報・連・相 ~緊張~
文字数 1,726文字
志織はプリペイドスマホに外国製のSIMを差し込んで着信に備えていた。着信の日時は前回の乱数放送で送られたコードを今回のコード表で変換して何度も確認した。日時は分かっているものの、失敗は許されないから、直前になってもコード内容と時計の確認を繰り返してしまう。
スマホのコール音が鳴って志織は緊張した。やはり放送で送られたコードで決められたコール回数を数える。 …10、11、12、13回目で通話ボタンを押す。
「20、386、749、2」
「555、123、0」
「2-6、任務の進捗状況を報告してください」
スピーカーから落ち着いた男性の声が聞こえた。
「はい、思想士官殿。バチカンからの使いへの接触役として、複数の生徒を彼女の友人とすべく活動をしているところです」
志織は短くハキハキした口調で返事をするよう心がけ、その声は硬かった。
「その活動はどうなっていますか」
「彼女に好意を持っている男子生徒1名と詮索好きな女子生徒1名を彼女に近づけるよう運動中です」
思っていたより相手は丁寧な話し方をすると、志織は感じていた。
「その2名の思想や家庭状況に問題はありませんか」
「男子生徒は地域の有力者の家庭に生まれ、物質的な豊かさに恵まれているところから、精神的なものは軽視しています。父親への反発心と高慢な点をくすぐってやれば簡単に利用できます。また、女子生徒は父が新聞記者であり、その傾向に少なからず影響を受けていて、この国の体制への反抗心をいだいています。単純なうえに好奇心旺盛なので容易に扱えます。二人ともご心配には及びません」
「では、二人をバチカンの使いに近づける運動は順調ですか?」
「はい、私も二人を誘い、彼女と行動を共にするグループ活動に参加することができました」
「2-6、自らはバチカンの使いに近づき過ぎないこと、目立つ行動は避けること、は分かっていますね?」
「はい、十分に注意するよう心がけております」
相手が不意に言い含めるような口調になったため、志織に緊張が走った。
「バチカンの使いに関する情報を報告してください」
「彼女の名はカトリーナ・クライン。ドイツ系のスイス人です。学業成績は優秀、運動が得意で日本語も堪能です。性格は真面目で正義感があり、また主張が強く厳格な一面があります。趣味のヨーデル、アルプホルンの練習場所の確保に苦労しているようです。住まいは学校近くのカトリック教会の1室を借りています。自転車で通学しています」
「その他には… ないのですか?」
退屈そうな口調で志織は先を促された。
「は、はい、それと、」
“え、どうしよう… 何も思い浮かばない…”
志織は内心かなり動揺した。
「それと?」
“こんなつまらないことしか思い浮かばない…”
志織は躊躇しつつ話し始めた。
「昼食時間のほか授業時間などでも、彼女は教室や学園からいなくなることがあります…」
「つまり、姿を消す、と? 最近ではいつ頃のことですか?」
「4月17日の午後2時です」
「4月17日の午後2時… 次に姿を現したのは?」
「同日の午後3時10分です」
「学園の所在地は確か…」
「皆実町です」
「皆実町ですか… わかりました」
「あと、学園内にも彼女の協力者がいるはずだと思われるのですが…」
「2-6、結構ですが決して先ほどの忠告は忘れないように」
「わ、わかりました!」
あまり出過ぎたマネは許さない口調に志織は恐怖した。
「バチカンの使いについて付け加えることはありますか?」
「5月1日から2泊3日でオリエンテーション合宿があり、県の西南の舟入町の観光ホテルに行きます」
「舟入町ですね…… 参考になりました。これからも任務に専念してください」
「ありがとうございます」
今度は相手が穏やかな口調に急変したことに志織は面食らいながら、終話ボタンを押した。ほんの短い時間の通話だったが、志織はその間に何歳も年をとった気分になった。
スマホのコール音が鳴って志織は緊張した。やはり放送で送られたコードで決められたコール回数を数える。 …10、11、12、13回目で通話ボタンを押す。
「20、386、749、2」
「555、123、0」
「2-6、任務の進捗状況を報告してください」
スピーカーから落ち着いた男性の声が聞こえた。
「はい、思想士官殿。バチカンからの使いへの接触役として、複数の生徒を彼女の友人とすべく活動をしているところです」
志織は短くハキハキした口調で返事をするよう心がけ、その声は硬かった。
「その活動はどうなっていますか」
「彼女に好意を持っている男子生徒1名と詮索好きな女子生徒1名を彼女に近づけるよう運動中です」
思っていたより相手は丁寧な話し方をすると、志織は感じていた。
「その2名の思想や家庭状況に問題はありませんか」
「男子生徒は地域の有力者の家庭に生まれ、物質的な豊かさに恵まれているところから、精神的なものは軽視しています。父親への反発心と高慢な点をくすぐってやれば簡単に利用できます。また、女子生徒は父が新聞記者であり、その傾向に少なからず影響を受けていて、この国の体制への反抗心をいだいています。単純なうえに好奇心旺盛なので容易に扱えます。二人ともご心配には及びません」
「では、二人をバチカンの使いに近づける運動は順調ですか?」
「はい、私も二人を誘い、彼女と行動を共にするグループ活動に参加することができました」
「2-6、自らはバチカンの使いに近づき過ぎないこと、目立つ行動は避けること、は分かっていますね?」
「はい、十分に注意するよう心がけております」
相手が不意に言い含めるような口調になったため、志織に緊張が走った。
「バチカンの使いに関する情報を報告してください」
「彼女の名はカトリーナ・クライン。ドイツ系のスイス人です。学業成績は優秀、運動が得意で日本語も堪能です。性格は真面目で正義感があり、また主張が強く厳格な一面があります。趣味のヨーデル、アルプホルンの練習場所の確保に苦労しているようです。住まいは学校近くのカトリック教会の1室を借りています。自転車で通学しています」
「その他には… ないのですか?」
退屈そうな口調で志織は先を促された。
「は、はい、それと、」
“え、どうしよう… 何も思い浮かばない…”
志織は内心かなり動揺した。
「それと?」
“こんなつまらないことしか思い浮かばない…”
志織は躊躇しつつ話し始めた。
「昼食時間のほか授業時間などでも、彼女は教室や学園からいなくなることがあります…」
「つまり、姿を消す、と? 最近ではいつ頃のことですか?」
「4月17日の午後2時です」
「4月17日の午後2時… 次に姿を現したのは?」
「同日の午後3時10分です」
「学園の所在地は確か…」
「皆実町です」
「皆実町ですか… わかりました」
「あと、学園内にも彼女の協力者がいるはずだと思われるのですが…」
「2-6、結構ですが決して先ほどの忠告は忘れないように」
「わ、わかりました!」
あまり出過ぎたマネは許さない口調に志織は恐怖した。
「バチカンの使いについて付け加えることはありますか?」
「5月1日から2泊3日でオリエンテーション合宿があり、県の西南の舟入町の観光ホテルに行きます」
「舟入町ですね…… 参考になりました。これからも任務に専念してください」
「ありがとうございます」
今度は相手が穏やかな口調に急変したことに志織は面食らいながら、終話ボタンを押した。ほんの短い時間の通話だったが、志織はその間に何歳も年をとった気分になった。