女子報告反省会 ~誘導~
文字数 2,501文字
「ゴースケはワタシに色んなことを聞いてきたけど…」
志織の誘いにつられて口を開いたカトリの方へ、エマはグッと身を乗り出した。
「そう言えば、カトリは帰りは剛介にずっとオンブしてもらっていたけど、何にがあったの? それと、肝試しでは剛介がどんなことを聞いてきたの? 教えてよ!」
「暗い建物の中でゴースケが転んでワタシの方へ倒れてきたから、ワタシは足をケガしちゃって、オンブしてもらっただけだよ…」
はじめの質問に答える際のカトリは、ずっと微妙な表情のままだった。
「ゴースケが聞いてきたのは、日本での生活には慣れてきたかとか、スイスの学校と日本の学校はどんなところが違うのかとか、おばさんからの電話の相手は大変だろう、とかだよ」
後の質問についての返事では、下を向きながらもカトリは明らかにモジモジしていた。
“ただそれだけでこんなに分かり易いリアクションをするワケないわ”
「そんなことだけだったの、カトリ?」
ホントのところを聞き出そうと思って、エマはカマをかけてみた。
女子同士の話では、正直者のカトリには話題を変えることにも受け流すことにも思いが及ばなかった。
「ワタシがどんな男子が好きか、って聞かれたけど」
“キマシタ! 恋バナ!”
期待どおりの展開のカトリの真っ直ぐな返答にエマは色めき立った。
「えっ! それでカトリはなんて答えたの?」
“あのゴースケとカトリと二人きりになったら、いったいどんな話をしたのかしら… 興味があるわね…”
エマの追い撃ちの問いに合わせて、そ知しらぬ顔をしたまま志織も何気なく距離を詰めてきて、いつの間にか話に加わっていた。
「なんてって… いい言葉遣いの人で、人を助けることができて、誰からも尊敬される人って答えた」
言葉は素っ気ないものだったが、カトリの様子には落ち着きがなかった。
「顔は? お金はいいの? ねえ、カトリ?」
「志織には後で聞いてあげるから、静かにしてよ! そうしたら、」
カトリの攻撃に集中していたエマは、志織の介入を許さなかった。
「それについて、剛介はなんか言ったの?」
「そんな人ならカトリにお似合いだろうな、ってゴースケは言って…」
カトリは下を向いたが、顔と耳の先までが赤く染まっていた。
「俺もそうなりたいな、って…」
「今の剛介には、それは無理ね」
恋愛のことには憧れがあるものの、今まで厳しい競争社会の中で育ち、勝ち残ることだけで精一杯だった志織は、自分が思った程うまく恋バナにノッていけてなかった。
「いいから志織は黙っていて! そこは『それって、どういう意味かしら?』って、聞き返してあげるところでしょ!」
たび重なる志織の乱入に、しだいに態度もキツくなりながらも、エマはカトリに更にタタミかけた。
「剛介がカトリに聞いてきたのは、それだけなの?」
「カトリは今、好きな人はいるかって…」
女子会トークでは、餌食になると分かっていても、なぜか正直に返事をしてしまう自分自身にカトリはあきれていた。
”またまた、ストライク!”
もともとエマはカトリが嫌いではなかったが、さらに人の好い正直なところがとても気に入った。
「カトリは神様が大好きなんだよね?」
恋バナを満喫している志織だったが、やっぱり話の方向はシッカリ外れていた。思想士官に注意されていたカトリとの話をしていることも忘れるくらいに夢中になって、どこにでもいるティーンのようになっていた。
「神様は人じゃないから! 志織は口にチャック! それで、」
エマは、いつの間にかひざ詰めの位置まで来ていた志織の口を押さえようとしつつ、カトリを問いただした。
「いったいカトリはどう答えたの?」
「エッ、答えるの? 本当に?」
返事を待つ間、エマと志織は全身を耳のようにしたので、室内は静寂に支配された。カトリは言葉に詰まったが、その理由はキーホルダーのことだけではなかった。
「カトリはどう答えたの?」
少し間をとってエマが質問を繰り返し、カトリの返事を催促した。その脇で志織は喉をゴクリと鳴らした。
「い、いるって答え、ター!」
カトリが絶叫したので、何事かと思った生徒たちが部屋に集まって来たため、エマと志織はその場をとりなし、なんとか追い返した。
カトリは肩で息をしながら、今度は逆にエマに問いかけた。
「そう言うエマの方は一体どうだったのよ?」
「私の方は、なんてことなかったわ。赤城が学校に関するウワサを知りたいって言ってきたから、それらについて話してあげたのよ。彼は面白い、って言ってくれただけだったわ。アーア、あなたたちの方が良くも悪くも羨ましいわよ」
落ち着き払ったエマの返答に対して、カトリは真剣な顔で、自分がされたように第二の質問を繰り出した。
「本当にそれだけだったの?」
「ああ、それと市内で起きている事件についても、同じように教えて欲しい、って言うからそれも話をしたわ。それだけよ」
さらりとしたエマの答えにカトリは安堵した表情となり、志織は素で拍子抜けといった様子だった。
“本当は二人きりの時に、カトリとのことについての悩みを聞いてくれって、赤城から手をとってきて話かけてきた、なんて知ったら、カトリはビックリするでしょうね… まあ、赤城にはそれ以上の気はなかったようだし、私の方は赤城があの3人の中では私の好みに合うから、あのくらいなら許すけど…”
気がつくと、三人とも体が触れ合うくらい寄り添って、お互いに軽く体をたたき合って笑いながら話を続ける仲になっていた。
楽しい話は尽きなかったが、扉をたたく音がした。
「みんなでキャンプファイヤーに行こうよ! もうすぐ始まる時間なっちゃうぜ!」
陽二が顔を出して女子たちに声をかけてきて、廊下では隼人と剛介が待っていた。
志織の誘いにつられて口を開いたカトリの方へ、エマはグッと身を乗り出した。
「そう言えば、カトリは帰りは剛介にずっとオンブしてもらっていたけど、何にがあったの? それと、肝試しでは剛介がどんなことを聞いてきたの? 教えてよ!」
「暗い建物の中でゴースケが転んでワタシの方へ倒れてきたから、ワタシは足をケガしちゃって、オンブしてもらっただけだよ…」
はじめの質問に答える際のカトリは、ずっと微妙な表情のままだった。
「ゴースケが聞いてきたのは、日本での生活には慣れてきたかとか、スイスの学校と日本の学校はどんなところが違うのかとか、おばさんからの電話の相手は大変だろう、とかだよ」
後の質問についての返事では、下を向きながらもカトリは明らかにモジモジしていた。
“ただそれだけでこんなに分かり易いリアクションをするワケないわ”
「そんなことだけだったの、カトリ?」
ホントのところを聞き出そうと思って、エマはカマをかけてみた。
女子同士の話では、正直者のカトリには話題を変えることにも受け流すことにも思いが及ばなかった。
「ワタシがどんな男子が好きか、って聞かれたけど」
“キマシタ! 恋バナ!”
