初めての任務で…
文字数 3,247文字
同じ頃、銀行の裏では銀行強盗が4人で警察に包囲され足止めされていることにイラついていた。今までは警察が到着しても銃を見たら遠巻きにして観察するだけで手出しをしてこないので大手を振って逃げることができた。
持っている銃はカラシニコフAK-47、寒い国で革命のために作られた突撃銃で、その銃の持ち主が西側諸国に敵意を抱いていることを言葉より雄弁に物語る。これまでの同様の事件では、日本の警察は銃の所有者の帰属・考えや行動、つまり町中で毎分600発で無差別にばらまくことを躊躇しない連中、のことを考慮して手出しや刺激を与えたりしなかった。
警察は今回、CIAとも連絡を取り合い、自分たちが包囲・けん制しているうちにCIAの“片付け屋”がやって来てケリをつけ、その結果を自分たちが確保すればいい、という筋書きだ。
長時間に包囲に犯人たちもシビレを切らして外に向かって大声で叫んだり、そこらに向かって散発的に銃を撃ち放った。
やっと警察はCIAの準備完了の報を受け、犯人たちをあまり刺激しないようにして包囲をゆるめる。
「やっと警察も俺たちを解放する気になったか。早く銃をぶっ放しておけばよかったんじゃないか」
「この重い札束を車まで運ぶのも手伝ってくれれば助かるのによ」
犯人たちが口々に好き勝手なことを言いながら、警備員を歩く盾にして重そうに荷物を運びながら裏口から出て来た。すると、どこからともなくワゴン車がやって来て駐車場内にエンジンをかけたまま停車した。
「ハヤト、犯人は4人組らしいわ… 全員外に出るまで待たないと… 中に籠城されても困るからね… 建物だけでなく、車にも注意してね…」
スコープをのぞきながら、カトリはつぶやきともひとり言ともとれる言い方で話している。隼人も夢中で単眼鏡で当たりを見回しているが、カトリのスコープより広角とは言え、視野が狭いので見る範囲が広くなって大変だ。
周囲に注意を払いつつ、犯人たちは人質を連れてゆっくりした動きでワゴン車に向かったので、4人目が外に出るまでの時間はカトリには実際の時間の何倍にも感じられた。スコープで犯人たちを追いながらも狙い撃つ順番は決めてあった。
「やっと4人出そろったわ。まず、人質を盾にしている男からね」
カトリは隼人へ話ながら、緊張をしないよう息を吐きつつトリガーをプルした。
1人目の男は突然崩れ落ちたが、犯人たちの誰の耳にも音は何も聞こえなかった。人質だった警備員は何が起こったか分からない様子だったが、自分が自由なことに気がつくとあわてて地面に伏せるように逃げだした。
「本当に静かね… ボルトが動く音しかしない…」
カトリが言うように、バンの室内は空カートリッジが落ちる音が少ししただけで、発射した火薬のにおいが漂っているだけだった。火薬のにおいを鼻腔で感じながら隼人はこのにおいが好きだった気がした。そして自分は、本当は敵を観測するではなく銃で撃つことをしていたような気がした。カトリはインカムで交信している。
「次はメガネの男よ… そうなの? ワゴンは撃ってはいけないのね…」
"何で敵の足止めをしないんだろう?”横で聞いていた隼人は、単眼鏡で監視しながらカトリへの指示に違和感を感じていた。
2人目のメガネの男は虚を突かれていたが、倒れた1人目を見て恐怖にかられた様子となり、突撃銃をあたりに連射し始めた。3人目と4人目も、持っていた札束の入った袋を手放し、あわてて突撃銃を取り出そうとしていた。
だが、もともとカトリに狙いを付けられていた2人目の男も、突撃銃の残弾が半分にもならないうちに、倒れ去った。仲間が訳も分からないうちに倒されていって、ヤケ気味になった3人目と4人目は、パトカーや逃走用のワゴン車も見境なく四方八方に突撃銃を乱射し始めた。
