お付き合いの心得
文字数 2,034文字
「これにはCIAから正式に連絡があったことだけど… 安全保障上の必要性から、その子たちの記憶の一部分を消してから書き換えたとのことよ。人体への影響がないことや健康上の安全性は保証されているらしいわ…」
「そうなんですか…」
あまりにも淡々とした響子先生の語り口に、カトリは自分が重大なことを聞いているとの現実味を一瞬感じなかった。
「エッ? 今サラッと言いましたけど、とても大変なことを言いませんでしたか!?」
「だから、安全保障上のために、その生徒たちの記憶の一部分を消してから書き換えたのですって… 安心しなさい、あなたと赤城君は対象外とのことよ」
カトリには剛介、志織、エマ、陽二の顔が浮かんできた。
「そんなことが許される訳ないでしょ!? 非人道的な行為だと抗議しないの!?」
「それだけではないようなのよ、カトリ…」
諦めた表情の響子先生の極めて事務的な伝達行為は続く。
「臓器移植を用いた極秘の人体実験も行っているらしい… これもあちらに潜伏中の信仰者からの情報でね… なにやら兵士の戦闘能力向上が目的みたいなの… 何か思い当たることがない?」
「ビッテ… ヒトの体をなんだと思っているの…」
“もしかしてハヤトのことだっていうの?”
カトリの顔から血の気が失せた。
「そんなことを平気でする組織と私たちは活動を共にしているのよ… 最も若くして選ばれた大統領、そう現在までで唯一のカトリック信者の大統領が暗殺されてしまう国の組織、いえ機関と私たちはバベルと戦うためとは言えども手を結んでいるのよ、今…」
諦めたような、表情を無くしたような顔で話をしていた響子先生は一息ついた。
「ところで、私たちには日本からバベルの影響力を排除することのために戦う使命があるわよね、カトリ」
カトリは口を固く結んで響子先生の言葉にうなずいた。
「バベルは経済力の強化を図ってきていて、今まで以上に軍事力を増強している。加えて、かつて敵対していた隣接国とも合従態勢を取ることで、このところは私たちに対決姿勢で臨んできている。だけど… 私たちが注意、いえ警戒すべきなのはバベルだけじゃない」
響子先生の話を聞いていたカトリはここで混乱したような顔になった。
「そう、私たちが警戒するのはバベルだけじゃないの。私たちの反バベルの活動が行き過ぎると困る国があるのは分かるでしょ?」
「そんな国があるのかしら… 私たちの神様や自由な経済を守るための戦いが迷惑になる国が…」
とっさにはカトリにそんな国があることは思いつかなかった。首をひねり続けているカトリに響子先生はなぞかけを出した。
「質問をかえるわね。例えば、犯罪者が一人もいなくなったら困る職業は何かしら?」
「えっと… 職業だから… 最初のはもしかして… 警察や司法機関かな…」
「次に危険な国や地域が無くなったら困る職業は何かしら?」
「次のは… 軍隊や情報機関、軍需産業かしら…」
「もう一度、さっきの問題。反バベルの活動が行き過ぎると平和になり過ぎて困る国、つまり危険な国や地域が無くなったら困る国はどこになるかしら?」
「!」
しばらく沈黙していたカトリが雷に打たれたようになって目を見開いた。
「そうなのよ… 自分でコントロールができる危険がないと困る国があるでしょ。そう、その国がコントロールしようとしているのはバベルの活動だけじゃない」
ここで響子先生は軽く息を吐きだしてから深呼吸した。
「もちろん、世界中で私たちが進めている活動に莫大な活動費用がかかっていることも知っているでしょ、カトリ。この費用がどこから出ているかも当然分かるわよね」
「ええ、もちろん。ワタシの給与も支払われているものね」
緊張が少し解けた顔つきでカトリは返事をした。
「私たちの活動は教育や慈善事業そのほかさまざまな形態をとっている。反バベルの活動もその一つよね。活動にはお金が必要でいろいろな使い方がされている。努力は尽くされているけど、残念ながら完全に透明にできないのが現実よね。このところ、教皇庁のマネーロンダリングが世間を賑わせる事態になっているわよね… 教皇庁にも財政や財務の健全さは必要に決まっているし、教皇様もそれに取り組んでいらっしゃる」
また響子先生の顔つきが真面目なものに戻った。
「でも、私たちの反バベルの活動が自分たちに不都合とならないように、故意に私たちの情報をコントロールしている国がある。そして、金融関係以外にも私たちの活動を揺るがすための情報が手段を選ばずに収集されているかも知れない」
「カトリ、ヨーコに対しては絶対に気を許さないように。赤城君にも気を許さないように注意して」
響子先生の言葉はカトリを小さく身震いさせた。
「そうなんですか…」
あまりにも淡々とした響子先生の語り口に、カトリは自分が重大なことを聞いているとの現実味を一瞬感じなかった。
「エッ? 今サラッと言いましたけど、とても大変なことを言いませんでしたか!?」
「だから、安全保障上のために、その生徒たちの記憶の一部分を消してから書き換えたのですって… 安心しなさい、あなたと赤城君は対象外とのことよ」
カトリには剛介、志織、エマ、陽二の顔が浮かんできた。
「そんなことが許される訳ないでしょ!? 非人道的な行為だと抗議しないの!?」
「それだけではないようなのよ、カトリ…」
諦めた表情の響子先生の極めて事務的な伝達行為は続く。
「臓器移植を用いた極秘の人体実験も行っているらしい… これもあちらに潜伏中の信仰者からの情報でね… なにやら兵士の戦闘能力向上が目的みたいなの… 何か思い当たることがない?」
「ビッテ… ヒトの体をなんだと思っているの…」
“もしかしてハヤトのことだっていうの?”
