テールスライド
文字数 1,438文字
ビルの受付の警備員の前を、黒いポロシャツとスリムジーンズ姿の若い女が黒いウレタン製のツヅラのように大きな運搬バックを背負って無言のまま通り過ぎようとした。
「おい、そこのお前、勝手に建物内に入るな!」
神経質そうな顔つきの大柄の警備員は女の肩をつかんで引っ張り声を荒げた。女は無理やり振り向かされたが黙ったままだった。
「おい、お前、なあ!」
警備員が腰の折りたたみ式バトンを抜くとともに自分の体の前で振ると勢いよくスチールの警棒が飛び出し電灯の光を反射してギラギラと輝いた。
「昼食運ぶの頼まれたんですけど」
女は面倒くさそうに背負っているバッグを降ろしてファスナーを開けて手を中に突っ込んだ。警備員がのぞき込むと、女はすぐに手を袋から出して警備員の体にあてた。すると警備員は一瞬で腰砕けになり、声を上げることなくその場に倒れ込んだ。
「これって体にあてるだけで体内神経への脳波を遮断するって話だったけど、スゴイ…」
マイオトロンをしまうと亜衣は警備員の口にガムテープを貼ってから後ろ手にして結束バンドで締め付けた。それから両足首も結束バンドで縛ってから物陰に引きずって行った。
「柏木、あなたは警備員の気を引くだけだったわよね。私たちにムチャはしないって誓ったでしょ。そんなモノはしまっておきなさい」
「すみません先生… ただ先生の力になりたかったんです…」
「それは分かっているけど、これは訓練じゃない。二度と危険なマネはしないで。早くボディーアーマーを着て私の後について来なさい」
“のっけからアクセル開け過ぎてテールがスライドしまくってんな、亜衣サン…”
パソコンを使って陽二の位置情報をロギングする上杉陸曹をバッグを背負って急いで追っかける亜衣の後について行く隼人は不安を感じた。
階段室に入るとそこは無機質な白い壁にかこまれた、鉄階段にビニールタイルを貼っただけの階段しかない狭い空間だった。蛍光灯の青白い照明が寒々しい。上杉陸曹は器用にパソコンの画面を見つつ、前方を警戒しながら階段を上がって行く。
ギィ~
一同が息を飲んで音のした方を注視すると、何階か上がって来たところで上の方の扉が開いた。現れたスーツ姿の男は何も気づかずに紙袋片手に階段を上がり始めた。
ババッ
突然後ろから、こもっているが大き目な音がして亜衣は驚いた。
「何してんのよ、アンタ!」
大声を最大限にひそめてMP7A1をかまえる隼人の方をにらみつけた。
「思ったより音が大きくて驚いたか? 悪いけど撃つ前に教えることは俺にはできない」
「そうじゃなくて、あの人コッチに気づいていなかったから、放って置けばそのまま行っちゃったわよ」
「アホか… 気づかれて騒がれてからじゃ遅いんだよ」
「何の関係もない人かも知れないでしょ」
「バベルの連中かも知れない」
「…」
「俺は途中の障害を全て処理する。おい、オマエの代わりに先生あの男をもうパックしちまったぞ」
「!?」
「荷物運ぶだけでなく先生の力になりたかったんじゃないのか?」
亜衣は上杉陸曹の方へ駆けのぼって行った。
『従業員の皆さんにお知らせします。荷物が数個届きました。運搬にご協力ください』
その時、建物内に館内放送が響き渡った。
「ヤバい、もう見つかったわ… 早く行かないと」
上杉曹長が前進の支度をし直して亜衣と隼人にアイコンタクトをして足を速めた。それほど進まないうちに今度は下の階の方から怒声とともに銃声が聞こえてきた。
「おい、そこのお前、勝手に建物内に入るな!」
神経質そうな顔つきの大柄の警備員は女の肩をつかんで引っ張り声を荒げた。女は無理やり振り向かされたが黙ったままだった。
「おい、お前、なあ!」
警備員が腰の折りたたみ式バトンを抜くとともに自分の体の前で振ると勢いよくスチールの警棒が飛び出し電灯の光を反射してギラギラと輝いた。
「昼食運ぶの頼まれたんですけど」
女は面倒くさそうに背負っているバッグを降ろしてファスナーを開けて手を中に突っ込んだ。警備員がのぞき込むと、女はすぐに手を袋から出して警備員の体にあてた。すると警備員は一瞬で腰砕けになり、声を上げることなくその場に倒れ込んだ。
「これって体にあてるだけで体内神経への脳波を遮断するって話だったけど、スゴイ…」
マイオトロンをしまうと亜衣は警備員の口にガムテープを貼ってから後ろ手にして結束バンドで締め付けた。それから両足首も結束バンドで縛ってから物陰に引きずって行った。
「柏木、あなたは警備員の気を引くだけだったわよね。私たちにムチャはしないって誓ったでしょ。そんなモノはしまっておきなさい」
「すみません先生… ただ先生の力になりたかったんです…」
「それは分かっているけど、これは訓練じゃない。二度と危険なマネはしないで。早くボディーアーマーを着て私の後について来なさい」
“のっけからアクセル開け過ぎてテールがスライドしまくってんな、亜衣サン…”
パソコンを使って陽二の位置情報をロギングする上杉陸曹をバッグを背負って急いで追っかける亜衣の後について行く隼人は不安を感じた。
階段室に入るとそこは無機質な白い壁にかこまれた、鉄階段にビニールタイルを貼っただけの階段しかない狭い空間だった。蛍光灯の青白い照明が寒々しい。上杉陸曹は器用にパソコンの画面を見つつ、前方を警戒しながら階段を上がって行く。
ギィ~
一同が息を飲んで音のした方を注視すると、何階か上がって来たところで上の方の扉が開いた。現れたスーツ姿の男は何も気づかずに紙袋片手に階段を上がり始めた。
ババッ
突然後ろから、こもっているが大き目な音がして亜衣は驚いた。
「何してんのよ、アンタ!」
大声を最大限にひそめてMP7A1をかまえる隼人の方をにらみつけた。
「思ったより音が大きくて驚いたか? 悪いけど撃つ前に教えることは俺にはできない」
「そうじゃなくて、あの人コッチに気づいていなかったから、放って置けばそのまま行っちゃったわよ」
「アホか… 気づかれて騒がれてからじゃ遅いんだよ」
「何の関係もない人かも知れないでしょ」
「バベルの連中かも知れない」
「…」
「俺は途中の障害を全て処理する。おい、オマエの代わりに先生あの男をもうパックしちまったぞ」
「!?」
「荷物運ぶだけでなく先生の力になりたかったんじゃないのか?」
亜衣は上杉陸曹の方へ駆けのぼって行った。
『従業員の皆さんにお知らせします。荷物が数個届きました。運搬にご協力ください』
その時、建物内に館内放送が響き渡った。
「ヤバい、もう見つかったわ… 早く行かないと」
上杉曹長が前進の支度をし直して亜衣と隼人にアイコンタクトをして足を速めた。それほど進まないうちに今度は下の階の方から怒声とともに銃声が聞こえてきた。