義を見てせざるは…
文字数 2,290文字
「やっぱり役員だけの打上げのことだから、教室で話をして他の人たちにも聞かれちゃうとイロイロと差しさわりがね… だから場所をここにしたのよ」
次の日の放課後、教室で志織の指示したとおり図書室前の談話スペースへ隼人が行くと、志織は隼人を見つけて手招きをした。だがそこには志織以外のなかまの役員は誰もいなかった。
「ゴメンね… せっかく来てもらったのに、私一人なんて…」
初めは笑顔で隼人にしゃべりかけていた志織だったが、みるみるその表情は困惑したように変わっていった。
「なんか剛介と福本は放課後になってから直ぐに他のクラスの女の子たちに連れて行かれちゃってね… それにエマも面倒くさがって後は任せた、って言って逃げちゃうし…」
「おまけにカトリも放課後になったら一目散に教室を出て行ったよな…」
“一度でも人と距離をとると、それを止めるキッカケはなかなかつかめないな…”
隼人は今日も帰り際のカトリが自分に見せた切なさそう表情を思い浮かべていた。
「…となると、今ここで打上げの話を進められるのは東条とオレの二人だけってことになるんだ、よな…」
「そうなのよ…」
志織の眉は困ったようにハの字になっていた。
「でも、本当に困っちゃう… だって私こういうイベントのことをするのって初めてなんだもん…」
眉を寄せた志織の顔はすこしスネていたようにも見えた。
”こうなったら悩んでいても仕方がない…”
弱った様子の志織を見かねて思わず隼人の方から一声かけた。
「オレたち二人で何とかしようぜ、東条」
「赤城にそう言ってもらえると、とても助かる!」
隼人からの申し出を聞いて、それまで曇りがちだった志織の顔が晴れてきた。
「じゃあ、打上げをするためには… そうだな… いつ、何時にどこで、どんなことをするかを決めなくちゃな」
自分の考えつく打上げのための条件を隼人はいくつか並べ上げてみた。
「うーんとそれに… 会費がいくら位かかるか、も決めないとね!」
握った手をあごに当てながら、隼人の出す条件を聞いて足りないところがないかを考えていた志織は自分の観点から条件を付け加えた。
「お金のことって大事でしょ?」
「…そうだよな! 忘れるところだったよ!」
“ウチの学校に来る連中なら金のことでそんなには困ってないと思うけど… でも、予算額くらい決めておかないといけないか…”
そんなに費用のことで心配することはないんじゃないかと思いつつ、打上げ会の条件についての希望を全員にたずねる方法を隼人は志織に問いかけた。
「今の条件についての希望をみんなに聞いて見ないといけないな。ただ、今の状況だと全員に集まってもらって希望を聞くことは難しそうだ… どうしたらいいかな…」
「そうね… かと言って私と赤城とで手分けしてみんなに直接聞くのも大変なことだし… そもそもみんな忙しそうだから、一人ひとりに連絡をつけること自体できない可能性もあるものね… 何かいい手はないのかしら…」
しばらく二人して考え込んでいたところ、志織が不意に大きな声をあげた。
「そうだよ!」
「東条、いったいどうしたんだ!?」
考えごとをしていたところに志織が大声を突然出したので、隼人は驚いた。
「オリエンテーション合宿の時に、役員全員でチャットアプリを使えるようにしたじゃない?」
「ああ、確かにみんなで合宿前や合宿中に連絡を取り合うためにそうしたよ。それが?」
「それを使えば全員にまとめて質問できて、答えもまとめて受け取れるじゃない! みんなで使えるアプリを利用すればいいことをゼンゼン思いつかなかったわ!」
「なるほど! アプリの使い方を今までと変えてみるのか! いいアイデアだと思うよ! そうすれば、相手の空いている時間を気にしたりせずにすむ! 質問とかを早く作ってみんなに送っちゃおうぜ!」
“これなら今は話かけにくいカトリに直接話をしたり電話する必要もなくなる!”
志織の提案に魅力を感じた隼人はこの考えに喜んで協力しようと思った。
「じゃあ、どんなアンケートにするか一緒に考えようよ、赤城!」
志織はそう言うとスクールバックのチャックを開けて中から可愛らしいペンケースとノートを取り出した。
「私がノートにアンケートの案を書いてみるから赤城がそれをチェックしてよ」
隼人と志織は質問の文書の内容や回答用のフォームについてお互いにアイディアを出し合った。二人はああでもない、こうでもないと検討を繰り返して、志織がつぶさにノートに書き出していった。そのうち志織の方はだんだん作業に熱中しすぎて隼人の体に触れることやに顔を近づけることも気にしなくなったので、隼人の方が気を使うほどだった。
「こんな感じでどう?」
二人での試行錯誤の末、のぼせたように頬を染めた志織が隼人にアンケートの内容やフォームの最終案を書いたノートを差し出した。隼人は見せられた案を小さく声を出すようにして何度も読んだりして、内容だけでなく文のそろい方や読みやすさをチェックした。
「これなら大丈夫だよ! 分かり易いし読みやすい! 初めの文書に比べるとすごく良くなっている!」
「よかった! これも赤城が手伝ってくれたおかげだよ!」
“オレが手伝ったおかげだってさ!”
