行き違い
文字数 1,510文字
「じれったいわね、鈴ったら! これはただの罰ゲームなんだよね? トランプで負けた人が罰として男子に告白して仲間で笑い合うものでしょ?」
その場の沈黙にシビレを切らした杏奈が堰を切った。
「ダサい男に告るのは、相手をからかう時だけだったでしょ? その時もし相手が勘違いしてOKしたら罰ゲームだったからと謝って断っておしまい、って教えてあげたよね?」
「罰ゲームってことは今の告白は冗談っていうこと? そもそも本気じゃなかったの?」
「僕が呼びかけられた時から何か変な感じがしていたんだけど、こういうことだったのか… 平気でこんな酷いことするか?」
想像もつかない事態が明らかになってエマと陽二は一瞬愕然とした。が、すぐに心の内に怒りが込みあげてきていた。
「鈴は私より成績良くないんだから、私の言ったことキチンと聞かなくちゃ」
杏奈は鈴に優しく言い含めるように言った。
「ウチは最初から本気じゃけ、杏奈は黙っといて」
信じられない言葉に杏奈は思わず振り返った。
「ところで竜崎さんはどうなん?」
「鈴さん… 本気いや正気か? このお話とてもありがたいんだが… お断りさせてくれないか」
静かに答える剛介。視線をそらさない鈴。
「俺はあん… あなたのことを全然おぼえておらん… とある人とのことがあってから俺は少しずつ困っている人を見かけたら手を貸すことにしたんだ。それまで思いつきもしなかったことを何とか気が進まないながらも始めたんだ。それから色々な人たちの手助けをしていった。だから、これまでに誰にどんなことをしたかを全く憶えていないんだ」
剛介は思い出せない忘れ物を思い出そうとするような顔をした。が、すぐに何とも言えない顔に変わった。
「それに俺は自分の見てくれが良くないことを十分にわかっている。あ… なたみたいな美人と話をできるだけでも驚きなのに、いきなり友達になってくれってあり得んだろ… はっきり言ってあなたの気持ちがよく分からん… あの人が言ったように、あんたこの俺のことを本当はからかっているんだろ?」
少し首を傾げた剛介は問いかけるような顔で鈴を見た。
「ただ、ハッキリと言えることは、まず手助けをした時の相手の喜ぶ顔を見ることがだんだん好きになってきたことなんだ。今はそのために自分から進んで手を貸していると言っていい」
剛介は満足そうに笑みを浮かべる。とほぼ同時に顔が戸惑い曇る。
「それと俺には、あ… なたに告白される覚えも資格もないってことだ」
「えっ、ウチが竜崎さんに悪ふざけをしているって言うんか? まさか杏奈の言ったことなんか信じておらんよね?」
そんな態度の剛介のことを鈴は語気を強めてにらみつけた。
「ウチは決してそんなことする人間じゃないけん! 確かに最初はウチに親切に接してくれたから惹かれたんじゃけど、今はそれだけじゃないんよ。さっき話してくれたことで竜崎さんは誰にでも親切にできて、それが嬉しいことが分かった… ウチの好きになった気持ちに間違いがないことを確信できたんよ」
それから言い聞かせるように鈴は剛介に話しかける。
「そう、ウチは竜崎さんの内面が好きなんよ… 竜崎さんは内面で人が好きになるウチのことが信じられんの? もしかして竜崎さんは人を見た目で判断する連中のことが好きなん? それじゃ人を見た目で判断する連中と変わらんよ… 見知らん人に優しくできて、それにおまけに笑顔まで素敵な人がおったら、その人が好きになるのが当たり前じゃろ?」
ガサガサ
その場の一同が一斉に音のする方を見ると、月明かりの下の木立の奥から揺らめくスマホの明かりと人影が近づいて来た。
その場の沈黙にシビレを切らした杏奈が堰を切った。
「ダサい男に告るのは、相手をからかう時だけだったでしょ? その時もし相手が勘違いしてOKしたら罰ゲームだったからと謝って断っておしまい、って教えてあげたよね?」
「罰ゲームってことは今の告白は冗談っていうこと? そもそも本気じゃなかったの?」
「僕が呼びかけられた時から何か変な感じがしていたんだけど、こういうことだったのか… 平気でこんな酷いことするか?」
想像もつかない事態が明らかになってエマと陽二は一瞬愕然とした。が、すぐに心の内に怒りが込みあげてきていた。
「鈴は私より成績良くないんだから、私の言ったことキチンと聞かなくちゃ」
杏奈は鈴に優しく言い含めるように言った。
「ウチは最初から本気じゃけ、杏奈は黙っといて」
信じられない言葉に杏奈は思わず振り返った。
「ところで竜崎さんはどうなん?」
「鈴さん… 本気いや正気か? このお話とてもありがたいんだが… お断りさせてくれないか」
静かに答える剛介。視線をそらさない鈴。
「俺はあん… あなたのことを全然おぼえておらん… とある人とのことがあってから俺は少しずつ困っている人を見かけたら手を貸すことにしたんだ。それまで思いつきもしなかったことを何とか気が進まないながらも始めたんだ。それから色々な人たちの手助けをしていった。だから、これまでに誰にどんなことをしたかを全く憶えていないんだ」
剛介は思い出せない忘れ物を思い出そうとするような顔をした。が、すぐに何とも言えない顔に変わった。
「それに俺は自分の見てくれが良くないことを十分にわかっている。あ… なたみたいな美人と話をできるだけでも驚きなのに、いきなり友達になってくれってあり得んだろ… はっきり言ってあなたの気持ちがよく分からん… あの人が言ったように、あんたこの俺のことを本当はからかっているんだろ?」
少し首を傾げた剛介は問いかけるような顔で鈴を見た。
「ただ、ハッキリと言えることは、まず手助けをした時の相手の喜ぶ顔を見ることがだんだん好きになってきたことなんだ。今はそのために自分から進んで手を貸していると言っていい」
剛介は満足そうに笑みを浮かべる。とほぼ同時に顔が戸惑い曇る。
「それと俺には、あ… なたに告白される覚えも資格もないってことだ」
「えっ、ウチが竜崎さんに悪ふざけをしているって言うんか? まさか杏奈の言ったことなんか信じておらんよね?」
そんな態度の剛介のことを鈴は語気を強めてにらみつけた。
「ウチは決してそんなことする人間じゃないけん! 確かに最初はウチに親切に接してくれたから惹かれたんじゃけど、今はそれだけじゃないんよ。さっき話してくれたことで竜崎さんは誰にでも親切にできて、それが嬉しいことが分かった… ウチの好きになった気持ちに間違いがないことを確信できたんよ」
それから言い聞かせるように鈴は剛介に話しかける。
「そう、ウチは竜崎さんの内面が好きなんよ… 竜崎さんは内面で人が好きになるウチのことが信じられんの? もしかして竜崎さんは人を見た目で判断する連中のことが好きなん? それじゃ人を見た目で判断する連中と変わらんよ… 見知らん人に優しくできて、それにおまけに笑顔まで素敵な人がおったら、その人が好きになるのが当たり前じゃろ?」
ガサガサ
その場の一同が一斉に音のする方を見ると、月明かりの下の木立の奥から揺らめくスマホの明かりと人影が近づいて来た。