介とカトリということになるわね」
剛介は満足そうだったが、カトリは寂しそうだった。まだ動揺を抑えきれないエマだったが、何とか話を仕切り続ける。
「思ったより時間がかかちゃったから、今日はこのくらいにしましょう。詳しいことは今度にしましょう、ということで良いかしら、学級委員さんたち?」
「今日はとっても助かった! みんなの協力がなければ、オレたちは今頃もまだ困り続けていたよ、本当にありがとう! そうだよな、カトリ!」
「みんなのおかげで何とかワタシたちの仕事を終わらせられました。ワタシからもお礼を言います。どうもありがとうございました」
隼人と残念そうなカトリは二人で丁寧に皆にお辞儀をした。
志織が目を輝かせながら、エマの話に食い付いた。
「みんなは余り興味が無いかもしれないけど… ホテルから歩いて少し行ったところにドンピシャの肝試しスポットがあるようなのよ!」
「え? 肝試しスポット…」
陽二は自分でも驚く位の大きな声を出したが、他の誰にも聞こえていないようだった。
「肝試しイイじゃん! 盛り上がりそう!」
「泊まりの旅行先での肝試し… 考えただけでもワクワクだな!」
「恐怖の時間を共にした男女の間に愛が生まれちゃったりして?!」
「ね~え、みんなだけ盛り上がってズルい~」
ホッペタをふくらませ、口をとがらせたカトリが不満そうな顔をしていた。
「その“肝試し”っていったい何なのか教えてよ~」
「なんだ、カトリは肝試しも知らないのか?」
小馬鹿にした口調で剛介が話かけた。
「だって、肝は体の大事な部分で、試すは試験することでしょ? 意味が分かんないわ…」
「そういうものじゃないのよ、カトリ!」
笑いながらエマが説明し始めた。
「幽霊やお化けの出そうな所へ行ってから、その中を一人か二人で歩いて行って帰ってこれるか、怖さに耐えられるかを比べ合うものなのよ」
カトリは不思議そうにたずね返した。
「幽霊やお化け? それって悪魔の仕業でしょ。神様が人間を守ってくださるから、怖くはないわよ」
志織が二人の仲を取り持つように話に加わった。
「日本では、不気味な場所や恐ろしそうな場所へ行っても、あわてて騒いだり取り乱したりしないことが勇気の証明とされているの。それが“肝”と言われているのよ、カトリ。難しい話は置いておいて、日本流のレクリエーションを楽しんでみない?」
“志織さん、肝試しはやめましょうよ… 僕は絶対に腰を抜かします…”
それだけはやめるよう、陽二は心の中で懇願していた。
「ところで、エマはどんな所を見つけたんだ?」
エマの方を見た剛介の顔は明らかに乗り気だった。
「私たちの泊まるホテルから歩いて二、三十分くらいのところでね、地元では結構有名な肝試しのスポットらしいのよ」
スマホの画面をエマは指で上下にスクロールさせている。
「えーと、古くからあったホテルだったんだけど、バブルとかいうのが終わった後に、海の近くに新しく私たちの泊まるホテルができたとかで、廃業したみたいなの。それで社長の幽霊が出たとか、神隠しがあったとのウワサも出ているらしいわ」
《肝試しなんだから、不測の事態の発生を女子たちも望んでいるはずだよな…》
たまに心の中に湧き上がる《誰かの声》が、隼人の心の内に聞こえてきた。
「真面目な顔をして何を考えているのかしら、はやとくん?」
志織は真剣な表情の隼人を指で突っつきながら微笑みかけた。
「オ、オウ、ちょっと考え事をしてたんだ」
不意な志織の突っつきに、隼人は視線を動かさないままビクッと体を動かした。
「私、赤城君と一緒に肝だめししたいな…」
ささやきに隼人が驚いて志織の方を見ると、志織は何事もないようにエマの顔を見つめていた。
「肝試しに行くとして、合宿中のいつに行けそうだ?」
「ちょっと待ってね… そうね… 2日目の… キャンプファイヤーの後はどうかしら?」
剛介の問いに、響子先生からもらった合宿のスケジュールを確認しながらカトリが返事をした。
「うーん、そこは夜じゃなくて夕方くらいの方がいいんじゃないかな…」
スマホから目を離しもしないエマのアドバイスに剛介が不満を漏らした。
「夜じゃなくて、夕方か? 肝試しには物足りねーな」
「画像を見ていると、夜だと懐中電灯だけでは室内が暗すぎて危険そうよ。電気が無いから夕方でも肝試しに十分のはずだわ」
「そうよ、肝試しに行って、わざわざケガをしたり危ない目には遭いたくないでしょ?」
志織もエマの意見に賛成し、カトリもスケジュールを確認した。
「う~ん 夕方でもスケジュールの方も… なんとかなりそうよ…」
「マジか?! ホントに全員で肝試しをする気か?!」
陽二は再度大きな声を出したが、今度は他の仲間も振り返るほどの大きさだった。
「僕は行きたくない! そんなもの!」
「どうしたの、フクモトクン?!」
大声にビックリしたカトリは、真剣な顔の陽二に問いかけた。
「僕は怖いモノが嫌いなんだ! 理屈じゃないんだ!」
「全然怖くないよ、フクモトクン! ワタシと一緒に行こうよ!」
カトリの誘いにも陽二は応じる気配はなかったが、剛介はそんな二人をにらんでいた。
「私とじゃダメかしら、陽二くん?」
志織が陽二の手を取って優しく話しかけた。
「ただのレクリエーションだから、みんなが楽しくなくっちゃね」
「…わかったよ、志織さん」
しばしの沈黙の後に、少しうれしそうな顔をして陽二が皆に謝った。
「みんな、僕が一人でカリカリして悪かった」
“さっき東条さんがオレにささやいたのは何だったんだろう…”
隼人は先ほど志織が言ったことの真意を図りかねていた。
「せっかくだから、他の組み合わせも決めちゃいましょうよ!」
その場の勢いに乗ってエマが仕切り始めた。
“ここで剛介に話を振ってもつまんないものね”
「赤城君は誰と組みたいのかな?」
「エッ! オレ?!」
突然、選択権を振られた隼人はうろたえた。
「今なら、カトリと私の好きな方を選べるわよ!」
剛介がにらんでいるのを楽しみながら、エマは隼人をあおった。カトリも隼人の方を凝視していた。
「どーするの? 赤城君?」
隼人はしばらく時間をとってから答えた。
「オレは、エマにするよ」
「「エエッッ?!」」
エマとカトリはハモって驚きの声をあげた。
「本当にそれでいいの?」
意外な返答に思わずエマは隼人に聞き返した。
「全然。前からエマに聞きたいことがあったんだ。エマはイヤなのか?」
「いいえ、私は光栄ですけど… それじゃ、もう一組は剛介とカトリということになるわね」
剛介は満足そうだったが、カトリは寂しそうだった。まだ動揺を抑えきれないエマだったが、何とか話を仕切り続ける。
「思ったより時間がかかちゃったから、今日はこのくらいにしましょう。詳しいことは今度にしましょう、ということで良いかしら、学級委員さんたち?」
「今日はとっても助かった! みんなの協力がなければ、オレたちは今頃もまだ困り続けていたよ、本当にありがとう! そうだよな、カトリ!」
「みんなのおかげで何とかワタシたちの仕事を終わらせられました。ワタシからもお礼を言います。どうもありがとうございました」
隼人と残念そうなカトリは二人で丁寧に皆にお辞儀をした。