人から誉められることのない隼人は志織の誉め言葉が妙にうれしかった。
次の日の放課後、教室で志織の指示したとおり図書室前の談話スペースへ隼人が行くと、志織は隼人を見つけて手招きをした。だがそこには志織以外のなかまの役員は誰もいなかった。
「ゴメンね… せっかく来てもらったのに、私一人なんて…」
初めは笑顔で隼人にしゃべりかけていた志織だったが、みるみるその表情は困惑したように変わっていった。
「なんか剛介と福本は放課後になってから直ぐに他のクラスの女の子たちに連れて行かれちゃってね… それにエマも面倒くさがって後は任せた、って言って逃げちゃうし…」
「おまけにカトリも放課後になったら一目散に教室を出て行ったよな…」
“一度でも人と距離をとると、それを止めるキッカケはなかなかつかめないな…”
隼人は今日も帰り際のカトリが自分に見せた切なさそう表情を思い浮かべていた。
「…となると、今ここで打上げの話を進められるのは東条とオレの二人だけってことになるんだ、よな…」
「そうなのよ…」
志織の眉は困ったようにハの字になっていた。
「でも、本当に困っちゃう… だって私こういうイベントのことをするのって初めてなんだもん…」
眉を寄せた志織の顔はすこしスネていたようにも見えた。
”こうなったら悩んでいても仕方がない…”
弱った様子の志織を見かねて思わず隼人の方から一声かけた。
「オレたち二人で何とかしようぜ、東条」
「赤城にそう言ってもらえると、とても助かる!」
隼人からの申し出を聞いて、それまで曇りがちだった志織の顔が晴れてきた。
「じゃあ、打上げをするためには… そうだな… いつ、何時にどこで、どんなことをするかを決めなくちゃな」
自分の考えつく打上げのための条件を隼人はいくつか並べ上げてみた。
「うーんとそれに… 会費がいくら位かかるか、も決めないとね!」
握った手をあごに当てながら、隼人の出す条件を聞いて足りないところがないかを考えていた志織は自分の観点から条件を付け加えた。
「お金のことって大事でしょ?」
「…そうだよな! 忘れるところだったよ!」
“ウチの学校に来る連中なら金のことでそんなには困ってないと思うけど… でも、予算額くらい決めておかないといけないか…”
そんなに費用のことで心配することはないんじゃないかと思いつつ、打上げ会の条件についての希望を全員にたずねる方法を隼人は志織に問いかけた。
「今の条件についての希望をみんなに聞いて見ないといけないな。ただ、今の状況だと全員に集まってもらって希望を聞くことは難しそうだ… どうしたらいいかな…」
「そうね… かと言って私と赤城とで手分けしてみんなに直接聞くのも大変なことだし… そもそもみんな忙しそうだから、一人ひとりに連絡をつけること自体できない可能性もあるものね… 何かいい手はないのかしら…」
しばらく二人して考え込んでいたところ、志織が不意に大きな声をあげた。
「そうだよ!」
「東条、いったいどうしたんだ!?」
考えごとをしていたところに志織が大声を突然出したので、隼人は驚いた。
「オリエンテーション合宿の時に、役員全員でチャットアプリを使えるようにしたじゃない?」
「ああ、確かにみんなで合宿前や合宿中に連絡を取り合うためにそうしたよ。それが?」
「それを使えば全員にまとめて質問できて、答えもまとめて受け取れるじゃない! みんなで使えるアプリを利用すればいいことをゼンゼン思いつかなかったわ!」
「なるほど! アプリの使い方を今までと変えてみるのか! いいアイデアだと思うよ! そうすれば、相手の空いている時間を気にしたりせずにすむ! 質問とかを早く作ってみんなに送っちゃおうぜ!」
“これなら今は話かけにくいカトリに直接話をしたり電話する必要もなくなる!”
志織の提案に魅力を感じた隼人はこの考えに喜んで協力しようと思った。
「じゃあ、どんなアンケートにするか一緒に考えようよ、赤城!」
志織はそう言うとスクールバックのチャックを開けて中から可愛らしいペンケースとノートを取り出した。
「私がノートにアンケートの案を書いてみるから赤城がそれをチェックしてよ」
隼人と志織は質問の文書の内容や回答用のフォームについてお互いにアイディアを出し合った。二人はああでもない、こうでもないと検討を繰り返して、志織がつぶさにノートに書き出していった。そのうち志織の方はだんだん作業に熱中しすぎて隼人の体に触れることやに顔を近づけることも気にしなくなったので、隼人の方が気を使うほどだった。
「こんな感じでどう?」
二人での試行錯誤の末、のぼせたように頬を染めた志織が隼人にアンケートの内容やフォームの最終案を書いたノートを差し出した。隼人は見せられた案を小さく声を出すようにして何度も読んだりして、内容だけでなく文のそろい方や読みやすさをチェックした。
「これなら大丈夫だよ! 分かり易いし読みやすい! 初めの文書に比べるとすごく良くなっている!」
「よかった! これも赤城が手伝ってくれたおかげだよ!」
“オレが手伝ったおかげだってさ!”
人から誉められることのない隼人は志織の誉め言葉が妙にうれしかった。