棒立ちで乱射している犯人たちに素早く狙いを合わせ、カトリはトリガーを2回プルした。すると、ボーリングのピンが倒れるように二人とも跳ねるように地面へ倒れた。
「カトリ、ひとり犯人が起き上がった?!」
そのまま単眼鏡を見続けていた隼人が、自分の見ているものが信じられない様子の声でカトリに伝えた。
「射撃場の動かない的と違って、実際は予測不能ね…」
4人目の男が地面にころがっている突撃銃を拾って立ち上がり、再び乱射し始めた。
「そんなデタラメな方向を向いている銃の弾はこっちに届かないわ」
そうつぶやきながらカトリが4人目に向けて弾を撃とうとしたその時、外からの弾がバンの銃眼へ飛び込んで来た。
あり得ない、という表情をしたカトリの動きは止まっていた。自分のほほをかすめるように弾が後方へ抜けて行った隼人の方は呆然としながら尻餅をついた。その瞬間に“自分”の高校生時代のこと、ネイビーでの苦しい訓練のこと、初めて人を撃った時のこと、特殊部隊に属さない上司をなめたこと、気がついたら自分が重傷を負い意識を失つつあるときのこと、など様々な記憶が時間も順番も関係なく頭の中に渦巻いて流れ込んで来た。
「うあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ハヤト、大丈夫よ! ハヤト、しっかりして! 私がついているから!」
カトリは隼人に声をかけながら、外の方へ銃を向けスコープを通して狙撃手を捜した。
「あの弾の方向だと銀行強盗の方からじゃないわ… きっと何かヒントがあるはずよ… 冷静に、でも迅速に…」
カトリはまるで低い声で呪文を唱えているようだった。
「狙撃手はきっと私の動きを確かめているはずよ、そうニヤニヤしながらスコープでこっちを眺めているに違いないわ」
カトリは光を見つけた。ビンゴ! スコープのレンズの反射光だ!
よく見直そうようとした一瞬に、炎が見えたようにカトリには思えた。
ハヤトには銃声が聞こえたのと同時に、上からカトリが降ってきた。頭から床に落ちたカトリを見るとピクリとも動かない。
「オレのせいだ オレのせいだ オレのせいだ オレのせいだ オレのせいだ」
正常な精神状態を維持できなくなり、ハヤトの形相は修羅のようになった。手早く自らカトリの銃を取り、身を隠しながら狙撃手の居場所を即座に予想する。
「2回とも銃声の方向は同じ。で、こっちを真っ直ぐ狙えるところ。弾は少し上向きに飛んで来た」
ハヤトが立ち上がり銃眼から予想の場所に向けて銃を構えると、スコープのど真ん中に光を見た。と同時にトリガーを連続して2回プルした。
2個の空のカートリッジが床に音を立てて落ちても、相手の光は動じない。さらに弾を撃ち込もうとしたその時に、隼人は炎を見た。
「ヤッベーッ!」
叫ぶと同時にハヤトが身を伏せた瞬間、弾が空気を切り裂く音を立てながら飛び込んで来た。床に倒れ込んだハヤトが無意識にカトリに覆いかぶさったとき、カトリが小さな声をあげた。
「ン… ン… ン…」
「カ、カトリ、無事だったんだ… ああ良かった… 神様、感謝します…」
ハヤトは心から神に感謝すると同時に、徐々に落ち着きも取り戻し始めた。
「ハヤト、少し重いんだけど…」
カトリの声は苦しそうだったが、その声を聞いた隼人はすっかり安心して、そのまま気を失ってしまった。
「ハヤトったら、重いって言ってるでしょ!」
隼人に押しつぶされた格好のカトリだったが、眠ったようになっている隼人をそのまましばらく抱きかかえていた。