期待どおりの展開のカトリの真っ直ぐな返答にエマは色めき立った。
「えっ! それでカトリはなんて答えたの?」
“あのゴースケとカトリと二人きりになったら、いったいどんな話をしたのかしら… 興味があるわね…”
エマの追い撃ちの問いに合わせて、そ知しらぬ顔をしたまま志織も何気なく距離を詰めてきて、いつの間にか話に加わっていた。
「なんてって… いい言葉遣いの人で、人を助けることができて、誰からも尊敬される人って答えた」
言葉は素っ気ないものだったが、カトリの様子には落ち着きがなかった。
「顔は? お金はいいの? ねえ、カトリ?」
「志織には後で聞いてあげるから、静かにしてよ! そうしたら、」
カトリの攻撃に集中していたエマは、志織の介入を許さなかった。
「それについて、剛介はなんか言ったの?」
「そんな人ならカトリにお似合いだろうな、ってゴースケは言って…」
カトリは下を向いたが、顔と耳の先までが赤く染まっていた。
「俺もそうなりたいな、って…」
「今の剛介には、それは無理ね」
恋愛のことには憧れがあるものの、今まで厳しい競争社会の中で育ち、勝ち残ることだけで精一杯だった志織は、自分が思った程うまく恋バナにノッていけてなかった。
「いいから志織は黙っていて! そこは『それって、どういう意味かしら?』って、聞き返してあげるところでしょ!」
たび重なる志織の乱入に、しだいに態度もキツくなりながらも、エマはカトリに更にタタミかけた。
「剛介がカトリに聞いてきたのは、それだけなの?」
「カトリは今、好きな人はいるかって…」
女子会トークでは、餌食になると分かっていても、なぜか正直に返事をしてしまう自分自身にカトリはあきれていた。
”またまた、ストライク!”
もともとエマはカトリが嫌いではなかったが、さらに人の好い正直なところがとても気に入った。
「カトリは神様が大好きなんだよね?」
恋バナを満喫している志織だったが、やっぱり話の方向はシッカリ外れていた。思想士官に注意されていたカトリとの話をしていることも忘れるくらいに夢中になって、どこにでもいるティーンのようになっていた。
「神様は人じゃないから! 志織は口にチャック! それで、」
エマは、いつの間にかひざ詰めの位置まで来ていた志織の口を押さえようとしつつ、カトリを問いただした。
「いったいカトリはどう答えたの?」
「エッ、答えるの? 本当に?」
返事を待つ間、エマと志織は全身を耳のようにしたので、室内は静寂に支配された。カトリは言葉に詰まったが、その理由はキーホルダーのことだけではなかった。
「カトリはどう答えたの?」
少し間をとってエマが質問を繰り返し、カトリの返事を催促した。その脇で志織は喉をゴクリと鳴らした。
「い、いるって答え、ター!」
カトリが絶叫したので、何事かと思った生徒たちが部屋に集まって来たため、エマと志織はその場をとりなし、なんとか追い返した。
カトリは肩で息をしながら、今度は逆にエマに問いかけた。
「そう言うエマの方は一体どうだったのよ?」
「私の方は、なんてことなかったわ。赤城が学校に関するウワサを知りたいって言ってきたから、それらについて話してあげたのよ。彼は面白い、って言ってくれただけだったわ。アーア、あなたたちの方が良くも悪くも羨ましいわよ」
落ち着き払ったエマの返答に対して、カトリは真剣な顔で、自分がされたように第二の質問を繰り出した。
「本当にそれだけだったの?」
「ああ、それと市内で起きている事件についても、同じように教えて欲しい、って言うからそれも話をしたわ。それだけよ」
さらりとしたエマの答えにカトリは安堵した表情となり、志織は素で拍子抜けといった様子だった。
“本当は二人きりの時に、カトリとのことについての悩みを聞いてくれって、赤城から手をとってきて話かけてきた、なんて知ったら、カトリはビックリするでしょうね… まあ、赤城にはそれ以上の気はなかったようだし、私の方は赤城があの3人の中では私の好みに合うから、あのくらいなら許すけど…”
気がつくと、三人とも体が触れ合うくらい寄り添って、お互いに軽く体をたたき合って笑いながら話を続ける仲になっていた。
楽しい話は尽きなかったが、扉をたたく音がした。
「みんなでキャンプファイヤーに行こうよ! もうすぐ始まる時間なっちゃうぜ!」
陽二が顔を出して女子たちに声をかけてきて、廊下では隼人と剛介が待っていた。