カトリの顔から血の気が失せた。
「そんなことを平気でする組織と私たちは活動を共にしているのよ… 最も若くして選ばれた大統領、そう現在までで唯一のカトリック信者の大統領が暗殺されてしまう国の組織、いえ機関と私たちはバベルと戦うためとは言えども手を結んでいるのよ、今…」
諦めたような、表情を無くしたような顔で話をしていた響子先生は一息ついた。
「ところで、私たちには日本からバベルの影響力を排除することのために戦う使命があるわよね、カトリ」
カトリは口を固く結んで響子先生の言葉にうなずいた。
「バベルは経済力の強化を図ってきていて、今まで以上に軍事力を増強している。加えて、かつて敵対していた隣接国とも合従態勢を取ることで、このところは私たちに対決姿勢で臨んできている。だけど… 私たちが注意、いえ警戒すべきなのはバベルだけじゃない」
響子先生の話を聞いていたカトリはここで混乱したような顔になった。
「そう、私たちが警戒するのはバベルだけじゃないの。私たちの反バベルの活動が行き過ぎると困る国があるのは分かるでしょ?」
「そんな国があるのかしら… 私たちの神様や自由な経済を守るための戦いが迷惑になる国が…」
とっさにはカトリにそんな国があることは思いつかなかった。首をひねり続けているカトリに響子先生はなぞかけを出した。
「質問をかえるわね。例えば、犯罪者が一人もいなくなったら困る職業は何かしら?」
「えっと… 職業だから… 最初のはもしかして… 警察や司法機関かな…」
「次に危険な国や地域が無くなったら困る職業は何かしら?」
「次のは… 軍隊や情報機関、軍需産業かしら…」
「もう一度、さっきの問題。反バベルの活動が行き過ぎると平和になり過ぎて困る国、つまり危険な国や地域が無くなったら困る国はどこになるかしら?」
「!」
しばらく沈黙していたカトリが雷に打たれたようになって目を見開いた。
「そうなのよ… 自分でコントロールができる危険がないと困る国があるでしょ。そう、その国がコントロールしようとしているのはバベルの活動だけじゃない」
ここで響子先生は軽く息を吐きだしてから深呼吸した。
「もちろん、世界中で私たちが進めている活動に莫大な活動費用がかかっていることも知っているでしょ、カトリ。この費用がどこから出ているかも当然分かるわよね」
「ええ、もちろん。ワタシの給与も支払われているものね」
緊張が少し解けた顔つきでカトリは返事をした。
「私たちの活動は教育や慈善事業そのほかさまざまな形態をとっている。反バベルの活動もその一つよね。活動にはお金が必要でいろいろな使い方がされている。努力は尽くされているけど、残念ながら完全に透明にできないのが現実よね。このところ、教皇庁のマネーロンダリングが世間を賑わせる事態になっているわよね… 教皇庁にも財政や財務の健全さは必要に決まっているし、教皇様もそれに取り組んでいらっしゃる」
また響子先生の顔つきが真面目なものに戻った。
「でも、私たちの反バベルの活動が自分たちに不都合とならないように、故意に私たちの情報をコントロールしている国がある。そして、金融関係以外にも私たちの活動を揺るがすための情報が手段を選ばずに収集されているかも知れない」
「カトリ、ヨーコに対しては絶対に気を許さないように。赤城君にも気を許さないように注意して」
響子先生の言葉はカトリを小さく身震いさせた。