それまでの間に、4人目の男は運転手と一緒になって札束の入った袋をワゴン車に運んで乗り込むと、その車は急発進し、あたりの車や工作物にぶつかりながらもスピードを上げて走り去って行った。数台のパトカーもあわてて後を追った。
持っている銃はカラシニコフAK-47、寒い国で革命のために作られた突撃銃で、その銃の持ち主が西側諸国に敵意を抱いていることを言葉より雄弁に物語る。これまでの同様の事件では、日本の警察は銃の所有者の帰属・考えや行動、つまり町中で毎分600発で無差別にばらまくことを躊躇しない連中、のことを考慮して手出しや刺激を与えたりしなかった。
警察は今回、CIAとも連絡を取り合い、自分たちが包囲・けん制しているうちにCIAの“片付け屋”がやって来てケリをつけ、その結果を自分たちが確保すればいい、という筋書きだ。
長時間に包囲に犯人たちもシビレを切らして外に向かって大声で叫んだり、そこらに向かって散発的に銃を撃ち放った。
やっと警察はCIAの準備完了の報を受け、犯人たちをあまり刺激しないようにして包囲をゆるめる。
「やっと警察も俺たちを解放する気になったか。早く銃をぶっ放しておけばよかったんじゃないか」
「この重い札束を車まで運ぶのも手伝ってくれれば助かるのによ」
犯人たちが口々に好き勝手なことを言いながら、警備員を歩く盾にして重そうに荷物を運びながら裏口から出て来た。すると、どこからともなくワゴン車がやって来て駐車場内にエンジンをかけたまま停車した。
「ハヤト、犯人は4人組らしいわ… 全員外に出るまで待たないと… 中に籠城されても困るからね… 建物だけでなく、車にも注意してね…」
スコープをのぞきながら、カトリはつぶやきともひとり言ともとれる言い方で話している。隼人も夢中で単眼鏡で当たりを見回しているが、カトリのスコープより広角とは言え、視野が狭いので見る範囲が広くなって大変だ。
周囲に注意を払いつつ、犯人たちは人質を連れてゆっくりした動きでワゴン車に向かったので、4人目が外に出るまでの時間はカトリには実際の時間の何倍にも感じられた。スコープで犯人たちを追いながらも狙い撃つ順番は決めてあった。
「やっと4人出そろったわ。まず、人質を盾にしている男からね」
カトリは隼人へ話ながら、緊張をしないよう息を吐きつつトリガーをプルした。
1人目の男は突然崩れ落ちたが、犯人たちの誰の耳にも音は何も聞こえなかった。人質だった警備員は何が起こったか分からない様子だったが、自分が自由なことに気がつくとあわてて地面に伏せるように逃げだした。
「本当に静かね… ボルトが動く音しかしない…」
カトリが言うように、バンの室内は空カートリッジが落ちる音が少ししただけで、発射した火薬のにおいが漂っているだけだった。火薬のにおいを鼻腔で感じながら隼人はこのにおいが好きだった気がした。そして自分は、本当は敵を観測するではなく銃で撃つことをしていたような気がした。カトリはインカムで交信している。
「次はメガネの男よ… そうなの? ワゴンは撃ってはいけないのね…」
"何で敵の足止めをしないんだろう?”横で聞いていた隼人は、単眼鏡で監視しながらカトリへの指示に違和感を感じていた。
2人目のメガネの男は虚を突かれていたが、倒れた1人目を見て恐怖にかられた様子となり、突撃銃をあたりに連射し始めた。3人目と4人目も、持っていた札束の入った袋を手放し、あわてて突撃銃を取り出そうとしていた。
だが、もともとカトリに狙いを付けられていた2人目の男も、突撃銃の残弾が半分にもならないうちに、倒れ去った。仲間が訳も分からないうちに倒されていって、ヤケ気味になった3人目と4人目は、パトカーや逃走用のワゴン車も見境なく四方八方に突撃銃を乱射し始めた。
棒立ちで乱射している犯人たちに素早く狙いを合わせ、カトリはトリガーを2回プルした。すると、ボーリングのピンが倒れるように二人とも跳ねるように地面へ倒れた。
「カトリ、ひとり犯人が起き上がった?!」
そのまま単眼鏡を見続けていた隼人が、自分の見ているものが信じられない様子の声でカトリに伝えた。
「射撃場の動かない的と違って、実際は予測不能ね…」
4人目の男が地面にころがっている突撃銃を拾って立ち上がり、再び乱射し始めた。
「そんなデタラメな方向を向いている銃の弾はこっちに届かないわ」
そうつぶやきながらカトリが4人目に向けて弾を撃とうとしたその時、外からの弾がバンの銃眼へ飛び込んで来た。
あり得ない、という表情をしたカトリの動きは止まっていた。自分のほほをかすめるように弾が後方へ抜けて行った隼人の方は呆然としながら尻餅をついた。その瞬間に“自分”の高校生時代のこと、ネイビーでの苦しい訓練のこと、初めて人を撃った時のこと、特殊部隊に属さない上司をなめたこと、気がついたら自分が重傷を負い意識を失つつあるときのこと、など様々な記憶が時間も順番も関係なく頭の中に渦巻いて流れ込んで来た。
「うあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ハヤト、大丈夫よ! ハヤト、しっかりして! 私がついているから!」
カトリは隼人に声をかけながら、外の方へ銃を向けスコープを通して狙撃手を捜した。
「あの弾の方向だと銀行強盗の方からじゃないわ… きっと何かヒントがあるはずよ… 冷静に、でも迅速に…」
カトリはまるで低い声で呪文を唱えているようだった。
「狙撃手はきっと私の動きを確かめているはずよ、そうニヤニヤしながらスコープでこっちを眺めているに違いないわ」
カトリは光を見つけた。ビンゴ! スコープのレンズの反射光だ!
よく見直そうようとした一瞬に、炎が見えたようにカトリには思えた。
ハヤトには銃声が聞こえたのと同時に、上からカトリが降ってきた。頭から床に落ちたカトリを見るとピクリとも動かない。
「オレのせいだ オレのせいだ オレのせいだ オレのせいだ オレのせいだ」
正常な精神状態を維持できなくなり、ハヤトの形相は修羅のようになった。手早く自らカトリの銃を取り、身を隠しながら狙撃手の居場所を即座に予想する。
「2回とも銃声の方向は同じ。で、こっちを真っ直ぐ狙えるところ。弾は少し上向きに飛んで来た」
ハヤトが立ち上がり銃眼から予想の場所に向けて銃を構えると、スコープのど真ん中に光を見た。と同時にトリガーを連続して2回プルした。
2個の空のカートリッジが床に音を立てて落ちても、相手の光は動じない。さらに弾を撃ち込もうとしたその時に、隼人は炎を見た。
「ヤッベーッ!」
叫ぶと同時にハヤトが身を伏せた瞬間、弾が空気を切り裂く音を立てながら飛び込んで来た。床に倒れ込んだハヤトが無意識にカトリに覆いかぶさったとき、カトリが小さな声をあげた。
「ン… ン… ン…」
「カ、カトリ、無事だったんだ… ああ良かった… 神様、感謝します…」
ハヤトは心から神に感謝すると同時に、徐々に落ち着きも取り戻し始めた。
「ハヤト、少し重いんだけど…」
カトリの声は苦しそうだったが、その声を聞いた隼人はすっかり安心して、そのまま気を失ってしまった。
「ハヤトったら、重いって言ってるでしょ!」
隼人に押しつぶされた格好のカトリだったが、眠ったようになっている隼人をそのまましばらく抱きかかえていた。
それまでの間に、4人目の男は運転手と一緒になって札束の入った袋をワゴン車に運んで乗り込むと、その車は急発進し、あたりの車や工作物にぶつかりながらもスピードを上げて走り去って行った。数台のパトカーもあわてて後を追った。